「失点はすべてキーパーの責任?」日本のGK育成が目指す“世界一幸せな”未来、求める理解と環境づくり

Opinion
2022.10.28

固い土のグラウンドが少なくない日本の子どもたちのサッカー環境において、GKは嫌がられることも多いポジションだ。GKに対する理解の乏しい指導者が、失点したことに対してGKだけを怒鳴りつけるような場面を目にすることもある。その上で、日本から世界の舞台で活躍できるGKを輩出するためには、どのような取り組みが必要なのか。日本サッカー協会(JFA)で「ゴールキーパープロジェクト」のリーダーを務める川俣則幸氏が考える“理想的なGKの未来”とは?

(インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS副編集長]、写真=Getty Images)

代表チームや代表選手の活躍が自国のGK人気に直結する

――日本でGKはまだまだ人気のポジションというまでには至っていないと思います。GKを子どもたちの憧れのポジションにするためには何が必要だと考えますか?

川俣:これはGKに限らない話ですが、やっぱりFIFAワールドカップで日本代表が活躍すると、子どもたちのJFAへの選手登録数がグッと増えます。直近だと11月に行われるカタールワールドカップで日本代表が結果を出す、そしてそのなかでGKが活躍することが一番目に見える形で大事なポイントだと思います。

私は2002年の日韓ワールドカップでGKコーチをしていました。大会後に参加したトレセンで「どんなGKになりたい?」とGKの子どもたちに聞いてみたところ、残念ながら誰からも「楢崎正剛」という名前は挙がらず、みんなそろって「オリバー・カーン!」だったんです。ここで日本代表選手の名前が挙がるようにすることが大切だと当時から考えていました。

――現在もGKトレーニングをしている日本の子どもたちが着ているレプリカユニフォームの背中を見てみると、「NEUER(ノイアー)」や「COURTOIS(クルトワ)」と入っていることが多いように感じます。

川俣:実はこれと近い問題はイングランドも抱えていて、近年イングランド・プレミアリーグには優秀な外国人GKが集い、自国のGKの人気が低かったそうです。それが、2018年のロシアワールドカップのベスト4、2021年のUEFA EUROの準優勝にGKジョーダン・ピックフォードが大きく貢献して、少し持ち直したのだと。かつてはGK王国といわれたイングランドでも代表チームや代表選手の活躍が自国のGK人気に直結するわけです。

天然芝の恵まれたピッチにGKを集めて…各地で好事例は出てきている

――グラスルーツでのGK人気を高める取り組みはいかがでしょう?

川俣:まずは環境面ですよね。「GKをやりたい!」と思えるような環境をつくっていかなければなりません。ロシアワールドカップ時に川島永嗣選手のミスが大きな話題となり、激しいバッシングが浴びせられました。GKのプレーが注目され、議論になることは一つの進歩ではあるのかもしれません。一方で、「失点はすべてGKの責任なのか?」「そもそもGKは一つもミスの許されないポジションなのか?」、このあたりの考え方は少しずつ変えていかないといけないと思います。そしてグラウンド環境も大切です。全国的に人工芝でサッカーができる環境は少しずつ増えてきてはいますが、まだまだ土のグラウンドでの試合・練習環境も多く、GKにとって理想的な環境とはいえません。

――固い土のグラウンドではなかなか「GKをやりたい!」という感情は持てないかもしれません。

川俣: JFAでは「JFAグリーンプロジェクト」という施設整備助成事業を通して、日本全国にこれまで100コート近い天然芝・人工芝の施設を整備してきました。子どもたちにより良いサッカー環境を提供するため、今後もこういった活動を続けていくことはわれわれ大人の役割だと思います。

――実際にそういった施設を活用して、各都道府県で育成年代のGKを集めたトレーニングなどは実施されているのですか?

