「ダルビッシュ」の名を冠したプロスピA大会が開催 60万人超の頂点に立った優勝者が手にしたものとは?
メジャーリーガー・ダルビッシュ有選手は、スマホアプリ『プロ野球スピリッツA(プロスピA)』を愛する“ゲーマー”としても知られる。そんなダルビッシュ選手が今年8〜9月にかけて自身の名を冠したプロスピAの大会を開催し、大きな話題となった。60万人以上が参加し、全国規模の大会では初めて投球軌道のルール設定に「リアル軌道」が採用されたこの大会。予選1位&決勝大会優勝を成し遂げ、ダルビッシュ選手とも対戦経験があるというわじこっこ氏とともに、「GEMSTONE ダルビッシュチャレンジカップ」を振り返る。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=小原徹也[Fedal Management株式会社])
※写真は優勝賞品のラジオ番組「REAL SPORTS」出演時のワンショット。左から、五十嵐亮太、わじこっこ、秋山真凜
「プロスピはiPadのほうが有利だという話を聞いて……」
――まだプロスピA(プロ野球スピリッツA)を始めてから3年たっていないと聞きました。そもそもプロスピを始めたきっかけを教えてください。
わじこっこ(以下わじ):大学に入った年の冬ぐらいに大学の友達がみんなやり始めて、話題についていきたくて始めました。
――自分の意思で始めたわけではなかったんですね。最初はどれくらいのペースでやっていたんですか?
わじ:最初は友達とリアルタイム対戦のルーム戦(友達同士で対戦できるモード設定)をやる程度でした。大学でお昼ご飯を食べながら、みんなで集まってワイワイやる感じで。
――野球経験者だと聞きましたが、もともとプロ野球を見るのは好きだったんですか?
わじ:小さい頃はよく見ていました。年を重ねていくにつれて遠ざかっていたんですけど、プロスピAを始めてからまた見るようになりました。
――大会で優勝を目指すほどのめり込むことになったきっかけは?
わじ:プロスピAがきっかけでTwitterを始めて、そこでプロスピAを本気でやっている人とつながって、その人とたまたま家が近くて一緒に遊ぶようになったんです。プロスピAを通して出会った仲間と一緒にやっていくうちに、プロスピAを本気でやる楽しさを覚えて、強くなりたいという一心で真剣に取り組み始めました。
――課金はどのぐらいしているんですか?
わじ:大学生の割にはしているほうなのかなと思います。最近はまったくしてないです。オーダーの土台をつくって、ある程度のオーダーができたらあとは技術でカバーできるので。
――もともと自分はこのゲーム向いているなと感じていたんですか?
わじ:始めた当初はめちゃめちゃ負けていました。最初に出た大会ではまったく打てる気もしなくて……。その頃はセンスないからやめようかなと思っていました。打率も2割、3割で、勝率も5割くらいでした。
――やっているうちにどんどんうまくなっていったんですか?
わじ:うまくなりたいと思ったタイミングが、ちょうどコロナ期間と重なって。大学の授業もオンラインで、時間がめちゃめちゃあったので、ひたすら一日中プロスピAをやり込む毎日を送りました。最初はiPhoneでやっていたんですけど、プロスピAはiPadのほうが有利だという話を聞いて、iPadを買ってやってみたら、そこから勝てるようになりました。
――とにかく時間を使って、環境も整えて、経験をたくさん積んだわけですね。
わじ:その時期はプロスピAのリアタイ(リアルタイム対戦/ユーザー同士で対戦できるモード設定)をやった回数が他の誰と比べても桁違いに多かったのではないかと思います。
――経験値にプラスして動体視力であったり、何かもともと才能も持ち合わせていたんですかね。
わじ:いや……才能はないと思います。その面でいったら、僕ももう21歳なので、動体視力も落ちてきていますし……。今はもっと若い中学生、高校生の人たちがバンバン打てる環境でやっているので。
――すごい。21歳で動体視力が落ちてきていると感じる世界なわけですね。
わじ:いま結果が出ているのは、動体視力よりもプロスピAに対しての慣れのほうが大きいと思います。とにかく日々の積み重ねなのかなと。
突然のダルビッシュ有からの連絡「ダルさんからDMをもらって…」
――今回の大会の主催者でもあるダルビッシュ有選手と対戦経験もあるとのことですが。
わじ:プロスピAのYouTubeをやっていたことがあって、たまたまそれを見たダルさんからDMをもらって。そのやりとりがあって、こっちもまさかダルさんから連絡がくるとは思っていなかったので興奮しながら「リアタイいつでも付き合います!」という感じのDMを返したのがきっかけです。
――リアタイの結果はどうだったんですか? その時わじこっこさんはすでに全国レベルだったわけですよね。
わじ:自分で全国レベルというのもなんですけど、その時はもうプロスピAをやり込んでスピチャン(プロスピAA チャンピオンシップ/すべてのプレーヤーから最強を決める最高峰の大会)に出てという感じだったのですが、10戦くらいやって1回は負けたと思います。
――今回優勝した「GEMSTONE ダルビッシュチャレンジカップ」についても聞かせてください。ダルビッシュ選手主催の大会が開催されると知った時の感想は?
