なぜバレーボール男子日本代表は強くなった? 石川と西田頼みでない、司令塔・関田誠大の存在
昨年の東京五輪、そして今年6〜7月に行われたFIVBバレーボールネーションズリーグでともにベスト8に進出。8月26日から行われる男子世界選手権に出場するバレーボール日本代表に大きな期待が集まっている。強力な個と多彩な攻撃バリエーションが武器となりつつある日本代表において、チームを支えるキープレーヤーとは?
(文=米虫紀子、写真=GettyImages)
石川祐希と西田有志頼みでない。ミドルブロッカーの得点が増えた理由
世界トップとの差は、確実に縮まっている。
バレーボール男子日本代表が、昨年の東京五輪に続き、今年もそれを証明し続けている。東京五輪では29年ぶりに予選ラウンドを突破してベスト8入りを果たし、今夏行われたFIVBバレーボールネーションズリーグでは、初のファイナルラウンド進出。16チーム中5位で大会を終えた。
主将の石川祐希やオポジットの西田有志といった得点力のある強力な個がチームを牽引しているが、加えて今年はミドルブロッカーの得点が増え、昨年よりも攻撃が分散されている。それはセッター・関田誠大のトスワークによるところが大きい。身長175cmは国際大会ではひときわ小柄だが、日本代表のフィリップ・ブラン監督は絶大な信頼を置き、正セッターに据えている。
今年の関田は大胆にミドルブロッカーのクイックを使っている。特にBパスやCパスと呼ばれる、返球がセッターの定位置から離れた場面でクイックを使うケースが増え、ミドルブロッカー陣もそれに応える。
今年の代表合宿が4月にスタートして以降、Bパス時の相手ブロックのつき方や、それに対する幅広いコースへの打ち分けについて、セッターとミドルブロッカーで密にコミュニケーションを取ってコンビを合わせてきた成果であり、関田の精度の高いトスに対するミドル陣の信頼の証だ。ミドルブロッカーの髙橋健太郎はこう語っていた。
「Bパスの時は、関田さんのアイコンタクトで『これは来るな!』とわかるんで、そこからはもうほとんどボールは見ないで、信じてブロックだけをずっと見て打っています」
同じくミドルの小野寺太志は、「関田さんは、今まではメインとして両サイドの(石川)祐希や西田を使って、そこにパイプ攻撃を混ぜてという感じで、僕らの打数は多くなかったんですけど、今年は関田さん自体にクイックをどんどん使おうというイメージが強くなっていると感じるし、試合の中でいいタイミングで使ってくれて、僕らも気持ちよく打てています」と変化を語る。
返球が乱れたところからでもクイックを使えれば相手ブロックはミドルをマークせざるを得なくなり、サイド陣は楽になる。それだけでなく、サーブレシーブ陣にも余裕をもたらしている。リベロの山本智大は言う。
「相手の強いサーバーに対してはどうしてもBパス、Cパスが増えてしまうんですが、関田さんはB、Cパスからでもうまくクイックやパイプを通してくれるし、『無理しないで、(セッターの定位置ではなく)上でいいよ』という声かけをしてくれる。その分僕たちは強いサーブに対してもダイレクト(で相手コートにボールが返ること)をなくして、しっかりコート上でキープして、そこから展開するというケースがすごく増えているので、本当に助かっています」
「一番変わったなと感じるのは“自信”」考え方の幅が広がった経験
昨シーズン、関田は念願だった海外移籍を果たし、世界最高峰リーグの一つ、ポーランドリーグのクプルム・ルビンでプレーした。その経験を経た関田の変化を、周囲の選手は感じ取っている。
「一番変わったなと感じるのは“自信”」と話していたのは石川だ。
「自信を持ってトスを上げているから、アタッカーとしても打ちやすいし、勝負できるトスがくる。トスワークに関してもとても意図が感じられます。クイックを中心としたトスワークが印象的ですが、たぶんそれもその自信からくるものなんだと思います」
小野寺も「見ていて、余裕が生まれたように感じます」と語る。司令塔に生まれた余裕が、チーム全体の余裕につながっている。
関田自身は「海外でプレーして変わったところは?」と聞かれるたび、「自分ではよくわからない」と苦笑する。ただ、「考え方の幅はちょっと、広がったかなとは思います」と頷く。
ポーランドリーグのレベルの高さはもちろん、海外のプロ選手たちの自己主張の強さに最初は面食らった。選手同士や、監督と選手のケンカや言い争いは日常茶飯事。練習中のイン、アウトだけでも互いに譲らない。
ある日の練習で、メニューを見た選手たちが「なんだこれ! やってらんねーよ!」と大声で不満をぶちまけたこともあった。
「『マジか』と思いましたよ(苦笑)。日本人はどうしても、多少違和感を感じてもついていくじゃないですか。でも向こうの選手たちは納得がいかなかったらついていかないし、やる気も出さない。全然違うなと感じましたね。あ、そういう人もいるんだ、といろいろ学べました」
驚くことも多かったが、関田も一プロ選手として、主張し合う環境に居心地の良さを感じていた。
