久保建英に続く2人目の快挙! カズを驚愕させた、横浜FCの18歳・斉藤光毅を知れ!
今季再びJ1に戦いの場を移した横浜FCは、三浦知良、中村俊輔、松井大輔ら、日本サッカーの歴史を創り上げてきたレジェンドたちを擁し、開幕前から注目を浴びる存在だった。だが、第3節の柏レイソル戦で4063日ぶりとなるJ1勝利の立役者となったのは、あどけなさを残す18歳、斉藤光毅だった。無限の可能性を感じさせる若者は、今季J1で台風の目となり、将来必ずや日の丸を背負うことになるだろう――。
(文=藤江直人、写真=Getty Images)
コロナ禍による中断期間でチャンスをつかんだ、斉藤光毅
猛威を振るった新型コロナウイルスにもたらされた、4カ月あまりに及ぶ長期中断から明けたピッチへ、13年ぶりにJ1へ挑んでいる横浜FCが鮮やかな変貌を遂げて戻ってきた。
システムが[4-2-3-1]から[3-5-2]へ変わり、同時に先発メンバーの平均年齢が27.82歳から25.91歳へ一気に若返った。そして、再開されて2戦目となる8日のJ1第3節、柏レイソル戦を3-1で制し、公式戦4試合目にして今シーズンの初勝利を、J1の舞台に限れば2007年12月1日の浦和レッズ戦以来、実に4603日ぶりとなる白星を手にした。
「コーチスタッフともよく話していることですけど、3バックに変えてから攻守両面にわたって、選手たちに躍動感が出てきた印象があります。選手たちが前向きに、積極的にトライしてくれているおかげであり、その結果として個々の特長やパワー、ストロングポイントが出るようになりました」
現役時代のほとんどをボランチとしてプレーし、2016シーズンの開幕直後からは監督を務めた古巣レイソルを相手にもぎ取ったと表現してもいい白星に、下平隆宏監督は大きな手応えをつかんでいる。
J2を戦った昨シーズン。5月にヘッドコーチから監督に就任した下平監督は、下位にあえいでいた横浜FCを生まれ変わらせ、最終的に2位に食い込ませてJ1へ自動昇格させた。躍進の原動力になったのは[4-2-3-1]システムであり、中盤の両翼として前への推進力を与えたルーキーの中山克広、JFA・Jリーグ特別指定選手の松尾佑介(当時・仙台大4年)の若手コンビだった。
サイドハーフから2トップの一角へ、長所が生かされるポジション
迎えた今シーズンも、同じ戦い方を継続させた。しかし、サンフレッチェ広島とのYBCルヴァンカップのグループステージ初戦で0-2の完敗を喫し、ヴィッセル神戸とのJ1開幕戦では1-1で引き分けた。J1の壁を感じ始めた直後に、新型コロナウイルスによって公式戦が突如として中断した。
「まさに開幕戦に反省点がありました。何とか勝ち点1を取りましたけど非常に苦しい試合で、このまま続いても……というなかで中断した。ならば、思い切って違うことにトライしてみよう、と。今シーズンの選手たちの特長を考えると、サイドバックとサイドハーフのポジションで人材があまり豊富ではなかった。そこをウイングバックとして考えたときに、ならば3バックにして後ろを3人で守っていけるんじゃないかと。あとは単純に2トップにしたかった、という考えもあったので」
中断期間に入ってから考え始めたシステム変更を、緊急事態宣言の発令とともにクラブが活動自体を休止し、自宅待機の日々を余儀なくされてからすぐに下平監督は決断している。特に「2トップにしたかった」というプランの背景は、期待を寄せる選手がいたことを抜きには語れないだろう。
それがアカデミー出身のホープ、18歳のFW斉藤光毅だ。1トップが採用された昨シーズンは主に中盤の左サイドで松尾と併用された。斉藤は自身のストロングポイントをこう語っていた。
「相手の最終ラインの裏へ抜け出すプレーと、味方が走って空けてくれたスペースを使うプレーを自分は得意としています。ただ、ボールを受けた後に何ができるかがまだまだ課題です」
下平監督も斉藤の長所を理解しながら、昨シーズンのシステムで唯一当てはまるポジション、左のワイドを主戦場とさせた。しかし、時間の経過とともに斉藤から“窮屈さ”を感じるようになった。
