バルセロナ、NBAも導入する最新型“ウェアラブルデバイス”とは? ~スポーツ×テクノロジーの最新トレンドに見るスポーツの未来~
今や世界のスポーツ界の発展にとって切り離すことができなくなった、テクノロジー。強化、分析、マーケティング、ファンエンゲージメント、スタジアムエクスペリエンス、エンターテインメント……。その可能性はあらゆる分野に及ぶ。日本のスポーツ界はこの分野において世界に大きく後れを取っているといわれるなか、世界の「スポーツ×テクノロジー」の最新トレンドはどのようになっているのだろうか?
今回は、ここ数年でプロスポーツリーグやチームでの導入が急増している「ウェアラブルデバイス」について紹介する。
(文=川内イオ、写真=Getty Images)
FCバルセロナと組んで急伸する「Wimu Pro」
日本のスポーツ界ではあまり情報を耳にしないが、世界のスポーツ界ではどんどん進化しているもの、それはウェアラブルデバイスだ。選手の位置情報や生体情報を取得することで負傷を防ぎ、パフォーマンスと戦術を改善するためテクノロジー、あるいは視聴者向けのエンターテインメントシステムとして、ここ数年、導入する国やチームが急速に増えている。
世界的なトレンドともいえる流れのなかで、競技によって使用されるデバイスの機能や目的が異なるのは興味深い。テクノロジーといえばアメリカというイメージがあるが、アメリカ以外の国のベンチャーが生み出したデバイスが勢力を伸ばしているのも特徴だ。それぞれの分野で注目のデバイスを紹介しよう。
サッカーでは、2006年設立のオーストラリアの企業Catapult(カタパルト)が開発した、ユニフォームの下に装着するスマートベストがプレミアリーグ、ブンデスリーガ、Jリーグなどで使用されているが、最近ではスペインのFCバルセロナが2017年から導入している「Wimu Pro(ウィム・プロ)」が伸びている。
カタパルトと似たベスト型だが、より機能が多い。カタパルトの場合、GPSによって走行距離、速度、加速、減速などを計測できるが、ウィム・プロは同様の機能のほかに心拍数、酸素レベル、疲労、ヒートマップなどもリアルタイムで表示される。
2008年にスペイン南部の都市アルメリアに設立されたリアルトラック・システム社が開発したこのデバイスは、2016年、FCバルセロナのプロバスケットチームに試験導入された際に高評価を得て、バレーボールなど同クラブのほかのスポーツチームにも拡大した。バルサの導入からレアル・マドリードなど他クラブにも広まり、昨年にはスペイン1部リーグ、ラ・リーガと技術パートナー契約を結んだ。
2018年夏には、メキシコサッカー連盟が開設した技術革新センター「CITEC」ともパートナー契約を締結。手始めとして、男女の代表チーム、メキシコ1部リーグ・リーガMXの全クラブ、メキシコ女子リーグの全クラブ、レフェリーにウィム・プロを配布したところすぐにその効果が認められて、2部リーグの全クラブ、下部組織のリーグにも導入され、現在、計63チーム、1375人が使用している。
ウィム・プロは代表チームレベルでもメキシコのほかスペイン、ロシア、コスタリカ、ラトビア、ミャンマーなどで使用されており、サッカー界の一大勢力となりつつある。ほかのスポーツでの活用も始まっており、5月30日から7月14日まで開催されているクリケットワールドカップに出場しているスリランカ代表も着用している。
NBAの14チームが導入する「KINEXON」
アメリカのプロバスケットボールリーグNBAで、最も多く使用されているウェアラブルデバイスは「KINEXON(キネクソン)」。2012年にドイツのミュンヘンで設立されたキネクソン社(商品と同名)が生み出したこのデバイスは、センチメートルレベルの位置測定機能と精密な3次元モーションセンシング機能を売りにしている。
キネクソンが開発したセンサーをコートに設置し、加速度計、ジャイロスコープ、磁力計を備えた15.4gのセンサー内蔵ジャージを選手が着用することで、ボールと選手の動きをトラッキングするだけでなく、走るスピード、方向、加速、減速、距離、ジャンプの高さ、心拍数、ストレスレベルなどがリアルタイムでタブレット端末に表示される。
これを使うことで、指導陣は練習中のプレーヤーの負荷をチェックして負傷を防止すること、プレーヤーのパフォーマンスの見える化による適切な指導が可能になる。
2016年にアメリカに進出した同社と最初に手を組んだのが、NBAのフィラデルフィア・セブンティシクサーズ。このシステムを活用し、負傷がちだったセンタープレーヤー、ジョエル・エンビードのトレーニング内容を厳格にコントロールした。それが功を奏して2017-18シーズンにブレイクし、今ではスタープレーヤーとしてチームをけん引している。
その様子を見た他チームもキネクソンに関心を持ち、2018年9月の時点でNBA30チームのうち14チームが導入に至っている。
NFL、MLBでは史上初めて選手目線の映像配信
アメリカのプロフットボールリーグNFLでは2013年から、リーグがアメリカのゼブラテクノロジース社と提携し、選手がRFIDチップを内蔵したショルダーパッドを装着することで動きの速度、移動距離、他の選手との距離間などを記録するシステムを導入している。2017年にはボールにもRFIDタグが組み込まれ、ボールの速度、移動距離、回転数などが計測されるようになった。
NFLはさらに今年1月、アメリカのベンチャー、アクション・ストリーマー社が開発したヘルメットに装着するライブストリーミングカメラを試験導入。1月27日に開催されたオールスターゲームの試合前のウォーミングアップで、数人の選手が装着したヘルメットから、選手目線の映像が配信された。NFL史上初めてのこの試みは、大きな話題を呼んだ。
このカメラは今年8月に行われるプレシーズンマッチで、レフェリーが使用することも決定。アクション・ストリーマー社は試合での使用も見込み、現在、カメラ内蔵ヘルメットの開発に取り組んでいる。
ちなみに、わずか100gしかない同社のライブストリーミングカメラは昨年、アメリカのプロ野球リーグMLBのオールスターゲームでも採用された。ブルペンなどでカメラが装着されたヘルメットを選手やベースコーチがかぶることで、こちらも史上初めて選手目線の映像がテレビで流れた。
オールスターの後には、MLBのシンシナティ・レッズが独自に同じカメラを導入。ベースコーチのキャップとブルペンキャッチャーのヘルメットにこのカメラを装着した。今後、各チームに広がる可能性もある。
ここまでを振り返ると、ウェアラブルデバイスのポテンシャルが非常に大きいことがわかるだろう。まだまだ発展途上の分野で、海外では続々と新デバイスがリリースされており、今後数年はスポーツ業界全体のホットトピックになる。選手のパフォーマンスを上げ、チーム状況を改善し、ファンの体験の質や満足度を高めるこのツールが日本のスポーツ界にも浸透すれば、実力、人気ともに底上げされるのは間違いない。
<了>
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