
セリエAで2冠達成、出場時間世界一。なでしこCB南萌華が辿った激動の一年「ソーラン節を踊ってチームに馴染んだ」
昨シーズン、三菱重工浦和レッズレディースからセリエAのASローマに移籍したDF南萌華は、主力としてセリエAとスーパー杯の2冠制覇に貢献し、リーグのベストイレブンにも選出された。UEFA女子チャンピオンズリーグではベスト8に進出し、FIFPRO(国際プロサッカー選手会)が今年5月に発表した、世界で最も出場時間が長かった女子選手ランキングでは各国のトッププレーヤーを抑えて1位に。なでしこジャパンの守備の要として期待される24歳のセンターバックに、激動のルーキーイヤーを振り返ってもらった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=なかしまだいすけ/アフロ)
セリエA初優勝。スーペルコッパ、セリエA(スクデット)の2冠
――昨年7月にセリエAのローマに移籍し、主力として初優勝の原動力になりました。激動の1年だったんじゃないですか?
南:そうですね。日本だと週に1回のペースでしたが、イタリアでは試合のスパンが短かったのであっという間だった感じもしますし、試合数が多かったので長かった気もします。
――ローマでは、男子を含めて中田英寿選手以来となるセリエAのスクデットを獲得して、スーパー杯との2冠を達成しました。ライバル・ユベントスとの頂上決戦が白熱しましたが、攻撃的なサッカーで大差をつけて初優勝しました。各国の代表選手がスタメンに並ぶ選手層の厚さもあったと思いますが、優勝できた一番の要因はどんなことだと思いますか?
南:リーグ戦はシーズンを通してどれだけ勝ち続けられるかが大事だと思いますが、ローマが勝ち続けていた時期にキャプテンのエリーサ(・バルトリ)が選手たちを集めて、「今はいいけど、これがずっと続くわけではないし、負けた時にチームが崩れてしまうのが一番良くない。負ける時がきても、勝ち続けていた時のムードを保とう」と話してくれました。エリーサはすごく熱い選手で、常にチームのことを考えてくれるんですが、勝っている時に全員を集めてそういう話をしてくれたのは大きくて、サブの選手もモチベーション高く練習に臨んでいましたし、みんなの気持ちが一つになっていたなと感じていました。
――新加入選手もいる中で、快進撃を続けられたのはチームの雰囲気を保ち続けられたことも大きかったんですね。
南:そうですね。チームとしては一からのスタートだったので、最初の練習試合はフィオレンティーナに0−3で負けて、大丈夫かなという感じでした。ただ、(UEFA女子)チャンピオンズリーグの一次予選で勝ってからグッと一致団結した感じがあって。いろいろな国の選手たちがいるからこそ、まとまって一つになった時に大きな力が発揮できたのはあると思います。
――イタリアは戦術面では細かそうな印象がありますが、その点はどうでしたか?
南:ローマはアグレッシブなサッカーを目指していて、分析の中で相手のフォーメーションによっては3バックと4バックを併用したり、サイドの選手を変えたりすることもあったのですが、基本的には攻撃も守備も、相手に合わせるというより自分たちのスタイルを貫いていました。
ソーラン節を踊ってチームに馴染んだ
――言葉の壁もある中で、チームにはすぐに溶け込めたんですか?
南:イタリアに行ってすぐ、10日間前後の合宿があったんです。新加入選手もたくさんいて、みんながお互いに慣れていく期間だったんですが、そこで川下りなどのアクティビティをやって、言葉がまったくわからない中でも一緒に時間を過ごしたことで一気に馴染みましたね。夜、パーティをした時に新加入選手はそれぞれ何かを披露することになったんですが、「日本ならではの踊りはないのか」と言われて(笑)。そこでソーラン節を踊ったんです。
――とんでもない無茶振りに、見事に応えましたね(笑)。
南:はい(笑)。ソーラン節はかなり前に踊ったことがあったので、一日かけて練習して、ユースの若手選手2人と一緒に踊りました。それが結構ウケて(笑)。そういうことがあったから早く慣れることができたと思いますし、逆に普通の練習だったら馴染むのにもっと時間がかかっていたのかな、という感じもします。
――イタリアはプロリーグ1年目(10チーム)で、ローマも様々な国から選手が集まっていましたが、多様性を肌で感じましたか?
南:そうですね。ヨーロッパのいろんな国から選手が集まっていたので、いろいろな言語が飛び交っていましたし、国柄によって選手たちの雰囲気もまったく違っていました。イタリアの選手はこういう雰囲気で、スウェーデンの選手はこういう感じで、ノルウェーはこういう感じか、というふうに観察するのもすごく楽しかったですね。個人的には、練習の合間にイタリア語のレッスンを入れていたのですが、試合が多すぎて進みが遅くて(笑)。でも、カフェで注文してみるなど、日常生活の中でも少しずつ覚えましたし、毎日使うサッカーの言葉はすぐに覚えましたね。
公式戦の数はWEリーグの2倍に
――今年5月にFIFPROが発表した、「最も出場時間が長かった選手」ランキングでは、各国代表選手たちを抑えて1位に輝きました。日本でプレーしていた時の約2倍の公式戦をこなしましたが、相当ハードでしたよね。
南:イタリアに行って最初の頃は、正直、何の大会かわからない試合を次々にこなしていた感じだったんです。「大事な試合」ということはわかっていたんですが、カップ戦などの仕組みもあまりよくわかっていなくて。そのような感じで試合を重ねていったので、ランキングが発表されたときに「こんなに試合に出ていたんだ!」と自分でも驚きました(笑)。周りからも「すごい試合に出ているよね」と言われていたんですが、それに気づく暇もないぐらいの感じでしたね。
――クラブハウスでセルフケアをする時間が長くなったと以前話していましたが、それでも疲れが溜まって「きつい」と感じることはなかったですか?
