アーセナル無敗優勝から21年。アルテタが学ぶべき、最高傑作「インヴィンシブルズ」の精神
2003−04シーズン、アーセナルはプレミアリーグ史上初となる38試合無敗優勝を成し遂げた。その記録は、21年を経た今も破られていない。ヴィエラ、ピレス、ユングベリ、ベルカンプ、アンリ…。歴史的才能が揃ったこのチームは、なぜ“奇跡”を現実に変えられたのか。そして、アルテタ率いる現在のアーセナルは、彼らから何を学ぶべきなのか。歴史に刻まれた“剣闘士たち”の記憶を、21年後の視点からひも解く。
(文=ジョナサン・ノースクロフト[サンデー・タイムズ]、翻訳・構成=田嶋コウスケ、写真=ロイター/アフロ)
ヴィエラ、ベルカンプ、アンリ…歴史に刻まれる剣闘士たち
今から21年前、アーセナルが38試合制のプレミアリーグで無敗優勝を成し遂げた。2003−04シーズンのことである。
アーセナルのトレーニンググラウンド内に佇むメディア棟には、かつて若手選手のインタビューや教育セッションに使われていた一室がある。現在は会議室として使われているが、そこにはアーセナルの「インヴィンシブルズ(無敗優勝チーム)」の大きな写真が飾られている。
写真に収められている彼らは、試合前に整列している姿ではない。試合を終え、「仕事は完了した」と言わんばかりに勝利を祝っている場面だ。その顔ぶれを見渡すと、思わず圧倒される。
GKはイェンス・レーマン。DFにはローレン、ソル・キャンベル、コロ・トゥーレ、アシュリー・コール。MFはパトリック・ヴィエラとジウベルト・シウバ、ロベール・ピレス、フレドリック・ユングベリ。そしてFWはデニス・ベルカンプとティエリ・アンリである。名前を並べるだけで、イングランド・フットボール史に名を刻むチームであることがわかる。
一人ひとりが一流のプレーヤーであるだけでない。彼らの瞳からは、強烈な闘志がはっきりと伝わってくる。彼らは単なるフットボーラーではなかった。闘技場に立つ剣闘士――グラディエーターだった。
敗北寸前の一夜。「バトル・オブ・オールド・トラッフォード」
この年のアーセナルは、リーグ戦38試合を無敗で終えた。プレミアリーグ発足後では初の快挙である。22試合制だった1888-89シーズンにプレストン・ノース・エンドが達成して以来の記録であり、今後二度と起こらない可能性すらある。
では、彼らはイングランド史上最高のチームだったのか。おそらく答えは「ノー」だろう。なぜなら、UEFAチャンピオンズリーグを制していないからである。しかし、一つ明確なことがある。彼らはイングランド史上、最高のシーズンを過ごし、頂点に立ったチームだった。
考えてみてほしい。ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティ、ジョゼ・モウリーニョのチェルシー、ユルゲン・クロップのリバプール、そしてサー・アレックス・ファーガソンのマンチェスター・ユナイテッド。これほどの名将と名チームでさえ、リーグ無敗優勝を成し遂げたことはない。
プレミアリーグは、あまりにも過酷だ。38試合を一度も負けずに終えることは、奇跡に近い。それを現実のものにしたのが、2003−04シーズンのアーセナルだった。
最も敗戦に近づいたのは、オールド・トラッフォードでの一戦である。宿敵ファーガソン率いるマンチェスター・ユナイテッドとの激闘は0−0の引き分けに終わったが、内容的には負けていてもおかしくなかった。
80分、主将ヴィエラが2枚目の警告で退場処分を受ける。それでもアーセナルは必死に耐え抜いた。そして試合終盤のアディショナルタイム、マンチェスター・UにPKを与えてしまう。しかし、ルート・ファン・ニステルローイがこれを失敗。この瞬間に見せたアーセナルの喜びは、彼らの情熱とチームスピリットを象徴する場面だった。激闘は「バトル・オブ・オールド・トラッフォード」と呼ばれ、今も語り草になっている。
「残り試合もすべて勝てる」ヴェンゲル監督の完成形
ヴィエラは当時をこう振り返っている。
「僕たちの強さは結束力にあった。良いサッカーをしていたとは思うが、常に華やかだったわけじゃない。本当に際立っていたのは競争力だったんだ」
前線のクオリティは、イングランド・フットボール史をひも解いても屈指の華やかさを誇った。アンリの優雅さとスピード、ベルカンプのカリスマ性、ユングベリのアグレッシブな動き、そしてピレスによる一級品のプレー。ほぼ毎試合のようにネットを揺らしていた。
中盤ではヴィエラとジウベルトが最終ラインを徹底的にプロテクトし、ゴールはトップレベルのGKであるレーマンが守った。彼らから得点を奪うことも、極めて困難だった。
チームの完成度があまりに高かったため、後にクラブのスポーツ・ディレクターに就任するエドゥでさえ、当時は「控えメンバー」に過ぎなかった。レイ・パーラーやマーティン・キーオンといったクラブ・レジェンドたちも、ベンチスタートが珍しくなかったほどである。このシーズンのチームこそが、アーセン・ヴェンゲル監督の完成形だった。
フランス人指揮官の手綱さばきは、見事としか言いようがない。才能あふれる選手たちに、美しいフットボールを表現する自由を与えつつ、一試合たりとも取りこぼさぬよう、緊張感を持続させた。例えば、優勝決定後のエピソードがある。リーグ優勝を決めたのは第34節のトッテナム戦。残り4試合を残していたが、ヴェンゲルは選手たちにこう語りかけた。
「残り試合もすべて勝てる。君たちなら、それができる」
GKのレーマンは、当時をそう回想している。実際の結果は2勝2分だったが、消化試合になりがちな状況でも、一度も負けなかった。こうして無敗優勝を成し遂げたのである。
アルテタが21年前に得られるインスピレーション
あれから21年。現在のアーセナルは、プレミアリーグの首位を走っている。このままミケル・アルテタ体制は、プレミアリーグの頂点に立つことができるのだろうか。
マンチェスター・シティが再び勢いを取り戻す中、2025−26シーズンのタイトル争いでは、高度な戦術や技術に加え、精神力とタフさが強く求められるだろう。無敗優勝チームには、確かに歴史的な才能が揃っていた。しかし何より、彼らは冷酷なまでに勝利に執着していた。決して止まることのない“勝者”だったのである。
クラブ史上最高傑作となった2003−04シーズンのチームから、アルテタ率いる現在のアーセナルは、多くのインスピレーションを得られるはずだ。今のチームに必要なのは、21年前の彼らが備えていた精神力とタフさ。その差が、最後に明暗を分ける気がしてならない。
アーセナルのトレーニンググラウンドにある、あの古い会議室。そこには今も、インヴィンシブルズの大きな写真が飾られている。アルテタは選手たちをあの場所へ連れて行き、壁に掲げられたヴィエラやアンリたちの姿を前に、スピーチをしてもいい。
あの写真は、アーセナルが目指すべき姿を示しているからだ。
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<了>
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