ダルビッシュ有はなぜゲームにハマったのか?「そこまでやりたくない時でも、今はやるようにしてます」
全4回にわたりお届けしてきた、ダルビッシュ有選手の独占インタビュー。第1回でメディアへの本音、第2回で日本野球界の問題、そして第3回では自身がTwitterを通じて発信する想いを語ってくれた。
その力強く、熱い想いのこもったメッセージは、ファンだけでなく、選手、業界関係者からも大きな反響を呼んだ。
最終回となる今回は、今年3月に引退したばかりのイチロー選手への想い、ゲームにハマっている意外な背景、そして、今後のキャリアについて、本音を明かしてくれた――。
(インタビュー・構成=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、撮影=小中村政一)
ダルビッシュが見たイチローの姿「とにかく変わってる」
今年3月21日、ついにイチロー選手が現役を引退しました。本当に偉大なキャリアを送った選手ですが、改めてイチローという選手について、どういう選手だったと感じていますか? ダルビッシュ:うーん、どういう選手だったんだろう……。いや、だって、自分もそこまで対戦しているわけじゃないじゃないですか。そんなに生で見る機会も多くはなかったですからね。ピッチャーからすると打ち取った当たりがヒットになっていることが多かった、というイメージはありますね。すごい打球を打ち続けてるというよりも、体勢を崩されても、詰まらされても、ヒットにしてしまう技術が高い。だから、ピッチャーからしたら、そこまで打たれてる感じはしないけれど、ヒットは積み重ねられている、というタイプ。あんまり、他にはいないタイプの、そういう選手なんだろうなと。
確かに、クリーンヒットというよりも、内野安打も含めて、そこまで良い当たりではないヒットが多いという印象はあります。きっと、あえてああいう打ち方をしてるんでしょうね。
ダルビッシュ:まあ、それは本人にしかわからないでしょうけれど、イチローさんはとにかく変わってるんですよ。例えば、バッティング練習では、常にホームランを狙い続けるバッティングをするわけです。でも、試合ではそういうバッティングはほとんどしない。とてもユニークですよね。
会うと、いつもいろいろなアドバイスをくれますし、会っていない時でも、テキストメッセージでずっとやりとりさせてもらっていて。どんな時でもすごく優しくて、面倒くさがらずにいろいろな質問にも答えてくれるので、そういう人間的な部分でもすごい人だなと。きっと、自分自身のことでも、いろいろとやることあって大変だったはずなのに、自分にも時間を使ってくれたりしていたわけで、やっぱりすごいです。本当に感謝しています。
最初にイチローさんの存在を知った時には、もう「世界のイチロー」になっていたわけですよね?
ダルビッシュ:だって、僕が中学で野球やってる時には、もうメジャーで大活躍してるレベルですよ。たぶん、僕が小学生の時には、もう「世界のイチロー」だったんじゃないですかね。
そう考えると、改めて、とんでもなく長いキャリアですよね。
ダルビッシュ:そうですよね、メチャメチャ長いですよね。だって、プロ生活25年とかじゃないですか。すごすぎでしょ(笑)。
実際にイチロー選手と一緒にトレーニングした時に気づいた、イチロー選手のすごさなどがあれば、ぜひ教えてください。
ダルビッシュ:とにかく、身体が柔らかいです。身体が柔らかくて、身体を動かすセンスが人とは違う。やっぱりなめらかなんですよね。身体が柔らかくても、実際に身体を動かしてみるとあまりそうは見えない人がほとんどなんですが、イチローさんは身体も柔らかいし、動かしても柔らかい。さらにそこに野球センスも加わるわけだから、それはもう「いいよね」という話なわけです
野茂英雄さんから始まって、今でこそ、数多くの日本人選手がメジャーで活躍していますが、活躍しているのはほとんどがピッチャーで、野手に関してはまだまだ活躍している選手が少ない印象です。イチローさんに関しても、ちょっと再現性がないタイプのように思えます。
ダルビッシュ:まあそうですね。今のメジャーで日本人の野手が通用するのは、すごく難しいなと感じます。
それはなぜなんでしょうか?
