「今まで何もできなかったから…」 清武弘嗣がコロナ、豪雨の支援を決意した4年前の想い
新型コロナウイルスや豪雨による水害など各地で被害が出ている中、清武弘嗣はサッカー選手として何ができるのかずっと考えていた。これまでも何ができるかを考えてはいたが、行動に移せなかったが心境の変化によって今回、支援プロジェクトを発足した。どのような考えのもと支援プロジェクトを発足したのだろうか?支援について考えながらサッカー選手としてJリーグ中断期間中はどのように過ごし、再開後、キャプテンとしてチーム状況についてどのように見ているのかもあわせて話を聞いた。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、写真提供=UDN SPORTS、写真=Getty Images)
サッカー選手として何ができるのかをずっと考えていた
――清武選手が中心となって「アスリートと共に九州を救おう!令和2年7月豪雨 緊急支援(以下、九州豪雨支援プロジェクト)」のクラウドファンディングを行うこととなった経緯を教えてください。
清武:今回、これをしようと思ったきっかけは、まず新型コロナウイルス感染症が広まってその中で自分は何ができるのだろうと考えたことです。マネージャーに寄付をしたいと話していたときに九州豪雨による水害が起こって。僕一人だと微々たるものですが、UDN SPORTS(プロスポーツ選手のマネジメント会社/以下、UDN)所属選手、そして九州にゆかりのある選手たちに、今回の九州豪雨支援プロジェクトについて話をしたところ、みんなが賛同してくれて始めました。
――新型コロナウイルスのときにも清武選手にゆかりの深い大阪府や大分県に寄付をしていましたが、寄付を率先して行う考え方になったのはいつ頃からでしょうか?
清武:僕がこういうふうに考え始めたのは、(2016年の)熊本地震があってからなんですよ。当時、僕がハノーファーにいるときに、弟(清武功暉)がちょうどロアッソ熊本にいて、心配でずっと弟に連絡していたときから、何かサッカー選手にできることがあるんじゃないかと。そのときに弟にもいろいろ聞いたんですけど、人手も足りていない、これからどうしたらいいのか分からない状況の中で、「お金とかじゃないと思うよ」と弟から言われて。けど、僕はプロサッカー選手で、正直、他の同年代よりも多くの報酬をもらっていると思うので、そのお金を自分のためだけでなく、ちゃんと誰かのためになるように使ってもらえるなら、本当に日本が大変なときに、微々たるものですけど活用してほしいなと思いました。
――熊本地震のときは日本にいなかったから今回はより何かできないか、何かしようと思ったんですね。
清武:そうですね。あと、今まではこういった寄付などを行うと偽善だとたたかれることもあるのを気にして、災害などが起こったときに何をするのが一番いいんだろうと考えて結局何もできないままだったんですよ。
だから今回、新型コロナウイルスや水害があって、自分もやっぱり動きたい、何かやってあげたい気持ちがすごく強くなりました。
――寄付などを行うと目立ちたいだけ、偽善だと言われる怖さも確かにありますよね。
清武:新型コロナウイルスに対する寄付を大阪、大分でさせてもらったことを公表する気は全然ありませんでしたが、吉村(洋文)大阪府知事が「大阪府新型コロナウイルス助け合い基金」設立会見で公表してくれて。すごく(反響があったので)感謝しています。
あと今回の寄付について、偽善じゃない、寄付したお金をうまく使ってほしいと僕自身の中で考えて寄付をしたので、何を言われたとしても全然気にしなかったと思います。
――清武選手が寄付したことによって話題になり、他の選手や一般の人が、「自分も寄付しよう」と思うきっかけにもなるので、アスリートや著名人が率先して行動を起こすことはとても大事なことだと思います。
清武:InstagramやLINEとかで、「僕も、私も、少しですけど寄付しました」などメッセージがきたりすると、「あ、本当にやってよかった」って思いました。

できることを“今、行う”ことが大切
――今回の九州豪雨支援プロジェクトの実施の動きは早かったと思いますが、新型コロナウイルスの影響などで支援についての意識がプロジェクトメンバーにも高まっていたから迅速に行えたんですね。
清武:そうですね。あとUDNがそういう活動を“今、やろう“というふうに選手を後押ししてくれています。スタッフの方たちも選手がこういうことをやりたいと言ったらすぐに動いてくれたり、周りの選手も巻き込んでいってくれるので、力強くてありがたいですね。
――今回の九州豪雨支援プロジェクトのリターンの内容など清武選手もスタッフと一緒になって考えたんですか?