「昨シーズンは足元でボールを受けてから勝負するしか、選択肢がない状況でした。真ん中に置いたいまは伸び伸びと自由にプレーしながら、2トップとしてのコンビネーションも学んでいるところです。選手たちのストロングポイントが出てくれば一番いいと思っていたなかで、2トップにして斉藤のよさが出ています。プレーしていても楽しそうですからね」
出場2試合目にして早くも決めたJ1初ゴール
システム変更に伴ってポジションを最前線に移した斉藤に生じたポジティブな変化に、下平監督も目を細めている。迎えたレイソル戦は斉藤のストロングポイントが生かされた先制ゴールが、2トップを組む22歳の一美和成とのコンビネーションから勝ち越しゴールが生まれている。
先制ゴールが生まれたのは21分だった。中盤でルーキーのMF瀬古樹が相手のボールホルダーへ激しいプレッシャーをかけ、こぼれ球に反応したMF松浦拓弥が、すでに左前方のスペースへ抜け出そうとしていた斉藤へ絶妙のスルーパスを一閃。韓国代表GKキム・スンギュの動きを冷静に見極めた斉藤が左足でゴール右隅へ流し込み、今季出場2試合目でJ1初ゴールを決めた。
「自分の得点を含めて、チームが勝てたことが素直にうれしい。ショートカウンターはチームとしてずっとやっていたことですし、マツさん(松浦)が打ちやすいところへうまく出してくれたので、あとはしっかりと足に当てることだけを意識しながら流し込むだけでした。マツさんに感謝ですね」
愛くるしさを漂わせる童顔をほころばせた斉藤は、同点とされて迎えた47分に決めた勝ち越し点にも絡んだ。一美がポストプレーで落としたボールを斉藤が広い、ペナルティーエリア内へと侵入。シュートを放つ前に相手につぶされたが、こぼれ球を松浦がシュート。相手に当たってはね返ったボールを今度はMFマギーニョがシュートした弾道を、松浦が右かかとにヒットさせてネットを揺らした。
熊本・大津高時代にセンターバックからフォワードに転向した、異色の経歴と屈強な身体を持つ身長181cm、体重77kgの一美に対して、スピードとクイックネスで勝負する斉藤のサイズは身長170cm、体重61kg。例えるならば剛と柔。新しいシステムのもと、絶妙のハーモニーが最前線で奏でられつつある。
「緊張しないの?」 カズが頼もしく感じた返事
「フォワードなのでゴールを決めることが役割だと思うので、ホッとしている部分もありますけど、満足はしていません。(前節のコンサドーレ)札幌戦を含めて、もっとゴールを取れた場面があったので」
喜びに自戒の念を込めながら、一生の記録として残るJ1初ゴールを振り返った斉藤は、神奈川・川崎市内の犬蔵SCでプレーしていた小学生時代に横浜FCのスカウトの目に留まり、12歳以下の強化選手になった縁で2014年にジュニアユースに加入した。
横浜FCが初めてJ1で戦った2007シーズンはまだ6歳。サッカーを本格的に始めていなかったこともあって、こんな言葉を残したこともあった。
「最初は(横浜FCというチームを)あまりよく知らなくて。だんだん好きになってきたというか、トップチームを見ていくなかで、入ってよかったと思うようになりました」
憧れの視線を送ったトップチームのなかに、最年長出場記録を更新し続けるFW三浦知良がいた。16歳にしてトップチームに2種登録され、練習にも帯同するようになった2018シーズンから、キングカズと呼ばれるレジェンドを間近で見ながら、その一挙手一投足を吸収してきた。
「学ぶものはものすごくあります。(プロの世界における)経験がまだまだ浅い僕は、カズさんが言っていること、やっていることのすべてを学んでいかなければいけないと思っているので」
84分からの途中出場で、16歳にしてJ2デビューを果たした2018年7月21日のFC岐阜戦は、日本国内だけではなく世界からも注目を集めた。3分後に当時51歳のカズも投入され、年齢差が実に35歳と親子ほどに離れた2トップとして、ニッパツ三ツ沢球技場のピッチで共演したからだ。
