「純粋にサッカーを楽しめればいい…」そう考えていた少女が“プロサッカー選手・仲田歩夢”になるまで
WEリーグが誕生し早1年。女子も「プロサッカー選手」を目指せるようになった今、実際に「プロサッカー選手」を職業としている女子選手たちは、どのようにその道すじを辿ってきたのか? ピッチ内外で人気を博している大宮アルディージャVENTUS所属の仲田歩夢に、「ただお姉ちゃんたちと一緒にサッカーをしに行きたかった」という女の子だった自身が女子サッカー選手になるまでの道のりと、29歳となった現在地として感じていることについて明かしてくれた。
(インタビュー・構成=阿保幸菜[REAL SPORTS編集部]、トップ写真=Ⓒ1998 N.O.ARDIJA、本文中写真=本人提供)
社会人の友人に会うと自分が子どもっぽく感じてしまうことも…
――仲田選手は今年8月に29歳になりましたが、ご自身のキャリアにおける現在地をどう捉えていますか?
仲田:正直なところ、現役生活もこの先そんなに長くないなと感じているので、数年前に比べたら競技のことはもちろん、その後の人生についてもしっかり考えていかないといけないなという思いはあります。今はまだ現役でサッカーをやっているので、特にサッカー以外で何かやりたいことがあるというわけではないんですけれども、考えていかなきゃいけない歳ではあるなというふうに感じています。
ずっとサッカーをしてきて社会経験もない中で、社会人として一般的な会社や組織に勤めている友人に会ったりすると自分が本当に子どもっぽく感じてしまうことが結構あって。年齢だけ重ねていて中身はあまり変わっていないなと感じるので、もう少し大人な女性になりたいなという気持ちもあります。やっぱり将来的には自立した女性にはなりたいと思うので。
――仲田選手がサッカーを始めたきっかけというのは何だったんですか?
仲田:姉が2人ともサッカーをやっていたので、どうしてもサッカーがやりたかったというよりも、当時はただお姉ちゃんたちと一緒に行きたくて始めたかたちです。
――兄弟がサッカーをやっていたのがきっかけという女子選手のお話はよく聞きますけれども、お姉ちゃんの影響を受けてというのはあまり聞かない気がします。
仲田:地元が山梨なんですけど、当時は女子チームが多くなかった中で、たまたま近くに女子サッカーのクラブチームがあったというのもきっかけの一つだったかもしれません。
――仲田選手の地元では、サッカーをやっている女の子は多かったんですか?
仲田:同じ小学校でやっていた子はいなかったので、人数自体はそこまで多くはなかったですね。
――お姉さんたちはどんなきっかけでサッカーを始めたんですか?
仲田:父がサッカー好きだったんです。選手ではないんですけどずっとサッカーをやっていて、コーチもやっていたので、そういう影響もあったと思います。
女子チームと男子チームをはしごしていた小学生時代
――最近では少しずつ女の子がサッカーをする環境も増えてきたと思うんですけど、当時はどういう感じでしたか?
仲田:女子だけのサッカーチームは本当に少なかったですね。だいたい、お兄ちゃんがやっていて、まずはお兄ちゃんと同じ男子のチームに入るという流れが多いと思うんですけど、私はたまたま近くに女子チームがあったのでそこに所属して、何年かやったあとに男子のチームに入ることになったという逆パターンでした。
――男子のチームに入ることになったのはどういう理由からですか?
仲田:父の勧めでした。「女子だけじゃなくて男子ともやってみたらどうだ?」ぐらいの感じで、最初はイヤイヤだったんですけど、男子の中でもできることがあるとうれしくて。私、体が大きかったので男子のチームにいても一番大きいんじゃないかっていうぐらい存在感もあったりしたので。そこでの経験は自分にとっては大きかったかなと思っています。
――今振り返ってみて、男子チームでの経験でどんなことを得られたと感じますか?
仲田:やっぱり女子と男子とでは全然レベルが違うというのも初めてそこで知りましたし、一方で「男子相手でもできることがあるんだ」という手ごたえを感じることができました。小学生ながらに「もっとうまくなりたいな」と思ったり、男子はチームごとにレベル差があったりするので「強いチームに勝ちたい」とか。そういうふうに自分の中でバチバチした感情が生まれるようになったのは男子チームに入ってからかなと感じています。
私の場合、女子のチームに所属しながら男子のチームにも入っていたので、1日2回練習したりしていたんです。今考えたら、1日の中でしかも夕方以降から2回練習するなんて無理だなって思うんですけど、その頃はとにかくサッカーするのが好きで楽しかったので全く苦痛に感じていなくて。それが自分の中では普通のことだったので、そこで忍耐力がついたと思います。
男子チーム、さまざまな年代のチームだからこそ得た感覚
――女の子と男の子のチームに両方通うというのは、よくあることなんですか?
