里崎智也、ドラフトの“意外”な注目ポイントを明かす。「1位指名だけに注目するのは意味が無い」
10月11日、今年もプロ野球ドラフト会議が開催される。プロを目指す全てのアマチュア選手にとっては、まさに“運命の一日”となる。特に注目が集まるのはやはり1位指名だ。だが現役時代に千葉ロッテマリーンズで2度の日本一に貢献した里崎智也氏は、「1位指名だけに注目するのは意味がない」と口にする。その理由とは――?
(インタビュー・文=花田雪、写真提供=スカイA)
里崎智也氏が今年のドラフトを語り尽くす!
10月11日に行われるプロ野球ドラフト会議。NPB(日本プロ野球)入りを目指す全てのアマチュア選手は、この「ドラフト」で12球団から指名されることで、初めてプロ野球の門戸をたたくことができる。今年も多くの選手がプロ志望届を提出し、ドラフト当日の指名を待つことになるが、世間的な注目を集めるのはやはり「1位指名」だ。
今年でいえば小園健太(市和歌山)、森木大智(高知)、風間球打(ノースアジア大明桜)の「高校BIG3」が脚光を浴びている。
しかし、現役時代に千葉ロッテマリーンズの正捕手としてプレーし、現在は野球評論家として活躍中の里崎智也氏は「指名順位だけを見て選手を評価するのはナンセンスだ」と語る。
ドラフトの神髄は、2位指名以降にある――。
その理由を、里崎氏はこう語る。
「ドラフト後に採点するメディアがありますけど、『意味あるの?』と」
「まず、大前提としてドラフトの指名順位はアマチュア選手としての評価で、プロ野球選手としての評価ではない。もちろん、アマチュア時代に実績を挙げ、プロから高い評価を得るのは素晴らしいことですが、それがプロで結果を残せることとイコールになるかというと、決してそうではない。私自身、現役時代に多くの新人選手を見てきましたが、正直いってドラフトの順位を意識したことはありませんでした。ポジションがキャッチャーだったので、新入団選手の場合は特にピッチャーが気になるものですが、実際にボールを受けてみないと、本当の実力は分からない。キャンプでドラフト1位選手のボールを受けてみて『あれ?』と思うこともあれば、逆に下位指名選手でも『おぉ!』と感じることもある。大事なのは何位で指名されたからではなく、プロでどれだけやれるか。そういう意味では、『1位指名』だけを大きく取り扱ったり、注目すること自体が、あまり意味のないことのように思います」
現在のドラフトは一種のエンターテインメントとして確立されている。地上波での中継はもちろん、コロナ禍前までは会場に一般客を入れるなど、ショー化が進んでいる。
しかし、地上波での中継はやはり注目度の高い「1位指名」までで、2位以下の指名が大きくフィーチャーされることはない。
「でも1位で指名されるのは野球好きならほとんどが名前を知っているような選手ばかりでしょう。もちろん、彼らがどの球団に指名されるのかは気になりますけど、いってしまえば各球団1人だけですからね。むしろ2位以下でどんな選手が指名されて、今後どういう成長をしていくのかの方が、楽しみじゃないですかね? 例えば福浦さん(和也/元ロッテ)はドラフト7位入団。ドラフトでは12球団で最後に指名された選手ですけど、後に2000本安打を達成している。プロ野球にはそういう選手も生まれるんです。
何がいいたいかというと、結局ドラフト時点での評価なんて『あてにならない』ということ。よく、指名が終わった後にドラフトの採点をするメディアがありますけど、『意味あるの?』と思いますよ(笑)。本当の意味で評価するなら、何年かたってからじゃないと。例えば、何年後かにドラフト当時の採点を見返して、あらためて検証するとか、そういうことをやるなら面白いと思いますけどね」
里崎氏がドラフトで注目するポイントは意外にも……?