「みんな個が強いというか、いい意味で自己主張が強い。自分はこう思っているんだよということをアタッカーから言ってくるので、それはすごく頼もしかったし、なんかいいなと思いました」
プロ選手は、一試合、一本の結果が来季の契約や給料に関わってくる。スパイカーが自分の良さを最大限に生かせるトスをセッターに要求するのは当たり前。遠慮する選手などいない。
「たまに理不尽な要求もありますけどね。例えば、自分が跳んでいないだけなのに、『トスが高すぎる』とか。そういうのは意味わかんないので、受け流しますけど(苦笑)。でもそうやって主張しあって会話ができるのはいいと思います。僕としては楽しかったですね」
「セッターが海外に行く必要があるのか?」への明確な返答
関田が海外移籍を模索する中で、「セッターが海外に行く必要があるのか?」という声も聞こえてきたという。スパイカーやリベロは、海外の選手の高さのあるブロックや、威力のあるサーブ、スパイクへの対応力を身につけるというわかりやすい目的があるが、能力の高いスパイカーがそろう海外で、セッターが得るものはあるのか、と。そうした声に対して、関田は胸を張って言う。
「行くべきだと思います。行ったから言えるんですけどね。得るものはある。『英語でのコミュニケーションは大丈夫なのか?』と心配する声もありましたけど、それはセッターに限らないですし、向こうの人が教えてくれるので。いい人に巡り会えたからかもしれないですけど、僕の場合はドイツ人の選手だったり、ポーランドの選手も、わからなかったら別の単語に置き換えて教えてくれたり、優しくゆっくりしゃべってくれた。そういうのも経験なので、まず行ってみるというのはすごく必要かなと思います。おかげでちょっとは英語でしゃべれるようになって、今はブランとも(英語で)会話できるので」
ポーランドは非常にバレーボール人気が高く、選手層も厚い。代表に入っていなくても、2 mを超える身長で能力の高い選手がゴロゴロいる。
「相手のブロックがやっぱりすごい。大きいだけじゃなく、上手です。リードブロック(トスを見てから反応するブロック)でもすごくタッチを取るのがうまい。そのブロックをずっと見ながら、注意しながらやっていました。レベルが高くて、楽しかったです」
2 m超えが当たり前な高いブロッカーの圧力を日々感じながらシーズンを過ごした経験も、今年の日本代表での“余裕”につながっているのではないか。ネーションズリーグ中、そう水を向けると、こう答えた。
「たかがワンシーズンですし、どう変わったかは僕の中ではあまりわからないですけど、積極性というか、ちょっと強気になってるんじゃないかなというのはあります。昔からクイックをどんどん使っていきたいと思っていて、それを今出せている。それを武器にしたいと思っていたので、自分にとっていいことだなと思います」
上には上がいる。見据える次への課題
ネーションズリーグ序盤は、日本のBパス時のミドルブロッカーの攻撃に対しほとんど相手はノーマークだったが、徐々に相手のミドルブロッカーがついてくるようになった。
そうなれば、サイドやパイプなど他の攻撃を生かしやすくなる。今年のミドルには、1枚ブロックが来てもなんとかしてくれる、という信頼感もあった。
だが上には上がいる。ファイナルラウンド準々決勝では、東京五輪金メダルで、ネーションズリーグでも優勝したフランスのブロックに苦しめられた。リードブロックでクイックに対しても2枚近いブロックを築かれ、タッチを取られるケースがあった。
「リードブロックで2枚来られてもしっかり決めないといけない、というのは次の僕自身の課題だなと感じました。相手がリードで来てタッチを取られるのが一番苦しい。全部リードで対応されてしまうので。それに対してミドルがもっと決まっていれば……。1枚に対してミドルがしっかりコースに切るということはチームの前提としてあるんですけど、2枚来てもブロックをかわしたり、奥に打ったりしていかないといけないと思いました。
相手はセッターも含めて2 mが普通にいるので、絶対に(サイドブロッカーもクイックに対して)タッチを取りにヘルプに来る。そこでクイックを使っていくのはもちろん僕自身も勇気がいる。『うわ、嫌だなー』というのはあるんですけど、そこで使っていかないと、僕自身が相手に押されちゃう。ちょっと圧倒された部分はありました。そこは今回学びましたね」
次への課題を見据えながらも、関田は充実感を漂わせる。
「やっぱりミドルが点取ると楽しいです、僕も。ミドル使うの、好きなのかもしれないですね」
8月26日からはポーランドとスロベニアで世界選手権が開催される。4年に一度開催される伝統ある大会で、世界ランキングにも大きく関わるため、パリ五輪の出場権争いにも影響する重要な大会だ。ネーションズリーグでの快進撃により、これまで以上に世界から研究されることが予想される中、関田はどんなトスワークで日本を勝利に導くのか、注目だ。
<了>
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