「生理を我慢するのは当たり前」の常識を打ち破るパンツの開発秘話。2人の女子サッカー選手の挑戦

Opinion
2021.05.11

女性の体で生まれてきた人に「生理(月経)」の悩みは尽きない。中でも女性アスリートにとっては、日々のパフォーマンスに影響するだけでなく、自分の体そのものと向き合うことすらないがしろにせざるを得ないという問題がある。さらには、生理用品の機能面による苦痛や、いわゆるフェミニンなデザインへの違和感を抱きながらも「我慢するのがアタリマエ」としてきたアスリートは少なくない。
そんな悩みの声から生まれた吸収型ボクサーパンツ「OPT(オプト)」が、4月5日よりクラウドファンディングで予約販売をスタートし、目標額の4倍を超える支援を集め女性スポーツ界に限らず大きな反響を呼んでいる。
「OPT」を開発・販売する株式会社Reboltの共同代表を務める下山田志帆と内山穂南が、現役/元女子サッカー選手の立場からOPTの開発秘話、女性アスリートと生理の関係について明かしてくれた。

(インタビュー・構成=阿保幸菜[REAL SPORTS編集部]、写真=Rebolt inc.)

自分の体のことを自分自身で判断するヨーロッパ、できない日本

――女性の体を持って生まれてきた人にとって、生理の悩みを抱える人は少なくないと思いますが、どんな時でもアクティブに動く必要のあるアスリートにとっては、どのような問題があるのでしょうか?

下山田:挙げたらきりがないんですけども、まず一般的な生理用品とアスリートってめちゃくちゃ相性が悪いんです。例えば、夏の暑い日にすごくナプキンが蒸れるとか、雨の日にスライディングしたら生理用品がめちゃめちゃ膨らむとか。ピッチ上のコンディションは自分たちでコントロールできないからこそ、生理用品のトラブルやハプニングはつきものですし、もはやそれが当たり前だと思われてきた節があるなと思っています。

――例えば生理痛が重い時や出血量がすごく多い時など、頑張りたいけどちょっと無理……という時ってどう対処しているんですか?

下山田:基本的に、どんなに生理痛がひどかろうが、鎮痛剤を飲んだりして試合に出ることを優先しますね。

――日本では「体を犠牲にしてでも結果を出せ」みたいな価値観もまだあったりするようですが、海外でプレーしていた時には、生理への理解度や体との付き合い方における認識の違いを感じることはありましたか?

下山田:そうですね。そもそも、チームと選手の関係性が違うのかなと思っています。日本ではやっぱりチームが一番大事で、たとえ選手個人が苦しかろうがつらかろうがチームのために体を張れという空気があります。おなかが痛くても生理痛があろうとも、みんなに言えずに練習に来るのが当たり前。

一方で、私がドイツへ行って最初にすごいなと思ったのが、選手が自分の体と向き合うことをチームが尊重してくれるんです。「今日、生理痛なので練習休みます」って監督にサラッと伝えて休む選手の姿を見て、日本と全然考え方が違うんだなと驚きました。

内山:イタリアも本当に同じような感覚でした。自分の体を大切にすることや、自分で自分のことを判断するという意識がすごく確立されている。それは子どもから大人まで関係なく。例えば、足が痛かったりおなかが痛い時に誰かに判断を任せるのではなくて、自分自身がその状態で満足できるほどのプレーができないのであれば「今日は休みます」「こうします」とちゃんと周りに伝えられているなと。日本と海外を比較するのはあまり好きではないですけど、ちゃんと自分の軸を持ちながら判断できるという点は、やっぱり違いとしてあるなと感じました。

――日本では、生理のことも含めてまだまだ自身の体の状況を周りに訴えにくい環境?

