Wリーグ連覇達成した“勝ち癖”の正体とは? 富士通支える主将・宮澤夕貴のリーダー像
2024-25シーズン、富士通レッドウェーブはWリーグでリーグ連覇を成し遂げた。主将としてチームを率いた宮澤夕貴は、レギュラーシーズンとプレーオフでベスト5に選出され、まさに攻守の要として存在感を示した。「全員が必要なピース」という言葉には、彼女が大切にしてきたチーム観が凝縮されている。勝ち続けることで芽生える“勝ち癖”や、苦しい時も楽しむ姿勢。さらに背中と言葉で引っ張るリーダー像の模索。Wリーグ13年目にして「最もしんどかった」と語るシーズンをどう乗り越え、連覇に導いたのか。その裏側にあるキャプテンとしての哲学に迫る。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、撮影=松岡健三郎)
連覇を支えたチーム観と“勝ち癖”
――所属する富士通レッドウェーブは昨シーズン、史上初のリーグ連覇を達成しました。宮澤選手はレギュラーシーズンとプレーオフでそれぞれベスト5に選ばれ、インタビューでは「全員が必要なピース」と話していました。この言葉に込めた想いを教えてください。
宮澤:チームは1人や5人で作り上げるものではありません。例えばメンバーが15人いれば、1人目から15人目までが頑張ることによってチーム力が上がるし、1人の選手がダメでもレベルの低い練習になってしまいます。だから「一人一人が大事」と常に伝えています。特に富士通は組織で戦うチームなので、全員の力が不可欠です。この2年間で実感したのは、「個々で負けていても、チーム力が勝っていれば勝てる」ということです。連覇という結果は、ベンチメンバーの頑張りがあったからで、彼女たちも「私たちが頑張ったから優勝できたんだ」と感じてくれているので、「チームで戦う」という意識は強いです。
――連覇を経て、勝者のメンタリティが根づいてきたと感じますか?
宮澤:そうですね。以前よりもみんなが同じ方向を向いている実感があります。今シーズンはメンバーが大きく変わりましたが、「こうすれば勝てる」という共通理解ができつつあって、勝ち癖が自信につながっています。
――Wリーグでも代表でもタイトルを経験してきた宮澤選手にとって、「勝ち癖」をつけるために必要なことは何だと思いますか?
宮澤:大事な時間帯に「今、何をすべきか」を理解していることです。我慢する時は我慢し、攻めるべき時は攻める。相手が個々で仕掛けてきても、私たちはチームで戦うことができる。そこが勝敗を分けると思います。

背中で示し、言葉で導くリーダーシップ
――宮澤選手にとって、理想のキャプテンやリーダー像はどのようなイメージですか?
宮澤:「この人についていけば大丈夫」と思わせてくれる人です。背中を見せてくれるだけでなく、言葉でも引っ張ってくれる存在が理想だと思いますし、私自身もそういうリーダーを目指しています。最近の選手たちは背中を見せても、それだけでは真似してくれない。だからこそ、プレーで見せるだけでなく、言葉で伝えることが大事だと思います。言葉で伝えることによって「自分がやらなければいけない」と自覚や責任を持つことも大切ですから。その両方を意識することが、私が描くリーダー像です。
――伝え方の面では、どのような言葉の選択を心がけていますか?
宮澤:なるべく具体的に伝えるようにしています。頭ごなしに「こうしてほしい」と言うのではなく、相手の立場を考えて「こう言われたらこう思うかな」と想像しながら話をしたり、聞いたりしています。
――富士通と代表で、リーダーシップの示し方は違いますか?
宮澤:富士通では、キャプテンとしてよりリーダーシップを発揮していると思います。3人ぐらいがリーダーとしてチームを引っ張っていますが、代表は「みんなでやっていく」という雰囲気が強いですね。ただ、経験のある選手が、「代表はこういう場所なんだよ」と伝えることは大切で、私もそこは意識しています。
――公式サイトでは「13年間Wリーグでプレーしてきて一番しんどいシーズンだった」とコメントされていました。どんな難しさがありましたか?
宮澤:連覇のプレッシャーに加え、2ディビジョン制になって、プレミアは8チームでの対戦になり、試合に出る選手と出ない選手のプレータイムに差が出てしまったんです。試合に出られない選手たちのモチベーションをどう維持するかが大きな課題でした。誰か1人でも気持ちが落ちるとチーム全体の士気が下がるので、全員のモチベーションを保つのは本当に難しかったし、キャプテンとして、チームのことを一番に考えていました。また、上位8チームの戦いなので、負けられない緊張感が常にあり、ワンプレーの結果で大きく流れや結果が変わることにも責任感を感じながら戦いました。
――チームが苦しい時に意識したリーダーシップはありますか?
宮澤:そういう時こそ「楽しむ」ことを意識しています。もちろん目標は優勝ですが、良い時もあれば悪い時もある。大事なのは「良くない時にどう立ち直るか」。だから「ダメな時もあるけど、今が頑張り時」と前を向き続けることを心がけていました。自分自身のプレーが本当に悪い時もありましたけど(苦笑)。
――そういう時は、どうやって気持ちを切り替えるのですか?
宮澤:自分が落ち込んだままだと周囲にも伝わってしまうので、次の練習までには必ず切り替えるようにしています。

