Amazon、Twitter、Facebook…巨大IT企業が次々とスポーツ界に参入する理由とは?

Technology
2019.06.30

近年、アメリカではユニークな切り口のスポーツ番組が次々と放送されている。メジャー、マイナー、プロ、アマを問わず、さまざまな競技、選手に焦点を当てたドキュメンタリーやトーク番組が増えているのだ。
それらを制作しているのは、既存のテレビ局ではない。新規ユーザーの獲得、既存ユーザーの囲い込みを目指してしのぎを削るネット界の巨人たちである。

(文=川内イオ、写真=Getty Images)

チーム密着型のアマゾン

アメリカだけで有料会員(アマゾンプライム)1億人を突破しているアマゾンは、オリジナルのスポーツドキュメンタリー制作の先駆けだ。最初に制作したのは、NFLのアリゾナ・カージナルスの2015-16シーズンに密着した『All or Nothing: A Season with the Arizona Cardinals』(邦題『オール・オア・ナッシング~アリゾナ・カーディナルスの挑戦~』/全8回)。2016年夏に公開したこの番組は、アメリカのテレビ番組に贈られる名誉ある賞「エミー賞」で、「Sports Emmy for Outstanding Serialized Sports Documentary」を受賞した。

アマゾンはNFLと提携して『All or Nothing』をシリーズ化しており、2017年にロサンゼルス・ラムズ、2018年にダラス・カウボーイズの番組を公開。今夏にはカロライナ・パンサーズの放送が決まっている。カレッジフットボールにも手を広げ、名門ミシガン大学の2017年シーズンを追ったシリーズも制作した。

さらに、『All or Nothing』をグローバル化。その第1弾が、イングランド・プレミアリーグのクラブ、マンチェスター・シティの2017-18シーズンに密着した『All or Nothing: Manchester City』(邦題『オール・オア・ナッシング~マンチェスター・シティの進化~』/全8回)。続いて、ラグビーのニュージーランド代表オールブラックスの2017年を追った『All or Nothing: New Zealand All Blacks』(邦題『オール・オア・ナッシング~ニュージーランド オールブラックスの変革~』/全6回)もリリースしている。

ユニークな視点のネットフリックス

世界に有料会員1億3900万人(2018年末時点)を抱えるネットフリックスも、アマゾンと同時期からスポーツドキュメンタリーの制作に力を入れてきた。最初に手掛けたのは、2016年7月に放送が始まった『Last Chance U』(邦題『ラスト・チャンス』/全6回)で、さまざまな問題を抱え、短大アメフト部への編入を余儀なくされた学生たちが敏腕コーチのもとで再起をかけるというストーリー。これがヒットして、昨年8月にはシーズン3が放送された。

2018年2月には、イタリア・セリエAの名門、ユヴェントスのドキュメンタリー『First Team:Juventus』(邦題『栄光のチーム: ユヴェントス』/全3回)を放送している。

今年3月1日に放送が始まった『Losers」(邦題『ルーザーズ: 失敗が教えてくれること』)は、8つの異なるスポーツにおける「敗北」をテーマにしたもの。第1話に登場するのは元WBO世界ヘビー級王者のマイケル・ベントで、ほかにイングランドのサッカーチーム、トーキー・ユナイテッド、フランスのゴルファー、ジャン・ヴァン・デ・ヴェルデ、黒人のフィギュアスケーター、スルヤ・ボナリー、ストリートバスケットプレーヤーのジャック・ライアンなどが登場する。

スーパースターとコラボするフェイスブック

アマゾン、ネットフリックスを上回る勢いでスポーツドキュメンタリーの制作を始めたのは、フェイスブック。2017年夏に始めた動画視聴サービス「フェイスブックウォッチ」で15分程度のオリジナル番組を続々と配信し、多くの視聴者を集めている。

フェイスブックウォッチが始動してすぐに配信されたのが2017年6月のドラフトでNBAのロサンゼルス・レイカーズに加わったロンゾ・ボールとその個性的な家族を追った『Ball In the Family」。計2700万ビューを記録する大ヒットとなり、今年5月にシーズン5の制作も発表された。

