巨人2連覇への条件を徹底分析。キーマン4人、采配…懸念はリリーフ陣と捕手の運用か

Opinion
2020.06.28

新型コロナウイルスの影響で、開幕が延期になっていたプロ野球がついに6月19日に開幕した。待ちに待ったプロ野球の開幕により大きな盛り上がりを見せている。そこで今回は、Twitterで1万3千人以上のフォロワーを持ち、プロ野球選手を始め巨人ファンを中心に数多くの野球ファンから支持されているゴジキ氏に、プロ野球開幕から約1週間が経った今、今シーズンの巨人について分析してもらった。

(文=ゴジキ、写真=Getty Images)

エース菅野智之が今シーズン復活する可能性は……

昨シーズンは、開幕当初から不調やけがで思うようなピッチングができなかった、巨人のエース・菅野智之だが、今シーズンはキャンプから新フォームに取り組んだ上で調整をした。その結果、オープン戦や開幕前の実戦では、非常に高いパフォーマンスを残し開幕を迎え、阪神タイガースの投手・西勇輝に打たれたものの、ピンチの時や終盤はギアを上げていき及第点の投球を見せた。また、開幕戦の平均球速は、150.4kmを記録した。

菅野智之の平均球速(2017〜2019年)
2017年 148.1km
2018年 148.0km
2019年 146.7km
(日テレジータス調べ)

上記のデータを踏まえると、オープン戦や実戦形式で見せた時と同様にストレートの力強さに復活の兆しがあるだけでなく、さらなる進化を遂げそうだ。

しかし、この試合ではストレートが良すぎたからこそ、依存しすぎていた部分もあり、狙い打ちされるケースも目立った。今後は、「スラッター(編集部注:スライダーのような縦に落ちる変化で、カットボールのようなスピードを持つ変化球で、近年MLBだけでなくNPBでもよく見られるようになった)」やスプリットなどの変化球の配球配分を多くしていくことによって、投球のバランスが良くなり、もう一段上の投球を披露できるに違いない。

そして、このストレートの強度を保ち続けることができれば、かつて沢村賞を受賞した輝きを取り戻せるシーズンになることは間違いない。これまでの菅野の実績やポテンシャルを考慮すると、さらに上のレベルの投球を求められるだろう。

今シーズンは、昨年に投手三冠を達成した山口俊がMLBに移籍したこともあり、2桁勝利は大前提の上、エースとしてチームを牽引していくことが求められる。エース菅野の復活劇が優勝への必須条件になるのは間違いない。

「2番・坂本」が2シーズン目で見せる、さらなる進化への期待

坂本勇人の昨シーズンは、自らの引き出しの手札を増やすような形で「バレル(編集部注:長打、ホームランになりやすい速度と角度を兼ね備えた打球。打者を評価する上で注目されている指標)」の再現性を高めた上で、パワーフォルム型のスタイルで長打を積極的に狙った。遊撃手として初の打率.312、40本塁打を記録してセ・リーグMVPに輝いたが、今シーズンは新型コロナウイルスの陽性反応が出たことで出遅れていた。しかし、驚異的な回復や調整力を見せて、見事に開幕戦で早期復帰する形となった。

打撃面は、試合勘がまだ戻っていなかった部分もあり、西のボールには追いつけていなかったが、開幕戦は1安打、2戦目は3安打の猛打賞、3戦目もタイムリーを放つなどの活躍を見せた。

技術面で見ると、昨シーズンから足の上げ方を従来のように大きく上げたり、すり足にしたり、2段階にしたりと、その打席の対戦投手やタイミングによって変えている場面がしばしば見られた。この打撃技術は今シーズンも健在であり、開幕カードでは随所に見られた。

守備面でも3戦目では、小林誠司のスローイングとの絶妙なコンビネーションをうまく合わせた上で、タッチしてアウトにする場面が見られるなど、開幕カードから攻守においてチームを勝利に導いた。以前より守備範囲は狭くなっているが、打球に対する体の使い方や最短距離での打球の追い方は年々進化を遂げており、年齢による衰えをうまくカバーできているだろう。

成績以外でも、キャプテンとしてまとめ役を果たしており、その姿は生きる教科書ともいえる。歴代においてもスペシャルな存在のため、怪我などでたとえ出場できない状態だとしても、坂本がベンチにいるだけでチームへ大きな好影響をもたらすことは間違いない。

