なぜJリーガーが「料理」の発信を続けるのか? フォロワーの多くは“サッカーを知らない人”
SNSの普及により、積極的に発信を行うアスリートも増えてきた。その中で、料理研究家顔負けの料理の腕前と専門的な食の知識を発信し続けているサッカー選手をご存じだろうか。鹿島アントラーズのアカデミーを経て18歳でプロデビューを果たし、現在ヴァンフォーレ甲府に所属するGK、小泉勇人である。注目すべきは、約4万人いるInstagramアカウントのフォロワーやコメントを寄せる人の多くが、サッカーファン“以外”であること。恵まれた体格の秘訣や食の発信を続ける理由とともに、SNS活用から見るアスリートの新たな価値のつくり方について話を聞いた。
(インタビュー・構成=阿保幸菜[REAL SPORTS編集部]、写真=本人提供)
「子どもの頃から一切けがをしたことがない」その秘訣は…
――SNSで小泉選手の料理アカウント(@zumi_meshi)を拝見したのですが、料理研究家顔負けのお料理やレシピ、栄養に関する専門的な情報を発信されていて驚きました。しかもほとんど毎日3食作っているそうですが、どんなきっかけで始められたんですか?
小泉:コロナ禍でサッカーの練習ができない期間に、あらためて自炊を本格的にやってみようかなというのがきっかけでした。
――もともと食への意識は高いほうだったんですか?
小泉:高いかといわれたら難しいですけど、例えば五大栄養素とか最低限の知識があったくらいで、なんとなく外食で気をつける程度でした。小学生のときからサッカーをやっていたので、家庭科の授業では、もしかしたら生かせることもあるのかなというところで、人よりも聞いていた部分はあるかもしれないです。ただ自分自身、食事をすごく気をつけていたかっていうとそこまで意識は高くなかったです。
母が食事に気を使ってくれていたので、例えば外食を控えてなるべく家で作ったものを食べさせてくれたり、コンビニ弁当やカップ麺、ジャンクフードは食べないようにという感じでした。子どもの頃はカップラーメンを食べたことがなかったので「カップラーメン食べたい!」と親に泣きついたことがあったらしいです(笑)。
――子どものときって、みんなが食べているものがおいしそうに見えますよね(笑)。
小泉:そうなんです(笑)。でも、それほど食べるものに気を使ってくれていたことが、今となっては幸せなことだったなと思うようになりましたね。
――小泉選手といえば192cmという恵まれた体格が武器の一つですが、遺伝などもあるかもしれませんが、ご自身の体格に食が影響を与えたと感じるところはありますか?
小泉:母も背が高いので遺伝もあるのかなと思うんですけど、それでも親族の中で僕が一番大きいので、もしかしたら食や生活習慣が影響している部分もあるかもしれません。それから、子どもの頃から今まで一切大きなけがをしたことがないので、それも食事を含むいろいろな要素が積み重なったものなのかなと思っています。
――それはすごいですね! 食以外に生活習慣で意識してきたことは?
小泉:以前はそこまで意識していませんでしたが、ここ最近は、食事を整えるようになってからいろいろな部分を変えるようになりました。遺伝的要素や体質のような先天的な部分も、食事や生活習慣である程度改善していけることは多くあると思います。
――本格的に料理するようになってから、食に対する意識というのはどういうふうに変わっていきましたか?
小泉:口に入れるものの重要性が、意識を変えてみて初めてわかるようになった気がします。今までは特に気にしていなかったことも、変えてみたら意外と「あれ、こっちのほうが調子いいな」と気づいたり、それを継続することで徐々に体の変化が感じられるようになってきて。良い変化が感じられるようになったら、食に限らず生活習慣なども整えるようになって、それが複合的に積み重なっていって意識だけでなく行動も変わってきたのかなというふうに感じます。

フォロワーの多くは“サッカーを知らない人”。料理の発信をする本当の理由は…
――きちんと3食作り続け、さらに器のコーディネートにもこだわってきれいに撮影したり、編集してアップし続けるというのはかなり大変なことだと思うんですけれども、続けられている理由は何だと思いますか。
小泉:もちろん大変な部分もありますが、僕はただ、人が遊んでる時間や余暇をそういった時間にあてているだけなんです。僕も積極的に発信するようになって、さまざまな人に見てもらえているからこそ継続できているところもあるので、何もなかったらモチベーションを維持するのが大変だったかもしれません。うれしいお言葉もいただけたりするので、やっぱり人の役に立てるのってうれしいですし。
あとは、毎回の投稿のインサイトをチェックしていて、数字を追いながらやるのがゲーム感覚で楽しかったり。自分の中でそういった楽しさややりがいを見つけて、続けることができていますね。SNSマーケティングはこれからの時代に必要なスキルだと思いますし、やっぱりやるからには多くの人に見てもらいたいなと。続けてきた活動が水物にならないように、もっともっと多くの人に届いてほしいなっていう思いはあります。

――投稿を見ている方の中には、小泉選手のファンはもちろん、食に興味はあるけれどもサッカーはあまり見たことがないという方もいらっしゃるのでは?
