ロッカールームで進路が決まる? ラグビー新人採用の知られざる“価値観の変化”

Opinion
2026.05.01

リーグワン発足以降、ラグビー界の人材獲得競争は確実に変化している。だからこそ、新人たちは自ら進路を選び、クラブもまた“選ばれる側”になる。そのなかで、クラブは何を基準に選手を採り、選手はどんな軸で進路を決めているのか。選手が「強いチームに入る」だけではない、「自分に合う環境」を見極める時代へ。新人たちの選択を追うと、ラグビー界の現在地が見えてくる。

(文=向風見也、写真提供=JRLO)

新人で10トライ。アーリーエントリーが生んだ“即戦力”

日本ラグビー界ではシーズン中にルーキーが入団する。

国内トップのリーグワンが12月から翌春(今年は6月)まであるため、新年度の入部選手は大学4年生が学生ラストイヤーを終えるタイミングで順次、加入を発表。1月上旬の大学選手権決勝が終わってからは「アーリーエントリー」という枠組みで公式戦にも出られるので、人によっては冬場のシーズン序盤戦からフィールドに立てる。

今季は天理大学前主将の上ノ坊駿介が、首位争いをするコベルコ神戸スティーラーズで躍動。2月7日の第7節でデビュー戦ハットトリックを決めてから、正フルバックに定着。生来のスペース感覚とランスキルで局面を打開。第16節までに10試合で10トライを決め、アーリーエントリー組初の新人賞獲得に近づきつつある。

プロとしてのキャリアの1ページ目を輝かせながら、大舞台で堂々と戦う。

「関西(大学Aリーグなど)ではこんなに(リーグワンほど)人が入る試合はなかなかなかった。観客席からさまざまな声をいただいたので、興奮というか、楽しかったです」

そう語ったのは東京・秩父宮ラグビー場での第8節の直後。スティーラーズにおいて、組織の一員として動く大事さを学んでいる最中だという。

「大学では目の前のスペースにアタックすることを意識していたのですが、ここではラインのタメ、外からのコミュニケーションが求められる。試合中、細かいところまでしゃべっています。自分の好きなアングル(で走り込む)だけではなく、連係して周りを活かすことも大事です」

チームを選ぶ側、採用する側のスタンスが多彩化

ラグビーにはドラフト制度はない。トップレベルでプレーしたい選手は、原則的に自由意思で進路を決める。行きたいチームに自らアプローチしたり、自分を誘ってくれているチームを見学して回ったりし、決断する。

リーグワンの各クラブは1人もしくは複数の採用担当者を擁する。事実上のスカウトだ。有力な参入希望者が多い関東や関西の大学シーンを軸にあちこちへネットワークを張り、それぞれの眼力、価値観に倣い、タレントの発掘や好選手を対象とした他チームとの獲得合戦に力を注ぐ。

かつてはその時の上位チームがドラフトでいう「上位候補」と相思相愛になりやすかったが、最近ではその流れが一本調子ではなくなっている。学生側の志向も、採用側のスタンスも多彩化してきているからだ。

採用される学生側に見られるのは、自己肯定感や自分の価値観を重んじる傾向だ。

各種のインタビューによれば、時の人となった上ノ坊は自身の地元が神戸であったことなどからスティーラーズ入りを決意。その他、いくつかのクラブが実施する2026年度入部組の入団会見でよく聞かれたフレーズは、「自分に合っている」。各自、自身のキャラクターを把握し、どんな場所なら望み通りに成長できるかを考えている。

ブルーレヴズが証明する“育成型クラブ”の価値

20歳以下日本代表でも活躍した立命館大学出身ウイングの御池蓮二は、このほど静岡ブルーレヴズに入った。

設備や選手層の充実した関東圏のクラブと二者択一を迫られるなか、「どっちが自分に合っているか」という観点で選んだ。実戦練習で素早い動きを繰り広げる既存選手が、グラウンド外で親しげに語りかけてくれる空気が好きになった。

立命館大学時代からの直属の先輩で昨季新人賞の北村瞬太郎には、「厳しい世界だけど、頑張れ」と声をかけられ、気持ちが引き締まった。

「(戦術的には)どこのエリアからもアタックマインドがある。僕のポジションのボールタッチは増える。わくわくします」

ブルーレヴズには伝統がある。旧ヤマハ発動機ジュビロ時代から、その時々の日本人指導者が一芸に秀でた逸材をひとかどの存在に磨いてきた。

御池に発破をかけたスクラムハーフの北村は、元日本代表チームディレクターの藤井雄一郎監督の展開スタイルに適応して出世。かつて同大からテスト入団したフッカーの日野剛志は、入部当時にいた清宮克幸前監督のもと機動力を発揮。2014年度の日本選手権制覇、16年の自身の代表デビューを経て、36歳のいまなお主力を張る。

ここで見られるサクセスロードに惹かれた若者には他に、能勢涼太郎がいる。

近畿大学出身で身長197センチのロックは、全国的に無名な川西北陵高校時代に原石発掘プロジェクトである通称「ビッグマン&ファストマンキャンプ」を経て年代別の代表に名を連ねるまでになった経緯がある。

合流して間もなかった2月、本拠地のトレーニング場では主力組から離れた場所でタックルやコンタクトの基本練習を延々と繰り返していた。「2年くらいは下積みというスタンスで育てていくよと伝えられました」と、雌伏の時を前向きに過ごす。

チームのお家芸であるスクラムのイロハを学び、その感触を熱っぽく語る。

「組み方一つ一つにこだわりが設定されている。セットアップ(予備動作)の段階からロックの頭の位置が決まっていて…楽しみっすね。『レヴズのスクラム』を(大舞台で)組むのが」

大学生リクルート市場の「あるある」とは?

