「カテゴリ問題」は差別論のみが本質ではない。リーグワンが抱える“競争力低下”と“構造の歪み”
国籍差別である――。リーグワンが来季から導入する新たな「カテゴリ」分けの制度をめぐり、そんな批判が噴出している。もちろん、人権や公平性の観点は決して軽視されるべきではない。実際、日本国籍を取得し、日本ラグビー界に貢献してきた選手たちが強い違和感を抱くのも自然なことだろう。ただ今回の騒動は、それだけでは片づけられない。背景にあるのは、日本人育成、リーグの競争力、サラリー高騰、そして未成熟な制度設計……。リーグワンが抱える構造の課題ではないだろうか。
(文=向風見也、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)
「差別か否か」だけでは見えない。“カテゴリ問題”の本質
国籍差別などもってのほかだ。ただ、これを差別論としてのみ語るのは問題の本質とは異なる。
日本ラグビー界最高峰のリーグワンが来季から採用する、選手の出場枠のことだ。昨年5月に決まり、来年12月からの新シーズンから採用される新たな取り決めである。
新法のもとで出番を減らしかねない海外ルーツの日本国籍保持者は、弁護士を伴い公正取引委員会に申告した。
以後、一般社団法人ジャパンラグビーリーグワン(JRLO)が1時間40分超にわたり会見を行ったものの、最初に定めたルールは変えないと強調した。
おかげで火に油を注いでしまったのだが、今度の件の本質は、人権問題というより業界の組織的課題を見直す契機とされるべきだ。
前身の旧トップリーグがリーグワンに移行し、開幕したのが2022年。再編の狙いに代表強化の促進があったのを踏まえ、選手の出場枠には海外選手の出やすい形が採られた。
国際統括団体のワールドラグビーの定めでは、一つの国の協会に5年以上登録(2024年7月までは連続居住)した代表未経験者はルーツやパスポートを問わずにその国のナショナルチーム入りを目指せる。リーグワンはこの理念のもと、プレーヤーを3つの「カテゴリ」に分けた。
日本代表になれる資格があれば国籍を問わず「カテゴリA」として扱われ、出場枠は無制限。旧トップリーグでは日本国籍保持者が外国人枠とは別にプレー機会が得られていたため、代表資格を持たない日本国籍保持者も「カテゴリA」に回った。リーグの説明曰く「移行期間」の措置として、である。なお、日本代表資格を獲得見込みの選手が「カテゴリB」、他国の代表歴があり、日本代表になる可能性のない選手が「カテゴリC」となる。
海外発の「カテゴリA」勢は持ち前の骨格、筋力でゲームの強度を上げた。「カテゴリA」の海外勢には、加入前の実績よりも隠れたポテンシャルや加入後の育成で光るタレントも多い。そのため海外出身の「カテゴリA」の面々には、老舗の名門を新興クラブが倒す際の立役者となることも多かった。リーグ内の競争率は高まった。昨年度の1部・全18節の点差平均「15.9」。それまでの4季で最も低かった。
かくもいまのリーグワンを面白くする現行制度が見直されると決まったのは、昨年5月。僅差のゲームが増えた昨シーズンの終盤に差し掛かった頃だ。
その数カ月前から、一部のチームが日本人選手の育成を名目に制度変更を提案してきたのだ。リーグはそれら複数のニーズを受け、戦力や競技力の異なる1~3部の全クラブの幹部を複数の分科会へ配置。そのうち一つのグループへ「カテゴリ」についての議論を任せた。
そこで作られた叩き台をもとに、全チームへ微修正案を投げかけるなどし、リーグの言い分で表すところの「全会一致」でいま話題のレギュレーションを定めた。
日本代表30キャップ以上のハードルは適正か?
