その規制は誰のため? 高校野球「大人が口を出しすぎる」風潮への疑問
日本の夏の風物詩、高校野球。今年も全国の高校球児が聖地・甲子園を目指して熱戦を繰り広げている。高校野球は誰のものか――?
その答えは、疑いなく「選手」のもののはずだ。だが現実はどうだろうか。その規制は、そのルールは、その報道は、その批判は、本当に選手のためのものなのだろうか。大人の都合になっていないだろうか。
甲子園の開幕を控えた今こそあらためて、「高校野球の在り方」を考えたい。
(文=西尾典文、写真=Getty Images)
千羽鶴にダンス部のイベント、グラウンド外の些細なことまで規制を
全国各地で熱戦が続いている高校野球の地方大会もいよいよ大詰めを迎えているが、そんな高校野球の現場においてあるニュースが議論を呼んだ。6月25日、兵庫県高野連が地方大会の組み合わせ抽選の際に、敗れたチームが対戦相手に千羽鶴を受け渡す行為を禁止すると発表したのだ。
理由としては受け取った側のチームから対応に困るという声が挙がったこと、試合後の球場周辺でそのような受け渡しを行うことが一般の観客や施設利用者の邪魔になるということだという。
ちなみに出場校の多い愛知、福岡でも同様に千羽鶴を渡す行為を禁止している。しかし実際に何かトラブルが起きたという事例は聞かれず、各県の高野連が判断して行ったことである。この決定に対しては賛否両論あったが、多かったのはグラウンド外のそんな些細なことまでわざわざ禁止する必要があるのか、というものだった。
また、昨年12月には夏の甲子園にも出場した高知商の野球部員が、応援のお礼として出演したダンス部のイベントが入場料を徴収するものであり、またユニフォームを着用していたこともあって、日本学生野球憲章が禁じている商業的利用に該当するのではないかとして、野球部長を有期の謹慎処分にするべきではないかという意見が挙がった。
最終的には商業的利用には当たらないという判断となったものの、高校野球の在り方に大きな疑問を投げかける出来事だった。
何にでも規制をかける高校野球 規制する側の理由とは?
このような例に限らず、とかく高校野球はあらゆる規制が入ることが多い。日本における野球のルールは「公認野球規則」によって定められているが、それとは別に「高校野球特別規則」というものが設けられている。頭部に死球を受けた時の臨時代走など、選手を守るためにつくられたものもあるが、道具の色など理由がよく分からないものもある。
またこれとは別に各都道府県のルールもあり、大阪では華美なデザインであるからという理由で長く縦縞のユニフォームが禁止されていたこともあった(現在はOK)。とにかく何でも規制をかけようというのが高校野球の文化、伝統となっているのである。
もちろん規制する側にもそれなりの理由がある。高校野球がある種の風物詩となり、国民的な人気を得たことでそれを利用しようという学校が増えたこともその原因の一つだ。甲子園大会に出場すれば全国放送のNHKでその学校名が何度も紹介され、知名度は大きく跳ね上がることになる。そうなることで入試の志願者も増え、学校経営にとって大きなプラスとなることは間違いない。過剰な特待生制度や派手なユニフォーム、ロゴなどを禁止しているというのはそういう側面からであろう。以前は大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)が在学中に学校のCMに出演させたということで花巻東は注意処分を受けている。
また高校野球はあくまでも学校の部活動であり、教育の一環でなければならないというのも大きな理由の一つである。甲子園の宣伝効果に目を付けたあらゆるメーカーなどが、用具のPRに高校球児を使い過ぎないように、ロゴの規定なども細かく決められている。また、かつて行われていたようなプロ球団による有望選手の囲い込みを防ぎたいという思いも強かったものと思われる。
審判の権限の強さも問題 誤審に泣き寝入りが正しい姿か?
しかしその一方でそれが行き過ぎたものになっている感は否めない。冒頭で触れた千羽鶴や野球部員のイベント参加などはグラウンド外のものであるが、グラウンド内にも持ち込まれているように見える。
一つは審判の権限の強さだ。高校野球の場合、判定に対して異議があったとしても監督はベンチを出ることはできず、主将かプレーに該当した選手を通してあくまで『疑義を申し出る』ことしかできない。高校野球の審判員はプロではないため、見ている側が疑問を持つような判定が出ることが多々ある。しかしそれに対しても基本的には一度下されたジャッジが覆ることはめったになく、誤審と思われるような判定にも泣き寝入りせざるを得ないのだ。この夏の愛知大会では審判団が協議の結果、ミスジャッジを認めて判定が覆ったケースがあったが、これはニュースになるほどの異例のことである。
しかし高校野球は教育の一環というのであれば、明らかにおかしいことに対して声を上げずに泣き寝入りするよりも、しっかり声を上げることを教える方が重要ではないだろうか。また、審判や運営側も一度下した判定をしっかりと振り返ることなく、そのまま押しつけるような形は大人として正しい姿とはいえないだろう。
報道とファンの姿勢にも問題がある
運営する側の問題もあるが、それ以外の大人にも大きな問題はある。一つは報道の在り方だ。特にこの時期、負けたら終わりの夏の大会になると必要以上に感動を呼ぼうとするようなニュースを見かけることが多くなる。投手が炎天下の中投げ抜けば“熱投”と称え、劇的な負けを喫すれば選手の涙を取り上げる。またその背景についても必要以上にクローズアップし、無理やり感動を呼ぶように仕立てているものも少なくない。選手が懸命にプレーする姿、それまでに至る努力の経緯、支える人たちの献身などが多くの人の心を打つことは確かだが、それを必要以上に演出しようとしている意図が年々強くなっているように感じて仕方がない。
また一般のファンの高校野球に対する見る姿勢も問題となることが少なくない。先日、岩手大会では今年最大の注目選手である佐々木朗希投手が試合に出場することなく決勝戦で敗れたことが大きな話題となったが、試合後にはスタンドから「甲子園に出たくないのか?」という心無い罵声が飛んでいた。佐々木が超高校級の選手だからニュースとなったが、他にも高校野球の現場ではこのような心無い声を聞くことが少なくない。特に県外からのいわゆる野球留学生に対する批判、文武両道を必要以上に称える風潮は強く、グラウンドでいくら素晴らしいプレーを見せても「どうせ●●から来た選手だから」という声がいまだによく聞こえてくる。自分の目標のためにその学校を選び、懸命にプレーしている高校生に対してこのような声をかける大人が少なくないというのは非常に嘆かわしいことだろう。
高校野球、甲子園というのは国民的な行事であり、そこでプレーする選手は確かに一般の高校生と同列で語ってはいけないだろう。しかしだからといって、必要以上に規制をかけたり、批判したりするのは大人としてやるべきことではないだろう。日本の高校野球文化が世界に誇れるものであり続けるためには、多くのことを見直す時期に来ていることは間違いない。新しい時代の高校野球がさらに良いものになっていくためにも、もっと高校生たちの可能性を信じ、運営方針にも異なる分野や若い意見を取り入れていくことを望みたい。
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