渡辺勇大/東野有紗ペア、共に越境入学で震災経験、結成10年の絆。日本バドミントン混合初メダルへの覚悟
中国勢の2強体制が続くバドミントン混合ダブルスで、2強を追う3番手グループ筆頭として期待を背負うのが渡辺勇大/東野有紗ペアだ。ともに中学から福島県に越境入学し、2011年に東日本大震災を経験。中高を被災地で過ごし、「勇大くん」「東野先輩」と呼び合い苦労も歓喜も分かち合ってきた2人。震災からちょうど10年がたった今年行われる東京五輪で、福島から応援してくれる人々への恩返しを胸に日本勢初のメダル獲得を狙う大舞台に挑む。
(文=平野貴也、写真=Getty Images)
日本バドミントン史に新たな歴史を刻んだ彗星
バドミントン混合ダブルスで日本勢初となるオリンピックのメダルを狙う渡辺勇大/東野有紗は、日本の課題とされてきた種目に現れた彗星(すいせい)だ。
渡辺は「金メダルを目指して戦う。大会がなかなかなくて、難しい試合も増えると思うけど、相手も一緒。良い状態でコートに立てればチャンスはあるかなと思っている」と高い目標を掲げた。渡辺/東野は、2019年に日本勢が世界バドミントン選手権大会で唯一メダルを獲得できていなかった同種目で銅メダルを獲得。日本バドミントン史に新たな歴史を刻んだ。
日本は、同年1月から元マレーシア代表のジェレミー・ガン氏を混合ダブルス担当コーチとして招へいして課題種目を強化。互いのフィジカル能力に頼ったスタイルよりも、機動力と連動性を生かすスタイルが合うとの判断からコミュニケーションを増やすように指導された2人は、連係を強めて期待に応えた。東野は「以前は練習中に話すことができなかった。自分が勝手に思っていた勇大くんとは違って、思いを知ることができて、自分もやりやすくなったと感じた」と手応えを話す。
機動力に富む2人のプレーは、見ていて爽快だ。男子の渡辺は、頭脳と技巧で勝負するタイプ。攻撃時は、後衛に入って跳躍姿勢から強打とフェイントを巧みに使い分ける。前述の2019年世界選手権はスイス開催。多彩なショットで世界の強豪を翻弄(ほんろう)し、当初は強い関心を示していなかったヨーロッパの観客の視線をコートにくぎ付けにした。一方の東野は、抜群の運動能力を誇る。女子では珍しく、両足跳躍のジャンピングスマッシュも打つ。攻撃時は、前衛。東野が積極的にネット前でシャトルを触れれば、勝利に近づくはずだ。
取材対応でリードする勇大くんと、天然キャラ・東野先輩
混合ダブルスは現在、中国のペアが2強体制を築いており、渡辺/東野も、2つのペアには2勝8敗、1勝9敗と分が悪い。しかし、世界選手権よりも歴史があり、春の世界一決定戦として知られる全英オープンでは、2018年に中国ペアを破って初優勝を飾っている(今年3月にもコロナ禍で中国勢不在ではあったが、同大会を優勝)。タイやインドネシアのペアと並び、2強を追う3番手グループに位置する存在だ。この種目における日本勢初のオリンピックメダルは、十分に可能性がある。
1997年生まれで24歳の渡辺は、男子ダブルスと2種目でメダルを狙う逸材。1学年上の東野とのペアは、2人が東京と北海道から越境入学した先の福島で生まれた。混合ダブルスは、高校生の公式戦では採用されていないため、5種目の中でもマイナーだ。組む機会は少なかったが、国際大会ではペアを組んだ。
以来、東野は渡辺の才能にほれ込み、絶賛し続けている。ちなみに、2人は「東野先輩」、「勇大くん」と呼び合う。取材対応などでリードして話すのは、男子の渡辺だ。時にユーモアを交えつつ、ハキハキと話す。一方の東野は、天然キャラ。取材対応時、東野が話をすれば、とにもかくにも「勇大くん」を褒めちぎるのが恒例だ。中高一貫校を卒業後も同じ日本ユニシスに所属し、ペアを継続した。
東日本大震災を越境先の福島で経験。今大会で元気を与える存在へ
長く、苦楽をともにしてきた。
2人が福島県に越境入学をしたのは、富岡第一中、富岡高が中高一貫指導で強化を始めた注目校だったからだ。しかし、2011年3月11日に東日本大震災が発生。当時、渡辺が中学1年生、東野が2年生。3年生の卒業式を終えた後、練習に取り組んでいる時に大きな揺れを感じ、バドミントン部の専用体育館の天井から電灯が落下する中で避難した。学校が東京電力福島第1原発から10キロほどと近く、警戒区域に指定されたため、同校の生徒は内陸部にある猪苗代中に間借りをする形で設置されたサテライト校での生活に移った。専用体育館もなく、練習時間も限られ、強豪校としてのメリットは大きく削られた。
しかし、猪苗代中として出場した同年夏の全国中学バドミントン大会では、6種目中5種目を制覇する快挙を遂げ、全国トップクラスの伝統校として現在のふたば未来学園バドミントン部につながる歴史を築いた。2年の渡辺、3年の東野は、団体男女同時優勝に貢献。東野は、個人戦の女子ダブルスでも頂点に立った。2人が初めてペアを組んだのは、翌年のことだ。
中学・高校を福島で過ごした2人の躍進は、母校の後輩や、応援している福島の人々に元気を与えるだろう。
東京五輪の混合ダブルスは、4ペア4組に分かれた予選ラウンドの各組上位2ペアが決勝トーナメントで順位を決める。若きペアが、この種目における日本の新たな歴史を刻む姿にぜひ注目してほしい。
<了>
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