小泉:ほとんどがサッカーはあまり知らないという方だと思います。ただ、本格的に料理の投稿を始めるときに考えていたことがあって。既存のサッカーファンの方々に僕自身に興味を持ってもらうというよりも、どちらかといえば、料理の投稿に興味を持ってくれた人が「この人サッカー選手なんだ、サッカーも見てみようかな」と、サッカー自体に興味を持ってもらえたら、サッカー界の盛り上げにも貢献できるんじゃないかなと考えていたんです。僕はセカンドキャリアを考えてやっているというわけではないので。
――サッカーへの興味にもつながる入口になるとすごくいいですよね。周りの選手からはどういった反響がありましたか?
小泉:フォローしてくれたり、食事のことを聞かれたりするようになりましたね。「サッカーは副業でしょ?(笑)」みたいな弄りもありつつ、YouTubeやTikTokも見てくれて、「あの部分の編集はこうしたほうがいいんじゃない?」みたいに言ってくれたり、意外と応援してくれていると思います。
新しいことができるようになると自信につながる
――InstagramやTwitterだけでなく、YouTubeやTikTokまで、編集も全部一人でやっているんですよね?
小泉:そうです。もともとは全くできなくて、やれるとも思っていませんでした(笑)。やっぱり新しいことを始めるのってすごく億劫なんですけど、自分で学びながらやってみたら意外とできるなと。まず画像編集から始めたんですけど、やってみると楽しくなってきて。じゃあ、動画編集もやってみようというかたちで、ある程度できるようになっていきました。
そうやって一つずつ新しいことができるようになると、自己肯定感じゃないですけど、自分はやればできるんだっていう喜びだったり、自信になる。そういったことが結果的に、サッカーに限らず自分自身の自信につながっていくように感じます。
――もともと何かを学んだりするのは好きなほうなんですか?
小泉:学校の勉強とかは好きではなかったですけど、新しい知識を得ると自分の世界が広がるので、意外と好きです。だから何事も偏見を持たずに、いろいろな知識を入れるようにしていますね。
――食に関する資格もたくさん取られたようですが、どんな資格を持っているんですか?
小泉:食関連では、上級食育アドバイザー、野菜スペシャリスト、生活習慣病予防プランナー、腸活アドバイザー、ナチュラルフードコーディネーター、アスリートフードマイスター3級の6個です。アスリート向けの資格はもちろん、子どもやご年配の方向けの知識や、オーガニック関連の知識など、幅広くカバーできるように勉強しました。
食に関する専門知識がなかったので、とりあえず資格を何個か取ろうって思ったのがきっかけで。今の時代は無料で見られるいい情報もたくさんあるので無理に資格を取る必要はないかなとも思うんですけど、資格があれば発信するときにも、ある程度信用につながるかなという思いはありました。それから、やっぱり人間って損をしたくない生き物じゃないですか。だから身銭を切って、そのぶん取り返すぞっていう気持ちで、教材が届いたらがーっと勉強して1年間ぐらいで取りました。
――すごいですよね。アスリート向けだけでなく、いろいろな層の方に向けて発信できるように、と。
小泉:アスリート向けの資格をいくつか取ったとしても、他の人と同じような発信になってしまうのでバランスは意識しました。
――サッカー以外のスキルや強みが身についてきて、競技への打ち込み方に変化はありましたか?
