阪神、V逸・CS惨敗でも“17年ぶり優勝”へ築かれた土台――矢野体制の確かな「3つの功績」

Opinion
2021.11.16

2021年、阪神タイガースは苦いシーズンを過ごした。勝率わずか5厘差で16年ぶりのリーグ優勝を逃し、クライマックスシリーズでは下克上を許した。期待が高かった分だけ、メディアやファンからは数多くのネガティブな言葉が発せられた。だがこの3年間で確かな土台が築かれてきたこともまた確かなはずだ。17年ぶりの歓喜へ――、矢野阪神が着実に積み上げてきた“3つの功績”を確認したい。

(文=遠藤礼、写真=Getty Images)

失望に終わった阪神の2021年。だが積み上げてきた功績を見逃してはいけない――

阪神タイガースは、11月7日のクライマックスシリーズ・ファーストステージで巨人に連敗を喫し、敗退が決まった。16年ぶりのリーグ優勝へ開幕ダッシュに成功しながら、東京ヤクルトスワローズの猛追を受け最後はゲーム差なし、勝率わずか5厘差の2位でフィニッシュ。日本一へ再起を期したポストシーズンでも3位・読売ジャイアンツにいいところなく敗れた。矢野燿大監督が指揮を執って3年連続のV逸。今季は特に一時2位に7ゲーム差をつけるなど独走モードの気配もあっただけに、ファンの失望も大きいようだ。インターネット、SNS上にもネガティブなワードが多く散見されている。

長い一年の戦いを終え、オーナー報告を済ませた指揮官も、厳しい表情で口を開いた。

「責任を感じています。采配であったり、掛ける言葉であったり、何かできることがあったんじゃないかと。だからこそすごく悔しい。チームとしての成長と、僕の成長。それが必要だと身をもって感じている。悔しさは一年一年募る」

タクトを振る者として、3年間で一度も優勝できていない責任をそのまま言葉に乗せた。結果が全ての世界。周囲の不満も、当事者の悔恨も積み重なって当然だろう。ただ、暗がりの扉の向こうには、光も見える。矢野阪神の3年間で積み上げてきた確かな3つの「功績」――。来季、4度目の挑戦で頂点へたどり着くための土台は築かれつつある。

矢野阪神の功績①:「超積極」の産物となった機動力

2軍監督時代から掲げる「超積極」スタイルが数字となって表れているのが、盗塁数だ。100(2019年)、80(2020年)、114(2021年)と3年連続で盗塁数はリーグトップ。今季は近本光司、中野拓夢の1・2番コンビだけで約半分の54盗塁を稼ぎ、初回から得点圏に走者を進め、中軸を迎える場面を多くつくった。

さらなる強みはベンチにも快足のタレントを数多くそろえる点。植田海は今季スタメン起用ゼロながら、代走で48試合に出場し11度の盗塁企図で失敗はわずか1度という高い成功率を誇った。他にも熊谷敬宥(成功7―失敗1、87.5%)、島田海吏(成功8―失敗1、88.9%)と粒ぞろいで、試合終盤にこの面々がグラウンドへ飛び出していき、瞬く間に好機を演出するシーンを前半戦は何度も目にした。相手投手にかかる重圧は相当なものだったはずだ。

一方、僅差の試合終盤での盗塁死には多大なリスクも伴う。それでも、チーム内にはアグレッシブな試みの先に待つ失敗はとがめない土壌がある。3年たって着実に染みつく共通意識が勇気あるスタートを生んでいるのは確かだ。

矢野阪神の功績②:育てながら勝つ――次代への価値ある投資

2021年のタイガースを象徴するプレーヤーは佐藤輝明だろう。キャンプ、オープン戦とプレシーズンから驚異的なパワーを見せつけ、実力で開幕スタメンを奪取。シーズン後半は59打席無安打と壁にもぶつかりながら24本塁打を放った。多くのため息を生みながらも、不満よりも「次代の中軸」への期待度が上回った一年だった。

インパクトでは劣るものの“サトテル世代”の同期入団の面々も存在感を発揮。ドラフト6位の中野拓夢は、前評判の高かった守備に加えて打撃も開眼すると、遊撃のレギュラーに定着した。1年目から盗塁王を獲得するなど、走攻守全てでチームに貢献。同2位の伊藤将司も、開幕ローテーションの座をつかみ離脱することなく完走。夏場に調子を崩した場面もありながら、右手を大きく掲げる独特のフォームを貫き通し、1年目から十分な結果を残した。

3人ともに即戦力の触れ込みながら、ファームでの育成期間を経ずに“ぶっつけ”で1軍の主力となったこの一年は、後々のチーム構築、運営の面でもポジティブな方向に傾く分岐点となるかもしれない。他にも、無安打の快投でプロ初勝利を挙げた西純矢、中継ぎで奮闘した及川雅貴の高卒2年目コンビ。小野寺暖、島田海吏といったファームの主役たちが終盤の優勝争いを経験したことは、次代への価値ある“投資”となった。

矢野阪神の功績③:14年ぶりの「伝統の一戦」勝ち越し

今季、タイガースは同一リーグの他球団への負け越しはなし。中でも宿敵ジャイアンツに13勝9敗3分と、シーズン通して優勢に進め14年ぶりのカード勝ち越しを決めた。助っ人勢の不発、主力の相次ぐ故障などジャイアンツも万全ではなかったことも大きな要因に挙がるが、矢野監督も「ジャイアンツに勝っていかないと優勝はない」と口にしてきただけに苦手意識を払拭(ふっしょく)する第一歩にしたい。

2019年のシーズン後、普段はクールな岩崎優が、感情を込めて言ったのが印象的だった。「負けてばっかりは悔しいんで。そこ(巨人戦)が全てではないですけど、勝っていかないといけない相手」。「伝統の一戦」の重みは、新世代の主力たちにも着実に浸透していっている。

課題ははっきりと見えている。2022年の戦いが始まった――

2位に終わった以上、当然、課題も浮かび上がる。開幕から好調だったジェリー・サンズ、ジェフリー・マルテ、大山悠輔の中軸が後半は状態を落とし、チームとして勝負どころでの一本に泣いた。守備面では両リーグ最多の86失策。クライマックスシリーズでも、失点に結びつくミスが相次いだ。

終戦から2日間の休養日を挟んでチームは投手が鳴尾浜球場、野手が甲子園球場と分離で秋季練習をスタート。打撃や守備に特化した練習メニューが組まれる予定で、17年ぶりの優勝へ矢野阪神の4年目はすでに動き出している。着実に積み上げた資産を“歓喜の実利”に変貌させることはできるか。

<了>

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