北京五輪を懸けた全日本フィギュア目前! 今さら聞けない「複雑な代表選考」を分かりやすく解説する

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2021.12.22

全日本フィギュアスケート選手権が23日に開幕する。来年2月に開催される北京五輪の最終選考会を兼ねた運命の4日間。代表の座をめぐる激しい戦いが予想されるが、北京五輪の代表はどのようにして決定するのだろうか? 今さら聞けない“北京五輪の代表の決まり方”。これを知ればきっと、銀盤の上で繰り広げられる演技の見え方も変わってくるはずだ。

(文=REAL SPORTS編集部)

複雑なオリンピック代表選考。選考基準を基に、各選手の立ち位置を考察

2022年北京五輪最終選考会を兼ねた全日本フィギュアスケート選手権が23日、さいたまスーパーアリーナで開幕する。

オリンピック代表のいすは、シングルは男女ともに3、ペアとアイスダンスは各1組。代表選手は全日本選手権後に発表される。12月15日に日本スケート連盟から発表(更新)された選考基準を基に、それぞれ細かく確認していきたい。

まずは男女シングルから。

第1代表の選考方法は、「全日本選手権優勝者(A)」。これまでの実績に関係なく、全日本でトップに立てば、オリンピックの舞台に立つことができる。非常にシンプルで分かりやすい基準といえるだろう。

2人目以降が少し複雑だ。
第2代表は、「以下のいずれかを満たす選手から総合的に判断」して選考される。
(B) 全日本選手権2位、3位
(C) ISUグランプリファイナル出場権獲得者
(D) 全日本選手権大会終了時点での ISU シーズンベストスコア上位3人

第3代表は、「以下のいずれかを満たす選手から総合的に判断」とある。
(E) (A)(B)(C)に該当し、2人目の選考から漏れた選手
(F) 全日本選手権終了時点でのISU ワールドスタンディング上位3人
(G) 全日本選手権終了時点での ISU シーズンワールドランキング上位3人
(H) 全日本選手権までに派遣した国際競技会、および強化部が指定した国内競技会(*1)におけるシーズンベストテクニカルスコア(*2)上位2人

*1 強化部が指定した国内競技会:東日本選手権、西日本選手権、東日本ジュニア選手権、西日本ジュニア選手権、全日本ジュニア選手権、全日本選手権の6大会を指す
*2 シーズンベストテクニカルスコア:今シーズン対象競技会(同一競技会内)における、最も高かったショートプログラムとフリースケーティングのTotal Element Score(技術点)合計得点

ではこれらの基準に当てはまる選手を具体的に見ていこう。

男子シングルの代表本命は、羽生・宇野・鍵山の3人か

まずは男子シングルから。

(A)(B)の2つは、全日本選手権が終わってみないと分からないのでその他の基準を見ると、以下のようになる。

(C) グランプリファイナル出場権獲得者
=鍵山優真、宇野昌磨
(D) ISUシーズンベストスコア上位3人
=宇野昌磨(290.15)、鍵山優真(286.41)、佐藤駿(264.99)
(F) ISUワールドスタンディング上位3人
=鍵山優真(1位)、羽生結弦(6位)、宇野昌磨(9位)
(G) ISU シーズンワールドランキング上位3人
=鍵山優真(3位)、佐藤駿(10位)、宇野昌磨(12位)
(H) シーズンベストテクニカルスコア上位2人
=宇野昌磨(153.54)、鍵山優真(150.99)

宇野と鍵山がすでに5項目で選考基準をクリアしている。仮に全日本で下位に沈んだとしても、かなりの確率で代表に選出されるだろう。

オリンピック2連覇中の羽生は、右足首の故障の影響で今季ここまで欠場しており、全日本がシーズン初戦となる。優勝すればもちろん文句なし。昨季もシーズン初戦となった全日本で優勝してみせたように、今季もその可能性は十分にあるだろう。2位・3位となった場合でも、少なくとも(B)(F)の2項目で選考基準をクリアすることから、可能性は高いといえるだろう。

こうして見ると、羽生、宇野、鍵山の3人が代表選出の本命だと分かる。他の選手は、2項目で基準をクリアしている佐藤を含め、優勝しない限り代表に選出されるのは難しいかもしれない。だが試合は始まってみないと何が起こるか分からない。波乱は起きるのか、それとも本命の3人がその実力を発揮してみせるのか。注目したい。

女子シングルは誰が選ばれてもおかしくないが……

続いて女子シングルだ。

(C) グランプリファイナル出場権獲得者
=坂本花織
(D) ISUシーズンベストスコア上位3人
=坂本花織(223.34)、三原舞依(214.95)、宮原知子(209.57)
(F) ISUワールドスタンディング上位3人
=坂本花織(4位)、紀平梨花(8位)、樋口新葉(14位)
(G) ISU シーズンワールドランキング上位3人
=坂本花織(8位)、樋口新葉(9位)、三原舞依(10位)
(H) シーズンベストテクニカルスコア上位2人
=三原舞依(116.30)、坂本花織(115.71)

今回の女子シングルは、坂本、三原、樋口、宮原に加え、今季NHK杯で2位に入った河辺愛菜、昨季NHK杯3位・全日本4位だった松生理乃まで、誰が優勝してもおかしくない。優勝すれば第1代表に確定し、またその結果が第2・第3代表争いに大きな影響を与えることになる。