川俣:そうですね。現在は全国の各都道府県のサッカー協会内に、GKに特化した取り組みを行う「ゴールキーパープロジェクト」があります。そのため、新設されたばかりの天然芝の恵まれたグラウンドにGKを集めて、キーパートレセンを行うなどの好事例は出てきています。一方で、例えば東京のような都会の場合、なかなか新たにグラウンドを整備する場所が見つからないなどの問題もあります。このような課題は日本サッカー界全体として考えていかなければならないと思います。

「キーパーについてはわからない」とは言えない環境づくり

――先ほどのお話にも出てきた「失点はすべてGKの責任?」「GKはミスが許されない?」という点は、育成年代でも考えなければならない問題です。実際にGKをやっている子どもが、失点や一つのミスに対して指導者から厳しく怒られている場面を目にすることもあります。GKに対する専門的な知識のない指導者に対してはどのようにアプローチするべきでしょうか?

川俣:われわれも指導者ライセンスを持っている方、持っていない方にこだわらず、リフレッシュ研修やオンラインのウェビナーなどを通して、育成年代の指導に関わる皆さんにGKについて関心を持っていただくような取り組みを続けています。皆さんもGKを責めたくて責めているわけではないので、GKへの理解、失点に対する分析力を上げることで解決できる問題だと考えています。

――GK専門ではない、一般の指導者ライセンスにもGKに対する講習はしっかりと含まれているのですか?

川俣:必ず入っています。一泊二日で行われるD級の講習のなかでも、GKに対する最低限の知識をお伝えしています。C級では、GKの試合中の役割と必要な技術についての講義を行います。また、そこで見たテクニックを実際にグラウンド上で体験して、ゲーム形式を見ながら、GKの基本的な役割とテクニックの分析を経験していただきます。さらにB級、A級、S級となるにつれて、より専門的に突き詰めたGKの役割について学びます。特にゲーム形式のなかで、GKを含めて指導し、オーガナイズすることを求めていきます。なので、8万人近くおられる指導者ライセンスを持つ皆さんは、必ずGKに対する最低限の理解はお持ちのはずです。つまり、ライセンスを持っている以上、「『キーパーについてはわからない』とは言えませんよね?」といえる環境は整っています。

――より深くGKについて理解するため、GKコーチではない方がGKの指導者ライセンスを受講される場合もあるのですか?

川俣:はい。ここ最近の傾向ですと、現在でGKコーチの初級であるGKレベル1コースでは、全体の30%ほどの方々がGK経験のない方になります。子どもたちを指導する上で、専門のGKコーチもいないし、そもそも指導者は自分一人しかいないので、GKの選手も指導してあげたいという指導者の参加が多いです。

――U-12年代を中心としたGK レベル1コーチの指導者養成講習会には年間でどれくらいの方が受けられるのですか?

川俣:年間で約400人の方が受講しています。昨年からは、これまで10会場で行っていた受講場所を、GKレベル1については全国のインストラクターが準備できる各都道府県で開催できるような形に整備したので、今後はさらに増えていくのではないかと思います。このようなGKの専門的な指導を受ける環境を増やすための地道な努力は今後も続けてきたいと考えています。

「GKというポジジョンは何のためにあるのか?」

――川俣さんは、どういった適性を持った選手が“理想的なGK”であると考えていますか?

川俣:「GKというポジジョンは何のためにあるのか?」。このことを理解できていることが一番大事だと思うんです。サッカーはボールゲームで、勝ち負けを競うゲームです。そのなかの一つのポジションとしてGKには何が求められるのか? 結局、ゴールキーピングだけじゃないですよね。現代サッカーでは足元のテクニックも当然必要とされますし、GKもフィールドプレーヤーと一体になって攻守に参加することが求められています。その意味で、われわれは従来の「ゴールキーパー」ではなく、「ゴールプレーヤー」だという言い方をして、GKに対する意識を変えていく必要があると発信しています。

――そのような意識を持った日本人選手を生み出すことが、「世界一のGKを日本から輩出する」という目標に近づく道であると。

川俣:今までだと、欧州の舞台で活躍する海外のGKたちを見て、自分たちに足りないものばかり探してきたと思うんです。あれがない、これが足りない。だけどそうではなくて、目的から逆算して、日本代表がワールドカップで優勝するためには、どんなチームになっているべきなのか。そこから導き出されるGK像って何だろうか。どんな要素があればいいだろうか。そうやって考えていくと、求めていくべき理想像が明確になってくるのではないかと。