自身が人生を預ける場所だからこそ、そのチームが強いかどうかと同時にどんな空気なのか、何を大事にしているのかも気になるのは当然だ。

明治大学前副将で在学中に日本代表となった利川桐生は、複数のラブコールのうち温かさで知られるクボタスピアーズ船橋・東京ベイを選択。2022年度に初優勝、24年度に準優勝と頂点を争うクラブのトレーニングに参加し、決意した。

「全員がチームの目標へ真っすぐに進んでゆくところに強く惹かれ、決めました。アットホームで、本当に強いチームだと感じました」

人生選択は千差万別だ。所属大学と加入するチームとの距離が近いことが進路の決め手になった選手もいれば、シンプルに各国代表選手との競争から学びたいからと層の厚い組織へ進んだ選手もいる。それぞれの根っこに流れるのは、自分の思う自分がどの環境に適合するかに関する浅くない考察だ。

その肌感覚は、声をかけられたうち、行くのを見送ったチームの特徴を話す言葉からもにじんでくる。チームワークや育成環境を重視したある学生選手は、総じて練習参加した際の雰囲気がよくないと察した時点で採用担当に断りを入れた。

家族的な雰囲気が売りで近年は上位争いの常連でもあるクラブの若き主力の一人は、学生時代に見学に出かけた別のチームのロッカー室でヘッドコーチの悪口を言い合う選手たちを見て選択肢から外したと明かす。客人がいるのにこの調子であれば、普段はいかばかりかと想像した。

 

ちなみに数年前まで採用畑で活躍した関係者によると、ロッカー室の会話で行くチームを選ぶのは大学生リクルート市場の「あるある」だという。

いくら採用がチームのよいところをプレゼンしても、隠しようのない日常で力のある学生にそっぽを向かれてしまうのはもったいない。そんな悪循環を断つべく、複数の採用担当者が学生に求めるマインドセットがある。

他責思考に陥らないことだ。

リーグワンができた2022年度以来、移籍が活発になって年俸は高騰化。集まる外国人選手のグレードでチーム間の差がそれほど大きくはなくなっている。

渦中、それぞれが補強したいポジションへ技術や身体能力の高い学生を入れようとしているのだが、同時に、在籍する選手がポジティブに働ける文化づくりにも重きを置く。

なかでも、低迷を経験した上位候補のクラブの採用担当は「負けていた時は文句が多かった」と口を揃える。声をかけた学生が前向きな言葉を選んでいるかどうかもよく観察するようだ。

「すぐ出たい」では通用しない。採用側の見極めのリアル

ブレイブルーパスの「アシスタントGM兼採用担当」として骨太なタレントを求める藤井淳は、京都産業大学から2025年度入社の日吉健を採用する際に一つの「テスト」を施した。

日吉はもともとフランカーとしてタフさに定評も、身長180センチとトップ級にあってやや小柄だった。

藤井は、身長の問われにくいフッカーにコンバートするのならブレイブルーパスでチャンスがあると本人に通告。その瞬間、少しでも躊躇したら縁がなかったと捉えると決めた。

「やります」と即答された。

都内での全体練習へ招き、必死に身体をぶつけ合うさまを見届け、自身の後輩でベテラン選手の森太志に「大丈夫です」と太鼓判を押してもらったことで実質的な「内定」に至った。果たして日吉は、実質1年目の今シーズンに早くも1軍デビュー。想定以上の出世スピードに藤井は驚いていた。

近年は「リーグワンで早く試合に出たい」と志向する学生が増えたなか、藤井は採りたい選手へあえて「(出番を得るまで)数年かかる」と返すこともある。練習や公式戦の強度が、学生同士のそれとは段違いであるのを明確に示す。

それでも挑もうとする人間にこそ、門を潜って欲しいからだ。

「努力する選手はたくさんいますが、努力し続けられる選手はあまりいない。ただ、われわれは泥臭いチームで、フィジカルも高いレベルが求められます。その環境下では、努力し続けられるかが重要です」

ただ突き放すだけではなく、当該の選手と、その選手に近いタイプのレギュラーとの違いや差を埋めるための育成プランも提案する。

その情熱に惹かれて府中の古豪へ集った2026年度組は計5人。その一人が東洋大学にいたアダム・タマティだ。爆発力が売りのセンターは慎ましく述べた。

「入ったからといってすぐに出られるわけではないのは当然。トップレベルでやる以上、尊敬、信頼は生き様で勝ち取るものだと思っています」

雇用形態は専業のプロ選手、社業と両立する社員選手とさまざま。才能はもちろん人格を利して人生を勝ち取ってゆく。

<了>

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