
世界が驚愕!ついに卓球王国・中国を超えた、張本智和の劇的な2つの進化
10月8日に行われた卓球の世界卓球選手権(団体戦)準決勝。男子団体は2―3で中国に敗れた。しかし、この敗戦が日本の男子卓球界にとって「歴史が変わる瞬間」だったという。一体、この試合で何が起き、日本卓球にどんな変化が生まれたのか?
(文=本島修司、写真=Getty Images)
日本卓球界の「歴史が変わった日」
2022年9月30日から10月9日にかけて中国の成都で行われた、団体戦の世界卓球。男子は3位という成績に終わった。しかしこの大会は、日本の男子卓球界にとって、あまりにも収穫の多い世界卓球だったといえる。
準決勝では、卓球大国・中国との壮絶な戦いがあった。2―3という結果の中で、その2つのポイントを取ったのは、日本のエース・張本智和。それは、歴史的快挙ともいえる中国からの2試合連続の勝利だった。日本人初のシングルスでのオリンピックメダリスト・水谷隼のあとを継ぐ新エース張本は、この大会でどんな進化を遂げたのか。
負かした相手は、正真正銘の中国のトップ選手。2試合目に登場した張本の最初の相手は、王楚欽。中国次世代のエースといえる存在。第4ゲームでは8―9とリードを許す場面から、逆転で勝利した。そして迎えた第4試合。相手は、現在世界ランク1位の樊振東。
この試合が終わったあと、見ている誰しもに「この会場には一人だけ中国よりも強い選手がいた」と強く印象づけた。
まさに歴史が変わった日だった。
張本智和の進化の証1「フォアの深い所でのラリー」
中国勢の卓球は、選手によりさまざまな個性がありつつも、超のつく攻撃的な卓球であることが多い。なかでもフォアドライブの破壊力はどの国の選手よりも群を抜いており、国際大会ともなれば、ラリーに入ると最終的には「やはり中国に撃ち抜かれる」という光景が目立った。これは、なにも日本の選手だけではなく、強豪ドイツの選手も、激しい接戦になった場合には同じようなシーンで敗れることが多かった。
張本は、これまでもズバ抜けた身体能力と闘争本能、そして圧倒的な練習量から繰り出すフォアドライブで中国に食い下がりながら戦ってきた選手の一人だ。しかし、今大会の張本がこれまで以上に秀でていた点は、フォアドライブの引き合いの末、点数をもぎ取るところまでいく力だった。
頂上決戦となった、第4試合の樊振東戦。1ゲーム目の序盤、1―2からフォアドライブの引き合いによく食らいつくが、打ち負けてしまう。張本も素晴らしいドライブを連発するが、それでもそこを上回ってくる。それが“いつも通り”の中国だ。
しかし試合は、ここから“いつも通りではない光景”を見せ始める。
この直後、1―3から、今度は張本のフォアドライブが、バックの深いところを突き、打ち抜いた。明らかにいつもよりボールが走っている。ストップの攻防、そして、再びバッククロスへのフォアドライブで6―4と逆転。最後は、フォアとバックの速い切り返しの展開を制して、11―7で勝ち切った。2ゲーム目、3ゲーム目は取られてしまうが、4ゲームは再び両ハンドを切り返しての壮絶なラリーを制して奪取。
そして5ゲーム目。最後はバック対バックのラリーを制して“歴史を変えた”。
バック対バックの攻防も目立ったが、随所でサイドを切ってくるほど厳しいボールを放つ中国のフォアドライブを、引き合うことができた。これが大きい。
決して大柄とはいえない張本が、リーチの長さをカバーするように、体を目いっぱい使い切ってのラリー。それは、豪快な引き合いに“耐えた”とも表現できるほど、ダイナミックなものであった。フォア対フォアの攻防に耐え抜き、打ち抜ききった。本当に大きな進化だった。
もともと際立っていた正確なバックハンドとともに、“すべてが噛み合った”試合となった。
張本智和の進化の証2「チキータレシーブの安定感」
もう一つ、強調できる進化があった。チキータレシーブの安定感だ。
もともと、張本の代名詞の一つではあるが、今大会は、これが抜群の出来だった。チキータレシーブでしのぎ、2球目から攻め込むこともできるため、後手に回らずに中国勢のサーブを取ることにも素晴らしい対応ができていた。
卓球は、どんなレベルであっても、やはり「サーブを取るのに苦戦するかどうか」が一つのカギになる。ましてや、世界卓球のような世界の頂点レベルで、相手が中国となれば、強烈な回転量の下回転、横回転、伸びるサーブ、曲がるサーブなど「サーブを取るだけ」でも大変な試合になる。そこを、安定感が増したチキータにより、良い形でクリアすることができた。
また、チキータでの先手奪取があるため、ここでもバック対バックのラリーへ持っていく展開が、後手に回ることなく、対等に打ち合うことができた。そこから連続してたたき込まれる、打点の速いバックハンド。これは見ている者すべてが惚れ惚れするようなものだった。
5ゲーム目。3―3から打ち合ったバックハンドは、ともに世界最高のバックハンドのたたき込み合いだった。これを制した瞬間、張本の闘争心にさらに火がついたように見えた。そして9―7からの「回り込みチキータ」が決まり、雄叫びをあげるシーンは、この試合のすべてを象徴しているようでもあった。
終始、「張本が世界をリードしている世界卓球」が、そこにはあった。
国内戦で、正真正銘のエースの座へ