――これまで世界から多くを学び続けてきたなかで、今後は世界に勝つ方法を模索しなければいけません。

川俣:日本から2m近い選手がたくさん生まれるかというと、それは難しいと思います。ですが、非常に敏捷性があってゴール前のエリアを広くカバーでき、相手の攻撃を予測しながら的確なポジショニングが取れる。そのような高い技術、戦術理解度、判断力を持ったインテリジェンスの高いGK。そういった部分は日本のGKの武器となるはずです。そこに加えて、これまでは日本人の苦手分野だといわれてきた、味方をオーガナイズできる高いコミュニケーション能力、どんな逆境にも打ち勝つ強いメンタリティー、そういった部分でも世界と伍する日本人選手が出てきています。

「サッカーを通じて、世界一幸せな国になる」

――日本のGK育成は順調に目指すべき方向に進んでいるのでしょうか?

川俣:Jリーグが一時、外国籍のGKたちに席巻されて、JFA内でも危機感に包まれた時期がありました。「J1のGKはみんな外国人選手じゃないか。どうするんだ!」と。ですが、そのときすでに若い選手が育ってきているのはわかっていたので、「あと2、3年待ってください。必ず若い選手が育ってきますから」と話したことをいまでもよく覚えています。

――昨シーズンのJ1では、湘南ベルマーレの谷晃生選手、鹿島アントラーズの沖悠哉選手、サンフレッチェ広島の大迫敬介選手が正守護神としてゴールを守り、浦和レッズの鈴木彩艶選手も大きなインパクトを残しました。今季も柏レイソルの佐々木雅士選手が弱冠20歳ながらレギュラーGKを担っています。

川俣:もちろん彼らのような優秀な選手が2、3年後には出てくるという裏づけはあったわけですが、本当にそういうものが形になるには時間がかかるわけです。今後も常に5年後、10年後を見据えて、正しい方向性を模索しながら活動していきたいと思います。

――最後にこれから実現させたい一番の目標についてお聞かせください。

川俣:ちょうどこの夏に、日本のサッカーの指針「Japan’s Way」を改めて考えたなかで、「サッカーを通じて、世界一幸せな国になる」という話が最初に出てきて、なるほどこれだなと。それが実現できれば、ワールドカップ優勝という目標にもつながっていくはずです。そして、ただトップトップを目指すということだけではなく、サッカーをやっている誰もが楽しくプレーしていることが大事です。

そのなかの一つのポジションであるGKも、まずは日本を代表する選手たちが海外に挑戦し、UEFAチャンピオンズリーグのような世界最高峰の舞台で活躍すること。それが、日本人GKが世界で通用するという一つの証明になると思います。そして、GKとしてプレーする誰もが「キーパーやっててよかった」と思えるようなポジションにしていきたいですし、そのためにわれわれは何をしなければいけないかを考え続けたいと思います。

<了>

【第1回連載】日本で「世界一のGK」は育成できない? 10代でJデビューして欧州移籍。世代を超えて築く“目標設定”

【第2回連載】なぜJリーグで「若手GK」が輝き始めたのか? 育成システムの礎を築いた“4つの柱”と今後の課題

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[PROFILE]
川俣則幸(かわまた・のりゆき)
1967年5月9日生まれ、埼玉県出身。JFA GKプロジェクトリーダー。サッカー指導者。筑波大学大学院に進学し、JSL・日立制作所サッカー部に1シーズン所属して現役を引退。引退後は指導者の道に進み、日産自動車および横浜マリノス(ともに現横浜F・マリノス)で日本人初のフィジカルコーチを務め、1997年より名古屋グランパスエイト(現名古屋グランパス)、2000年より湘南ベルマーレでGKコーチを務める。その後、各年代日本代表スタッフとして、2002年FIFAワールドカップ日韓大会の日本代表、2004年アテネ五輪、2008年北京五輪のU-23日本代表などでGKコーチを歴任。現在は日本サッカー協会所属。

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