
塩浦慎理が明かす、五輪延期の本音。SNSでは前向き発言も「今は全くやる気が出ない…」
東京五輪の延期が発表されて、間もなく2カ月が経とうとしている。SNSなどを介して、多くのアスリートたちが今の心境をポジティブに発信しながら、ファンたちに「共に乗り越えよう」と勇気づける姿を見せてくれているが、果たしてその本音とは――。実際に生きがいである競技を行う時間を奪われ、そしてその大舞台を目指して取り組んできた五輪アスリートたちは今、どのような心境にあるのか。水泳日本代表・塩浦慎理が、その胸のうちを明かしてくれた。
(インタビュー、構成=阿保幸菜[REAL SPORTS編集部]、写真提供=イトマンスイミングスクール、塩浦慎理)
競技ができない今、本音は……
塩浦選手もYouTubeやSNSなどを介して自身の心境を語っていましたが、3月24日に東京五輪の延期が発表されてから約1カ月半経ち、あらためて今どんな気持ちですか?
塩浦:できるだけ前向きな言葉を発信していきたいなと思っているんですけど、実際には今、まったくやる気がなくて困っています……。スポーツができるような状況じゃないので、それはそれで今はゆっくり過ごす時期なのかなと。
4月に開催予定だった代表選考会(第96回日本選手権水泳競技大会兼第32回オリンピック競技大会(東京/2020)選考会)に向けて、精神的にも肉体的にもかなり追い込んできて、最高の状態に仕上げてきた中で中止になってしまって。その反動じゃないですけど、すごく突き詰めて集中してきたぶん、今はなかなか前向きにはなれないというか、今からまた体を作り上げるっていうのはすごく大変だなと思います。
他のアスリートの方たちも、ポジティブな発信でファンたちを勇気づけてくれていますが、やはり実際、競技に対して今はなかなか前向きになれないというのが本音なのでしょうか?
塩浦:そうじゃないですかね、きっと。ネガティブなことは言えない空気感にはなるじゃないですか。
そうですね。
塩浦:気持ちをまた集中させるべき時期が絶対に来るので。その時のために、今は蓄えている感じです。僕たちは F1のマシンみたいな感覚があって。泳げなくなってまだ3週間ちょっとですが、例えば21秒で50mを泳げる状態だったのが、今はたぶん22~23秒ぐらいが限界だと思います。たかだか数週間で全然泳げない状態になっちゃう。なかなかすぐに作り上げた状態にもっていけないので、もう一度気持ちと体を整えていくのは簡単ではありません。
今トレーニングはどうしているのですか?
塩浦:家でやるといっても、なかなかやる気になれなくて。YouTubeでトレーニング動画も出していますけど、実際にあれを毎日やるというのは全然(笑)。ただやっぱりある程度先が見えてきたら、これぐらいの期間があればなんとか仕上がるなっていうのはなんとなく分かっているので。そうなったら気持ちをぐっと切り替えてまたやれれば。入院から復帰した時もすごく前向きにできたので、ああいう経験が今に生きているなと思います。あとは、スポーツができる環境に早く戻ってほしいですね。
でも、塩浦選手だったらブランクに負けずまたすごい記録を期待できそうで、楽しみです。気持ちの切り替えといえば、塩浦選手は大のコーヒーマニアだそうですね。なぜコーヒーに魅せられるようになったのですか?
塩浦:もともとコーヒー好きだったんですけど、海外遠征で行く先々でいろんなコーヒーを飲むうちに、コーヒーの味の違いや自分で淹れる楽しさにハマっていきました。アスリートは追求したがるので(笑)。人間が淹れているわけだから、できないわけないじゃないですか。だったら家でもおいしいのが飲みたいと思ったところからですね。
すごいですね! コーヒーが競技に生きているなと思うことはありますか?
塩浦:僕はスイッチをオンにする感覚で、練習へ行く前とか競技前に必ずコーヒーを飲んでいます。逆に休みの日とかはコーヒーを飲んでリラックスすることでスイッチをオフにもできるので。コーヒーを飲むことによってオンとオフの切り替えができて、うまく自分の時間を作れているなと感じますね。
コーヒーを選んで、淹れてっていう一つひとつの工程も気分転換になりそうですね。
塩浦:そうですね。細かい作業もすごく気持ちが落ち着きます。
お取り寄せできる、おすすめのコーヒーがあれば教えてください!