勝てば無条件で2位が決まる状況で迎えた昨年11月24日のJ2最終節。ホームで愛媛FCと戦う仲間たちをベンチから見守りながら、キックオフ前から募らせていた緊張感がピークに達したカズは、同じくリザーブとして出番を待っていた斉藤に「緊張しないの?」と話しかけている。
「恥ずかしいと思いながら聞いたら、光毅は『全然しないっすね』と軽く言ってきたので。すごく頼もしいですよね。実際、光毅も『やってやる』という感じで途中から出ていきましたからね」
同い年の久保建英にも「負けていられない」。見つめる視線の先
最後はカズもピッチに立ち、昇格決定の瞬間を共有してから7カ月あまり。カズが頼もしさを覚えたホープは、Jリーグ史上で2人目となる、J1の舞台でゴールを決めた21世紀生まれのJリーガーになった。第1号の久保建英は当時のFC東京から昨夏スペインへ旅立ち、レアル・マドリードから期限付き移籍しているマジョルカでも確固たる居場所を築く大活躍を演じている。
同じ2001年生まれで、年代別の代表でも共演してきた久保は所属クラブだけでなく、東京五輪に臨むU-23代表、FIFAワールドカップ・カタール大会を目指すフル代表へと瞬く間にステップアップした。
昨年の段階で久保へ抱いていた「すごく刺激になる。自分も負けていられない、という気持ちがますます強くなった」というライバル心は危機感へと昇華して、斉藤をさらに成長させる糧になっている。
「今年で19歳になりますけど、海外では決して若くない年齢ですし、(久保)建英も活躍している。危機感を持ってやっていかないといけない、と思っています」
身体のサイズがほぼ同じアタッカーということもあり、アルゼンチン代表のFWセルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ)を目標とする選手の一人として掲げてきた。そして、自粛期間中に新たな戦術の浸透を図るため、ポジションごとに参考になる選手のプレー映像が下平監督から選手個々へ送られたなかで、斉藤のためにチョイスされた選手の一人が偶然にもアグエロだった。
「非常にベタ(な人選)ですけど、世界で活躍している選手として見せました。斉藤に関しては2トップにしてからかなり躍動するようになって、攻守両面でチームに貢献してくれています。練習試合やチーム内の紅白戦でもよく点を取っていたので、好調なときにJ1初ゴールを取ってくれれば、と思っていたなかで、いい形から先制点を取ってくれた。本当によかったと思っています」
サイドアタッカーではなくフォワードとして、まるで水を得た魚とばかりに潜在能力を開放しつつある斉藤へ下平監督が再び目を細めた。3バックの右に抜てきされた大卒ルーキーの星キョーワァン、同じく左を射止めた19歳の小林友希と共に、ポジティブな変貌を遂げた横浜FCを象徴する存在となる斉藤は、すでにさらなる先を見つめている。
「本当に(ここが)スタートラインなので、自分が目指している目標に対してもっともっと貪欲に、がむしゃらにやっていかないと。チームもまだ1勝しただけですし、これからもっと勝ち続けなければいけない。自分の結果で勝ちにつなげられるように、練習から厳しくやっていきたい」
ヴィッセルとの開幕戦を斉藤はリザーブのままで終えた。星と小林はベンチ入りすら果たしていない。サッカー界を大混乱させ、一時は先を見渡せない長期中断に追いやった新型コロナウイルス禍を、シーズン中の戦術変更に踏み切った下平監督の決断に応える形で追い風へと変えた。
開幕前の横浜FCはカズを筆頭に、中村俊輔、松井大輔と日本のサッカー史に名前を刻んできた大ベテランたちが注目される存在だった。一転していまは開幕戦から先発で抜てきされた一美と瀬古、巻き返しを期す中山や松尾を含めて、コロナ禍への憂いを吹き飛ばすほどの輝きを放つホープたちがひしめき合う。無限の可能性を感じさせる軍団の中心に、U-19代表候補にも選出された斉藤がいる。
<了>
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