仲田:どうなんだろう……。小学生のときは男子のチームで、中学生になって女子のチームに変える選手は多いと思うんですけど。私の場合は、当時所属していた女子チームが社会人選手もいるチームだったので練習の時間帯が夜だったんです。少年団の練習は夕方ぐらいに終わるので、どちらにも通えました。当時は無意識でしたが、どちらの試合にも出たかったので一つに絞ることができなかったというのもあるかもしれません。
――当時、仲田選手は何歳くらいだったんですか?
仲田:小学1年生から4年生くらいまで最初のチームにいて、そのあと中・高・社会人が同じ時間帯にトレーニングするという女子チームに移ったんですけど、私が一番下だったのでかわいがってもらいました。やっぱりうまいお姉さんたちとサッカーができるというのがすごく楽しみだったことを、よく覚えています。
――同世代だけではなく、いろいろな世代の人たちがいたからこその楽しみもあったんですね。
仲田:そうですね。自分より上手な選手が多かったので、そこでうまくなりたいなとか、負けたくないっていう思いもありましたし。あと、上の人たちに教えてもらえるというのも大きかったなと思います。
――男の子のチームに入られたときもそうですけれども、自分よりもレベルが高い人たちとやるのが楽しいっていう感覚が、子どもの頃からあったんですかね。
仲田:それはありましたね。
――男子のチームに入ったのはいつ頃だったんですか?
仲田:女子のチームを変えるタイミングと同時期だったので、小学4年生ぐらいのときだったと思います。
「純粋にサッカーが楽しめればいい」と思っていた自分を変えた出来事
――これまでのサッカー人生の中で、一番印象に残っていることは?
仲田:中学生まではクラブチームでプレーしてきて、高校から常盤木学園という女子サッカーの強豪校に声をかけていただいたんですけど、声をかけてもらえるなんて思っていなかったので普通の高校に通いながら地元のクラブチームで楽しくサッカーを続けようと思っていたんです。上を目指すというよりは、純粋に自分がサッカーを楽しめればいいやと思っていたので、お話をいただいたときは冗談かなと思ったぐらいで。
最終的には自分で行くことを決めて、家も出て寮生活をしていました。高校1年生のときに出場した夏の大会(全国高等学校総合体育大会)で初めて全国優勝を経験して、自分が今までいたところでは絶対にできないことだったので、そこのピッチに自分が立っているということに実感が湧きませんでした。そのときのことは、今でもすごく鮮明に覚えていますね。
それまでエリート街道を歩んできたわけでもなく、若干流されつつというか、「自分なんかでいいのかな」と思いながら常盤木学園に入学したので「大丈夫かな……」という気持ちのほうが大きかった。なので、認めてもらって試合に1年生のときから出させていただき、初めての全国制覇という結果も残すことができたというのは、自分の自信にもつながった大会でした。
――仲田選手がプレーする大宮アルディージャVENTUSの試合では、小さい子どもから学生、大人まで女の子のファンが多い印象があります。彼女たちを魅了している理由は何だと思いますか?
仲田:私自身はもちろん、VENTUSの選手たちは本当にファン・サポーターの方々を大切に思っているので、その気持ちが皆さんにも伝わっているんじゃないかなというのは一番にあります。コミュニケーションが取れるときには取ったり、お話をしたり、お互いにパワーを与えたり与えてもらったりしている関係性だと感じています。やっぱりファン・サポーターの方々とは距離感の近い関係でありたいなと思っていますね。
――VENTUSの試合では、小さな女の子たちが「13番かわいい!」「歩夢ちゃんかわいい!」と目を輝かせている姿をよく目にします。“かわいい”や“かっこいい”にはさまざまな意味合いがあると思いますが、男の子がかっこいい選手に憧れて将来サッカー選手になりたいと思うのと同じく、女の子にとっても、プレー面も含め女子サッカー選手が憧れの対象になることってすごく重要なことなのではと感じています。
仲田:いろいろな世代の方が応援してくださっている中で、お子さんたちに「将来サッカー選手になりたいな」とか、「こういう選手になりたいな」って思ってもらえるのはやっぱり一番うれしいことですし、子どもたちの応援はすごくパワーになっています。でも、やっぱり選手として熱い気持ちを前面に出してプレーすることも大事だと思っています。
<了>
【前編はこちら】「女子サッカー選手としてプレーを続けられるんだよ」仲田歩夢が競技外の姿を見せ続ける理由と新シーズンへの覚悟
岩渕真奈が大変身! 「競技のために捨てるのはもったいない」トップ美容師が明かす“アスリートにしかない美しさ”
苦悩と試行錯誤の末にカップ戦優勝。浦和レッズレディースのWEリーグ初優勝に期待するこれだけの理由
浦和L・塩越柚歩、“良い選手どまりの苦労人”日本代表選出の背景。飛躍のきっかけは…