下山田:大学生以降の年代になってくれば、選手間では共有しやすいのかなと思います。それこそ何かハプニングが起きたらそれが笑い話になるという空気感はあると思うんですけど、指導者と生理の話をするのはまだまだハードルが高いなと感じます。

既存の「当たり前」を我慢しなくていい。吸収型ボクサーパンツ「OPT」が生まれた背景

――今回、そんな女性アスリートの悩みに寄り添うためにアスリート発の生理用品としてお二人が手掛けた吸収型ボクサーパンツ「OPT」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

下山田:まず、私たちが共同代表として立ち上げた株式会社Reboltでやっていきたいのが、アスリートを表現者として社会課題を問題提起することです。その第1弾として今回、吸収型ボクサーパンツ「OPT」の事業をスタートしました。

私たち自身、生理用品の機能面であったり、一般的な生理用品を使うことに対する心理的な違和感をずっと抱いてきたんですけど、これまではそれが当たり前だと思っていました。「仕方ない」ぐらいな感覚。

ところがここ数年になって、日本でようやくFemtech(フェムテック)の商品が注目されるようになり、初めて吸収型パンツを販売しているブランドのホームページを見たんですね。その時にすごく衝撃を受けて、今まで当たり前だと思っていたものが当たり前じゃなかったんだと気付いたんです。

今までずっと自分たちが悩んできたことって、ぐっと我慢して飲み込むんじゃなくて、解決できるものだったんだと思いましたし、ぜひ使ってみたいと思ったんですけど……それがフリフリのレースがついたかわいらしいデザインで、いわゆる「女性らしいもの」を好まない自分たちには選べるデザインではなかった(※参照記事/前編 「『女性として扱われるのが本当に嫌だった』。だからこそジェンダーの偏見と闘う、2人のサッカー選手の挑戦」記事はこちら)。だからこそジェンダーの偏見と闘う、2人のサッカー選手の挑戦」。それなら、いつも自分たちがはいているようなデザインのパンツに、生理用の吸収型パンツに求めている機能が付いたものを自分たちで作りたいということになり、「OPT」の開発に乗り出しました。

――商品を開発する上でこだわった部分は?

下山田:大きく分けて2つあります。一つは、アスリートレベルの動作環境でもちゃんと満足してはけるものにしたいという思いがあったので、他のアスリートたちの声もたくさん聞きながらどんどん取り入れていきました。

もう一つは、女性用のプロダクトではあるものの、既存のジェンダーステレオタイプ(男性・女性に対して社会が持つ先入観や価値観のこと)には絶対にはまりたくないし、そこを超えるデザイン性を求めていきたいと思っていたのでデザインにはめちゃくちゃこだわりました。最終的に生まれたのは黒のボクサー型になるんですけど、デザインを手掛けてくださった下着専門のデザイナーさんともたくさん話し込んで完成したデザインになります。

「女性らしさ」「男性らしさ」ではなく自分に合った選択肢を

――「OPT」のクラウドファンディングページ(※クラウドファンディングページはこちら)を拝見しましたが、「女性らしさ」「男性らしさ」ではなく自分に合った選択肢を見つけたいという思いや、生理の悩みに対する“新たな選択肢”をつくりたいという思いが表れているのがすごくいいなと感じました。誰へ向けてというのではなく、いろいろな人の選択肢となったらいいですよね。

下山田:そう思ってもらえるのが一番うれしいです。ストレッチがすごく利いている生地なので締め付け感もなくて、はいてもらったアスリートみんな、まず最初に「普段どおりすぎて逆に不安」と言うんですよ。

――違和感がまったくないんですね。

下山田:そうです。「本当にこれ、何か入っているの?」みたいな感じで逆に不安らしくて。それぐらい、普段使いしても本当に違和感がないような仕様になっています。

――今回のクラウドファンディングは、4月5日からスタートし、4月27日時点で目標金額100万円の3倍を超えています(5月11日時点で約493万円)。どういう人が購入しているんですか?

下山田:自分たちが想像していた以上に、それぞれにいろいろなニーズを見つけて購入してくださる方がたくさんいらっしゃって。例えば、看護師さんが「ユニフォームが白いので透けるのがずっと嫌だったけれど、これなら安心してはけそうです」と言ってくださったり、「自分の子どもがボーイッシュで、その子が将来大きくなった時のために買います」という方もいらっしゃったり。あとはLGBTQの当事者でFtM(出生時の身体の性別が女性で、性自認が男性である人)だけれども、まだ治療をしていないのではきたいという方もいらっしゃったり、本当にさまざまで。こちらとしても、ターゲットをせばめるような発信をあえてしてこなかったので、皆さんそれぞれが自分のニーズに合わせて購入していただいているんだなというのは感じています。

――パンツははかないけれど、OPTの想いに共感した方向けのロゴTシャツも用意されていましたが、男性の購入者はどれくらいいらっしゃるんですか?

