なぜヤクルトは僅か1年で劇的に強くなったのか? 打率はリーグ3位も、刮目すべき“2つの数字”
20日、東京ヤクルトスワローズは20年ぶりの日本一を懸け、オリックス・バファローズとの日本シリーズに挑む。この8年で最下位は5回。昨年まで2年連続最下位の雪辱を果たして優勝を決め、クライマックスシリーズでは2連覇中の読売ジャイアンツを寄せ付けることなくストレートでの日本シリーズ進出を決めた。なぜヤクルトはこれほど劇的に強くなったのだろうか――?
(文=西尾典文、写真=Getty Images)
ヤクルトがこれほど強くなった理由は……
史上初となる前年最下位チーム同士の対戦となった今年の日本シリーズ。両チームとも前年までは2年連続で最下位に沈んでおり、シーズン前にこの対戦を予想できた評論家は一人もいなかったことだろう。ではなぜこの2チームがペナントレースを勝ち抜くことができたのか。昨年までの戦い方と比較しながら探ってみたいと思う。今回は東京ヤクルトスワローズについてだ。
フロントの強い意欲を感じたオフの戦力整備
まず大きかったのがシーズン開幕前の戦力整備だ。昨年オフは小川泰弘、石山泰稚、山田哲人の主力選手3人が国内FA権を取得したことで動向が注目されていたが、小川と石山は4年、山田は7年という長期契約を提示して残留交渉に成功。特に山田は早くから他球団が注目していただけに、生涯ヤクルトともいえるような大型契約を結べたことに歓喜したファンも多かったはずだ。
さらにメジャーでも実績のあるドミンゴ・サンタナ、ホセ・オスナという2人の外国人野手の獲得に成功。他にも福岡ソフトバンクホークスを退団した内川聖一とリック・バンデンハークも獲得し、シーズン直前には野手の有望株である廣岡大志とのトレードで田口麗斗も巨人から移籍している。バンデンハークは戦力にはならなかったものの、何とかしてチームを強化しようというフロントの強い意欲が感じられた。
12球団でダントツのホールド数。予想以上の活躍を見せた2人
あらためてチーム成績を見てみると、最も大きく変わったのが投手陣である。2019年は4.78、昨年は4.61だったチーム防御率は今年3.48と劇的に改善していることがよく分かる。特にチームを支えたのがリリーフ陣だ。救援防御率3.25は中日ドラゴンズに次ぐリーグ2位の数字であり、149ホールドポイントは12球団でもダントツのトップとなっている。
昨年最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得したセットアッパーの清水昇がプロ野球記録となるシーズン50ホールドをマークしたのはもちろん大きかったが、予想以上の活躍を見せたのが今野龍太と近藤弘樹の2人だ。
共に東北楽天ゴールデンイーグルスを戦力外となり、今野は昨年、近藤は今年ヤクルトに移籍。近藤は育成選手としての入団だったものの、キャンプ、オープン戦での活躍が認められて開幕前に支配下契約を勝ち取ると、故障で離脱する5月下旬までに22試合に登板して11ホールド、防御率0.96という見事な成績を残してブルペン陣の救世主となった。移籍2年目の今野も開幕当初は負けゲームでの登板が多かったが、近藤の離脱後は勝ちパターンの一角に定着。最終的には64試合に登板して清水に次ぐチーム2位、リーグ全体でも5位となる28ホールドをマークし、ブルペンには欠かせない存在となっている。
野村克也監督時代にも他球団から移籍してきた選手が多く活躍することで“再生工場”と呼ばれていたヤクルト。選手引退後もコーチ、2軍監督、スカウトなどを歴任して47年間ヤクルトに在籍していた八重樫幸雄さんの話では、生え抜きと外様の間に壁がなく、移籍してきた選手も居心地の良さをよく口にしていたとのことだったが、良い意味でのファミリー体質という伝統が今年のチームにも生かされていたといえるだろう。
クライマックスシリーズで圧巻の投球を見せた次世代エース
投手陣でもう一つ大きかったのがやはり奥川恭伸の成長だ。高校卒2年目ながらチームトップタイとなる9勝をマーク。クライマックスシリーズファイナルステージではわずか98球で巨人打線を完封し、チームの日本シリーズ進出に大きく貢献している。中継ぎ陣はフル回転が目立ったが、対照的に奥川はシーズン中に10回以上選手登録を抹消されており、佐々木朗希(ロッテ)ほどではないもののかなり慎重に調整を重ねてきたことがよく分かる。無理をさせず大事に起用してきたことでコンディションを大きく落とすことなく、シーズン終盤の活躍につながったと考えられるだろう。
チーム打率はリーグ3位だが、それ以上に目立った2つの数字
一方の野手陣ではチーム打率も昨年の.242から.254へ上がっているが、リーグ成績は3位と突出しているわけではない。それ以上に目立つのがリーグトップを記録したチーム出塁率.333とチーム四球数535という数字だ。両リーグでトップとなる106四球を選んだ村上宗隆の存在はもちろん大きいが、山田、塩見泰隆、サンタナ、中村悠平などそれ以外にも打率と比べて高い出塁率をマークしている選手は多い。それだけしっかりボールを見極められる選手が多かったことの裏付けといえるだろう。
シーズン中に掛布雅之さんに話を聞く機会があったが、その時に阪神タイガース打線でボールを見極められているのはジェフリー・マルテくらいしかいないということを話していた。このあたりの差がヤクルトと阪神のわずかな勝率差に表れてきたともいえそうだ。
ただオリックスと比べると外国人選手や“再生工場”での移籍組が多く、チームの底上げという意味では少し不安が残るというのも事実である。特に投手陣は規定投球回に到達した選手は一人もおらず、奥川以外に目立つような結果を残している若手も見当たらない。過去10年間を振り返っても優勝、もしくは優勝争いを演じた翌年に大きく成績を落とすということを繰り返しているだけに、中長期的な視点でのチーム強化は今後の大きな課題となってくるだろう。
<了>
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