「今の自分を受け入れる」過去と比べないメンタリティ
――いつもポジティブなメンタリティを保つ秘訣はありますか?
宮澤:私も落ち込むことはありますよ。そんな時は、「今の自分を理解すること」が大事だと思っています。過去の栄光や未来の理想ではなく、まずは「今の自分」を客観的に見て、受け入れるんです。そこから、少しでも前に進むことができればいい。調子が悪い時に、過去の自分と比べても苦しくなるだけです。
――常に「今の自分」を再スタート地点にするんですね。
宮澤:もちろん、目標や理想はありますけど、過去や、他の人とは比べません。「今はこの自分だから、ここを目指して頑張ろう」という目標の再設定をすると、ハードルが少し下がるので、前向きになれるし、頑張ろうと思える。人と比べることも、ネガティブになるだけで疲れます。
――それは経験の中で得た考え方ですか?
宮澤:そうです。Wリーグ4年目の時、シーズンを通して本当に調子が悪い時があったんですよ。プレーしながら「ダメだ、全然うまくできてない」ってずっと思っていて。でも、映像を見返すと、思っていたより悪くはなかった。それで、「できていない」と思うことで悪循環に陥っていたことに気づいてから、意識的に変えるようになりました。
――宮澤選手がつらい時に弱音を吐ける相手はいますか?
宮澤:富士通では町田瑠唯選手です。町田選手は人をよく見ているので、私が弱っている時に「大丈夫?」と声をかけてくれるんです。優しく聞き役にもなってくれるので、弱音を言うこともあります。

小学生の時から「生まれながらのリーダー」
――リーダーとして、チーム全体を俯瞰する力はどのように身につけたのですか?
宮澤:昔から、自分やチームがどう見られているかを意識してきました。誰かとチームについて話す時も、第三者の視点で外から見ているイメージで話すので、上から目線みたいな言い方になってしまうんですが(苦笑)、その感覚が身についたのだと思います。
――小さい頃からそういうタイプだったのですか? それとも、キャリアの中で意識的に身につけてきた感覚なのですか?
宮澤:小学校の頃から何かとリーダー的な役割を担うことが多かったです。先生とコミュニケーションをとってクラスをまとめたり、「これはこうしよう!」と声をかけるタイプでした。MBTI(性格診断テスト)もESTJ(幹部)でしたし、生まれつきリーダー気質なんだと思います(笑)。
――若手だった頃と比べて、キャプテン像に変化はありますか?
宮澤:まったく違うと思います。若い頃は本当に考えが甘かったですし、経験を積む中で大きく変わりましたね。
――以前、理想のキャプテンに吉田亜沙美選手(アイシンウィングス)を挙げていました。影響を受けた部分はありますか?
宮澤:吉田選手はバスケットに対する考え方や、練習量が本当にすごいんですよ。その姿勢を学ばせてもらい、意識しています。キャプテンが練習をしていなかったり、考えが甘かったら誰もついてこない。そういう意味でも大きな存在です。
【連載前編】若手に涙で伝えた「日本代表のプライド」。中国撃破の立役者・宮澤夕貴が語るアジアカップ準優勝と新体制の手応え
【連載後編】“伝える”から“引き出す”へ。女子バスケ界の牽引者・宮澤夕貴が実践する「コーチング型リーダーシップ」
<了>

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[PROFILE]
宮澤夕貴(みやざわ・ゆき)
1993年6月2日生まれ、神奈川県出身。女子バスケットボール選手。富士通レッドウェーブ所属。ポジションはパワーフォワード。金沢総合高校では1年時から主力となり、3年時には主将としてインターハイ優勝に導く。2012年、JX-ENEOSサンフラワーズ(現ENEOS)に入団。在籍中、数々の全国タイトルやWリーグ優秀選手賞などを獲得し、11連覇にも貢献。2021年に富士通レッドウェーブへ移籍、主将を務め、中心選手としてチームを牽引。日本代表ではU-16・U-17代表を経て2013年に代表選出。リオ五輪(2016)ベスト8、東京五輪(2021)銀メダル、パリ五輪(2024)に2大会連続で出場。アジアカップでは4度の優勝を経験し、ワールドカップにも3大会出場。3Pシュートとリバウンドを武器とし、日本を代表するオールラウンダー。コートネームは「アース」。高校、クラブ、代表すべてで主力・主将を任され、プレーだけでなく精神面でも高く評価されている。
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