下山田:男性の方も意外と多くて、2割ぐらいいらっしゃいます。「自分は生理がないけど、こういうことに関心を持つのは大事だよね」とTシャツを購入してくださる方もいますし、パンツを家族やパートナーにプレゼントしたいという理由で買ってくれる男性もいます。そういった方々の反響もすごくうれしいです。

――確かに、そういったプレゼントができるパートナーシップというのも、すごくいいですね。

下山田:私たちも本当に素晴らしいなと思いながら喜んでいました。

――今回、商品の予約販売にクラウドファンディングを活用した理由というのは?

下山田:「OPT」という商品には、私たち自身が感じてきたこれまでの悩みやストーリーが根底にありますが、その悩みって私たちだけじゃなくて、本当に多くの人がこれまで感じてきたものだと思うんですね。クラウドファンディングをスタートして、今まで悩んできたことに対してモヤモヤした気持ちを抱きながらも声を上げられなかったこと自体が、実は一番の悩みだったんじゃないかなと気付いて。

クラウドファンディングを通して、こうして商品を売るだけじゃなくて「自分たちが感じてきたモヤモヤに対して声を上げている」というメッセージを伝えられることに、すごく意味があると感じます。見てくださった方にも、生理の話や性の悩みについて声を上げてもいいんだなと感じてもらえたらうれしいですし、その声が問題提起になっていけばいいなと思っています。

自分らしさは「日々自分が選択したものの積み重ねで生まれてくるもの」

――そもそも、「女性らしさ」「男性らしさ」という概念について、どのような考えを持っていますか?

下山田:おそらく私たちは今「女性らしさ」「男性らしさ」って誰の基準なのかを問わなきゃいけないのかなと思っていて。それこそランドセルは赤色を背負ったり、スカートをはかされたり、生まれながらにして無意識に「女性らしさ」を与えられ続けてきましたけど、たぶん、みんな一緒だと思うんですよ。だから大人になっても無意識に「女性らしさ」「男性らしさ」を軸にして考えてしまうことも多いのではと思っていて。やっぱり「それって誰の基準なの?」と、まだ誰も問うたことがないのではないかなと。

逆にいえば、「もっとみんな自分の選択を基準にして生きてもいいんじゃない?」とか「そのほうが楽なんじゃない?」と提示してもいい時代が来ているんじゃないかなと私は思うんです。

私は、自分らしさというのは、「日々自分が選択したものの積み重ねで生まれてくるもの」と定義しているんですけど、やっぱりこれからの時代はそういう生き方が尊重されるべきですし、自分らしい生き方をしたいという人にストップをかけるようなことって、もう時代遅れだと思います。

もっともっと一人ひとりがそれぞれの生き方を尊重し合える社会を目指していく中で、女性らしさ、男性らしさという概念があることは当たり前なのでそれも一つのスタンスですけど、その概念に無意識に追従するようなあり方は考え直すべきだなと思っています。

――そういった生き方を尊重し合える社会とはまだまだ遠いなと感じたエピソードはありますか?

下山田:これまで「女性らしさ」「男性らしさ」という概念があったのは、組織として統制が取りやすいとか、教育や指導がしやすいなどといった意図もあったんじゃないかなと思うんです。例えば、女子サッカー選手の中にはさまざまなオシャレを楽しんでいる人がいますが、めちゃくちゃかっこいい刈り上げヘアにしてきた選手に対して指導者が、「ここ女子チームだから。その髪、何?」って普通に言っちゃうことも過去にはありました。

――選手たちを育てていく存在である指導者の中で、まだまだジェンダーバイアスがあるのですね。

下山田:何かその発言も、すごく現代の社会情勢を表しているなと感じました。チームに髪が長い選手がたくさんいれば“女子チーム”としてきっと変な目で見られないとか、面倒なことが起きないと思っているからそういう発言が出てくるのかなと。

選手自身が、本当に楽しく組織にいられて自分らしく生き生きとピッチに立っている姿と、組織に統制されて自分を抑え込みながらピッチに立っている姿ってどちらが魅力的で、結果的にどちらがチームにとってプラスなのかというところまでが、まだ考えられていないかなと思います。そういう現象が、スポーツ界に限らず社会のさまざまなところで起きているのでしょうし、私たちもずっとその中で悩んできました。

――髪を短く刈り上げてきたら「女子チームだから」という女性らしさを求められたり、逆に中高の女子スポーツ部では髪の毛を耳にかからない長さにしなければならないとか、「競技に集中するなら女を捨てろ」みたいに言われるところもありますよね。そういった押しつけのせいで、人生において何かを諦めなければならないということにもなりそうです。

下山田:もちろん指導者全員がそうではなく、たまたまその人たち自身に女性らしさ、男性らしさの基準があるのだろうと思っています。でもそれって人に押しつけるものではないのかなと。

――今後のスポーツ界に対して願うことは?