わじ:最初はルール非公開となっていたので、なんとなく(投球軌道のルール設定が)リアル軌道なのかなとは思っていました。試しにリアル軌道をやってみたりはしていたんですけど、まさか(体感球速のルール設定が)ノーマル+で(攻撃時の投球カーソルが)超高速フェードだとは思わなくて。リアル軌道って普通のスピードでも全然打てないんです。これはちょっと諦めようと思って、最初は大会に参加しない予定でした。
――それがどうしてやる気になったんですか?
わじ:やらないっていっても、結局はやっちゃうタイプで(笑)。
――大会前はどのように調整したんですか?
わじ:大会の(オンライン)予選が始まる日程に合わせて練習をして、それでも練習が足りないなと感じたので、予選初日、2日目を捨てて練習に充てました。その上で、大丈夫だなと思えたタイミングで予選に挑んだ感じです。
――他の大会でもそういうやり方で準備しているのですか?
わじ:リアル軌道だから時間をかけて練習しました。ノーマル軌道だったら普段からやっているのでそこまでの調整はしないですね。
――結果、予選を1位で通過します。
わじ:大会の予選が始まってやっていくうちに、自分も打てないけど、周りや相手も打ててないから、自分が打てなくても勝てるなってことに気づきました。ルールが決まった時から、予選初日にかけてめちゃめちゃルームをしまくって調整して、予選を戦っていくうちに気づいたら1位になっていました。
――「気づいたら1位」というのがすごいです。勝てるようになるまでどれくらい試合経験を積んだんですか?
わじ:大会だけで200試合ぐらいしていて、その前にルーム戦でも30~50試合やっていました。予選では試合数も多い分、周りより打率も低いし、決勝大会でもそこまで自分の中で打った感覚もないので……。
――いやいや、決勝大会むっちゃ打っていましたよ!
わじ:正直、決勝大会は運も絡んでいました。
「千賀滉大さんで投げられれば、その試合はほぼ勝てる」
――決勝大会に残った8選手は普段からよく知っているメンバーだったんですか?
わじ:普段から仲良くしてもらっている人たちなので誰と当たっても嫌でしたし、1回戦が一番緊張するから、そこでなんとか勝たないことには始まらないなと考えていました。
――迎えた決勝大会の初戦・準々決勝でかれこっこ選手を相手に3-2で接戦の末に勝利を収めました。わじ:かれこっことは前日まで一緒に練習していて、普段から電話しながらルーム戦するような仲で。お互い苦手なピッチャーもよく知っているので、いかに苦手ピッチャーから点を取るかのゲームになりました。その意味で、先制点を取れたのでなんとか勝てた感じです。
――初戦を乗り切って、その後のメリッサ選手との準決勝(9-8)が、エンターテインメント的にもあの大会のベストバウトだったと思います。
わじ:そうですね。めちゃめちゃいい試合になりましたし、見ていて面白いと感じてもらえる試合ができたかなと思います。メリッサとも大会の3日ぐらい前にルームで対戦していました。その時メリッサはまだリアル軌道に感覚が合ってなくて、本戦でメリッサとは当たってもいいかなと思っていたんですけど、本戦前日に「バチバチに仕上がったんで、当たったらボコボコにするっす!」というメールがきていて(笑)。
――試合前にそういう伏線があったんですね(笑)。
わじ:自分は決勝大会の前日に予定があってそこからの調整が全然できてなくて、これはメリッサと当たりたくないなと思っていたら、2回戦で当たることになってしまって。1回戦でめちゃめちゃ打っていたから、試合前は「これはまずいな」と思っていました。
――結果的に白熱した打ち合いの、逆転に次ぐ逆転劇を制しました。
わじ:どうせ出るなら優勝したいという強い気持ちでやっていましたし、あの試合はまったく緊張もせず、負けている場面でも冷静に試合に集中できました。
――その理由は?
