
市立和歌山・松川虎生、「高校通算30発」理想の打撃をモノにする“今どき”の練習法とは?
3月19日に開幕する選抜高校野球大会の出場校が発表された。昨年の秋季近畿大会で県内最大のライバル・智辯和歌山を破りベスト4の成績を残した市立和歌山が、2年ぶり7回目の出場を決めた。注目は、高校ナンバーワン投手の呼び声も高い小園健太と中学時代からバッテリーを組む、松川虎生だ。高校通算30発を超えるスラッガーはいかにして生まれたのか? その背景にある“今どき”の練習スタイルを聞いた。
(取材・構成・撮影=氏原英明)
選抜出場の市立和歌山、今大会ナンバーワン投手をリードする主将4番
チームから託されたポジションの重さが彼をポジティブにさせるのだろう。
口をついて出てくる言葉は強気の姿勢だった。
「公立高校で目指す人はなかなかいないと思うんですけど、僕は日本一を目標にやっています。春夏連覇をして、高卒でプロ入りできればと思います」
3月19日に開幕する第93回選抜高校野球大会で注目度ナンバーワン投手、市立和歌山のエース・小園健太を女房役として引っ張るのが、主将・松川虎生だ。高校通算30発超のスラッガーにして、強肩が持ち味。打てる捕手として夢をでっかく描いている。
もともと、小園を市立和歌山進学に向かわせたのも、この松川だ。
松川と共にヤングリーグの全国大会を制した小園のもとには強豪私学20校ほどの誘いがあった。「強豪私学に行こうかとすごく迷っていた。一緒にバッテリーを組んで日本一になろう」としぶとく誘い続けた結果、中学時代からのコンビを続けている。
ずっと小園をリードしてきたから、調子の良い時、悪い時が分かるし、どういう選択をすればいいかも分かっている。小園が練習試合では松川のリードに頻繁に首を振るのに、公式戦になったら一度も首を振らないのは、それだけ信頼関係があるからだ。
捕手として自信があるのは「肩」の方なのだが、やはり小園をリードする捕手としての楽しみがあると言う。
「ピッチャーとのあうんの呼吸が合って三振を取れた時や、狙って打たせにいってそれができた時は、キャッチャーとしてはうれしいですね」
高校通算30発のスラッガーが理想とするプロ野球選手は?
もっとも、松川が背負うのは大投手・小園をリードするだけではない。4番として、主将として課せられる役割は大きい。
まず、4番打者としてはどんなスタイルをイメージしているのだろうか。
身長178cm、体重98kgのあんこ型。そこへ高校通算30発を超えるスラッガーときたら、想像するのは中村剛也や山川穂高(共に西武)だが、本人が目指しているのは異なるスタイルのバッターだ。
「岡本和真選手(巨人)や鈴木誠也選手(広島)が理想の選手です。力感なく、勝負強く、一球で仕留めるところは意識していきたいです。練習をしているところなどを見ても、しっかり自分のポイントを意識して、体の軸を意識して打っているので参考にしています」
常に参考にするのはYouTubeなどの動画サイト。プロ野球の強打者たちがどういう反応で相手投手を打ち崩しているのかを見ていくうちに、岡本、鈴木の2人のスイングに目が留まった。
動画サイトを参考に、自身で練習法をつくり上げるスタイル
練習では常にボールを呼び込むことで自身のバッティングをつくり上げている。例えば、ティーや素振りなどをする際は、やや段差のあるところに軸足を置いて、そこから左足をゆっくり踏み出していって、体の重心を確認する。
一方、フリーバッティングなどでは、初球から遮二無二引っ張るのではなく、全方向に打ち分けていく。
「中学の監督からそう言われて、ずっと続けているのですが、最初からレフト方向に打とうとすると体が開く癖になってしまうので、まず最初は右方向に打つようにしています。それからセンター方向に打っていき、最後には思い切り振るというイメージですね」
典型的なプルヒッターに見えて、逆方向にも強い打球が打てる持ち味が発揮されるのは、そうした練習、軸を意識したスタイルが身に付いてきている証しともいえよう。
動画を参考にして自身でつくり上げていく練習方法は、いかにも今どきの高校生らしいが、「いちこう(市立和歌山の略称)は、そういうスタイル。考えてやるのが染みついている」と松川は言う。さらに意識的に取り組んでいるのが体のキレを出すことだ。岡本や鈴木を目指していく中で、やはり、体型のことが気になっているとこう語る。
「冬場のうちにベースアップを図りたいというのがチーム全体でもあるのですが、僕の場合はキレを出すことを意識してやってきました。冬場を超えて体重が3kgくらい絞れたんです。それと同時に打球も変わってきました。振りやすさが変わってきて、ブーンと振っていたのが軸回転でスイングしている実感が出てきました。確実性、安定感が打撃の中でも出てくるんじゃないかなと思います」
目指すのは、公立校での日本一と春夏連覇
そして、主将としてチームを引っ張り、まとめる役割もある。中学時代からバッテリーを組んだ小園とは特別に仲良く、共にプロを目指しているとなれば、周りとの温度差が生まれてきてしまいがちだが、「そんな空気は生まれていない」と松川は言う。
ただ、主将として最も意識しているのはその背中。ここまでの言葉からも分かるように、常に前向きで強気な姿勢でいるのは、主将としてチームメートに示したいからである。
「僕自身はキャプテンとしてチームを引っ張っていかないといけないので、背中で引っ張れるようにしていきたい。僕が下を向いてやっていたら、チームも下がっていくと思う。逆に上を向いてやっていたら結果は出てくると思う。一瞬一瞬が勝負と思ってやっています。毎日の積み重ねが重要で、少しでも緩んだら垂れてきてしまうので上を向いていかないといけないという気持ちです」
昨年は一度も開かれなかった甲子園を舞台にした大会が開幕する。
子どもの頃から先輩たちが躍動する姿を甲子園で見てきた。やはり、あの舞台で戦うことの喜びがあると語る。
「輝いている先輩を見て、自分も甲子園でプレーしたいと思っていましたし、あの舞台で力を発揮するために野球をやってきた。チームと共に楽しみながら、日本一に掲げているチームなので勝利に向かっていきたい」
松川が目指すのは、公立校ではなかなか描けない日本一、そして春夏連覇。
大エースをチームに誘い続けた男はその背中で引っ張っていく。
<了>
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