「今のままでは弱くなり始めたら一気に弱くなる」。日本ラグビーは“失われた国際経験”にどう向き合うべきか
今秋国内外で行われたラグビー日本代表のテストマッチは1勝3敗に終わり、収穫よりも課題が目立つ結果となった。「今のままでは、弱くなり始めたら一気に弱くなる」。藤井雄一郎ナショナルチームディレクターは、そう警鐘を鳴らす。8強入りを果たし、世界にその進化を見せつけたラグビーワールドカップ日本大会から2年。さらなる進化を果たすために、“失われた”国際経験を積む場をいかにして創出するか。日本ラグビー界の力が今、試されている。
(文=向風見也、写真=Getty Images)
国際経験を積む場を、次の世代に経験させられていない。強化に大きな課題
危機感をあらわにした。男子15人制ラグビー日本代表の藤井雄一郎ナショナルチームディレクターは、「僕、普通に話していますけど、かなり『大丈夫か?』と(感じている)」と漏らした。
11月24日、オンライン会見に出た。チームは9月下旬の候補合宿で始まった国内外のツアーを終えたところ。国内外でのテストマッチ(代表戦)を1勝3敗としていた。
ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチと親交の深い藤井が警鐘を鳴らすのは、代表戦以外に国際経験を積む場の少なさだった。
「コーチ陣は、今いる選手をどうコーチングして勝利に結び付けるかが仕事になる。ただ協会および私たちの仕事は、長く強化を継続させること。より多くの選手に、国内だけではなく海外で『一つのミスでどうなるか……』という本当のガチンコの海外でのやり合いをより多くの選手に積ませたい。次の世代に経験させられていないことが、僕らの一番の心配材料です」
日本代表の強化に大きく寄与したサンウルブズの今
2019年、ラグビーワールドカップ日本大会で初の8強入り。当時のメンバーの多くはサンウルブズで鍛えられた。
サンウルブズとは、国際リーグのスーパーラグビーに挑んだプロクラブで、首脳陣、プレースタイル、候補選手の多くを日本代表と共有。ワールドカップ日本大会までの4年間の通算戦績では大きく負け越しているが、毎年春・秋のテストマッチ、さらにはワールドカップ日本大会に向け、高強度なゲームによる強化と選手の見極めを行えた。
ところが今、そのサンウルブズは動いていない。スーパーラグビーの参戦期間が2020年限りで延長なしと決まったのは、2019年3月。当時の日本ラグビー協会(日本協会)執行部がそう判断した。
さらにスーパーラグビーは、昨今の新型コロナウイルス感染症の問題を受けて国内リーグ主体となっていた。2022年以降はさらに再編された形で実施されるが、日本があらためて参加枠を得るのは早くても数年先だろう。
日本代表は“選手層の拡大”を目指すも……秋のツアーの成果は?
感染症といえば、日本代表本隊も2020年の活動ができなかった。次世代を担う若者は、あらゆる意味で貴重な機会を失った。
日本代表は本来、選手層の拡大を目指していた。 先のワールドカップ日本大会では、予選プールで出番のなかった選手の数が5人と決勝トーナメントに進んだ8チーム中最多。ホームアドバンテージを失う2023年のフランス大会で当時以上の結果を出すには、試合ごとに選手を入れ替えて主力の疲れを制御したいのだ。
ところが今度の秋のツアーにあって、妥当なプロセスを踏めたかは未知数だ。
けが人の増えたロックのポジションでは、秋のツアー4試合中3試合でワールドカップ組のジェームス・ムーア、この春初代表のジャック・コーネルセンが先発。そのいずれの試合でも、リザーブには専業選手を立てられなかった。福岡堅樹が引退して空いたウイングでは、2021年に初選出された専門家に出番はなかった。
ジョセフ体制下では組織内における信頼関係が重んじられ、新参者がジャージーをつかむのはそう簡単ではない。
藤井は、今回帯同した若手勢を「試合に出られなかった選手も(代表が)どんな形でトレーニングしているのかを実際に感じられた。いい経験になったと思う」と評価しながら、こうも続ける。
「全体のポジション(の層)が、薄いです。今は。特にロックには、フランカー(別のポジション)の選手が入っている。(主力の)年齢も上がってきている。もうちょっと頑張って次につないでいかないと、弱くなり出したらどんどん弱くなる。経験ある選手がいるうちに徐々に(メンバーを)替えていくか、ごっそり替えるか。どっちかにシフトしていかないと、2023年以降は厳しいと思います」