新しい制度の目玉は、「カテゴリA」の解体だ。
これまで国籍を問わず横並びになっていた「カテゴリA」が、「カテゴリA-1」「カテゴリA-2」に分かれた。
「カテゴリA-1」は、日本で生まれたか、両親か祖父母のうち一人が日本出生であるか、日本の義務教育9年のうち6年以上を受けた選手である。「カテゴリA-1」は同時出場15名中8名以上がマストだ。日本生まれの選手の一定の出場枠が担保される。
発言の根拠にどれだけの科学的証拠があるかはさておき、JRLOの玉塚元一理事長は強調する。
「日本で育ち、ラグビーに取り組んできた子どもたちや若い世代がリーグワンをより身近な目標として捉え、『いつかあの舞台に立ちたい』と思える環境に整えること(が目的)」
それ以外の元「カテゴリA」は、原則として一律で「カテゴリA-2」となる。国籍や過去の実績を問わず一律で後者に回り、国際的な実力者を含めた「カテゴリB」「カテゴリC」の面々と限られた出場枠を争うこととなる。
「カテゴリA-2」が「カテゴリA-1」へ「優遇」される方法はある。それは当該の選手が日本代表30キャップ以上を取ることだ。キャップとは、代表戦への出場数を指す。
これは世界中のほとんどの選手にとって難しいハードルと言える。
レギュレーションが定まった昨年5月の段階で、この条件を満たしていたのはワールドカップ4度出場のリーチマイケルら3人のみ。全25チームの全選手のうち、3人のみだ。そのうち一人は今季限りで引退する。
そのため議論の過程では10~20キャップ程度での「昇格」が妥当ではという声があった。それでも最後は、リーグ側によると全体の「公平性」などを鑑み30キャップという境界線が敷かれた。
来季までにはさらに「カテゴリA-1」に優遇される選手は増える見込みだが、そもそも初来日した「カテゴリB」の選手が「カテゴリA-2」になるまでに4シーズン経過しなければならない。繰り返せば、ルーツを持たない国で代表になるには、その国の協会での5年連続の登録が必要だからだ。
日本人を増やせば強くなる? 現場が抱く競争力低下への危機感
リーグ側は「全会一致」と説明する一方、複数のクラブ関係者の言質に温度差のあったこの取り組みの最大の問題は、競争力の低下が見込まれる点だろう。
ラグビーはコンタクトスポーツだ。その現実を踏まえ、歴代の日本代表はフィジカルバトルの多い位置に複数の海外出身者を起用してきた(この点にも補足説明を擁するが別稿に譲る)。
こうした現実を踏まえて、人材発掘に定評のある強豪チームの幹部は「(新制度は)長い目で見たら日本人強化につながるかもしれないが、ワールドカップ(2027年にオーストラリアで開催)の前年が始めるタイミングとして妥当なのだろうか」と首をかしげる。勝負をかける大会の直前に国内リーグの激しさに制限をかけるリスクが気になるからだろう。
賛成派、反対派にかかわらず、オン・ザ・フィールドの現実を知る人ほど、一時的なレベルの停滞を予期している。
代表強化に及ぶ影響はそれだけではない。
新制度の仕組み上、チームは「カテゴリA-2」の選手の出番を削る代わりに、代表資格のない「カテゴリB」を数多く起用できる。そうなれば、脂ののった海外リーグの主戦級である「カテゴリB」を数年おきに入れ替え、経験次第で日本代表の軸を担える「カテゴリA-2」のメンバーを在籍させなかったり、控えに回したりするクラブがあっても不思議ではない。
新制度のもとでの日本ラグビー界の行く末を案じる指導者の一人は、昨年の決定を受けてリーグ幹部に見直しを直訴。具体的な問題点を指摘したところ、生じうるリスクについてJRLO幹部は「まったくわかっていなかった」と落胆する。
今度のルール変更には、日本で生まれ育った高校、大学生への門戸が広がるメリットもあるかもしれない。ただ、無名校から代表級に這い上がったある実力者は「試合に出る、出ないは、実力があれば(どんなルール下でも問題ない)」と断言し、別の現役代表の一人は皮膚感覚をもとに言葉を選ぶ。
「日本人の数を増やすことが代表強化になるかはわからない」
育成強化が目的なら、打てる手は他にもある
そもそも今回訴求される日本人選手の育成にはついては、他にいくらでも有効打がある。
まずは「2軍戦」の整備だ。今季のプレシーズン(昨年)に始まった「リーグワンライジング」がそれである。
初年度はその時期に別で練習試合を入れてしまったチームが多かったとのことだが、この時期を活用して選手層を広げたチームが今季の上位にいるのも確か。シーズン中に行われる控え組同士のトレーニングマッチも同様に体系化する、もしくはそのための手はずを整えれば、主力組同士の公式戦で枠の調整をかける必要はなくなる。
リーグワン発足時に設置が義務づけられた小中学生向けのアカデミーも、リーグ主体で大会を開くなどすれば進展が見込まれる。
思えば「カテゴリA-2」が「差別的」だと突っ込まれている理由の一つは、義務教育6年以上という本人の努力だけでは到達できない条件が含まれているからだろう。アカデミーが充実していたら、例えば「当該クラブのアカデミー参加○年以上の選手は最低□名まで出場」といったローカルルールを設置できる。
ここまでリーグが成熟していれば、わざわざ公教育と絡めて非難されずに済んだであろうことは、JRLOの東海林一専務理事も暗に認めている。
他にもプロ野球でいう「育成契約制度」に近いシステムの設計など、多種多様なアイデアをリーグが主体的に動かすべきだとする関係者はあとを絶たない。