わじ:普段の練習量と集中力。あとは逆境に強いのが一番じゃないですかね。
――普段から何事も逆境に強いタイプなのですか?
わじ:いや、うーん、どうなんだろう……。普段の生活でそんなに負けている場面とかってないじゃないですか。だからプロスピAならではの経験なところはありますが、プロスピAはルーム戦をすればするほど自分に自信がつくからだと思います。納得できるまで試合をして、いくら追い込まれても、俺なら打てると思ってやっているので。
――スポーツの「ゾーン」と共通するものを感じます。迎えた、たいき選手との決勝戦(3-2)は改めて振り返っていかがですか?
わじ:手持ちの投手で強いのが千賀(滉大)さんと大谷(翔平)さんで。その2投手を決勝まで温存できたのが大きかったと思います。千賀さんで投げられれば、その試合はほぼ勝てるという自信はありました。それでまずは一戦取りにいこうと。けど、自分って相手に点を取られないと、点を取れないタイプなんですよ(苦笑)。
――先に失点しないと打つ時の集中力が上がらないということですか?
わじ:そうなんです。なので点を取られても焦らずしっかり配球を考えて投手戦で勝とうと思って間(ま)を使ったり、球種を選んだりして、接戦の末に勝ったという感じです。なんとなく向こうが狙っている球種が試合の中でわかってきたので、その球を投げないように、あえてボール球にして投げたりといろいろ考えながらやっていました。
――ダルビッシュ選手のYouTubeを見ていると「ああ、こうやって配球を読んでいるんだ」と驚かされます。現役メジャーリーガーならではの視点なのかもしれませんが。
わじ:そうですね。自分は一切配球を読まないタイプなんです。配球の癖や狙いは相手によって変わりますし、一球一球配球を読んでいたら、違う球がきたら対応できなくなっちゃうので。だったら最初から読まないで、感覚でやったほうがいいと考えています。
「一生できることのない経験をさせてくれた思い出」
――結果として予選1位通過で、決勝大会優勝。タイトルを獲得した感想は?
わじ:(優勝賞品で)始球式の権利や、ダルさんのサイン入りの金のバット、サプリメント、ラジオ出演の機会までいただけて正直驚いています。プロスピAをやっていなかったら、こういう経験は絶対にできなかったと思います。プロスピAを頑張って練習して、こういう大会で結果を残せるようになって、本当によかったなと思います。ダルさんともつながれましたし。
――今後の人生においてもすごい武器になりますよね。
わじ:そうですね。就職活動で使えるかはわからないですけど(笑)。
――絶対使えますよ。なんでも「極める」ってすごいことなので。10月13日のオリックス対千葉ロッテ戦で行われる始球式に向けての心境も聞かせてください。
わじ:やるからには恥ずかしくないようなボールを投げたいですね。とりあえずノーバンで届けばいいなって思っています。
――もし第2回「GEMSTONE ダルビッシュチャレンジカップ」が開催された場合、2連覇を目指しますか?
わじ:その時に時間がつくれたらやろうかなとは思います。もうそろそろ(大学生として)忙しくなってくる時期なので。でもなんだかんだやっていると思います(笑)。
――わじこっこさんにとってのプロスピAとは?
わじ:これからの人生で一生できることのない経験をさせてくれた思い出ですね。
<了>
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わじこっこ氏のラジオ出演の模様は10月16日(土)AM9:00~のInterFM897「REAL SPORTS」にてお聞きいただけます。
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InterFM897「REAL SPORTS」(毎週土曜 AM9:00~10:00)
パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜
2019年にスタートしたWebメディア「REAL SPORTS」がInterFMとタッグを組みラジオ番組をスタート。Webメディアと同様にスポーツ界やアスリートのリアルを発信することをコンセプトとし、ラジオならではのより生身の温度を感じられる“声”によってさらなるリアルをリスナーへ届ける。放送から1週間は、radikoにアーカイブされるため、タイムフリー機能を使ってスマホやPCからも聴取可能だ。
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