小泉:競技以外のことを発信すると叩かれる選手もいると思いますが、それは僕自身にもいえることだと思うんです。こういう活動をしてるからこそ、(サッカーも)もっとやらないといけない。そうして自分に発破をかけています。
サッカー界を盛り上げるために別の方向からアプローチする選手がいてもいい
――栄養面ではどういうことを意識していますか?
小泉:最終的にはコンディションを上げていくということを目指した栄養バランスを意識しています。例えば、ポジションや競技によっても体づくりの特色が違ったりするので。あとは今、なるべく小麦をとらないようにしているので、そういう意識もしていますね。
――料理だけじゃなくて器のコーディネートやキッチンのDIYなどもご自身でされるんですよね。もともとそういうことは好きなほうだったんですか?

小泉:いや、全然(笑)。そもそも僕、料理自体今でも全然好きじゃないんですよ。だから、環境を整えることで続けられる状況をつくっていきました。例えば、SNSに発信することも使命感になったりしているので続ける理由になっていますし、キッチンを好きな雰囲気にDIYしたり、好きな器をそろえたりすることでキッチンに立つ時間が自然と長くなったり。あと、テレビを見るとダラダラしちゃうので、今、家にテレビないんですよ。その時間を料理以外にも有意義な時間にあてるようにしたら、自然とそれが習慣になって。最初はやっぱり大変でしたけど、習慣になってしまえば全然苦ではなくなってきた気がします。
――好きじゃないことを続けるのってなかなか大変なことですよね。
小泉:もともとどちらかといえば流されやすいというか、自分は意思が弱いというのを分かっているので。そうやって環境を整えたり、料理だけでなくさまざまなことにおいて行動や考え方を変えて習慣化するように意識しています。
――自分自身を俯瞰的に見られるからこそ、そういった方法で自分を高めていっているんですね。
小泉:そうですね。いろいろ本を読んだり、食以外にも勉強したり資格を取ったりしたことも生きているのかなと思います。
――食関連以外の勉強もされているんですね。
小泉:そうです。この前は、器のコーディネートとかにも生かせるかなと思い色彩検定を受けました。あとは、心理学や脳科学的な部分とか、体の機能的なことに関する本を読んだり。食にもつながりますし、自分にも生かせるし、もしかしたら人にアドバイスできることもあるかもしれない。食だけ変えるのではなくて、生活習慣やマインドを変えていかないとだめだよね、というスタンスで、多方面からカバーできるように勉強しています。
――今後はどういうことを目指していきたいですか。
小泉:まずはサッカーでもっともっと上を目指したい。27歳になったんですけど、こういった活動をしている僕がサッカーで結果を出すということが、きっとサッカー界にとってもいい影響があると思うので、まずはそこが一番目指したいところです。
あとは、ここ数年、コロナ禍も相まって観客も離れていたり、民放での中継も少なくなったりと日本サッカー界全体の人気が低迷しているといわれています。もっともっとサッカー界を盛り上げるためには、別の方向からアプローチしていく人がいてもいいと思っていて、それは間違いなく現役選手がやったほうがいいじゃないですか。
別の分野でも活動している選手を見て、それをきっかけにサッカーを好きになって、試合を観に行ってみようと思ってもらえたらすごくいいことだと思うんです。僕は競技外の発信をするにしても当然サッカーにフルベットするべきだと思っています。サッカーはもちろん、競技以外の活動にも意義を明確に持って、サッカー界に還元していきたいです。

<了>
「競技だけに集中しろ」は間違い? アスリートが今こそ積極的にSNSをやるべき3つの理由
[天皇杯]30年で最もジャイキリされたJクラブはどこ? 1位は半数の大会でやられた…
「SNSが普及している時代だったらヤバかった」中田浩二が振り返る日韓W杯“トルコ戦”舞台裏
J1で最も成功しているのはどのクラブ? 26項目から算出した格付けランキング!
[アスリート収入ランキング2021]首位はコロナ禍でたった1戦でも200億円超え! 社会的インパクトを残した日本人1位は?