ダルビッシュ:まず、身体の強さが絶対的に違う。バッティングではそこそこ打てたとしても、「じゃあ、守備は?」という話になると思います。メジャーでやってる野手と比べると、日本人選手は(フィジカルとしての)スピードも落ちるし、肩の強さも絶対に落ちる。スピードが落ちるってことは守備範囲も狭くなってしまう。そうすると、バッティングでよほど打たないと使ってもらえないわけじゃないですか。今の日本のプロ野球には、確かにいい選手がたくさんいると思いますが、それでもやっぱりどうなのかな、という感じはしますよね。
実際、生で見ると、送球の速さに一番驚かされます。内野ゴロをサードやショートがさばく時でも、軽く投げているように見えるのに、とんでもない送球が一塁目がけて飛んでいきます。
ダルビッシュ:本当に、全然違いますよ。メジャーで1年目のシーズンを過ごしたあと、オフに日本のクライマックスシリーズをテレビで見たら、ショートゴロからの送球で、ファーストに画面が切り替わって出てくる球が全然違って、それにすごいびっくりしました。本当にこんなに違うんだと。
身体を壊してから続いた不調「自律神経失調症みたいな感じだった」
ダルビッシュ選手が仮にメディアの側になった場合、インタビューしてみたい人っていますか? スポーツ界に限らず、世界中の著名人含めて、会って話してみたい人っているのかなと。
ダルビッシュ:いないです(笑)。いや、誰かいるかな? (マネージャーさんに対して)俺、そんなん言ったことある? 誰かに会いたいとかって。(以前にマネージャーさんが聞いた時には「おるわけないやろ」と答えたとのこと) やっぱりな……いやーおらんなー、でもちょっと考えてもいいですか、これ。えー、ちょっと待ってくださいね。これ、自分自身にちょっと興味がある。誰なんやろう。
「この人の感覚になってみたい」っていうのはあるんですけど、会ってみたい人っていうのはいないですかね。まあ、「この人になってみたい」っていうのもゲームの話なんですけど。『フォートナイト』というオンラインゲームで、コントローラーを使ってやるゲームなんですけど、メチャクチャ上手い人がいて、どういう感覚であのプレイをやっているのか知りたいなと。ゲーム上手い人って、すごくないですか? あれは本当にすごいんですよ、野球なんかより。いや、本当にわけわからんもん。俺の野球と一緒で、ずっとやってるんでしょうけど、にしてもすごいですよ、本当に。
Twitterを見ていても、『フォートナイト』には本当にハマってますよね。やっぱり、すごく楽しいんですか?
ダルビッシュ:楽しいですよ。楽しいっていうか、なんですかね。自分はこういう性格なので、ストレス解消法とかも特にないわけですよ。好きなものも、トレーニングが好きなぐらいで、それ以外に特に好きなものってないし、外出したいわけでもないし、美味しいご飯を食べたいわけでもないし。
そんな生活をしてる中で、2016年の12月ぐらいに1回身体壊してから、ずっと身体の調子がおかしくて、メンタル的にもちょっと変だったんです。自律神経失調症みたいな感じで。それでちょっと大変だった時期がずっと続いて、それがようやく、去年の11月ぐらいから良くなったんですね。その良くなった時期が、ゲーム始めてちょっと経ったぐらいの時だったんですよ。
たぶん、自分の中で知らず知らずのうちにストレスをため込んでいて、肘のケガとかでトレーニングもあんまりできてなかったし、いろいろなことが重なって体調が悪くなっていた時に、ゲームが自分のストレス解消になったんじゃないかと思うんですよね。だから、そこまでゲームをやりたくない時でも、今はやるようにしてます。気分転換にはなりますし。もちろん、面白いですよ、やっぱり。
ダルビッシュ選手はメンタルが強いイメージがあるので、自律神経に影響あるほど、ストレスをためていたというのが正直、意外でした。
ダルビッシュ:2016年12月というのは、契約の残りがちょうどあと1シーズン、というタイミングだったんです。あの時の契約(テキサス・レンジャーズとの契約)は、2017年のシーズンが終わるまでだったので。つまり、次のシーズンが終わるとFAというタイミングでした。1年しっかりやらないと新しい契約がもらえないかもしれない、ケガしたらヤバいなとか、子どももいますし、やっぱりいろいろと考えましたね。
それに加えて、2016年の12月に、いろいろな選手たちと一緒にトレーニングしたんですよ(田中将大、坂本勇人、則本昂大、佐藤由規、藤浪晋太郎、大谷翔平らトップ選手がダルビッシュ選手主催の合同自主トレに参加)。日替わりで10人前後の選手が参加していて、一番の問題は、自分が休みの日にも稼働しなきゃいけなかったこと。もちろん、自分も週2、3日は休みの日にしてたんですけれど、やっぱり、その日にトレーニングしたいという選手は出てくるんですよ。だから、自分のトレーニングが休みの日でもジムにはほとんど毎日行ってました。トレーニングのやり方とかを教えなきゃいけないので、ちょっとだけですけど、やって見せたりとか。そういうところで無理をした積み重ねもあったと思うし、たぶん、キャパオーバーしちゃったんでしょうね。それが結果的にストレスにもつながったんじゃないかと思います。あのあたりから、ちょっと調子がおかしかったので。
せっかく、一緒にトレーニングしようと思って来てくれたら、やっぱり、満足してもらおうと思って、気を遣っちゃいますよね。
ダルビッシュ:そうなんです。それで、みんなのことを、自分以外のことを考えすぎて、自分の体調がおかしくなってしまったんだと思います。
最近は全然ストレスを感じてないんですか?