塩浦:最近いろんな人に聞かれておすすめしてるんですけど、焙煎の世界チャンピオン(World Coffee Roasting Championship 2013)になった方がやっている、福岡にある「豆香洞コーヒー」というお店。そこのコーヒー豆はちょっと深めに焙煎されているので、苦味もいい感じですごくおいしいんです。お店へ行ったことはないんですけど、今は外出できないので、せっかく通販するなら取り寄せてみようと思って僕もこの間買いました。
「チームで日本一を目指したい」サッカー経験で培った“ワンチーム”意識
話は変わりますが、塩浦選手は小学校まではサッカーをやっていたそうですね。チーム競技の経験が水泳に生きていると感じることはありますか?
塩浦:小学校までしかやっていませんでしたけど、練習も楽しいし、みんなでわいわいやるほうが僕は好きだったのでサッカーが好きでした。高校も大学も、(イトマン)スイミングスクール(新百合ヶ丘校)に所属しながら学校の水泳部で泳いでいて。チームで戦う特色のある学校でやってたので、もしかしたら環境選びに影響していたのかもしれません。
個人競技をやりながらも、みんなで一緒に何かをやるというのが好きなんですね。
塩浦:チームで日本一を目指そうとか、そういうのがすごく好きで、実際に高校も大学もチームで日本一になったので。個人で頑張るのももちろんですけど、大学では特に個人の優勝よりチームの優勝のほうがうれしかったです。
他の競技の選手と接することは多いですか?
塩浦:僕はどちらかというと他の競技の友達のほうが多いですね。中央大学時代は体育会の選手が600人ぐらい住んでいる大きい寮だったので、そこで違う部活の選手と仲良くなったりしていました。
他の競技の選手と話す中で、参考になったり刺激を受けたことはありますか?
塩浦:トレーニングの方法とか。例えば減量がある競技だったら減量の仕方や体のしぼり方など、知っているようで意外と知らないことだったりとか。スポーツでは、自分たちが当たり前にやっていることが別の業界では全然やっていないということって実はけっこうあるんですよね。そういうのが新鮮だったりします。
なるほど。また競技ができるようになったら、塩浦選手は今後の展望としてどのようなことを考えていますか?
塩浦:まずは今の状況が落ち着くことが一番ですが、もし来年、東京五輪が予定通り開催されればメダル獲得を目指していきたいです。来年こそやれると信じて、僕たちは動くしかないので。トレーニングができる状況になって、東京五輪の開催も確定したら、気持ちを切り替えて一気にまた追い込んでいきたいなと思います。そのぶん、今は気を緩めてゆったり過ごそうかなと。また思いっきりスポーツができる日が来たら、もっと強くなって戻ってきたいなと思います。
【前編】なぜ塩浦慎理は2度の入院後、日本新を更新できたのか? 逆境で気付いた「大事なコト」
【後編】なぜ塩浦慎理は、口にしづらいことも発信し続けるのか?「モノ言うスイマー」の流儀
<了>
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PROFILE
塩浦慎理(しおうら・しんり)
1991年11月26日生まれ、神奈川県出身。イトマン東進所属。2歳から水泳を始める。湘南工科大学附属高校3年次に全国高等学校総合体育大会で男子50m・100m自由形で優勝、全国JOCジュニアオリンピックカップ水泳競技大会で高校生日本新記録を出して優勝。中央大学へ進学後、2013年日本選手権水泳競技大会で男子50m自由形で日本新記録を樹立し、初出場を果たした世界水泳選手権大会では400mメドレーリレーで銅メダルを獲得。2014年には50m自由形で日本人初となる21秒台へ突入を果たす。2016年日本選手権 100m自由形で日本新記録を更新し、リオデジャネイロ五輪出場を勝ち取った。手術入院を乗り越え復帰後の2019年日本選手権では50m自由形優勝・100m自由形準優勝を果たし、自由形短距離界で東京五輪での活躍が期待される選手。
【公式YouTubeチャンネル『塩浦慎理 -MOHICAN-』】
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