五輪後、ゲレンデに何が起きたのか。「スノーボードの聖地」が挑む人気の広がりと文化の醸成

Business
2026.04.15

ミラノ・コルティナ五輪を機に高まったスノーボードへの関心は、現場でどのような広がりを見せているのか。オリンピック直後、福島県内にある国内最大級のゲレンデ「星野リゾート ネコマ マウンテン」で開催された全日本選手権には、トップ選手をひと目見ようと多くの観客が集まり、地元の子どもたちは目を輝かせながら選手に駆け寄った。その熱狂の背景にあるのは、世代を超えて楽しみ、挑戦を後押ししながら応援し合う、部活動にはないスノーボードならではの文化だ。2000年代のスノーボードブームを牽引し、「聖地」とも呼ばれてきた同施設でスノーリゾートユニット スキーマーケティングを担当する中嶋希望さんに、オリンピック後の現場の変化から、スノーボードが広がりつつある理由を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=森田直樹/アフロスポーツ、文中写真提供=星野リゾート ネコマ マウンテン)

オリンピック後、ゲレンデで起きた“次の一歩”

――2月のミラノ・コルティナ五輪直後というタイミングもあり、2月24日から4月5日まで、道具やウェア一式のレンタルと初心者向けレッスンを組み合わせた、子ども向けの「手ぶらでスノーボードデビューパック」を販売されていました。かなり反響があったのではないでしょうか。

中嶋:正直なところ、告知のタイミングや、もともと宿泊者向けのレッスン予約が先まで埋まっていたこともあって、そのパック単体でお客様が爆発的に入ったというわけではありませんでした。ただ、2月から3月にかけてのスノーボードレッスン全体で見ると、売上ベースでは昨年比で約120%伸びています。子どもたちだけでなく、大人の若年層の受講も増えました。特に高校生や大学生くらいの若い世代の受講が増えた印象があります。

――オリンピックで日本人選手たちの活躍を見て、「自分もやってみたい」と感じた若い世代が多かったのでしょうか。

中嶋:そうだと思います。高校生や大学生くらいの世代だと、自分たちと近い年代の選手が活躍しているのを見て、「かっこいいな」「自分も挑戦してみたいな」と感じやすいですよね。一方で、小さなお子さんの場合は、むしろ親御さんの反応が大きいと感じています。スノーボードの大会や、今回のオリンピックを見て「子どもにもやらせてみたい」と思った方が多かったようです。今回のオリンピックでは、選手たちの礼儀正しさや、競技を楽しんで、お互いに讃えあう清々しい姿に感動された方が多かったようで、自分の子どもにもこういうスポーツを経験してほしい、と思ってもらえたのではないかなと思います。

――一度やってみたいというライト層だけでなく、もう一度やってみたい、続けてみたいというリピーターも増えている実感はありますか。

中嶋:あります。初めてきてくださった方が、「もう一回やってみたい」「次はもう少し上達したい」と思って戻ってきてくださるケースは増えていると感じます。キッズ向けのレッスンでは、子どもたちの技術の到達度や次の課題がわかる「カルテ」を一人一人に作っているので、以前受けたお子さんが、その記録を見ながら「前回はターンまでできたから、今回は次に挑戦してみよう」といった形で、継続的にステップアップしやすくなっています。

 また、オリンピックではハーフパイプ、スロープスタイル、ビッグエアなどのパーク系種目が注目されたと思いますが、ネコマ マウンテンでは自社スクールだけでなく、提携スクールやプロスノーボーダーによるキャンプも実施しています。私たちのスクールで基礎を身につけた子が、さらに専門性の高いステージに進んでいく。そうしたステップアップにつながっていく流れもできています。

オリンピック直後の全日本選手権が映した熱狂

――今回のオリンピックでは、日本のスノーボード界の層の厚さも印象的でした。中嶋さんご自身は、日本勢の活躍をどのように見ていましたか。

中嶋:私たちがスポンサーしている荻原大翔選手もそうですし、出場していた多くの選手が、ネコマ マウンテンで練習したことがある、あるいは大会に出たことがある選手たちでした。ですから、みんな仲間のような気持ちで応援していました。

 さらに、オリンピック直後にネコマ マウンテンでスノーボード競技・ビッグエアの全日本選手権を開催したのですが、ミラノ・コルティナ五輪に出場した木村葵来選手(ビッグエア金メダル)、木俣椋真選手(ビッグエア銀メダル)、長谷川帝勝選手(スロープスタイル銀メダル)、ネコマ マウンテン契約ライダーの荻原選手(同 五輪出場)、鈴木萌々選手(同 五輪出場)をはじめとする国内トップクラスの選手たちがきてくれました。試合中はもちろん、その前後でも観客の方とすごく自然にコミュニケーションを取っていて、ファンサービスも素晴らしく、本当に普段からスノーボードを愛している選手たちなんだなと感じました。

――ワールドカップやX Gamesでも世界最高峰の戦いで日本人選手たちの活躍が見られますが、やはりオリンピックは特別でしょうか。

中嶋:そうですね。競技レベルだけを見れば、X Gamesやワールドカップとオリンピックで大きな差があるわけではないと思います。ただ、広く多くの方に知ってもらうきっかけや、熱中するきっかけとしては、やはりオリンピックの力は大きいと感じます。

