女子サッカー日本人選手20人がプレーするWSL。林穂之香が語る進化と求められる役割
スウェーデンでの挑戦から数えて海外6年目。イングランド・女子スーパーリーグ(WSL)で5シーズン目を迎えた林穂之香は、エヴァートンの中盤を支える存在となっている。ポジションの流動化、各国代表クラスが集うリーグ特有の強度、格上との対戦が多い環境。簡単ではない変化の連続の中で、林は「まずは求められる役割を果たす」ことを軸に、自身の特徴を少しずつチームに溶け込ませてきた。海外生活への適応、日本人選手の増加、SNS発信、そしてビッグスタジアムで感じる熱。WSLという舞台で戦い続ける中で見えてきた現在地と、変わり続けるための思考に迫った。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=PA Images/アフロ)
WSLで戦い続ける適応力と強度への向き合い方
――スウェーデン時代も含めて海外6年目になりますが、世界トップクラスの強度を誇る女子スーパーリーグ(WSL)で戦う中で、どんな刺激を受けていますか?
林:どのチームにも強烈なアタッカーがそろっていて、刺激は本当に大きいです。中央でプレーする時もあれば、サイドでプレーする時もありますが、サイドでは1対1になる局面が増えます。最初は相手についていくので精一杯で、周囲と連携してどう守るかを考えるだけで精一杯でしたが、徐々に個人で奪いにいけるようになってきて、自信を持って対峙できるようになってきたと思います。
――ウェストハムでの2シーズン、そしてエヴァートンでの時間を振り返って、WSLの強度に慣れたターニングポイントはありましたか?
林:ウェストハムに加入した2022年頃から、少しずつ積み上がってきた感覚はあります。特にエヴァートンに来てからはサイドでもプレーする中で、中央とは違う守り方を学べたことが大きかったです。中央では周囲を見ながら相手と対峙しますが、サイドでは「自分と相手だけ」という瞬間が多く、勝敗がはっきりするので自分がどれくらい通用しているのかがわかり、自信にもつながりました。一方で、難しさを感じる部分もまだまだあります。
――セレッソ大阪堺レディースからスウェーデンのダームアルスヴェンスカン、そしてWSLへのステップアップを経て、最も成長したと感じるのはどこですか?
林:最初は、求められる役割をこなすことで精一杯で、自分の特徴を出し切れないもどかしさもありました。スピードや強度の高さについていくことが最優先になっていた時期もあります。でも、エヴァートンでは、チームメイトや監督に自分の特徴を理解してもらえていて、今シーズンは特に、チームのスタイルと自分の良さを噛み合わせながらプレーできるようになったと思います。以前よりも適応できて、自分の強みを発揮しやすくなりました。
――国や監督によってサッカーのスタイルや役割が変わる中で、意識していることはありますか?
林:まず最低限必要なことは、チームや監督が求めている役割をしっかり果たすことです。その上で、自分の持っているものをどう出していくかは、すごく難しい部分です。ただ、どのチームでも「試合に勝つ」という目標は変わらないので、そのスタイルとうまく合わせていけるように意識しながらプレーしています。
日本人選手が急増したWSL、ピッチとスタンドの変化
――海外生活は6年目に入りました。自己主張が強い選手も多いと思いますが、そのあたりで慣れた部分や、今も難しいと感じる部分はありますか?
林:海外生活にはさすがに慣れましたが、それでも時々、日本に帰りたいなと思うことはあります。たしかに自己主張が強い選手もいますが、まずはその意見を一度受け止めた上で、「でも自分はその時こう思っていたよ」とか、「こういうプレーもしたかった」ということは、ちゃんと伝えるようにしています。エヴァートンでは、チームを良くしたいという思いで話し合うので、自己主張で対立することはほとんどありません。目的が一致しているという点では、すごくいい雰囲気だと思います。
――エヴァートンは今季、北川ひかる選手、籾木結花選手、石川璃音選手が新たに加入し、日本人選手が4人になりました。移籍にあたって相談を受けることもあったそうですが、どんな点を伝えたのですか?
林:質問してきてくれたことに対して、自分から見たエヴァートンの環境を率直に伝えました。縦に速いだけのチームではなく、ボールをつなぐ場面と前に速く攻める場面を使い分けることを大切にしていて、ボールを保持する戦い方もトレーニングを重ねています。ボールを持っている時の日本人選手の技術を生かしながら、判断力を磨けるところは、このチームの良さだと思います。WSLは相手の個々の能力や強度も高いので、その中でプレーできること自体も魅力だと思うと伝えました。
――実際に日本人選手が増えたことで、ピッチ上のプレーやコミュニケーションに変化はありましたか?
林:日本語でパッと意思疎通ができるのは、自分にとって大きなプラスです。特に籾木選手は、「こういう時はどうしたほうがいいか」という場面で、すぐに「こうしたほうがいいと思う」と具体的な声かけをしてくれます。チームの中でも、それぞれが少しずつ馴染んできているなと感じています。
――WSLでは日本人選手が20人とリーグでもトップクラスの割合になり、日本人対決が毎週のように見られる環境になりました。1月24日のブライトン戦では日本人選手7人が同じピッチに立ちましたが、こうした変化をどのように受け止めていますか?
林:どのチームと対戦しても日本人選手がいる、という状況は、数年前には考えられなかったので、毎試合楽しみがあります。ブライトン戦のように、多くの日本人選手が同じピッチに立つ試合は特別な感覚がありました。日本人選手が増えた影響もあってか、試合のたびに現地の日本人の方が応援に来てくれることも増えています。
――スタンドの反応や、周囲からの声の変化も感じますか?
