天理・達孝太、サイヤング賞を目指す新世代ピッチャー。粗削りで非凡な才能の現在地

Career
2021.01.30

3月19日に開幕する選抜高校野球大会の出場校が発表された。当落線上にあった天理は、昨年に続く2年連続の選出となった。昨秋の近畿大会準々決勝で大阪桐蔭に11失点の大敗。屈辱を味わったエースが夢と公言するのは、日本一、メジャー挑戦、そしてサイヤング賞だ。まだまだ粗削りなのは確かだ。だが誰よりも大きい夢を描く達孝太が、甲子園の舞台で進化した姿を見せる――。

(取材・文・撮影=氏原英明)

最新の野球に目を向ける天理・達孝太、目標に描く投手像はメジャーの…

甲子園球児の夢の大きさがついにこのレベルまで到達したことに、新しい時代の幕開けを感じさせる。

「長く野球をやりたいんで、日本のプロに行って、それからメジャーリーグ。サイヤング賞を取れるピッチャーになりたいですね」

そう語るのは、3月19日に開幕する第93回選抜高校野球大会に出場する天理のエース・達孝太だ。

193cmの長身から投げ下ろす角度のあるストレートが持ち味の本格派。落差のあるフォーク、スライダーと長身の割に起用な右腕はでっかい夢を描いている。

そもそも達の思考は海外にある。動画でピッチングフォームや練習方法などを参考にするのもメジャーリーグの選手ばかりで、高校1年時には「甲子園にはいいバッターがいるんで対戦できる楽しみはありますけど、それほど行きたいと思っているわけでもないんです。メジャーリーグに行くのが目標なんで」と語っていたほどだ。

今はチームメートと共に日本一を目指し、甲子園出場を目標の一つにしているが、彼の目指す舞台はその先にある。だから、どんな投手になりたいかと聞かれると「(マックス・)シャーザー(ナショナルズ)です」と間髪入れずに返してくるのだ。

とはいえ、達はただメジャーに憧れ、その舞台にいる大投手に目を奪われているというわけではない。野球をする上での最高の参考書があの舞台にあると思っているのだ。

「目標はダルビッシュ有さん(パドレス)です。シャーザーが目標というのは自分のピッチングのイメージづくりに参考にしているからです。フォームはそんなきれいには見えないんですけど、あの力感なく投げられるところはまねしたい。ボールの回転数もメジャーでは屈指だといわれていますし、シャーザーみたいなピッチャーになりたいです」

投手を評価する表現に「回転数」という言葉が出てくること自体、高校球児の発想っぽくない。昨今の日本でもトラックマンデータの導入やラプソードの普及でボールの回転数や回転軸が語られるようになったとはいえ、高校生でその思考レベルまで到達するのはなかなか容易ではない。それだけ、達は最新の野球に視線を向けているということであろう。

非凡な才能を見せるも、まだまだ粗削り。さらなる進化を誓う

もっとも、現時点での達はまだまだドラフト1位と騒がれるレベルにまでは達していない。

今大会の注目ナンバーワン投手は市立和歌山の小園健太といわれているし、中京大中京の畔柳亨丞や大阪桐蔭の松浦慶斗、関戸康介の後を追う存在にすぎないのだ。

「ライバル心とかはまったくないですけど、僕も150キロを出すことで一つの壁を超えたいなというのはあります」

昨秋の近畿大会では1回戦の乙訓戦では9回5安打1失点完投13奪三振を挙げたが、連投となった翌日の準々決勝・大阪桐蔭戦では7回11失点と打ち込まれた。それでも大阪桐蔭打線から10三振を奪っているところは非凡な才能を見せているが、連投を差し引いても物足りなさは否めない。

「近畿大会の準々決勝では自分の体力のなさを痛感しましたね。2回まではよかったんですけど、3回からはもう体が張っていて、思うように動かなかった。気持ちでは大丈夫だと思うようにはしたんですけど、ボールにそれが出てしまった」

達の持ち味は先述したように角度のあるストレートとフォークだ。しかしストレートのアベレージは140キロ台中盤くらいで圧倒するボールではない上に、この時は連投のため腕が触れていなかっただけにもっと遅かっただろう。

さらに、フォークは腕を振れてこそ落差が生まれるわけだから、どちらも平凡だった。

「秋に負けてからは下半身のトレーニングをやりました。ただ下半身ばかりをやったわけではなくて、上半身も取り組みました。以前までは上半身のウェートまでは考えていなかったのですが、ダルビッシュさんの動画を見ていたら、上半身も大事なんだなと思って。ベンチプレスとかをやるわけではなくて、特に腕回りを鍛えています」。

その練習の成果をもあって本人の手応えは上々だ。

ストレートの回転はキャッチボールをする中で遠くてもライナー性を意識することで質が変わってきたと実感する。さらにはトレーニングの成果も生まれた。球速が速くなってきたことに加えて、彼自身の感覚がこれまでのものとは変化してきたのだ。「ボールの操り方とか、リリースポイントのコツがわかるようになってきました。今まではあまり考えたことがなかったんですけど、こうやったらうまくという感覚が出てきましたね」。

チームの目標である全国制覇へ、強い想いを懸ける

昨年は選抜大会に出場する予定だった。

当時は「そんなに高まるものはない」とひょうひょうとしていたが、コロナ禍による1年間の雌伏の時を超えて夢を描いた時、今大会に懸ける想いがふつふつと湧いてきている。

「チームの目標は全国制覇なんで、そこはチームの目標をしっかり持って、自分も結果を出せればと思います。プロを目標にするのであれば、甲子園に出て活躍することが一番の近道だと思うので、しっかり活躍したいですね」

野茂英雄のメジャー挑戦、トルネード旋風から約25年がたつ。日本人のメジャー挑戦はごく当たり前のことになり、さらにダルビッシュ有などの活躍でスーパースターとの距離は日一日と近くなってきている。

メジャー最高の投手に与えられるサイヤング賞をも目指す新世代。

達孝太の野球人生第一幕が開かれる。

<了>

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