ダルビッシュ:そうですね。一番の問題は、たまに息苦しくなることだったんですけれど、体調が良くなってからは、息苦しいこともほとんどないですし、すごくイライラしたりすることもないので、今は全然大丈夫です。もちろん、野球に関しては、いろいろと考えてる日々ですけれど、体調がおかしい時に比べれば、大したことではないですね。
今後のキャリアは……「今は絞らず、いろいろなことを考えてます」
今後のキャリアの過ごし方について、どのように考えてますか? まずは野球選手としてのキャリアをどう考えてるのか教えてください。
ダルビッシュ:とりあえず、今年1年、ちゃんとケガなく頑張る、ということはもちろん考えてます。あとは、今の契約(2018年に、2023年までの6年契約を締結)が終わったら、たぶん(現役選手としては)もうやらないだろうな、とは思ってます。
先日、スポニチさんのインタビューで、そのようなコメントをしているのを読みました。
ダルビッシュ:今のところは、ですよ。だからその時も言いましたけど、先のことはわからないので。その時になったら、もしかしたら子どももどんどん増えちゃって、もっと稼がなきゃいけない、となったら、(現役で)やる可能性はあるだろうし。
稼がなきゃいけない、ということはないでしょう?
ダルビッシュ:いや、あると思います。
お金がなくなることはないですよね? 無駄遣いとかするタイプに見えないですけれど。
ダルビッシュ いや、自分でも使ってないと思うんですけどね。でも、不安はありますね。まあ、もしお金がなくなったら、全部売っちゃえば何とかなりますからね。家とか車とか。でも、子どもたちがアメリカで進学するとしたら、学費とかもけっこう高くなるだろうし。高校や大学まで行かせるんだったら、なおさらですよね。
いや、さすがに大丈夫ですよ。そこの感覚、ちょっとズレてると思います(苦笑)。
ダルビッシュ:でも、もし何かあった時のためにもね。こう見えて意外と心配性ですし。うん、すごく心配ですね。
引退したあとのキャリアについても、イメージは持ってますか? 以前に聞いた時には、引退したらアメリカの大学に行って学びたい、というような話をされていましたが。
ダルビッシュ:今は思ってないですね。うん、今は全く思ってないです。確かに、あの頃はそんなこと言ってましたね。その時々によって、自分の中でいろいろと違う考え方があるんですよ。(引退したあとのキャリアとして)例えば、球団を持ってみるのも面白そうだなとは思うんですが、ただ、実際に球団を持ったりしたらすごく大変なんだろうし。
球団を持ったりしたら、それこそ、一気にお金がなくなりますよ(笑)。
ダルビッシュ:ですよね(笑)。じゃあ、ダメですね。
せめて、子どもが大きくなってからチャレンジじゃないですかね。
ダルビッシュ:チャンスがあるなら、球団のGMやフロントスタッフへの道も考えないわけではないですけれど、それだとまた毎日球場来なきゃダメなので、それは嫌だなと。とにかく、今は絞らず、いろいろなことを考えてます。
家族との時間を大事にしながら、やれること、やりたいことを見つけると。
ダルビッシュ そうですね。まずは引退したら、家族との時間をちゃんと取りたいですね。家族を大事にしながら、次については、その時その時でちゃんと考えていけたらと思います。
<了>
なぜダルビッシュ有は復活を遂げたのか?「お股ニキ」が分析する“さらなる進化”
第1回 ダルビッシュ有が明かす、メディアへの本音「一番求めたいのは、嘘をつかないこと」
第2回 ダルビッシュ有が考える、日本野球界の問題「時代遅れの人たちを一掃してからじゃないと、絶対に変わらない」
第3回 ダルビッシュ有は、なぜTwitterで議論するのか「賛否両論あるということは、自分らしく生きられてる証拠」
PROFILE
ダルビッシュ有(ダルビッシュ・ゆう)
1986年生まれ、大阪府出身。MLBシカゴ・カブス所属。東北高校で甲子園に4度出場し、卒業後の2005年に北海道日本ハムファイターズに加入。2006年日本シリーズ優勝、07、09年リーグ優勝に貢献。MVP(07、09年)、沢村賞(07年)、最優秀投手(09年)、ゴールデングラブ賞(07、08年)などの個人タイトル受賞。2012年よりMLBに挑戦、13年にシーズン最多奪三振を記録。テキサス・レンジャーズ、ロサンゼルス・ドジャースを経て、現在シカゴ・カブスに所属している。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
