卓球女子、男子化進む“中国打倒”3つのカギは? 伊藤・石川・平野、多彩で異なるスタイル徹底分析
東京五輪。卓球女子の日本代表に選ばれた3人は、それぞれに異なるスタイルを持った選手が集結した。
「卓球大国、中国に勝つことはできるか」
今や世界トップクラスとなった日本の女子卓球の焦点は、この一点に尽きるだろう。中国の足並みのそろった圧倒的な攻撃スタイルに対して、日本は「速攻」「王道」「変幻自在」という多彩な戦型で挑む。どのように戦えば“打倒中国”の夢を手にすることができるのか。
(文=本島修司、写真=Getty Images)
『男子化』で圧倒する中国女子、スタイルの異なる日本女子
「中国卓球は男子化が進んでいる」
ここ数年、そんなことがいわれてきた。それぞれの選手に個性的なスタイルがあるのはもちろんだが、多くの選手が“早くて速い”卓球をしてくる。
早くて、速いとはどういうことか。
まず打つタイミングが、早い。速攻を仕掛けてくる。次に、ボール自体が速い。筋力があり、男子のようなスピードがある。攻撃は最大の防御といわんばかりの、男子卓球のようなパワーとスピードで攻め込み、目にも止まらぬ速さで、高速卓球を展開してくる。
何もできないうちに、あっという間に試合が終わっている感覚――。そんな錯覚にすら陥る、圧倒的な「速さ」こそが、世界最強・中国女子卓球のすごみだ。
“ハリケーン”平野美宇のカギは、ピッチの速い展開をつくれるかどうか
今回の東京五輪。日本代表の女子選手は、平野美宇、石川佳純、伊藤美誠の3人だ。
この3人は戦い方が異なる。その一人一人の多彩な個性が、もしかすると、夢の“打倒中国”の決め手になるかもしれない。
日本代表の中で、中国選手に似たスタイルを展開するのが、平野美宇だ。
2017年に史上最年少の16歳で全日本卓球選手権大会を優勝。圧倒的なピッチの速さ、フォアとバックの切り返しで、相手を翻弄(ほんろう)するプレースタイルは「ハリケーン」と称された。2018年以降は、中国人選手が一同に「長く深ところに食い込ませるような切れたツッツキ」を、平野のハリケーン封じの戦法のように使い、成績が低迷した時期もあった。
しかし、平野自身の復調や、ドライブ技術のパワーアップが見られるようになってからは、再びハリケーンのような圧倒的な打点の速さと連打で、相手を前後左右に振り回す試合が復活。球速よりも、圧倒的なピッチの圧倒的な速さと、手数の多さが決め手の平野には、時に、入りだすと止まらない「ゾーンに入ったような試合」も飛び出す。
打倒中国、1つ目のカギ。それは再び中国側が平野対策として使ってきそうな、深い所へくるツッツキに対し、平野が鋭くドライブを放ち、そのまま“ハリケーン”で連打する展開に持ち込めるかどうかだ。ゾーンに入った平野は、たとえ中国でも、そう簡単に止められない。
“王政復古”石川佳純。カギは、全日本で見せた強烈な…
前~中陣でプレーをするにもかかわらず、現代では異色のスタイルになるのは、石川佳純だろう。
かつて最も「王道」と呼ばれた、前~中陣での安定感抜群の卓球だが、ここ数年「時代遅れだ」という心無い声もあった。しかし、石川自身がそれを完璧な形ではね返したのが、2021年、全日本選手権での5年ぶり5度目の優勝だ。時に、大きく弧を描くバックハンドループドライブも駆使した卓球での優勝は、新しい・古いということではなく、あくまで「個々のスタイル」だということの証明でもあった。
進化した部分もある。かねてより得意だった中陣での安定感はそのままに、前陣でのバックミートブロックで相手を先に動かすような「前々でさばく」技術も随所に見られるようになった。経験値からくる粘り強さも特筆ものだ。この、いよいよ完成の域に達したともいえるスタイルで、現代女子卓球の代名詞ともいえる伊藤美誠に逆転勝ちを決めたのが、あの全日本選手権だった。
打倒中国のカギ、2つ目。
それは、現代では異色となった石川の中陣での安定感。強烈な回転がかかったバックハンドループドライブ。そして、経験値からくる、競り合いでより真価を発揮する、粘り強さだ。
“大魔王”伊藤美誠のカギは、中国が仕掛けるバック側への…
2021年の全日本選手権では石川に敗れた伊藤美誠だが、大会前は誰もが彼女の優勝を疑わなかった。それほどまでに伊藤は、今では日本女子の圧倒的なエースに君臨している。
世界最強の中国女子卓球が、「男子化」という形で抜きんでた進化をしているのなら、その卓球大国の進化に、地球上で一人だけ同じ形で追いついているのが伊藤ではないだろうか。
前陣での破壊力ある「美誠パンチ」と呼ばれるカウンターは、時に中国選手よりも速い。そこに、変幻自在のサーブが加わる。独特のフォーム。「自分でも何種類あるかわからない」というサーブは、現に中国人選手にも効いている。
2020年ITTFワールドツアー・カタールオープン。左利きの丁寧相手に4-0の完勝。フォア側から独特のフォームで、強烈な横回転系のサーブを出し、浮かせたレシーブを3球目攻撃。そのまま一気の攻勢で仕留めるシーンが、何度も目についた。特に横回転系のサーブから繰り出すこのパターンが、伊藤の決め手の一つだ。この大会は、その後の決勝戦で、陳夢に1-4で敗れている。オリンピックでは、この世界最強の陳夢を相手に『先にたたいていく自分の形』に持ち込みたい。
中国は、5月16日に女子の代表メンバーをこのように発表している。「陳夢、孫穎莎、劉詩ブン(雨冠に文)」。この発表は、中国側の明確な意思を感じるものだった。長年、中国女子卓球を引っ張ってきた丁寧が代表から外れたのだ。
オリンピックにおいては“経験値”を重んじるといわれている中国卓球において、丁寧の代わりに抜擢(ばってき)されたのは、若手の孫穎莎。国際大会で伊藤を苦しめてきた選手だ。中国の伊藤への警戒心は、こんなところからも感じられる。
伊藤と孫穎莎の試合ぶりは、2020年のITTF女子ワールドカップ準決勝に象徴される。孫穎莎は、伊藤が表ラバーを貼っているバック側へ、何度も何度もロングサーブを出すという対策を徹底していた。これは表ラバーをバックに貼っている選手の「泣き所」を突いてきた戦術の一つ。
表ラバーの選手は、前陣で、ある程度台に近い位置で構える。ロングサーブでそこを突かれると、“食い込まされて”レシーブが少し浮いてしまうことがある。ここを、スムーズにレシーブしてクリアしたい。
打倒中国のカギ、3つ目。それは、この伊藤対策とすら思える孫穎莎の起用、そしてその対策をどうクリアするか。孫穎莎のロングサーブを思い切って回り込んでフォアで打っていくか、バックで詰まらずにレシーブし、相手をフォア側に振っていくか。このあたりがポイントとなりそうだ。
大会の90日ほど前、伊藤美誠は「みなさんを笑わせたい」というコメントを発信した。今の世界の状況と、開催自体に賛否がある日本の状況を踏まえると、よくある「夢を与えたい」というようなコメントよりも、このフレーズは、最もふさわしい言葉なのかもしれない。
3つの個性が、笑顔を届ける。
<了>
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