代表選出の本命はやはり坂本だろう。優勝すればもちろん、3位以内に入れば唯一、第2代表の選出基準(B)(C)(D)を3つともクリアすることになる。仮に下位に沈んだとしても、最多5項目で選考基準をクリアしていることから、かなりの確率で第3代表に選出されるだろう。

第2代表の選出基準である(D)をクリアしている三原と宮原のどちらが、第2代表の座を射止めることができるかも注目ポイントだ。坂本が優勝した場合、三原と宮原は3位以内、かつ、より上の順位になった方が第2代表に選出される可能性が高まる。ただ坂本が2位、または3位となった場合は、坂本が第2代表として選出されることが濃厚となり、三原と宮原は第3代表争いに回ることになる(もちろん三原か宮原が優勝した場合には第1代表で確定する)。

第3代表争いも熾烈(しれつ)だ。坂本が第3代表争いに回ってきた(=坂本が4位以下に沈んだ)場合には、高確率で坂本が選出されるだろう。だがそれ以外の場合は、三原、宮原、樋口でほぼ横一線となるだろう。少しでも上の順位、少しでも良いスコアを出した選手が代表の座をつかむことになる。

また紀平の全日本欠場が22日に正式に発表された。選考基準には「最終選考会である全日本選手権大会への参加は必須」と記載されている。4年前、羽生は全日本を欠場しながらも平昌五輪代表に選出されていたが、「過去に世界選手権大会3位以内に入賞した実績のある選手が、けが等のやむを得ない理由で全日本選手権大会へ参加できなかった場合、不参加の理由となったけが等の事情の発生前における同選手の成績を上記選考基準に照らして評価し、大会時の状態を見通しつつ、選考することがある」という条件に当てはまっていたからだった。紀平は世界選手権で最高4位であることから、北京五輪出場は絶望的とみられる。本人が一番悔しい思いをしているだろう。だが必ずまたチャンスは訪れるはずだ。紀平の今後の活躍とけがからの回復を祈りたい。

世界が注目するペア、三浦&木原は北京五輪に内定

次はペアとアイスダンス。

選考方法は、「以下のいずれかを満たす組から総合的に判断」される。
(A) 全日本選手権大会最上位組
(B) 全日本選手権大会終了時点での ISUワールドスタンディング最上位組
(C) 全日本選手権大会終了時点での ISUシーズンワールドランキング最上位組
(D) 全日本選手権大会終了時点での ISUシーズンベストスコアの最上位組

シングルと同様、これらの基準に当てはまる選手を具体的に見ていこうと思うが、ペアに関してはすでに三浦璃来&木原龍一ペアの内定が発表されている。3月の世界選手権で10位に入り、今シーズンはグランプリファイナル出場権を獲得するなど、今、世界から熱い視線を注がれている2人だが、全日本選手権は欠場。新型コロナウイルスのオミクロン株の世界的な感染拡大に伴う渡航制限により、カナダに拠点を置く2人は日本に帰国した後でカナダに再入国できなくなるリスクが高まり、その場合、長期間コーチ不在の状況に置かれてしまうことが考慮された。

日本のペア種目は競技人口が非常に少ないことが課題にある。昨季の全日本は三浦&木原ペアのみのエントリーで、今季も2組だけの予定だった。そのもう1組も今年結成されたばかり。三浦&木原ペアが北京五輪で活躍する姿を見せることが、ペア種目の裾野の広がりにもつながるだろう。全日本で見られないのは残念だが、北京五輪での活躍を期待したい。

村元&髙橋か、小松原カップルか……アイスダンス代表選考の行方

最後にアイスダンスを見てみよう。

(B) ISUワールドスタンディング最上位組
=小松原美里&小松原尊(36位)
(C) ISUシーズンワールドランキング最上位組
=村元哉中&髙橋大輔(24位)
(D) ISUシーズンベストスコアの最上位組
=村元哉中&髙橋大輔(14位)

村元&髙橋カップル、小松原カップルの一騎打ちとみていいだろう。アイスダンスの場合、優勝しても代表確定となるわけではない。小松原カップルが優勝した場合、両カップルは2項目で並ぶが、その場合は全日本優勝が最優先されると考えられることから、全日本を優勝した方が北京への道を開くことになるだろう。

昨季の全日本では小松原カップルが貫録を見せつける形で優勝を果たしたが、今季は村元&髙橋カップルが驚異的な進化を見せており、その立場は逆転しつつある。だが小松原カップルの2人も、長らく日本のアイスダンス界をけん引してきたスケーターだ。お互いのプライドとプライドがぶつかり合う、素晴らしい競演になることを期待したい。

(※初稿にてアイスダンスの(B)(C)(D)に当てはまる組と順位がそれぞれ一つずつずれて記載されていました。お詫びして訂正いたします)

各選手の立ち位置が見えることで、その心情を想像することもできる

ここまで選考基準を基に、具体的な名前を挙げながら見てきたことで、それぞれの選手の立ち位置が見えてきたと思う。一発逆転を懸けて優勝を狙う必要があるのか、それともリスクを減らしながら確実に3位以内に入ることを優先するのか。

今回の全日本選手権は、単なる一つの大会ではない。4年に1度の夢舞台を懸けた戦いだ。一つ一つの技の成功・失敗だけではなく、その心情を想像しながら演技を見てみることで、また違ったものが見えてくるかもしれない。

<了>

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