プロ野球という場に身を置いた立場から、「指名順位」にこだわり過ぎるメディアの姿勢には疑問を感じるという里崎氏。だからこそ、1位だけではなく2位以下の指名にも注目すべきだと断言する。
「見どころはたくさんありますよ。まず、現行システムでは2位指名からウェーバー制を採用していますよね。1位は12球団が欲しい選手を指名して、重複したら抽選になりますけど、2位以降は下位チームから順に指名権が与えられる。今年の場合はセ・リーグの最下位球団からの指名になりますが、ウェーバーで最初に指名権を持った球団が、まずは誰を指名するのか。
序列でいうと12球団の1位が確定した後の指名なので、残った選手の中から『一番欲しい選手』を指名すべきですが、ここで重要なのが3位が逆ウェーバー、つまり上位球団からの指名になるということ。2位でいの一番に指名できる球団は、次の指名(3位指名)まで実に22人の選手を他球団に取られることになる。22人ですよ? 上位にリストアップしていた選手のほとんどが2~3位で他球団に指名される可能性がある。その意味では3位以下でどの選手が残っているかもある程度想定しつつ、その中でベストなセレクトをする必要がある。
育成指名を除けば、指名人数は各球団、多くても10人程度ですが、実際にリストアップする選手はその10倍、100人以上は用意しておかなければならないはずです。そのリストの中から、残っている選手を指名していく。もちろん、評価が上の選手から順に指名すればいいという単純な話でもない。現在の戦力や将来的なビジョンをしっかり考え、さらにはウェーバーによる指名順まで考慮しないといけない」
2位以下の指名には、ウェーバー制だからこその妙がある。そこには、自チームの補強ポイントはもちろん、他球団の指名傾向を読む力が必要になってくる。
「さらにいえば、各球団の『野手』の指名は注目したいポイントです。毎年そうですが、ドラフト1位はよほどの目玉がいない限り、『ピッチャー』に集中する傾向があります。その上で2位以降、どのタイミングで各球団が野手を指名するのか。いわゆる『掘り出し物』の野手が2位以下で残っているケースも多いですよね。昨年でいえば、牧秀悟(→DeNA)がまさにそうでした」
ドラフトでポジションのバランスを考える必要はない――?
里崎氏が言うように、昨年ドラフトでは野手の“目玉”だった佐藤輝明(→阪神)に4球団が指名競合した以外、8球団が1位でピッチャーに入札している(※外れ1位では西武が渡部健人、ソフトバンクが井上朋也と2人の野手を指名)。
当時中央大の牧秀悟は勝負強い打撃で「即戦力」「1位指名」の呼び声も高かったが、結局1位では指名されず、2位でDeNA(ウェーバーでは6番目)が指名。開幕スタメンをつかみ、NPBで新人初のサイクル安打を放つなど、プロ1年目から新人王を争う活躍を見せている。
「特に今年は、例年以上に『ピッチャー豊作』のドラフトという話ですから、昨年以上に上位がピッチャーで占められる可能性が高い。だからこそ順位にかかわらず、野手で一番に指名されるのが誰かは気になるところです。
ただ、これも難しいところなのですが、球団によっては『野手を指名しない』という選択をしても別にいいと思うんです。チーム事情や指名バランスを考えると、『誰か一人くらいは……』と思いがちですが、今年のドラフト候補に本当に欲しい野手がいないのであれば、来年、再来年のドラフトで補えばいいだけの話です。『単年』で考えるとポジションが重なったり、バランスが悪いケースもあるかもしれませんが、どの球団も当然ながら来年以降のドラフト候補も見ている。例えば、『ショートのレギュラー候補が欲しい』球団があるとします。でも、現在の大学3年生や高校2年生で良いショートがいるなら、無理に今年のドラフトで指名する必要はないですよね」
ドラフトでの補強は、単年ベースではなく、複数年で考えるべき――。
見ている側からすればどうしても「今年のドラフト」に執着してしまいがちだが、確かに各球団の育成、補強戦略は複数年ベースでの中長期的プランが必要になってくる。
視点を変えていけば、ドラフトの面白さはますます広がる
「ただ、何度も言うようにドラフト時の評価はあくまでも『アマチュア時代の通信簿』にすぎません。『ピッチャー豊作』といわれながら、数年後には『2021年のドラフトは野手が豊作だったね』といわれる可能性だってある。そこがドラフトの難しさだし、面白さでもあるんです」
1位指名だけでなく、2位以下の指名を――。
「ピッチャー豊作」といわれているからこそ、「野手の指名」を――。
視点を変えれば、ドラフトの見どころはまだまだ増えてくる。やはり、ドラフトは面白い。
今年のドラフトは10月11日(月) 17時に始まる。いったいどんなドラマが生まれるのだろうか。今から楽しみで仕方がない――。
<了>
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PROFILE
里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工高、帝京大を卒業後、1998年プロ野球ドラフト会議で千葉ロッテマリーンズに逆指名で2位入団。2年目の2000年に1軍初出場を果たし、不動の正捕手として長く活躍した。2005年、2010年には日本一に貢献。2014年に現役引退。現在は解説者や自身のYouTubeチャンネル(Satozaki Channel)などで野球の魅力を発信。スカイA「プロ野球仮想ドラフト会議」に出演、ドラフトの見どころを徹底分析している。
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