林:はい。日本のフラッグを持って応援してくれる方をよく見かけますし、それを見てチームメイトから「日本の人が応援に来てるよ」「人気があるね」と声をかけられることもあります。そうした変化は、すごくうれしいですね。
「ジャパートン」が見せる素顔と、心を整える時間
――エヴァートン所属の4選手で9月からスタートした「ジャパートン」のYouTubeは、それぞれのキャラクターが伝わってきます。林選手は、さりげなくツッコミ役やサポート役に回っている印象もあります。
林:サッカーをしている姿だけでは、個人のキャラクターはなかなか伝わらないですし、自分一人だったらYouTubeをやろうとは絶対に思っていなかったので(笑)、北川選手が主導してくれて、すごくいい機会をもらっているなと思います。
――毎試合、緊張感のある戦いが続いていますが、オフはどんな時間がリフレッシュになっていますか?
林:友達と遊びに行くのも楽しいですが、最近は一人でゆっくり過ごす時間が好きですね。少し前の連休には、ずっといきたかったサウスポートという町に、一人で一泊しに行きました。リバプールから車で1時間ほどの距離です。
――どんな過ごし方をしたのですか?
林:特に何かをするわけではなく、景色のきれいなホテルに泊まって、周辺を少し散策するくらいでした。もともと一人旅は好きなので、そういう時間がいいリフレッシュになっています。
――「ジャパートン」では櫻坂46の応援も話題になっていますね。エヴァートンの公式Xでも取り上げられていました。
林:そうなんです。櫻坂46の推し活も、オフの楽しみの一つですね。好きだとメディア担当の方に話したら、その方も気に入ってくれたのか、すごく取り上げてくれていて(笑)。
――ピッチ外で4人が一緒に過ごすこともあるのですか?
林:ありますね。たまにご飯に行ったり、YouTubeの撮影で家に集まって話したりしています。前もって予定を決めるというより、「今日行かない?」という感じで、急に集まることも多いです。
ビッグスタジアムが映し出すWSLの現在地
――男子トップチームが新スタジアムに移ったことで、今季からエヴァートン・ウィメンはグディソン・パークを本拠地にしています。ビッグスタジアムでプレーすることの熱や雰囲気を、ピッチ上でどう感じていますか?
林:純粋に、これだけ多くの人が集まって盛り上がることに感動します。イギリスはサッカーが文化として根づいている国なので、観客として試合を見た時にも、「こんなに人気があるんだ」「こんな環境でプレーできているんだな」と、人気を強く感じます。
――ホーム戦をエミレーツスタジアムで開催しているアーセナルをはじめ、WSL全体でもビッグスタジアム開催が増えていますが、ピッチ上で雰囲気の違いは感じますか?
林:そうですね。観客が多いと、試合の雰囲気は本当にガラッと変わります。選手としてプレーしていても、その熱量ははっきり伝わってきます。
――男子トップチームの試合を見に行く機会もあるのですか?
林:あります。女子の試合は男子の試合の前日に行われることが多く、最近は平日開催の男子の試合を見に行ったのですが、平日の夜でも5万人近く入っていて、改めてすごい環境だなと思いました。
クラブと代表、その先に描く成長曲線
――キャリア全体を見据えた時、今後どんなステップを描いていますか?
林:今はWSLでプレーできていることに喜びを感じているので、このリーグでプレーを続けていきたいという気持ちが強いです。ずっとやってきたボランチのポジションで、さらに上を目指したいと思っています。
――代表については、どんな思いを持っていますか?
林:代表への思いは強いです。チームのために、自分がどれだけプレーで貢献できるかという部分は、これからも追求していきたいです。
――激戦区の中盤で、特に意識しているアピールポイントは?
林:自分の特徴である「一つのチャンスをものにできる」部分や、守備の強度、安定感は、クラブで安定して出し続けた先に、代表につながればうれしいですね。
――クラブと代表で役割が変わる中で、その切り替えはスムーズにできていますか?
林:代表ではボールを保持する比重が高くなると思うので、そこでどれだけ関われるかは意識しています。ただ国際大会では相手や時間帯によって守備の時間が長くなることもあるので、そういう役割を求められた時に、しっかり応えられる準備は常にしておきたいです。
――最後に、リーグ後半から終盤に向けた意気込みをお願いします。
林:順位を上げるためにも2月以降の数試合で勝ち点を積み重ねていかないといけないので、まずは目の前の相手に負けないことと、攻撃ではチームメイトの良さを生かす配球で、勝ち点につながるプレーをしていきたいと思います。
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<了>
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[PROFILE]
林 穂之香(はやし・ほのか)
1998年5月19日生まれ、京都府出身。女子サッカーのイングランド1部・ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)でエヴァートンに所属するMF。中盤の底(ボランチ)を主戦場に、冷静な判断力と守備力、豊富な運動量を生かして攻守のバランスを整える。中学入学時にセレッソ大阪のアカデミーに入り、セレッソ大阪堺レディースで育成からトップまで一貫して経験。2017年に主将に就任し、クラブを牽引した。2021年にスウェーデン1部ダームアルスヴェンスカンのAIKへ移籍し海外挑戦をスタート。2022年からはウェストハムでWSLに参戦し、2024年にエヴァートンへ加入した。年代別代表では2018年のFIFA U-20女子ワールドカップで優勝を経験。なでしこジャパンには2019年に初招集され、2023年FIFA女子ワールドカップでは準々決勝スウェーデン戦で代表初ゴールを記録。2024年のパリ五輪にも出場し、国際舞台で存在感を示している。
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