なぜサッカー選手になるため「学校の勉強」が必要? 才能無かった少年が39歳で現役を続けられる理由

Education
2021.11.24

「私はサッカーがうまい子どもではありませんでした。小学生の頃にプレーしていたチームで試合に勝った記憶もあまりありません。選手としてこれといった特徴もありませんでした」。このようなサッカー選手の自著としては意外すぎる言葉から始まる書籍『フットボーラー独学術 生きる力を自ら養う技法』を執筆したのが、現在は東京都社会人リーグ1部・SHIBUYA CITY FCでプレーする柴村直弥である。自ら才能がなかったと言う少年がたゆまぬ努力の積み重ねで高校時代には全国優勝を経験し、Jリーグでのプロデビューを経て、UEFAヨーロッパリーグ、AFCチャンピオンズリーグ出場を果たすまでの選手となった。柴村が語る「学校の勉強の必要性」とは?

(文=柴村直弥、写真提供=SHIBUYA CITY FC)

プロサッカー選手になるために「学校の勉強」が必要な理由

学校の勉強はプロサッカー選手になるため、そして、プロサッカー選手になってから選手として大成していくために、必要なことでしょうか。

私自身が経験してきたことから感じている答えは、イエスです。

学校の勉強といっても、さまざまあり、小学校、中学校、高校、大学、専門学校など、多種多様な過程での勉強がありますが、私自身が経験し、実践してきたことをお伝えしたいと思います。

算数や国語、理科、社会など、小学校や中学校の勉強に対して、当時はまず、テストで満点を取ることをゴールと定め、そこから“逆算”して勉強に取り組んでいました。

結果として満点を取れることもあれば、90点や80点、70点などの場合もありましたが、満点を取れなかった時に「何が足りなかったのか」を考え、振り返って次に生かす、というサイクルが自然と出来上がっていきました。自ら立てた目標に向かって精いっぱい準備をし、それでも結果が出なかったことに対して「悔しい」という感情が生まれ、それが次回への原動力となっていました。そして、目標通りに満点を取れた時は充実感があり、またこの気持ちを味わいたい、と思いました。

仕方なくやらされていることと捉え、勉強に対して中途半端な気持ちで取り組んでいたら、悔しさも、充実感も味わえなかったと思います。

目標は満点でなくても70点でも50点でもいいと思います。自分なりに頑張ればできそうな目標を決めて、それに対して最善の準備をして臨む、という習慣を小学生の頃から身につけていけたことは、サッカーに対しての日々の取り組み方にも同じようにつながっていきました。

「日々の一つ一つのことを一生懸命に取り組んでいくこと」

僭越ながら、JFAが行っている「JFAこころのプロジェクト」で夢先生を2008年から務めさせていただいています。

この活動は、全国の小中学校へ訪問し、夢をかなえるために必要なことや、どんな経験が大切だったかなど自らの経験談から授業をするのですが、そこではいつも、こう伝えさせています。

「日々の一つ一つのことを一生懸命に取り組んでいくこと」

これは学校の勉強であったり、サッカーなどのスポーツの練習であったり、友達との遊びなどすべてにいえることです。目の前のことを一生懸命にやっていくことが何より大事で、その積み重ねが自分の力となって、それが夢をかなえることにつながっていく、という意味合いです。

努力すれば必ず夢がかなうわけではありません。しかし、努力したことは必ず自分の力になっていきます。もちろん、努力の仕方や適切な方法を考えることも必要でしょう。しかし、ベストな方法を考えすぎるがあまり、目の前のことに精いっぱい取り組む、という当たり前のことがブレてきたりすることもあるかと思います。

「いまやっているこの練習や勉強は自分の力になっているのだろうか?」

特に小学生年代では、その成果を感じた経験がまだあまりなくて、本当に自分の力になるのか信じ切れないかもしれません。

スポーツの技術練習は、今日練習して明日できるようになっている類いのものではないことも多いですし、同じ練習に飽きてきてしまうこともあるかもしれません。しかし、当然、同じ練習でも集中して取り組むのと、集中し切れずに取り組むのでは成果が変わってきます。

小学生年代には、私自身の経験から「精いっぱい取り組んだことは必ず力になるから、疑問を抱いて中途半端になるのではなく、まず精いっぱい取り組んでいくこと」を伝え、まず目の前のことに全力で取り組むことを習慣化できるようにアドバイスしています。

サッカーや勉強を頑張っていたという感覚は「一切ない」

夢先生の授業後に、よくこういう質問を受けます。

「私は勉強(もしくはスポーツの自主練習など)がなかなか毎日続けられません。どうやったら毎日続けられますか?」

これに対してはおおむねこのように回答しています。

「最初はたくさんの量を設定するのではなくて、自分が少し頑張れば続けられそうな量に決めて毎日やってみるといいと思うよ。それが慣れてきてできるようになったら、また少し増やしてやってみる。そうしていけば少しずつできる量が増えていくのではないかな」

小学生の頃などは、「よし、今日から毎日3時間勉強しよう!」などと、意気込んで大きく目標設定してしまうこともあるかと思います。その気持ちは非常に良いことだと思いますが、目標設定を大きくしすぎてしまうと、その日は頑張ってできても、2日目、3日目となると続かずに、結果、「自分は続けられない……」という自己否定に陥ってしまうことも多いのではないかと思います。

そのため、最初は少し頑張れば毎日続けられそうな量からスタートし、1カ月、2カ月と経過して習慣化してきたら少しずつ量を増やしていけば、自信にもつながっていくのではないでしょうか。