昨年6月に放送されたのは『NEXT UP with Kevin Garnett』。これはフェイスブックとNBAが提携して制作したもので、NBAドラフト2018にタイミングを合わせて、NBAのレジェンド、ケビン・ガーネットとドラフトで注目されていた大学の選手がトークと、1対1のトレーニングセッションを行うという内容だった。

NFLのカリスマ司令塔、トム・ブレイディ(ニューイングランド・ペイトリオッツ)の素顔に迫った全6回、各15分のドキュメンタリー『Tom vs Time』(2018年1月~)も大きな話題を呼び、今年6月、アマゾンの『All or Nothing: A Season with the Arizona Cardinals」と同じ分野で「エミー賞」を獲得した。

そして今年5月に配信が始まったのが、NBAのスーパースター、ステフィン・カリー(ゴールデンステート・ウォリアーズ)のドキュメンタリー番組『Stephen vs The Game」。こちらも全6回、各15分のドキュメンタリーで、第1回は2万4000超の“いいね!”と、2300超のコメントがつき、9700回超シェアされて685万回超のビューを記録している。

フェイスブックはこれらの番組制作に対して数百から数千万ドルを投じていると現地で報じられている。莫大な有料会員を持つアマゾンプライムやネットフリックスと違い、フェイスブックウォッチの主な収益源は広告だが、それで利益が出ているのかは明らかにされていない。

ただし、フェイスブックウォッチ自体は驚異的な勢いで成長している。今年6月のフェイスブックの発表によると、23億7500万人(2019年4月時点)のユーザーのうち毎月7億2000万人、1日に1億4000万人がフェイスブックウォッチで平均26分を費やしている。2018年12月の時点では毎月4億人、1日に7500万人、平均20分だった。

この数字はフェイスブックウォッチが提供するすべての番組を対象にしており、スポーツ番組が成長にどれだけ寄与しているのかはわからない。しかし、フェイスブックの幹部がアメリカのメディアに対して「(フェイスブックには)スポーツファンが7億人いる」とコメントしており、ユーザーの約3割に達するスポーツファンを惹きつけ、新規ユーザーの獲得にもつながるスポーツ番組の制作は「投資」といえるだろう。

独自路線のツイッター

アマゾン、ネットフリックス、フェイスブックに追随するようにオリジナルスポーツ番組の提供を始めたのはツイッター。

NBAを中心に、選手のプレーやスタジアム内外での出来事に関する数秒程度のビデオクリップを次々とアップするインスタグラムの人気アカウントで、インスタグラムのフォロワー1200万人超、ユーチューブチャンネル登録者125万人超を誇る「House of Highlights(ハウス・オブ・ハイライト)」と提携して、昨年10月25日から『The House of Highlights Show』の放送をスタートした。

月1回、今年5月までの計8回配信されたこのコンテンツは75~90分間の番組で、「インスタグラムのスター」などと表現されているハウス・オブ・ハイライトの創業者、オマー・ラジャ、脚本家兼コメディアンのCJトレダノ、ハウス・オブ・ハイライトのスタッフであるドリュー・コリガンがホストを務め、スポーツ選手をゲストに迎えてトークを繰り広げる。

視聴者がツイッター上でハッシュタグ「#AskHOH」を使用してホストやゲストにコメントをしたり、ライブ投票に参加できるなどの双方向性が特徴で、今年4月、前述の『Ball In the Family』の主役、ロンゾ・ボールが出演した回はツイッターでの視聴回数が100万回を超えた。ただし、ツイッターのフォロワー数は約9万3000にとどまっており、ツイッターが望む費用対効果を得られたかは疑問だ。

ここに挙げたようなドキュメンタリーやスポーツ番組は、試合の中継とは異なる魅力を持つ。選手の素顔や知られざるチームの舞台裏を取り上げることで、既存のファンの関心を高めるだけではなく、新たなファンの開拓にもつながるだろう。巨大IT企業とスポーツ界の蜜月が、アメリカのスポーツ文化の深化と拡大を支えている。

<了>

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