柳田将洋が明かす、移籍の本当の理由。「満足していなかった。そこは妥協できないところ」

Career
2022.07.10

昨シーズン限りでVリーグのサントリーサンバーズを退団することが発表されていたプロバレーボール選手の柳田将洋が、今シーズン、ジェイテクトSTINGSに加入することが7月1日に発表された。大学卒業後の2シーズンと、海外リーグからの復帰後2シーズンの計4シーズン所属し、Vリーグ2連覇にも貢献したチームを離れ、新天地を求めた理由とは。

(文・撮影=米虫紀子)

「新しいものに触れる」ことへのあくなき欲求

――海外リーグ(ドイツ、ポーランド)から2020年に Vリーグに復帰後、2シーズンを過ごしたサントリーサンバーズから、今シーズンはジェイテクトSTINGSに移籍することが発表されました。主力選手としてVリーグ2連覇を達成したサントリーを離れ、移籍する決断をされたのはどうしてですか?

柳田:僕としては、常に新しいチャレンジをしたいなと思っている中で、毎年時期がきたら、自分自身が(来季は)どのチームでやりたいかを考えます。(サントリーに)残ってチャレンジをするのか、出てチャレンジをするのか、という中で、その後者を今シーズンは選ばせてもらいました。まだ一歩踏み出しただけで、この決断がベストだったかどうかは、自分がこれからどういう結果を出すかにかかってくると思います。サントリーで2年間、どういうふうにチームづくりをするかとか、どういうふうに試合に向かっていくかということをやってきて、次はチームが変わるので、またゼロから、チームづくりから始まり、取り組むことは多いかなと思いますね。

――刺激を求めて、自ら環境を変えようとしたのでしょうか?

柳田:刺激が足りないわけではなく、継続するべきことと、自分の中に新しく取り込むこと、新しいものに触れることのバランスというんでしょうか。(2017-18シーズンからの)3年間海外を経験した時に、世界には本当にいろんなバレー観があるし、人によって考え方が違うんだと、ものすごく感じました。現役生活にはタイムリミットがある中で、できるだけ多くそういうものに触れられたら、より幸せだなと。

「チームの中での自分の役割が何なのか」という思い

――ファンの皆さんへ移籍を報告するメッセージの中には、「疑問を晴らしたい」「自分の存在意義をゼロから確かめたい」という言葉もありましたね。

柳田:そうですね。チームが勝っていたからこそ僕の中ではそれがずっと頭の中にありました。じゃあ自分が別の環境に移った時に、チームを勝たせられるのか、勝てるチームになるんだろうか、と。もちろん僕だけの力ではないんですけど、自分が勝ちに貢献できているのかというのは、環境を変えることで、また新たな情報として自分の中に入ってくるんじゃないかなと。毎年キャリアを積んできた中で、どこが成長できているのかも、また見えてくるかなと思いました。

サントリーにはオポジットにドミトリー・ムセルスキーというあれだけの決定力のある大砲がいることで、「チームの中での自分の役割が何なのか」という疑問は少なからずありました。攻撃面の役割を担わせてもらっていながら、自分の役割がどれだけできているのかは、他のチームに移っても向き合い続けなきゃいけないところかなと思います。それにバレーボールは総合力が非常に重要だと思うので、攻撃だけではなく、以前から自分が課題に挙げている守備面も、次のチームではさらに必要とされるようにならなければいけないなとか、いろいろなことを考えながらの決断でした。

――非常に打数が多く決定率も高いムセルスキー選手がいる中で、自分が必要なのか、貢献できているのかが少し見えにくくなっていたということでしょうか。

柳田:単純に自分の中で満足していなかったんじゃないかなと思います。まだできることがあるかもしれないな、と。もちろん苦しい場面で彼に集まるのは必然だとは思うんですけど。自分は選手としても、プロとしても、トップを目指しているので、たとえ彼のような選手がコート内にいても、自分が決めたい思いはありますし、彼が合流するまで(昨季前半)は、自分もオポジットと同じぐらいの打数を打っていたので、そういう経験も経て、ですね。そこは誰が比較対象でも、妥協できないところではあるので。

そう言うんだったら、じゃあ他のチームではできるのか、というところは、これから体現して、さらにいい数字や決定率を残せるようにやっていきたいと思います。そこは誰にどうしてほしいということではなく、単純に僕自身の課題、自分自身のチャレンジとして、もっとできることがあったかなという思いです。逆に、あれだけのオポジットがいて、ブロックがそこに引き寄せられていた中で、僕がパイプを決めたりできていた部分もあると思うので、じゃあ次のシーズン、彼がいない別のチームで、そういう攻撃ができるのか、数字を残せるのか、自分でシチュエーションをつくれるのかも再トライになる。そういう意味でも新しい挑戦になるのかなと思います。

――疑問や存在意義というのはそういうことだったんですね。

柳田:サントリーが強かったことは間違いないです。2連覇していますし。そこは僕自身も自信を持って言えることです。その中で、じゃあそういうチームに対して、自分が相手だったとしたら、どうやって戦うか、どう倒すか、というところもちょっと気になりだした部分もあります。例えば、パナソニックパンサーズはすごく上手にバレーをしてくる。ああいうバレーが自分にもできるんだろうか?とか。キャリアは1回きりなので、そういう、やってみたいことをやりきって終わりたいな、というのもありました。まだ全然終わんないですけど(笑)。

海外移籍も「ゼロではなかった」。新天地にジェイテクトを選んだ理由

――新天地にジェイテクトを選んだのはどうしてですか?

