
ドラフトは佐々木、奥川だけじゃない! 知られざる隠れ指名候補4選手に刮目せよ!
プロ野球を目指す選手にとって“運命の日”となるドラフト会議が、今年もいよいよ開催される。今回の目玉は、この夏に多くの話題をさらった佐々木朗希(大船渡)、奥川恭伸(星稜)などが挙げられるだろう。だが、数々のドラマを生み出してきたこの一大イベントを存分に楽しむためには、「1位候補」の選手だけに注目していてはもったいない。
(文=西尾典文、写真=Getty Images)
高校生では、井上温大(前橋商)と玉村昇悟(丹生)のサウスポー2人に注目
いよいよ17日に迫った今年のプロ野球ドラフト会議。今年は佐々木朗希(大船渡)、奥川恭伸(星稜)、森下暢仁(明治大)の3人の投手に注目が集まっており、1位指名も集中すると見られている。しかし毎年のことであるが、事前にはあまり評価の高くなかった選手がプロ入り後に主力選手に成長するケースは多い。そこで今回は事前に多く報道されておらず、下位指名の可能性が高いものの、将来の大化けが期待できる選手をカテゴリーごとに紹介したいと思う。
高校生でまず紹介したいのが井上温大(前橋商)、玉村昇悟(丹生)のサウスポー2人だ。高校生のサウスポーというと、スピードはあるもののコントロールに難があるというケースが多いが、この2人はそういうタイプではない。現時点では緻密とは言えないまでも、コーナーにしっかり投げ分けられ、しっかりと試合をつくれる制球力を備えているのだ。
井上の評判を聞いたのは今年の春先。フォームがとにかく良いサウスポーということで7月の群馬大会初戦に足を運んだ。対戦相手の富岡も県内では力のある高校ということで序盤は投手戦のまま進む。井上は3回まで毎回先頭打者にヒットを許すものの、後続をしっかり抑えてスコアボードに0を並べる。4回からはエンジンがかかり、6回までの3イニングをパーフェクト、4奪三振と見事なピッチングを見せる。結局7回に1点は失ったものの、8回を投げて被安打6、6奪三振、無四球(死球1)としっかり試合をまとめてみせた。
フォームはとにかくバランスが良いというのが第一印象。右足を上げたときに左足一本で真っすぐ立ち、少しだけクロスに踏み出すもののステップの幅も十分でスムーズに体重移動できているのだ。174cmと決して大柄ではないが、高い位置から縦に腕が振れるためボールの角度も申し分ない。この日の最速は139キロと最近の高校生にしては平凡だが、フォームが良いだけにまだまだ速くなるだろう。
一方の玉村は昨年秋から評判となっていた投手で、6月に静岡の常葉大菊川に遠征に来るという情報を聞いたためその練習試合に足を運んだ。試合前のキャッチボールから目立ったのがその腕の振りだ。177cmとこちらもそこまで大柄ではないが、長いリーチをとにかく柔らかく前で大きく振れるというのが特長。井上に比べると全体的に少し無駄な動きは気になるものの、トータルでフォームをうまくまとめることができている。特に良かったのが右打者の内角に決まるサウスポー独特の“クロスファイヤー”と言われるボールの角度。その逆になる外角にもしっかり狙って投げることができるため、より内角のボールが威力を発揮していた。
相手の常葉大菊川は静岡県内でも屈指の強豪校だが、玉村は初回に四球とセンター前ヒットで1点は失ったものの、2回以降はノーヒットピッチングを展開。5回1/3を投げて6奪三振とその実力を見せつけた。この日の最速は140キロと井上と同様に数字的には物足りなさはあったものの、ボールの質や角度は強い印象を残した。
ともにプロでしっかり育てれば、先発タイプとして面白い存在といえるだろう。
小川一平(東海大九州キャンパス)は変化球に特長
大学生では小川一平(東海大九州キャンパス)を紹介したい。出身は神奈川県の横須賀工業高校。かつて帝京大を経て巨人入りした山本賢寿を輩出しているものの、県内では決して強豪校ではなく、小川も高校時代は無名の投手だった。その小川がにわかに注目されたのは2年前の全日本大学野球選手権。天理大を相手に3回2/3を投げて2失点だったものの、146キロをマークしたのだ。しかしその後は腰痛で投げられない期間があり、今年の春はチーム内の不祥事でリーグ戦出場辞退になるなど苦しい時期が続き、この秋にようやく公式戦に復帰を果たした。
ドラフト直前の10月5日、宮崎県高鍋町で行われた九州地区大学野球、南九州決勝トーナメントで小川のピッチングを生で初めて見たが、ブルペンでの投球練習からそのフォームの良さに驚かされた。182cmの長身だが、それを持て余すようなところが全くなく、その所作は美しいと形容したくなるほどである。強いて言えば左足に体重がまだ乗り切っていないところもあるが、それは小さな欠点に見えた。試合では沖縄国際大の強力打線につかまり、5回2/3を投げて被安打10、7失点で負け投手となったが、そのような結果でもフォームとボールの良さから評価を下げる気にはならなかった。
ストレートのこの日の最速は145キロだが、まだまだ速くなりそうな雰囲気は十分にある。そしてそれ以上に鋭く変化するスライダー、カットボールも素晴らしかった。プロで活躍するにはスピードももちろん大事だが、変化球の質の高さは必要不可欠である。そういう意味でも変化球に特長があるというのは大きなプラス材料だろう。まだ体つきや体力面は不安が残るだけに即戦力ではないかもしれないが、1年間2軍でしっかり鍛えれば、2年目に大きく飛躍する可能性は十分にあるだろう。
独立リーグの外野手・加藤壮太も急激な成長でドラフト戦線浮上
最後に紹介したいのは独立リーグから。BCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズに所属している外野手の加藤壮太だ。初めて見たのは3年前の夏の甲子園。中京学院大中京の2番、センターとして出場していたが、正直この時は全く何の印象も残らなかった。次に見たのは一昨年のBCリーグの公式戦。高卒1年目の大型外野手でスピードもあるため、将来的にはNPB入りを狙える素材だと感じたのをよく覚えている。そして今年、加藤はリーグ戦でも打率.310、7本塁打、29盗塁という見事な成績を残してドラフト戦線に浮上してきた。
10月下旬に行われたBCリーグ選抜と巨人3軍の試合で久しぶりにそのプレーを見たが、まず感じたのは体つきの変化である。一昨年は83kgだった体重が89kgまでアップ。試合ではノーヒットに終わったものの、第2打席ではショートのグラブをはじく鋭い当たりを放ち(結果はエラー)、スイングの力強さも明らかに向上していた。またスピードあふれるベースランニングも健在である。高卒3年目という若さで、今後の成長も期待できるという点も大きな魅力といえるだろう。
ここで紹介した選手はごくごく一部であり、他にも将来性豊かな選手は少なくない。以前よりも情報が広く伝わり、完全な隠し玉という選手はなかなかいないが、それでも意外な選手が浮上してくるのもドラフトの楽しみの一つである。目玉と呼ばれる選手以外にもぜひ注目してドラフト会議を楽しんでいただきたい。
<了>
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