梅野隆太郎こそ、阪神16年ぶり優勝のキーマンだ。数字では測れない絶大なる貢献の数々

Career
2021.09.30

終盤戦を迎えた2021年のセ・リーグ。混戦模様のペナントレースを制するのは果たしてどのチームか。16年ぶりの優勝を目指す阪神タイガース。そのカギを握るのは、紛れもなく梅野隆太郎だ――。

(文=遠藤礼、写真=Getty Images)

戦う姿勢を鮮明に感じた、ある一場面。数字では測れない勝利への貢献

まれに見る大混戦となったセ・リーグで、阪神タイガースが先頭でゴールテープを切るためのキーマンは誰になるのか――。

首位打者を争う近本光司のさらなる躍進か、悩める怪物・佐藤輝明の復活か……。筆者は迷うことなく梅野隆太郎を挙げたい。打率、打点、本塁打など表に出るスタッツだけでは決して測ることのできない貢献。円熟味の増した30歳の存在感の大きさを今年は一層、感じている。

9月24日、3位・読売ジャイアンツと敵地でぶつかった3連戦の初戦、ローテーションの柱である西勇輝とバッテリーを組んだ。しかし、西が3点リードで迎えた3回に2死走者なしからピンチを背負い岡本和真に3ラン、丸佳浩に2ランを被弾するまさかの大乱調で逆転を許した。絶対に落とせないカード初戦。4回表に最後の打者となった梅野は、8番に投手を入れる攻撃型のオーダーに転じるあおりを受け、裏の守りからベンチへ下がった。

作戦面での途中交代とはいえ、心中穏やかではなかったはず……少なくとも筆者はそう見ていたが、そんなマインドは皆無だった。その後、テレビ画面に映ったのはイニング間にキャッチボールを行う中継ぎ投手に対してベンチ前でミットを構え続ける姿。グラウンドでのプレーは終わっても、できること、やれることはまだある。捕手としてはごく当たり前の光景かもしれないが、戦う姿勢を鮮明に感じた。

後輩たちも背中を見ている。その試合の最終盤にはこんなことがあった。1点を追う9回。復帰明けのチアゴ・ビエイラを攻め、ジェリー・サンズの中越え適時二塁打で追いつくと、矢野燿大監督は無死二塁の場面で、スタメン出場していた佐藤輝明に代打・島田海吏を送った。返す1本ではなく、まずは犠打で三塁へ進める策を優先。

この日、無安打だったルーキーは胸中複雑だったはずだが、打撃手袋を外しベンチで両手をパンパンとたたきながら「よっしゃ」と口にした。もちろんそれは、打席へ向かう島田に送られたもの。殊勲者の陰には唇をかむ者がいる。重要なのは、そのコントラストをチームにとってプラスの力に転化できるかだろう。少なくともこの日、梅野と佐藤輝が示した姿勢はマイナスには働かなかった。

今夏、口にした言葉に、梅野の信念がにじむ…

8月某日。後半戦を前にして梅野が口にした言葉がよみがえる。

「シビアな戦いでは、勢いだけじゃ勝てないと思う。きっちりとした野球をしていかないといけない。自分を犠牲にしてでも、チームのために……と思える選手が一人でも二人でも出てくれば」

そもそも、キャッチャーは自己犠牲と隣り合わせだ。試合に勝てば好投した投手がたたえられ、負ければリードを敗因に挙げられることも少なくない。かといって、暴投と紙一重のボールを体で受け止めてきた数はカウントされることはない。自己犠牲なくして務まらないポジション。

背番号2の司令塔はチームのあるべき姿、勝てる集団の理想型を先頭で体現しているように見える。打率は2割台前半、本塁打は3本、盗塁阻止率もリーグ3位の.278(29日現在)。それでも、梅野なくして2021年のタイガースを語れないのは、勝負どころでの一本、リスクを恐れない走塁、相手に大きなダメージを与える盗塁刺殺など価値あるワンプレーの数々を目撃しているからだろう。決してヒーローにはならなくても、梅野隆太郎という“隠し味”が効いてもぎ取った試合は少なくない。

代え難い経験となった東京五輪で得たもの

自身の「信念」をチームの「信条」に落とし込もうとしているのは、東京五輪での経験も影響している。會澤翼(広島)の故障によって代替招集。主戦は年下の甲斐拓也(ソフトバンク)で、梅野は2番手の位置づけだった。本大会での先発出場は1試合だったものの、得たもの、目にした光景に多大な価値を見いだした。

「自分が出てないから悔しいとかは全くないですね。24人の中で自分の役割をどうやっていくかをずっと考えていく時間でした。坂本(勇人/巨人)さんがバントしたり、普段は見ない光景も目にしました。準備する人がいるからスタメンの人もいるんだと。みんなで勝ち取った金メダルでした」

各球団の主力選手が集まる日本代表とタイガースは非なるものでも、チームで主力の男が、代表ではベンチスタートに回ったことで感じたものは計り知れない。

「タイガースでもこういう気持ちを味わいたいとあらためて思ったのは間違いないです」

極限の緊張感で挑んだ負けられないオリンピックでの日々は、残り約20試合となったペナントレースでも生きてくる。

入団8年目でいまだ経験のないリーグ優勝は自身にとっての悲願。そして、共に見たい景色でもある。

「みんなが報われるというか。ベンチで声を出してくれる人とか、前半戦活躍した選手、今はけがで2軍にいる選手も。優勝すれば全て報われるというのはすごくある。スタッフの方、裏方さんもそうで。数字に表れないことはチームにとって本当に大事だと思う」

今この瞬間も、人知れず生傷は増えていく。それでも、マスク越しの「歓喜」まで梅野は愚直に、ミットを構える。

<了>

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