小学生年代の場合、その設定がなかなか難しかったりもするでしょうから、その際は親御さんが「毎日続けられそうな量ってどのくらいかな?」と本人に聞いて、出てきた量が多すぎた場合は「最初からその量は難しいかもしれないから、最初はこのくらいからやってみようか? できるようになってきたらまた増やそう」という具合に調整してあげられるといいかと思います。

このように、学校の勉強やサッカーの練習に対して「一つ一つのことに一生懸命取り組むこと」は私自身の中では当たり前の価値観となっていき、一方で、小学生時代を振り返ってサッカーや勉強を「頑張っていた」という感覚は一切ありません。

それは、自然と習慣になっていたからだと思います。

1日15〜30分程度のリフティングで手にした“成功体験”

小学5年生の時、通っていたサッカー教室のコーチが私たち選手たちにこう言いました。

「リフティングを自分で毎日やり、その日の最高記録を紙に書いて記録してみよう」

それをやってみようと思った私は、家に帰り、ボールを持って近所の空き地へ行き、1人でリフティング(主に足でのボールコントロールを養うため、太腿を使うのは禁止)をしました。30分くらいでしょうか。最高回数は12回。

そして翌日またやると15回できました。翌々日は13回でしたが、そのさらに翌日には17回。このように、折れ線グラフにすると上がったり下がったりしながらも少しずつ最高回数が増えていき、小学6年生になる頃には、200回はできるようになっていました。

リフティングの回数が増えることと、サッカーの試合での技術を養うことが大きくリンクしてくるというわけではないと思いますが、リフティングをする時に、『インステップ(足の甲の部分)でボールの中心を蹴るとボールが回転せずに真っすぐ上がり、次に蹴りやすく、安定する』ということを当時自分なりに発見し、それを意識することで、ボールをよく見て足の適切な場所に適切な強さで当てる、という技術が少なからず上達していきました。

そして、この経験はリフティングに限らず、毎日続けてやっていることが自分の力になっていく、ということを体験できたことが何より大きかったと感じます。

毎日その日の記録を紙に書いていたので、後から見直した際に記録が伸びていくのが目に見えていたことで、「今日取り組んだことがすぐに成果には表れなくても、続けていくと自分の力になっていく。取り組んだことは力になる」と実感できました。

リフティングの練習時間は1日15〜30分程度。もう少し長く、1時間程度やった時に、だんだん集中力が途切れてきて、何度やってもなかなか記録が伸びないことを経験しました。そこから「短い時間に集中してやるほうが身になるのではないか?」と考えるようになり、集中して15〜30分程度やるようになりました。

プロ選手を目指す多くの子どもたちに伝えたいメッセージ

習慣を変えることは決して簡単ではないと思います。

「三日坊主」という言葉があるように、何事も新しいことを始める際、最初の3日から1カ月がパワーも使いますし、頑張らないとできない期間であると思います。ただ、その期間を越えて自分の中で習慣になれば、それを行うことが苦ではなくなり、自然なこととなっていくはずです。

私自身、このサイクルを小学生の頃、勉強やサッカーを通して、自分の経験からだんだん理解するようになりました。「最初の期間さえ乗り越えれば」と取り組み始めた期間を頑張りどころだと捉え、さまざまな新しい習慣を取り入れてきました。そしてそのサイクルが39歳になった今も現役サッカー選手としてプレーを続けてこられた理由の一つであることは間違いありません。

サッカーをはじめ、スポーツに取り組む多くの子どもたちにも、「勉強は好きではないから……」と最初から敬遠するのではなく、何事も自ら目標や仮説を立てて習慣化して取り組んでみることで、必ず長い人生において有益な経験値となっていくはずです。

<了>

東大出身者で初のJリーガー・久木田紳吾 究極の「文武両道」の中で養った“聞く力”とは?

10-0の試合に勝者なし。育成年代の難題「大差の試合」、ドイツで進む子供に適した対策とは?

なぜ高校出身選手はJユース出身選手より伸びるのか? 暁星・林監督が指摘する問題点

バイエルンはなぜU-10以下のチームを持たないのか? 子供の健全な心身を蝕む3つの問題

中村憲剛「重宝される選手」の育て方 「大人が命令するのは楽だが、子供のためにならない」

PROFILE
柴村直弥(しばむら・なおや)
1982年9月11日生まれ、広島県出身。SHIBUYA CITY FC(東京都社会人リーグ1部)所属。広島皆実高校2年時に全国高校総体優勝。中央大学卒業後、アルビレックス新潟シンガポールを経てアビスパ福岡でJリーグデビューし、徳島ヴォルティスでは主将を務めた。ラトビアのヴェンツピルスに移籍した2011年に日本人として初めてラトビアリーグ、ラトビアカップの2冠を達成し、UEFAヨーロッパリーグに出場。ウズベキスタンのパフタコールでAFCチャンピオンズリーグに出場し、ポーランドのストミール・オルシティンでプレーしたのち、当時J1のヴァンフォーレ甲府に移籍。現在は一般企業のコンサルティング業務や外資系企業とのビジネス業、サッカー解説、執筆、講演などをこなしながら、現役プレーヤーとしても活躍。今年10月に初著書『フットボーラー独学術 生きる力を自ら養う技法』(カンゼン)を刊行。

この記事をシェア

KEYWORD

#CAREER #COLUMN

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事