中国勢撃破に挑む、日本の若き王者2人。松島輝空と張本美和が切り開く卓球新時代
2月19日に開幕する世界最高峰の卓球国際大会・シンガポールスマッシュ。世界トップランクの選手が集結するこの大会に、全日本選手権で日本中を沸かせた松島輝空と張本美和が登場する。若き日本王者の2人は、最強・中国を中心とした世界の強豪たちを相手にどこまで戦えるのか。その可能性を探る。
(文=本島修司、写真=松尾/アフロスポーツ)
松島輝空、全日本制覇で覚醒した力
1月に行われた全日本選手権。前年の優勝者として、スーパーシードで5回戦から登場した松島輝空は、圧倒的なパフォーマンスで危なげなく勝ち上がっていった。組み合わせを見ると誰もが「松島vs張本智和の準決勝になるはず」「そしてそれが事実上の決勝戦になるだろう」と思ったはずだ。
メディアも当然のようにこの試合に注目し、大会中の会見でも「準決勝では…」というフレーズをこの2人に投げかけた。昨年も激しく火花を散らした2人。お互いに意識しないわけがない存在だ。そして実際に、準決勝でこのカードが実現することになる。
ただし、実際に試合が始まると、松島の強さが際立つ一戦となった。ゲームカウントを見てもわかる通りの大接戦だったが、そのなかで松島は圧倒的なパワーを見せつけ、加えて明らかに“ギラついて”いた。
まるで中国のパワー型に特化したプレーヤーの凄み。そして狙った一戦は絶対に落とさないという執念を感じさせた。
張本智和を破った松島の「攻撃」の本質
第1ゲーム。1本目から松島のシュートドライブの角度が、とんでもないことになっていた。サイドを切るのが当たり前といわんばかりだ。さすがの張本もノータッチになるほどの角度。13-11で松島が勝利して試合開始。
目立つのは、張本の攻撃もチキータも、どのボールをもブロックする松島の精度の良さ。そしてそのブロックがただ入れるだけではなく、左利きのバックハンドから、張本のフォアへ撃ち抜くようなカウンターブロックになることだ。
これは、戦術云々を超えた「攻撃は最大の防御」「守っている暇なんかない」といった雰囲気。そして全体から感じるのは「パワーで捻じ伏せる」というスタイルだ。
一方の張本も必死の応戦を見せる。第2ゲームは8-11、第3ゲームも8-11で張本が勝利。
しかし、後半に入っても様相は変わらなかった。豪打vs豪打。日本人選手同士の対決にありがちだった、変化をつけたプレーは少ない。とにかく「打ち合いしか望まない」という覚悟を感じさせる松島の豪打に、張本が付き合わされるような展開が続く。
第4ゲーム、第5ゲームは、11-8、14-2と松島が連取。松島の勢いは最後まで止まらなかった。相手が攻めてきても豪打。相手のつなぎのボールにも豪打。言葉で解説するのが難しいほど「まるで豪打を放つマシーン」のようだ。
第6ゲームは9-11で張本が勝つが、第7ゲームは11-9で松島が勝利し、試合を決めた。
本当に壮絶な一戦だった。中盤から終盤にかけて勝負強さと捻じ伏せに行く気迫で勝った松島がこの試合を制していく過程は本当に見事だった。
この試合の後、SNS上には「見ているだけで消耗した」といった最大級の賛辞が並んだ。全日本選手権史上に残る歴史的な死闘。あとはこの一戦のような試合を「中国人トップ選手相手に再現できるか?」が松島にとっては重要になってくる。
「捻じ伏せる力」を持つ存在。最強中国を倒せるか?