PROFILE
小泉勇人(こいずみ・ゆうと)
1995年9月14日生まれ、茨城県出身。ヴァンフォーレ甲府所属、ポジションはGK。
鹿島アントラーズジュニアユース、ユースを経て、2013年4月にはトップチームに2種登録選手として登録、2014年よりトップチームへ昇格。2017年5月に水戸ホーリーホックへ移籍(2017年5月~12月は鹿島より期限付き移籍)、2018年6月よりグルージャ盛岡(期限付き移籍)、2019年にザスパクサツ群馬へ移籍後、同年7月よりヴァンフォーレ甲府へ期限付き移籍を経て2020年より完全移籍。
2021年7月より自炊記録アカウントを立ち上げ、食のプロ顔負けの、専門知識を生かしたアスリートならではの健康的で豊かな食生活に関する情報を発信している。https://www.instagram.com/zumi_meshi/
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
レイラック滋賀が刻んだ新たな歴史。「拾ってもらった」海口彦太が背負った引退覚悟と“空白1年半”という現実
2026.03.13Career -
平良達郎、堀口恭司は世界を獲れるか。岡見勇信が語る、日本人初“UFC王座”へのリアル
2026.03.12Opinion -
岡見勇信がUFC初戦で目にした意外な光景。難関ミドル級で王座に挑んだ日本人が語る“世界基準”
2026.03.12Career -
卓球世界2位を3-0撃破。大藤沙月が中国エース王曼昱を崩した「巻き込みサーブ」の秘密
2026.03.12Opinion -
試合前に40キロの宇宙服。「自己中だった私が支える側に」元SVリーガー古市彩音、スタッフ1年目の挑戦
2026.03.10Business -
「リミットは10月」プロ入りか大学サッカーか悩む、高校生の進路選択。選手権は“最後の就活”
2026.03.10Career -
慶應→オランダ→ブンデス。異色の20歳ストライカー塩貝健人が挑む「日本人CFの壁」
2026.03.10Career -
ベテランの進化論。Bリーグ・川崎ブレイブサンダースを牽引する篠山竜青が、37歳でプレースタイルを変えた理由
2026.03.06Career -
欧米ビッグクラブ組が牽引する、なでしこジャパン。アジアカップで問われる優勝への三つの条件
2026.03.04Opinion -
なぜ張本美和・早田ひなペアは噛み合ったのか? 化学反応起こした「今の2人だけが出せる答え」
2026.03.02Opinion -
日本人のフィジカルは本当に弱いのか? 異端のトレーナー・西本が語る世界との違いと“勝機”
2026.03.02Training -
風間八宏のひざを支え、サンフレッチェを変えたトレーナーとの出会い「身体のことは西本さんに聞けばいい」
2026.03.02Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
平良達郎、堀口恭司は世界を獲れるか。岡見勇信が語る、日本人初“UFC王座”へのリアル
2026.03.12Opinion -
卓球世界2位を3-0撃破。大藤沙月が中国エース王曼昱を崩した「巻き込みサーブ」の秘密
2026.03.12Opinion -
欧米ビッグクラブ組が牽引する、なでしこジャパン。アジアカップで問われる優勝への三つの条件
2026.03.04Opinion -
なぜ張本美和・早田ひなペアは噛み合ったのか? 化学反応起こした「今の2人だけが出せる答え」
2026.03.02Opinion -
「コンパニの12分」が示した、人種差別との向き合い方。ヴィニシウスへの差別問題が突きつけた本質
2026.03.02Opinion -
三笘薫の数字が伸びない理由。ブライトン不振が変えた、勝てないチームで起きるプレーの変化
2026.02.25Opinion -
日本サッカーに「U-21リーグ」は必要なのか? 欧州の構造から考える19〜22歳の育成
2026.02.20Opinion -
「W杯のことは考えていない」欧州で戦う日本代表選手が語る“本音”が示す成熟
2026.02.06Opinion -
森保ジャパンが描くワールドカップ優勝への設計図。4×100mリレーと女子チームパシュートに重ねる組織の戦略
2026.02.02Opinion -
「正直であること」を選んだ名門の一年。明治大ラグビー部、7年ぶりの日本一と29年ぶりの完遂
2026.01.13Opinion -
高校サッカー選手権4強校に共通する“選手層”の背景。Jクラブ内定選手がベンチに控える理由
2026.01.09Opinion -
“Jなし県”に打たれた終止符。レイラック滋賀を変えた「3年計画」、天国へ届けたJ参入の舞台裏
2026.01.09Opinion