スポーツ興行の支出抑制の一丁目一番地は…
リーグ側は本件について「半年にわたり議論した」と強調する。しかし、先述の分科会が出した叩き台についてさまざまなクラブ関係者で討議した際、「国籍」に関する疑義は話し合われない空気だったと漏らす参加者もいた。
ゴーサインを出す前に、リーグ側は日本ラグビーフットボール選手会(JRPA)からも意見を募ったという。ただ、JRPAは日本生まれの日本人選手が軸だ。海外ルーツの実力者たちが訴えに出る最近の騒ぎを受け、東海林専務理事は「関連する外国出身選手への直接のチャンネルを持っておらず、その方々への説明はできていなかった。そうした部分は大きな反省としてございます」と非を認める。
一部のクラブが今度の新ルールを提案した背景には、人件費の高騰が見え隠れするのは周知の事実だ。トップリーグからリーグワンになって各クラブが収益を得られるようになったが、その利益で高まる年俸をカバーできるかは別の話だ。
スポーツ興行の支出抑制の一丁目一番地は、サラリーキャップ(年俸総額に上限を用いる制度)やぜいたく税(一定の給与基準を超えるチームに対して通常よりも高い税金を支払わせる制度)の導入だろう。もっとも全チームのプロ化が現実的ではないこと、選手の雇用形態がさまざまであることから、支出上限の設置へは議論中とはいえ実現に時間がかかると見られる。
そんななか、各クラブの予算編成に少なからぬインパクトとなっていた一つの要因が、「カテゴリA」の価値向上だった。出場枠に上限がなく、勝負を左右するコンタクトシーンで高次の力を発揮できる海外選手は、常に獲得競争の対象となる。「カテゴリA」の海外選手をサポートする代理人に高額の獲得条件を示され、驚いたというチーム関係者は複数いる。
ルール変更が直接的な要因となって減棒されたり、契約解除されたりする例が直ちにあるかは未知数である。ただ、クラブ単位では止めようのないこのインフレ化を抑えるのが今度のレギュレーションの真の狙いだとしたら――その措置が妥当だと認めるつもりは決してないが――旧トップリーグ時代から国内組と同等に扱われた帰化選手を「カテゴリA-2」にしたくなるのは自然と言えば自然だ。
一方で、これまで国内の潜在的なニーズ、自身のキャリア形成の観点を踏まえ、苦労して日本国籍を取ってこの地のグラウンドで身を粉にしてきた側が突如として既得権を奪われたとしたら、こちらが怒るのもまた自然だ。
このルールが発足した時も、さらには今回の騒動を受けての会見時も、取り決めと予算の関係性についての質問は飛んだ。東海林専務理事はこう説明する。
「サラリーの調整の話についてはサラリーキャップを含めて検討をしています。ただ、いくつかのステップを踏んでいかないとできない。今回の制度の起点は普及の話でございます。結果的に『カテゴリA-1』、『カテゴリA-2』に需給が生まれますが、それが契約関係に影響を及ぼすと認識しています。この話がそれ(年俸抑制)を目的にしていたり、これがサラリーの抑制の決め手になったりすることはありません」
ラグビーの本質を軽んじない姿勢を取り戻すことが重要
ふたを開けてみれば、来季に向けた補強市場では「カテゴリA-1」に当たるプロ選手の相場が上がっているようだ。その傾向に、今回のことで再編の必要に迫られたあるクラブの首脳は驚いていた。つまり、今度のルールに予算をスリム化する効果があったとしても極めて限定的なのだ。
かねて選手獲得の価格競争と距離を置いてきた老舗クラブの首脳はこのように指摘する。
「一部選手の年俸を吊り上げてきたチームが『もう払えないから』という理由で今度の件を提案しているのだとしたら、それはおかしな話だ」
ひと口に選手、チームといっても立場によって意見は異なる。それらをつぶさに集約し、かつ業界にとっての正道を探って各人をそのルートに乗せるのが運営者の役目だ。玉塚理事長は「リーグはチームが主役。チームの意向を吸い上げ、現実的な解を探していくのがわれわれの仕事」とするが、クラブの上層部の一人はこう指し示す。
「本来このようなルールは、チームではなくリーグが日本ラグビー界のためを考えて主導して作るべきです」
メディアは報じることが仕事だと筆者は考えているが、本件に対してメディアが意見を発信するべきだというファンの声も多い。その流れに沿うとしたら、答えは「国内選手の出場チャンスを広げる施策がいつかは必要になる。ただ、今回のことはタイミングと、その一連の流れと、伝える方法にあまりに穴が大きい」となろう。
今回に限れば、訴えに出ている功労者たちを何らの形で「カテゴリA-1」相当の立場にすれば批判の熱は一気におさまるだろう。その際の手法に「カテゴリA-2」から「カテゴリA-1」への優遇条件を変える措置を用いれば(具体的には過去の国籍取得を付記したり、必要な代表キャップ数を引き下げたりすることで)、本稿で懸念するレベルの低下にも歯止めをかけられるはずだ。
ただそのようにしても、このほど露わになったリーグワンの課題が解消されるわけではない。意思決定者がラグビーというコンテンツとラグビーのパフォーマーについて――意識的であれ無意識的であれ――軽んじない姿勢を取り戻すことが、本当の解決課題なのだから。
<了>
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