先発777日ぶりの勝利で復活を遂げた左のエース田口麗斗

開幕2戦目で先発した田口麗斗は、不調に陥った2018年はこの水準以下の球速だったため、打ち込まれる場面が多々あったが、この試合は水準以上のストレートを投げた結果、試合をうまくまとめた。

今シーズンは、かつての杉内俊哉、和田毅、成瀬善久のように140〜142kmぐらいの球速で、打者の手元で「ピュッ」とくる感覚のストレートを投げられていることが調子のバロメーターになりそうだ。ストレートが手元で伸びてくることによって、空振りが取れたり、スライダーやチェンジアップなどの変化球も生きてくるだろう。

懸念材料としては、今シーズンのボールが飛びすぎることや、この類のストレートは多少甘くなっただけでも開幕カード2戦目の原口文仁に打たれたように被弾される可能性もあり得ることだ。また、中継ぎから先発に復帰する際に懸念される先発としての力配分など今後改善していく必要があるだろう。

田口自身から見た水準以上の球速(140〜142km)を投げられていれば、先発ローテーションとして活躍をした、2016〜2017年のパフォーマンスは残せると見ている。

開幕3連戦から見えた、2020シーズンの「原イズム」

原辰徳監督による采配に視点を移すと、開幕戦では坂本の復帰はもちろんのこと、湯浅大などの若手に対する起用法に光る部分があった。

湯浅の起用法を見てみると、開幕戦では終盤のプレッシャーがかかる場面で、犠打のためにと代打でプロ初出場をお膳立て。2戦目は代走で出場させた上で初盗塁に結びつけ、3戦目に初のスタメン出場を果たした。

その3戦目は、開幕戦で決勝ホームランを放った吉川尚輝からスタメンを奪った形となった。また、その試合で湯浅の代打として北村拓己が出場し、初ヒット初打点のタイムリーを放った。その北村も広島戦では、近年巨人打線が苦しんでいたクリス・ジョンソンから勝ち越しタイムリーツーベースを記録するなど、若武者らしい活躍を見せた。

このように積極的な若手起用により、彼らに競争心や自信をつけさせてモチベーションを上げさせることができた。原監督の非常に優れた部分が出たと思う。この起用法は、第1次政権や第2次政権でも随所に見られており、この第3次政権でも多くの若手を競争させた上で、勝利に結びつける起用法の「原イズム」が見られそうだ。

そして、実績組である中軸の坂本や丸佳浩、岡本和真といったコアな選手たちが昨シーズン同様に若手陣をフォローできる活躍を見せれば、若手と主力の相乗効果が見られるだろう。

令和を代表する巨人の4番打者・岡本和真

今シーズンも巨人の主砲として期待される岡本は、昨シーズンのクライマックスシリーズから非常にキレのあるスイングができている。今年もキャンプから体が絞れていることもあり、オープン戦は非常に高いパフォーマンスを残していた。緊急事態宣言解除後の実戦形式の序盤では、試合勘が鈍っていたこともあり調子は下がっていたが、開幕1週間前には打撃の形が戻ってきていた。

公式戦が開幕し、2戦目で2本のタイムリーを放ち、3戦目では逆転ホームランをライトスタンドに放ったが、この打撃が継続できれば、タイトル争いをするレベルになっていくに違いない。

また、開幕2戦目の終盤に軽打をした上でライト前へのタイムリーや、広島戦でも先制のタイムリーを放ったが、このように場面に応じた打撃ができると、中田翔やアレックス・ラミレスのように、要所でチームを勝利に結びつける打点を生み出せる打者になっていけるだろう。

そして、岡本は記録的な猛暑の8月に打率.340、8本塁打、28打点の活躍を見せていた昨シーズン含めて、夏場を大の得意としており、今シーズンは6月中旬から開幕ということから、初の打撃タイトルを狙うにはうってつけのシーズンであるのは間違いない。

現在は23歳(6月28日時点)という若手の部類に入るが、かつて広島の4番を担い巨人にも在籍していた江藤智のレベルに既に達しつつある。坂本や丸ですら成し遂げられなかった2年連続30本塁打を記録した岡本に対する期待値は非常に高まっているだろう。

2020シーズンの今後に向けた分析と考察

開幕から見た上で、懸念材料をあげるとするならばリリーフ陣の起用法だろう。

特に、澤村拓一の優先度の低さには驚きを隠せなかった。今シーズンも投げているボールのクオリティはクローザーを任せてもよいレベルに違いないが、開幕カードを見る限り、点差が開いた場面や6回で登板させる起用法はいただけなかった。今後は、7回に澤村、8回に中川皓太、9回にルビー・デラロサを勝ちパターンとして確立していくことが必要である。