 実際、オリンピック閉幕の翌週に開催した全日本選手権の際には、普段、スキーやスノーボードをされていない方や、年配の方もたくさん来場されました。雪ようではない長靴で来て、「あの技を目の前で見たい」「あの選手に会いたい」と足を運んでくださったんです。久しぶりにスキー場に来た、という声もありましたし、改めてオリンピックが持つ広がりを感じました。

憧れを次の世代へつなぐ、オリンピック後の舞台

――子どもたちにとって、オリンピックは憧れの入り口にもなりますよね。

中嶋:そう思います。全日本選手権の時には、地元の福島県内の子どもたちを招待して観戦してもらうプログラムも実施したのですが、子どもたちが大喜びで、選手に「サインください」と集まっていく姿がたくさん見られました。

 選手たちも、自分たちが小さい頃にそうだったという思いがあるのか、とても気さくに接してくれていました。そういう憧れの選手との触れ合いが、次の世代につながっていくのだと思いましたし、オリンピック直後にそういう場を作れたことは、私どもとしても、とても良かったと感じています。

――あれだけ盛り上がったオリンピックの直後に全日本選手権をネコマ マウンテンで開催できた背景には、やはり施設としての強みがあったのでしょうか。

中嶋:そうですね。私たちは3シーズン前から国際スキー連盟公認大会を実施していて、ジャンプ台のクオリティについても全日本スキー連盟から高く評価していただいていました。選手からも「ビッグエアの世界大会レベルの技を日本で披露できるジャンプ台は、ネコマしかない」と言っていただくことがありました。

 パークを作るスタッフも、選手に選んでもらえるジャンプ台を作ろうと強い誇りを持って取り組んでいます。そうした積み重ねがあった中で、日本スキー連盟からも「オリンピック後の重要な国内お披露目の場として最適なスキー場」と評価していただき、今回の開催につながりました。

世代を超えて広がるスノーボード文化

――近年、スノーボードやスケートボードをはじめ、学校の部活動にはあまりない、パフォーマンスなどで“魅せるスポーツ”への注目も高まっています。そうした流れは現場でも感じますか。

中嶋:感じますね。ネコマ マウンテンがある会津では、学校の授業でスキー教室を行うところも多いのですが、最近は「スノーボード教室はできませんか」という問い合わせも増えています。実際に、一部の学校ではスノーボード教室を実施しています。

 また、親世代の変化も大きいです。以前は「自分がスキーをやっていたから、子どもにもスキーを教える」という流れが多かったと思うのですが、今はスノーボードネイティブのお父さん、お母さんが増えてきました。「スキーは教えられなくても、スノーボードならできる」という方も多いので、若い世代に浸透してきていると思います。

――部活動のような枠組みではないからこその魅力もありそうですね。

中嶋:そこはすごくあると思います。親世代から子ども、さらにもっと上の世代まで、スノーボードを一緒に滑っている光景がよく見られます。部活だと同年代だけで活動することが多いですが、スノーボードは年齢を超えて、チームになってみんなでワイワイ滑れるような文化があるのも特徴だと思います。

 その中で、人との関わり方やマナー、カルチャーの部分も自然に受け継がれていきますし、何より、チャレンジすることをすごくよしとするスポーツなんです。できなくても「ナイストライ、次またやってみようよ」と声が飛んでくるような空気がある。競技として上を目指す面はもちろんありますが、それだけではなく、楽しみながら続けていける受け皿が大きいのも、このスポーツの魅力だと思います。今回、ミラノ・コルティナ五輪に出場した選手についても、「あの子は小さい頃から見ているよ」と話すお客様が多くて、みんなが保護者のような目線で成長を見守っているんです。そういうところも含めて、幅広い年代が一緒に楽しみ、応援できる文化があるからこそ、人気が広がっているのだと思います。

トップ選手を支える環境と、雪山の舞台裏

――世界大会レベルの舞台を国内で維持するには、雪の確保など現場ならではの苦労も大きいのではないでしょうか。

中嶋:そうですね。雪の確保に関してはやはり年々、気候変動の影響で難しさを感じています。大きなジャンプ台を作るにはかなりの雪の量が必要なのですが、その量を確保するために、どこからどう雪を運ぶのか試行錯誤しています。スキー場は除雪もしないとお客様が来られないので、道路の除雪で出た雪をどうゲレンデで活用するか、ノウハウを溜めながら工夫を重ねています。

――海外と比べた時、日本のスノーボード環境についてはどう感じていますか。

中嶋:日本が世界トップレベルを維持している理由の一つは、冬だけでなく、夏のトレーニング環境が充実していることだと思います。夏場は、着地部分がエアマットになっている施設で新しい技に挑戦できる環境があります。ケガのリスクを抑えながらトライできるので、まず夏にそうした場所で新しい技に挑戦して、冬に実際の雪上で試す、というサイクルが選手たちの中でできているんです。それによって、選手たちの技術はどんどん上がっていると感じます。

 こうした施設は室内というより、大規模な屋外施設が中心で、日本にはすでに10カ所以上あります。中にはスキー連盟が強化拠点施設として認定しているところもあります。海外でも近年は増えてきていますが、日本は早い段階からこうした環境整備を進めてきましたし、進化のスピードも速いと感じます。冬だけでは練習期間が限られますが、日本は夏にも技術を磨けて、冬には実際のスキー場で試すことができる。その循環が、選手たちの技術向上を支えているのだと思います。

【連載後編】福島を支えるスノーボード文化の現在地。星野リゾート ネコマ マウンテンに学ぶ普及のリアル

<了>

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