卓球が「年齢問わず活躍できるスポーツ」である理由。皇帝ティモ・ボル引退に思う、特殊な競技の持つ価値
2024.12.25Career -
「すべて計画通りに進んだ」J1連覇の神戸・吉田孝行監督が示した日本サッカー界へのアンチテーゼ
2024.12.24Opinion -
ドイツ6部のアマチュアクラブとミズノがコミットした理由。岡崎慎司との絆が繋いだ新たな歴史への挑戦
2024.12.24Business -
なぜミズノは名門ラツィオとのパートナーシップを勝ち得たのか? 欧州で存在感を高める老舗スポーツブランドの価値とは
2024.12.24Business -
「誰もが被害者にも加害者にもなる」ビジャレアル・佐伯夕利子氏に聞く、ハラスメント予防策
2024.12.20Education -
ハラスメントはなぜ起きる? 欧州で「罰ゲーム」はNG? 日本のスポーツ界が抱えるリスク要因とは
2024.12.19Education -
スポーツ界のハラスメント根絶へ! 各界の頭脳がアドバイザーに集結し、「検定」実施の真意とは
2024.12.18Education -
JリーグMVP・武藤嘉紀が語った「逃げ出したくなる経験」とは? 苦悩した26歳での挫折と、32歳の今に繋がる矜持
2024.12.13Career -
昌平、神村学園、帝京長岡…波乱続出。高校サッカー有数の強豪校は、なぜ選手権に辿り着けなかったのか?
2024.12.13Opinion -
なぜNTTデータ関西がスポーツビジネスに参入するのか? 社会課題解決に向けて新規事業「GOATUS」立ち上げに込めた想い
2024.12.10Business -
青山敏弘がサンフレッチェ広島の未来に紡ぎ託したもの。逆転優勝かけ運命の最終戦へ「最終章を書き直せるぐらいのドラマを」
2024.12.06Career -
三笘薫も「質が素晴らしい」と語る“スター候補”が躍動。なぜブライトンには優秀な若手選手が集まるのか?
2024.12.05Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
卓球が「年齢問わず活躍できるスポーツ」である理由。皇帝ティモ・ボル引退に思う、特殊な競技の持つ価値
2024.12.25Career -
JリーグMVP・武藤嘉紀が語った「逃げ出したくなる経験」とは? 苦悩した26歳での挫折と、32歳の今に繋がる矜持
2024.12.13Career -
青山敏弘がサンフレッチェ広島の未来に紡ぎ託したもの。逆転優勝かけ運命の最終戦へ「最終章を書き直せるぐらいのドラマを」
2024.12.06Career -
非エリート街道から世界トップ100へ。18年のプロテニス選手生活に終止符、伊藤竜馬が刻んだ開拓者魂
2024.12.02Career -
いじめを克服した三刀流サーファー・井上鷹「嫌だったけど、伝えて誰かの未来が開くなら」
2024.11.20Career -
2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
2024.11.12Career -
J2最年長、GK本間幸司が水戸と歩んだ唯一無二のプロ人生。縁がなかったJ1への思い。伝え続けた歴史とクラブ愛
2024.11.08Career -
海外での成功はそんなに甘くない。岡崎慎司がプロ目指す若者達に伝える処世術「トップレベルとの距離がわかってない」
2024.11.06Career -
「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え
2024.11.05Career -
WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」
2024.11.01Career -
日本女子テニス界のエース候補、石井さやかと齋藤咲良が繰り広げた激闘。「目指すのは富士山ではなくエベレスト」
2024.10.28Career -
吐き気乗り越え「やっと任務遂行できた」パリ五輪。一日16時間の練習経て近代五種・佐藤大宗が磨いた万能性
2024.10.21Career