南:WEリーグでプレーしていた時は週1回の試合でも体がきつい感じだったので、イタリアの連戦に対応できるかな?と不安だったんですが、ローマで試合をこなせばこなすほど体が慣れていく感じで、試合のペースに合わせてしっかり休むようになりました。トレーニング前のケアやストレッチも時間をかけてやるようになって、自分の体がどういうふうに回復していくのかを探りながら試合のサイクルに少しずつ慣れていくことができましたね。
――それは今後、海外挑戦する選手たちにも参考になりますね。ヨーロッパは芝の状態やプレーの強度もWEリーグとはかなり違うと思いますが、ケガをしないように心がけたことは?
南:日本ではきれいな天然芝のピッチで試合をすることに慣れていたんですが、イタリアでは人工芝のスタジアムがいくつかあって、天然芝も、雨が降るとぐちゃぐちゃになってしまって。中にはスライディングしたらお尻を打撲するぐらい硬いグラウンドもあったので、最初は調整がすごく難しかったです。人工芝だとぐっと踏み込んだ時に滑ってしまうことがあるので、ステップの数を増やしてターンしたり、グラウンドによって対応を変えたりしていました。日本だとほとんどのグラウンドは固定式のスパイクでいけるのですが、イタリアでは固定式のスパイクと取替え式のスパイクを使い分けていて、そのために毎試合、グラウンドチェックをしっかりしていましたね。
――その中でハードな連戦をこなしたんですね。公式戦を50試合近くこなした中で、一番印象に残っているのはどの試合ですか?
南:今年3月のチャンピオンズリーグの準々決勝でバルセロナに敗れた(2戦合計1-6)試合は、ホームもアウェーも特別な経験でした。バルセロナのグラハム・ハンセン選手は、トップスピードでドリブルしながら、そこで切り返せるの? と驚くほど動きにキレがあって。海外にはすごい選手たちがいるなと思いましたし、自分の中の基準が一つ上がった気がします。
WEリーグが見習いたいセリエAの環境面
――ローマはチャンピオンズリーグ準決勝のバルセロナ戦で、男子チームのホームスタジアムであるスタジオ・オリンピコに3万9454人の観客を集めてイタリア女子サッカーの新記録を更新しました。南選手もサポーターから大人気でしたが、イタリアの観客の熱さを肌で感じることはありましたか?
南:そうですね。ホームスタジアム(Stadio Tre Fontane)は日本よりも小さくて、リーグ戦は入っても2000人ぐらいですが、その2000人がすごい熱量で応援してくれていました。シーズン初めよりも終わりのほうが確実に人も増えて、その盛り上がりを肌で感じたことはすごく力になりましたね。
プロとして、試合を見にきてくれた人が「また見たい」と思ってくれるようなプレーができているのか自問自答することもあったんですが、実際に「また来たい」と言ってくれる人がいたり、「南選手がローマに来てから女子サッカーを見るようになって、好きになりました」と声をかけてくれる日本人の方もいて。そういう言葉を聞くと、サッカーをやっていて良かった、勇気を持って海外に挑戦して良かったなと感じましたね。
――環境面で、WEリーグにフィードバックできそうなことはありましたか?
南: WEリーグを外から見た時に感じることがいろいろありました。WEリーグは、5000席以上を有するホームスタジアムが必要という規定がありますよね。セリエAは同じプロリーグでも、そういう規定を満たしていないチームが結構あるんですよ。でも、「今シーズンは規定を満たしていなくても、来シーズンはこれを満たさなければいけないよ」ということをリーグがチームに要求しながら、徐々に環境を良くしていく、という感じなんです。
WEリーグは最初の規定が高くて参入できないチームもあると思いますし、徐々に良くしていく形でもいいんじゃないかな? と思います。ローマのようにこじんまりしたスタジアムでも、2000人入ればたくさんの人が来てくれているように感じますし、収容人数が大きくてポツポツと人が散ったスタジアムだと、写真を撮っても全然人がいない印象になってしまうじゃないですか。そういう見せ方の部分も大切だと思うし、スタジアム使用料が高い分、試合数を減らさなければいけない、ということにもなってしまうと思うので。
イタリアは日本に比べて環境が整っていないところも多いですが、プロとして多くのお客さんに来てもらうための取り組みとか、徐々に環境を良くしていく、という面では見習えるところもあるんじゃないかなと思います。
<了>
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[PROFILE]
南萌華(みなみ・もえか)
1998年12月7日生まれ、埼玉県出身。イタリア・セリエAのASローマ所属の女子プロサッカー選手。三菱重工浦和レッズレディースのジュニアユースを経て、2017年にトップチームに昇格。2018年のFIFA U-20女子ワールドカップフランス大会ではキャプテンとして日本を優勝に導いた。翌年、なでしこジャパン(日本女子代表)デビューを果たした。2022年7月にASローマへの移籍を発表し、1年目でスーパー杯とセリエAを制し、国内2冠を達成。UEFA女子チャンピオンズリーグはベスト8進出に貢献し、国内ベストイレブンにも選ばれた。172cmの高さと1対1の強さを武器に、7月のFIFA女子ワールドカップでは守備の軸として活躍が期待される。
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