「若い選手が国際レベルの試合を経験する場がない。その若い選手がこの間のスコットランド代表戦(11月20日にベストメンバーで臨んで20―29と惜敗)に出ていったら、おそらく100点はいかれる(取られる)。サンウルブズがあると、多少負けたとしてもいろんな選手を試せたり、ハイプレッシャー下で選手がどんな考え方になるかを分かったりできる。ただ今は、テストマッチでしか(国際)経験ができない。現状では経験のある選手がいるうちに1~2人(若手を)出していって、その選手のレベルを上げるという手法を採らざるを得ないんです」
世界の強豪は毎年恒例の大会でしのぎを削り合っている
日本協会の岩渕健輔専務理事も、「2023年までは今までの流れで戦ってくれると思います。ただ今後に向けては……」。国際ラグビー界で現在の地位を保つには、継続的に上位国の選手としのぎを削る仕組みが不可欠とみる。
2020年にあった国際統括団体ワールドラグビー会長選では、結果的に当選するビル・ボーモント氏を支持。フラットな立ち位置を強調しながら、国際ラグビー界での確たる立ち位置をキープする。
模索するのは、代表チームの国際大会への参加だ。欧州6強、南半球の強豪国は、それぞれ毎年恒例の大会を行いしのぎを削り合っている。そのいずれかの枠組みに参加して代表戦の数を増やせれば、現状把握や新戦力の起用がよりしやすくなりそうだ。
ザ・ラグビーチャンピオンシップ(南半球の強豪国による大会)への日本代表入りの可能性が海外で報じられたのを受け、岩渕は「少なくとも(参加する)オーストラリア、ニュージーランドなどがそうした話し合いをしているのは事実。全てに前向きなメリットがある」と応じる。
新設のナショナル・デベロップメント・スコッド編成で目指す先
藤井も日本協会と折衝し、現代表を支えんとする。予算が限られる中でも、ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)と称する代表予備軍を編成。会見の時点では岩渕とは「話はしていない」とするが、青写真は明確だ。
「希望としては、アジアで、若手の選手(中心のチーム)を組めたら。南(半球)の方に遠征に行くほど、お金はないんじゃないかと……。それでも、どういう選手が(海外で)どういうふうになるのか、(若手が)自分のチームではないチームでどう戦えるかを見たい。一応、(日本協会内で)話はしています。コロナの状況(次第)になると思います」
2022年1月開幕のリーグワンで“国際レベル”の経験を生み出す
選手は、所属先でアピールを重ねる。
2022年1月から国内リーグが新装開店。ジャパンラグビーリーグワンは日本協会とは別法人の下で運営され、選手の出場枠のルールが従前のトップリーグから変わる。
日本代表の有資格者は、国籍を問わず「カテゴリーA」と位置付けられて試合登録メンバーの23人中17人以上を占めることとなった。海外出身者が出場しやすくなる中、どこまで試合の強度を国際レベルに近づけられるか。
リーグワンの東海林一専務理事は、「今回のリーグの一つの大きな目的として、代表強化への貢献があります」と述べる。強力な外国人選手の活躍機会と次世代を担う日本人選手の出場機会担保とのバランスについては、「必要な見直しを継続的に図っていきます」。直近では、秋に日本人主体のカップ戦を用意できるよう準備を進めるという。
「クロスボーダーマッチ」の実現に向けて……
何よりリーグワンの延長線上には、「クロスボーダーマッチ」が用意されそう。海外のクラブ同士の国際大会で、コロナ禍前からあった構想だ。リーグ関係者は、2023年2月に2022年シーズンの上位チームが参加できるのを理想だとする。日本代表サイドは、複数ある日本の参加枠の1つをサンウルブズのような選抜チームに与えるよう求める。
リーグワンの東海林専務理事は、今年8月までにこう述べる。
「(クロスボーダー大会が)どういう形で成立するかは交渉次第。チームの皆さまはそれ(単独チームの出場)を望まれていると思います。日本代表へのすみ分け、配慮を引き続き行う上で、リーグとしての強化、試合機会の増大についても併せて考える必要があります」
代表サイドの藤井はこうだ。
「具体的な話はまだこちらにきていません。もしそう(実現)するのであれば、1つ(日本代表側で)チームを作っていきたいです」
本稿執筆時期の11月下旬、新型コロナウイルスの変異株が南アフリカで発生したと伝わる。徐々に活性化していた国際ラグビー市場にさらなる変調が訪れ得る。岩渕は言っていた。
「どこで何が起こるかはわかりません。イニシアチブを取って、早め、早めに判断をしていく必要があります」
いずれにせよ、備えあれば憂いなし。先行投資への方向性がいち早く示されたい。
<了>
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