下山田:私がLGBTQに関する講演会などに登壇すると、「スポーツ界が今後もっとダイバーシティになっていったらいいですよね」と言われることがあります。私はそのたびに、「いや、全然スポーツ界ってダイバーシティを語れるような環境じゃないですよ」というふうにお伝えしていて。

ジェンダー(社会的・文化的な意味合いから見た性区別)と多様な性に対する問題は地続きだと思っていて。やっぱりジェンダーの「男性らしさ」「女性らしさ」みたいなところが解決されないことには、それ以外の性のあり方にも結びついていかないだろうなと感じます。

その点からいうと、スポーツ界ってまだまだ何も解決されていない状態だと思うので、まずはそこに対しての問題意識をスポーツ界に関わる人が持つこと。それから、どうしたら「男性らしさ」「女性らしさ」じゃなくて、「その人らしさ」「そのチームらしさ」で社会に溶け込んでいけるのかをもっともっと一人ひとりが考えなければいけない。自分自身、その問題解決のために行動して背中で見せられるような存在でありたいです。

内山:私は、現役を引退した今の目線からスポーツ界を見ると、選手としてその世界にいた時って本当にすごく狭くて小さなところにいたんだなという感覚があります。スポーツに関わる人たちはスポーツ界だけにとどまるのではなく、もっといろいろな業界と関わっていいと思うし、そうすることによってスポーツ界で起きている問題の解決策も出てくるような気がしています。スポーツ界自体ももっと門を広げたほうがいいと思うし、外からもどんどん入っていって、協力体制をつくっていくべきだと思うし、外にもどんどん出ていくべきだと思う。私はその懸け橋のような存在になれたらいいなと思っています。

<了>

「女性として扱われるのが本当に嫌だった」。だからこそジェンダーの偏見と闘う、2人のサッカー選手の挑戦

「肌色の色鉛筆。親の顔を描くのが一番辛かった」オコエ桃仁花の発言に知る、寄り添う側の無知

SLAM DUNK、アンナチュラル、アラジンに共通…日本の遅れたジェンダー平等を実現するヒントとは?<辻愛沙子×辻秀一と『知る』今さら聞けないジェンダーのこと>

男女格差は差別か、正当か? 女子サッカー米国代表の訴訟問題が問い掛けるものとは

「お金のため」復帰した新谷仁美 一度引退した“駅伝の怪物”の覚悟と進化の理由とは?

PROFILE
下山田志帆(しもやまだ・しほ)
1994年生まれ、茨城県出身。小学3年生からサッカーを始め、十文字高校サッカー部、慶應義塾大学ソッカー部女子に所属。大学卒業後にドイツへ渡り、女子ブンデスリーガ2部SVメッペンで2年間プレーした後、2019年夏に帰国。現在はなでしこリーグ1部のスフィーダ世田谷FCに所属。2019年に同性パートナーがいることをカミングアウトし、サッカー選手として競技を行いながらLGBTQに関する活動をスタート。講演会やイベント、メディアなどを通して「ジェンダーやセクシャリティにとらわれず、どんな場所でもどんな時でも自分らしく生きていきたい」という想いを発信している。2019年10月に内山穂南と共同代表で株式会社Rebolt を設立し、アスリートと共に社会課題解決を目指す。

内山穂南(うちやま・ほなみ)
1994年生まれ、埼玉県出身。9歳からサッカーを始め、十文字高校サッカー部、早稲田大学ア式蹴球部女子部に所属。大学卒業後にイタリアへ渡りセリエBのアプーリア・トラーニに所属。“カルチョの国”での生活から日本社会における“当たり前”に違和感を抱き、日本社会に対して問題意識を持つようになる。現役を引退し2019年に帰国後、社会課題と向き合いアタリマエを超えるべく、2019年10月に下山田志帆と共同代表で株式会社Rebolt を立ち上げた。現在はReboltの活動を軸に、サッカー指導者、AEDの普及活動なども行う。

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事