柳田:ジェイテクトが早いタイミングで手を挙げてくださったというのがありますし、日本人オポジットで、外国人選手がアウトサイドに入る構成のチームにちょっと興味があったというところもあります。そういういろいろなことを考えて、ですね。

――ジェイテクトにも日本代表の西田有志選手、宮浦健人選手という非常に力のあるオポジットがそろっていますが、外国人オポジットのチームに比べると、アウトサイドヒッターの攻撃の比重が増すと?

柳田:そうですね。アウトサイドの仕事が増えるんじゃないかなとは思うので、僕としては願ったりかなったりです。サントリーでは、藤中(謙也)がパス(サーブレシーブ)をして、ムセルスキーが打つ、その比重がすごく大きかったんですけど、今度はたぶんそうもいかなくて、おそらく全体でバランスを取ってプレーしなければいけないと思うので、より精度や、相手への対策が求められると思う。そこに僕自身の成長の余地や、可能性があるのかなと感じています。

――今季のジェイテクトは、昨シーズン、イタリアでプレーしていた西田選手が復帰し、ポーランドでプレーしていたセッターの関田誠大選手も新たに加わります。西田選手とは代表で、関田選手とは東洋高校と代表でともに戦いましたが、その2人の加入もジェイテクトを選ぶ要因になりましたか?

柳田:2人の加入を知ったのは契約が決まるギリギリぐらいのタイミングだったんですが、「面白いかもな」と思って、そのまま話を進めたという感じですね。今年日本代表に入っているミドルブロッカーの村山(豪)をはじめ、着実に成長している選手も多いので、楽しみです。ただサントリーのようなサイズはないので、戦い方はまったく変わると思います。そこも僕自身は面白いかなと思っています。

――日本代表やサントリーでともに戦い、影響も受けた酒井大祐コーチの存在も大きいですか?

柳田:小さくはないですね(笑)。僕も含めて新しい選手が多い中、短期間でチームをつくらなきゃいけない状況だと思うんですけど、酒井さんはたくさんコミュニケーションを取ってくれる人ですし、そこは力を合わせて、開幕までにいいチームをつくれたらと、非常に頼りにさせてもらっています。

――移籍先として、再び海外リーグに行くという選択肢はありませんでしたか?

柳田:ゼロではなかったです。海外でプレーする魅力は本当に大きいですし、得るものも多いとは思うんですけど、環境に関しては日本のほうが上だと思いますし、現実的に年俸のことを考えても、今はまだコロナ禍の最中ですし、かなり厳しい。その中で海外に行くリスクは少し高いかなと感じました。海外とVリーグの移籍のタイミングはまったく違うので、海外に行くなら完全に別物として考えて、早く決めなければいけないというのもありますし、自分がどこのチームに行けるかというのもあります。

もちろん日本にも新しいチャレンジがたくさんありますし、今回でいえば、西田や関田、本間(隆太)さんや酒井さんとまた一緒にできて、国内でも得られるものはたくさんあるので、いろいろな要素を踏まえて、決断しました。海外も含めた、やれる可能性がある場所の中で、自分が一番やりたいところを選ぶ、ということ。それは今後も変わらないと思います。

<了>

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PROFILE
柳田将洋(やなぎだ・まさひろ)
1992年7月6日生まれ、東京都出身。Vリーグ・ジェイテクトSTINGS所属。ポジションはアウトサイドヒッター。186cm、80kg。東洋高校時に春の高校バレーで主将としてチームを牽引して優勝を経験。慶應義塾大学を経て、2015年にサントリーサンバーズに入団し、2015-16シーズンV・プレミアリーグで最優秀新人賞を受賞。2017年にプロ転向し、2017-18シーズンはドイツのビュール、2018-19シーズンはポーランドのクプルム・ルビン、2019-20シーズンはドイツのユナイテッド・バレーズでプレーした。2020年にサントリーに復帰し、2021-22シーズンのVリーグ2連覇や、2022年5月のアジアクラブ選手権準優勝に貢献。2022年7月、ジェイテクトSTINGSに移籍。日本代表には2013年に初選出され、数々の国際大会で活躍。主将も務めた。

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