「うまいだけでは勝てない」岩渕真奈が語る、強豪アーセナルで痛感した日本サッカーの課題
PROFILE
仲田歩夢(なかだ・あゆ)
1993年8月15日生まれ、山梨県出身。大宮アルディージャVENTUS所属。山梨エスペランサレディースにてサッカーを始め、常盤木学園高等学校に入学後、1年時から出場した全国高校女子サッカー選手権大会で2度の優勝を経験。FIFA U-17女子ワールドカップ トリニダード・トバゴ2010に出場し準優勝を果たす。高校卒業後は2012年よりINAC神戸レオネッサに入団し、9年間プレーした後、WEリーグ初年度である2021年に新設の大宮アルディージャVENTUSへ移籍。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
大谷翔平のリーグMVP受賞は確実? 「史上初」「○年ぶり」金字塔多数の異次元のシーズンを振り返る
2024.11.21Opinion -
いじめを克服した三刀流サーファー・井上鷹「嫌だったけど、伝えて誰かの未来が開くなら」
2024.11.20Career -
2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
2024.11.12Career -
J2最年長、GK本間幸司が水戸と歩んだ唯一無二のプロ人生。縁がなかったJ1への思い。伝え続けた歴史とクラブ愛
2024.11.08Career -
なぜ日本女子卓球の躍進が止まらないのか? 若き新星が続出する背景と、世界を揺るがした用具の仕様変更
2024.11.08Opinion -
海外での成功はそんなに甘くない。岡崎慎司がプロ目指す若者達に伝える処世術「トップレベルとの距離がわかってない」
2024.11.06Career -
なぜイングランド女子サッカーは観客が増えているのか? スタジアム、ファン、グルメ…フットボール熱の舞台裏
2024.11.05Business -
「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え
2024.11.05Career -
WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」
2024.11.01Career -
女子サッカー過去最高額を牽引するWSL。長谷川、宮澤、山下、清家…市場価値高める日本人選手の現在地
2024.11.01Opinion -
日本女子テニス界のエース候補、石井さやかと齋藤咲良が繰り広げた激闘。「目指すのは富士山ではなくエベレスト」
2024.10.28Career -
新生ラグビー日本代表、見せつけられた世界標準との差。「もう一度レベルアップするしかない」
2024.10.28Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
大谷翔平のリーグMVP受賞は確実? 「史上初」「○年ぶり」金字塔多数の異次元のシーズンを振り返る
2024.11.21Opinion -
なぜ日本女子卓球の躍進が止まらないのか? 若き新星が続出する背景と、世界を揺るがした用具の仕様変更
2024.11.08Opinion -
女子サッカー過去最高額を牽引するWSL。長谷川、宮澤、山下、清家…市場価値高める日本人選手の現在地
2024.11.01Opinion -
新生ラグビー日本代表、見せつけられた世界標準との差。「もう一度レベルアップするしかない」
2024.10.28Opinion -
大型移籍連発のラグビー・リーグワン。懸かる期待と抱える課題、現場が求める改革案とは?
2024.10.22Opinion -
日本卓球女子に見えてきた世界一の座。50年ぶりの中国撃破、張本美和が見せた「落ち着き」と「勝負強さ」
2024.10.15Opinion -
高知ユナイテッドSCは「Jなし県」を悲願の舞台に導けるか? 「サッカー不毛の地」高知県に起きた大きな変化
2024.10.04Opinion -
なぜ日本人は凱旋門賞を愛するのか? 日本調教馬シンエンペラーの挑戦、その可能性とドラマ性
2024.10.04Opinion -
デ・ゼルビが起こした革新と新規軸。ペップが「唯一のもの」と絶賛し、三笘薫を飛躍させた新時代のサッカースタイルを紐解く
2024.10.02Opinion -
男子バレー、パリ五輪・イタリア戦の真相。日本代表コーチ伊藤健士が語る激闘「もしも最後、石川が後衛にいれば」
2024.09.27Opinion -
なぜ躍進を続けてきた日本男子バレーはパリ五輪で苦しんだのか? 日本代表を10年間支えてきた代表コーチの証言
2024.09.27Opinion -
欧州サッカー「違いを生み出す選手」の定義とは? 最前線の分析に学ぶ“個の力”と、ボックス守備を破る選手の生み出し方
2024.09.27Opinion