また、鍵谷陽平や高木京介といった好調の投手含めて全体的にレベルアップしており、ビハインド時や接戦の場面で起用していくことによって、勝率は上がるだろう。今シーズンは過密日程ということもあり、終盤勤続疲労でバテないように上記の投手陣や2軍にいる投手陣などをうまく運用していくことも必要に違いない。

先発陣では、エース菅野と田口は試合をつくるだけではなく、中継ぎの負担も考慮した上で、イニングイーターとしても計算していきたいところだ。新外国人のエンジェル・サンチェスはまだ不安定さがあり、前回は小林誠司のリードに助けられている部分もあったことから、次回以降は自ら立て直せるかが注目である。

また、2年目の戸郷翔征は、昨年リーグ優勝を決めた試合(2020年9月21日/対横浜DeNAベイスターズ)ではプロ初登板ながら、4回2/3を2失点に抑える投球で貢献した。彼の特徴は、巨人の先発投手陣の中でも速い平均球速のストレートと、スラット・スプリット型投球(※)である。

(※編集部注:スラット・スプリット型投球:スライダーとカットボールの中間的性質を持つ球種であり、縦のカットボールともいえる「スラッター」と、なかなか打つのが困難な「スプリット」を軸とした投球スタイル。『セイバーメトリクスの落とし穴』(お股ニキ/光文社新書)第2章、第3章参照)

これによって、2軍だけではなく1軍相手にも高い奪三振率を誇る。今シーズンは、ストレートの強度やクオリティがさらに向上し、広島戦では桑田真澄以来の33年ぶり球団史上4人目となる高卒2年以内で開幕ローテーション入りした上で勝利した。今後もローテーションの一角として期待できる若手であり、新人王の可能性もあるに違いない。2年目から活躍してほしい反面、大事に育ててほしい面もあり、他の先発投手陣の調子を見た上で、余裕があるシーズン序盤あたりは、10日〜2週間に1回のローテーションで回すことも一つの手段だろう。

C.C.メルセデスも長いイニングを投げるスタミナには不安材料があるものの、スロースターターではないので、5回までゲームメイクする投球をする能力がある。

巨人は、全体的に投手陣のレベルが上がっており、セ・リーグでもトップクラスの投手陣を組むのも夢ではないだろう。特に巨人の投手陣の平均球速は6/23時点で12球団トップクラスであった。

投手起用以外では、今年も捕手の運用方法もカギになるのは間違いない。

打力のある大城卓三に期待している原監督は、阿部慎之助のような打力がある捕手を軸に回していきたい意図はあるだろう。

他球団を見ても、リーグ優勝や日本一になった球団の正捕手は打力のある選手だった場合が多い。近年なら、昨シーズンまでパ・リーグ2連覇した西武の森友哉はもちろんのこと、3年連続で日本一のソフトバンクの甲斐拓也も打撃がいい選手だ。さらに、2016年〜2018年までセ・リーグ3連覇の広島の會澤翼も2年連続ベストナインを獲得するぐらい打力がある。

大城の試合勘が戻れば、田口やメルセデスを中心とした左投手が先発する試合を中心にスタメンマスクをかぶる機会が多くなると思うが、小林が離脱した機会に多くの投手とバッテリーを組むことによって経験値を積んでいきたいところだ。その際に、対抗馬の小林のようにプレッシャーのかかる場面に対する間の取り方や守備面のリカバリー力を向上させられるかどうかや、炭谷銀仁朗のような若手投手陣をフォローしていく能力の向上が、大城が今後正捕手になれるかのカギである。

次に小林だが、課題としてはやはり打撃面である。昨シーズンも3選手の運用体制ながら、打率は唯一.250を切った。現状は、守備面で大城や炭谷と比較しても、かなりのアドバンテージがあることから、打率.250以上は残していきたいところである。開幕カードでデッドボールの影響から、けがで離脱となったが巨人には欠かせない選手である。このことを踏まえても、早期復帰を願っている。

さらに、捕手以外では東北楽天ゴールデンイーグルスからゼラス・ウィーラーをトレードで獲得したが、6番7番あたりでアレックス・ゲレーロが抜けた穴(長打力や打線の火力)を埋められれば、優勝に近づいていくに違いない。

今シーズンは、開幕カード3連勝を記録して波に乗る巨人だが、過密日程も想定しつつ、チームとしての「バランス」をうまく保ちながら、いちファンとしてリーグ2連覇を期待していきたい。

<了>

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