思い起こせば、パリ五輪ではリザーブ選手としての同行で「二度とリザーブでは来たくない」と言い放ったビッグマウスな一面も持ち合わせていたのが松島だった。
それが、有言実行という良い形で表面化し、負けることを許さない自分へと進化を遂げつつある。この張本戦でも「狙った獲物(相手選手)は逃さない」という鬼気迫る執念が見られた。
全日本選手権・男子シングルス連覇という最高の形で国内を制した今、問題は最強の卓球王国、中国と戦った時にどうなるか。「国内大会と同じパフォーマンスが出せれば勝てる」。そんな男子選手はこれまでもたくさんいたが、シンガポールスマッシュのような世界最高峰の選手が集う国際大会で「同じように爆発的な力を出す」ことが一番難しいことだった。
だが、松島には、世界最高峰の舞台で世界最強の中国のトップ選手を相手にしても「同じこと」をやってのける可能性を大いに感じる。試合終盤にかけて「緊張感」より「捻じ伏せる力」を感じさせる日本人選手は、今までいなかった。
例えば、2025年12月に行われたWTTファイナルズ香港の1回戦では、中国の王者、王楚欽を追い詰めながら逆転負けを喫した。しかし、今の松島ならこの場面を捻じ伏せてしまうイメージも持てる。狙った獲物は逃さない松島が、次に狙うのは世界ランキング1位の王へのリベンジか、それも世界ランク2位の林詩棟との豪打の打ち合いか。
いずにしても、日本の男子卓球が世界一になる瞬間が、現実として見えてきたと言っても過言ではなさそうだ。
女子のキーマンは絶頂期に入った張本美和
もう一人の注目は、やはり女子の全日本選手権4冠(ジュニア女子、女子シングルス、混合ダブルス、ダブルス)達成、張本美和になるだろう。
女子シングルスでは、こちらも大方の予想通り早田ひなとの決勝戦となったが、この試合もまた壮絶な戦いとなった。
何度も対戦経験がある2人だけに、技術も戦術もお互いに知り尽くす中での戦いだが、ここを勝ったほうが正真正銘の日本一。過去2大会の決勝では早田が張本をストレートで破っており、大会3連覇中の女王・早田と、今年こそはと意気込む張本の意地と意地がぶつかり合った決勝戦となった。
7ゲームまでもつれた“死闘”となったこの一戦は、6ゲーム目、7ゲーム目と、試合の大詰めが近づくにつれて、張本が「何をやっても手を出せば入る」ゾーンのような状態になっていた。
しかし、「ボールを入れにいくような姿勢」は一切なく、100%に近いパワーの豪打で圧倒するような詰め切り方をしていた。そう、こちらの女子の大一番も、張本美和から「終盤でも詰め切るパワー」と「勝利への執念」が感じられた。
実際に試合後に早田は「今まで戦ってきた選手とは比べものがないくらいパワーがある」というコメントを残した。合わせて「思い切りのよさ」も褒め称え、「できないことがない」という言葉での評価も加えた。これは、6ゲーム目で早田に6本連取されて大逆転を許した上で、折れかけた気持ちを持ち直して「付け入る隙を与えない状態に入れている」という意味も込められているはずだ。
つまり、今の張本美和は、どんな局面からでも、今までの日本人選手にはないパワーと精度を繰り出せる状態にある。
世界最強・中国への挑戦状
18歳の松島輝空と、17歳の張本美和。2026年の日本卓球界の先頭に立って引っ張ることになったこの2人の共通点は「パワー」だろう。
これまで日本勢は、多くの世界大会で中国人選手に最後の最後で「捻じ伏せられる」姿を見せてきた。技術は足りているのに……。あと一歩なのに……。そのような悔しい場面が何度もあった。
中国卓球は、超のつく「攻撃卓球」とも称されるように、迷わず攻めてくる。大事な場面になればなるほど攻めてくる。タイムアウトも早めにとって一貫して攻めの姿勢。そういう卓球だ。
ともすれば精神論になってしまうが「攻撃は最大の防御」というのは、どのスポーツにも当てはまる。だとすれば、相手を捻じ伏せるような、中国選手にも負けない「パワー」と「勝利へ固執する執念」は、シンガポールスマッシュで頂点を極める重要なファクターになり得る。
一方で、全日本選手権では不覚を取った実績十分の2人。きっと張本智和と早田ひなの心にもシンガポールスマッシュでの戦いは期するものがあるはず。松島輝空と張本美和という2人の後輩が見せた、捻じ伏せてくるような戦いぶりに「次の大会は自分が」というボルテージも高まっているだろう。
若き原動力は、世界の勢力図を変えられるか?
シンガポールスマッシュには、中国の男女ツートップも出場を予定している。
もし、松島vs王楚欽が実現すれば、サウスポー対決となる。WTTファイナルズ香港では王が回り込みドライブを外して表情をゆがめるなど感情を出すシーンもあった。むしろ、松島にはそれがなく淡々としていた。それはまるで「松島のほうが格上」のような風格も垣間見えた。ならば今なら、試合を通して優位を保ち、肝心の点数自体をひっくり返す可能性もありえる。
林詩棟に対しては、WTTファイナルズ香港の準決勝で負かしている張本智和のほうが相性がいいかもしれない。スタイルが似ている右利きの2人は、あの時「バックミートの我慢比べ」のような壮絶な打ち合いを見せた。そのため、林は松島にとっても決してまったく太刀打ちできない相手ではないはずだ。
女子では、世界ランク1位の孫頴莎と再び火花を散らすことになるだろう。WTTファイナルズ香港では絶好調だった日本の長﨑美柚が食い下がったが、勝負所で強打を打つ度胸、それにより1点をもぎ取る力はやはり孫が勝っていた。今のどんな場面からも盛り返せる張本美和、そして早田がぶつかった時にどうなるかが見どころだ。
世界ランク2位の王曼昱と張本美和の対戦がありえることについては、中国の卓球総合サイト『捜狐』の中ですでに「大会最大の注目カード」として取り上げられている。世界中からリスペクトを受ける中国卓球のトップ2の分厚い壁を、張本美和と早田が乗り越えられるかに注目が集まる。
全日本選手権で輝きを放った選手たちが世界中を驚かせる瞬間を楽しみに待ちたい。日本卓球が「あと一歩」から「勝ち切る国」へ変われるか。その試金石が、シンガポールにある。
<了>
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