10月30日に行われたWWTカップファイナルズの決勝では、張本は打ち合いで意地を見せた王楚欽に逆転負けで準優勝。しかし、これまで激闘を繰り広げてきたドイツの英雄ティモ・ボルを準々決勝で、ドミトリ・オフチャロフを準決勝で、ともにストレートで下した。中国からの3連勝は逃したとはいえ、その姿は「取りこぼしのない新しい張本」を感じさせる。
この先には、2023年1月の全日本選手権が待っている。国内戦では思わぬ敗戦もあるのが、これまでの張本だった。
しかし、今の張本の勢いと完成度の高いプレーからは、取りこぼすような試合をする気配はもう感じられない。
水谷を決勝で退けて14歳208日の史上最年少優勝を果たした2017年度大会以降、しばし遠ざかっている全日本王者の座。国内の実力者たちが勢ぞろいするこのタイトルをまるで当たり前のように勝ち取るようになったとき、その先には、正真正銘の“世界一の称号”が待っている。
<了>
張本智和が見せた意外な技術。ロングサーブのリスクと攻撃性。中国に大逆転劇の真相
主役になる意識芽生えた戸上隼輔のさらなる可能性。ミスらない精度という新たな武器
張本智和は本当に大舞台に弱い? 新星・戸上隼輔が躍進、番狂わせ起こす「2つの恐怖現象」
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
走幅跳のエース・橋岡優輝を導いた「見守る力」。逆境に立ち向かう力を育んだ両親の支え
2025.09.14Education -
アスリート一家に生まれて。走幅跳・橋岡優輝を支えた“2人の元日本代表”の「教えすぎない」子育て
2025.09.14Education -
アーセナルは今季リーグ優勝できるのか? 「史上最強スカッド」でアルテタ監督が挑む22年ぶり栄光の鍵とは
2025.09.12Opinion -
運命を変えた一本の電話。今夏490億円投じたアーセナル、新加入イングランド代表MF“14年ぶり”復帰劇の真相
2025.09.12Opinion -
「守りながら増やす」アスリートの資産防衛。独立系ファイナンシャル・アドバイザー後藤奈津子の信念
2025.09.12Business -
木村和司が語る、横浜F・マリノス監督就任の真実。Jのピッチに響いた「ちゃぶる」の哲学
2025.09.12Career -
“わし”はこうして監督になった。木村和司が明かす、S級取得と「口下手な解説者」時代の苦悩
2025.09.12Career -
松永成立が語る、辞任後の胸中。横浜F・マリノスと歩んだ40年、GKコーチを辞しても揺るがぬクラブ愛
2025.09.12Career -
アスリートは“お金の無知”で損をする? 元実業団ランナーIFAが伝える資産形成のリアル
2025.09.10Business -
日向小次郎は大空翼にしかパスを出さない? データで読み解く、名試合の構造[統計学×『キャプテン翼』]
2025.09.09Education -
「卓球はあくまで人生の土台」中学卓球レジェンド招聘で躍進。駒大苫小牧高校がもたらす育成の本質
2025.09.09Education -
大空翼は本当に「司令塔」なのか? データで読み解く、名場面の裏側[統計学×『キャプテン翼』]
2025.09.08Education
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
アーセナルは今季リーグ優勝できるのか? 「史上最強スカッド」でアルテタ監督が挑む22年ぶり栄光の鍵とは
2025.09.12Opinion -
運命を変えた一本の電話。今夏490億円投じたアーセナル、新加入イングランド代表MF“14年ぶり”復帰劇の真相
2025.09.12Opinion -
“永遠のサッカー小僧”が見た1993年5月15日――木村和司が明かす「J開幕戦」熱狂の記憶
2025.09.05Career -
史上稀に見るJリーグの大混戦――勝ち点2差に6チーム。台頭する町田と京都の“共通点”
2025.08.29Opinion -
Wリーグ連覇達成した“勝ち癖”の正体とは? 富士通支える主将・宮澤夕貴のリーダー像
2025.08.29Opinion -
「ずば抜けてベストな主将」不在の夏、誰が船頭役に? ラグビー日本代表が求める“次の主将像”
2025.08.18Opinion -
「鹿島顔」が象徴するアントラーズのクラブ哲学とは? 好調の今季“らしさ”支える熱量と愛情
2025.08.06Opinion -
Jリーグ秋春制移行で「育成年代」はどう変わる? 影山雅永が語る現場のリアル、思い描く“日本サッカーの最適解”
2025.07.30Opinion -
即席なでしこジャパンの選手層強化に収穫はあったのか? E-1選手権で見せた「勇敢なテスト」
2025.07.18Opinion -
なぜ湘南ベルマーレは失速したのか? 開幕5戦無敗から残留争いへ。“らしさ”取り戻す鍵は「日常」にある
2025.07.18Opinion -
ラグビー伝統国撃破のエディー・ジャパン、再始動の現在地。“成功体験”がもたらす「化学反応」の兆し
2025.07.16Opinion -
J1最下位に沈む名門に何が起きた? 横浜F・マリノス守護神が語る「末期的」危機の本質
2025.07.04Opinion