清武:はい、考えました。UDNのリストバンドやイラストレーターの宮内大樹さんにオリジナルイラストを書き下ろしていただきそれをグッズにしたりしました。
――リターンの一つにオンライントークショーの閲覧権がありますが、以前、話をしたり、インタビューを受けるのはあまり得意じゃないと言っていましたよね。
清武:得意じゃないですね。緊張するし、今も正直結構汗かいてます(笑)。
――オンライントークショーは清武選手が一人で?
清武:プロジェクトメンバーの中には海外にいる選手もいるので、できる限り僕が(一人で)やると思います。
――九州豪雨に対して寄付したとのことでしたが、それは(クラウドファンディングのプロジェクトページに記載の)リターン一覧の一番下にある500万円のリターンを清武選手が自分で購入して寄付をしたというかたちでしょうか。
清武:そうですね。
――新型コロナウイルスのときも500万円寄付していますよね。他の同年代より多く報酬をもらっているとしても、500万円は決して安い金額ではないので偽善だけではできないと思います。
清武:そうですね。決して500万円は安くないですし、僕も子どもが3人いるんで、将来のことを考えたらしっかり貯金しておかないといけないという考えもあるんですけど。でも僕ができることは今こういうことしかないですし、金額じゃないとは思ってるんですけど、少しでも多くできればいいなとは思ったので、大阪、大分と今回のこの九州豪雨も同じ金額を寄付させてもらいました。
――今回のプロジェクトの寄付先の一つは巻(誠一郎)さんが運営している「NPO法人ユアアクション」になっていますね。
清武:2016年に海外でプレーしている日本代表メンバー13人で熊本地震の被災地を訪問してサッカー教室を行ったときに巻さんとお話をさせてもらいました。
――若い選手も清武選手の活動を見て、次は自分が主導して行おうと考えるかもしれないですね。
清武:熊本地震のときに行ったのが26歳だったので、今思えばもっと早くいろいろとできたんじゃないかと感じます。若い選手たちにはもっと早い年齢からやってもらえたらいいなと思います。
自粛期間は今までにないぐらい自分を追い込んだ
――新型コロナウイルスによってJリーグ再開のめどが立たない時期がありましたが、その期間はどのようなことを思いながら過ごしていましたか?
清武:セレッソ(大阪)の中でも3月下旬に選手から1人陽性判定となり、僕も濃厚接触だったので、家族も含めて基本的に家から出られないというのが2週間続いて。そのときはまだ自宅待機が2週間だったので、僕は軽い気持ちでリーグもすぐ再開するだろうと思ってたんですよ。
でも自宅待機が1カ月半ぐらいとなると、外に出るのがジョギングぐらいというのが続いて、やっぱりいろいろとストレスもたまる感じはしました。でも、普段サッカーが仕事で基本的には家にはいないけど、今回常に家にいたので、家族との時間が結構とれて、子どもたちはすごく喜んでくれました。ただ家の中でドタバタと遊ぶこともできないから子どもたちもストレスを感じていたと思います。
――家にずっといるとストレスがたまりますが、どんなふうにして過ごしていましたか?
清武:自分でできることはやろうと思い、ある程度のトレーニング器具を購入して、トレーナーと話しながらトレーニングしていました。自宅待機が2週間たったぐらいからチームのオンライントレーニングが始まって、毎日トレーニングしていた感じですね。
――室内でのトレーニングには限界もあると思いますが、体の変化などを感じましたか?
清武:サッカーをしたくてうずうずしていたので、あんまり感じなかったんですよね。家でできることは限られてるんですけど、ジョギングが解禁になってからはずっと走っていたんですよ。
山口蛍選手、水沼宏太選手、田中裕介選手とのグループLINEがあるんですけど、毎日朝何キロ走ったというのが画像で送られてくるので、それを見ながら今日はこのぐらい行こうとか考えて階段ダッシュなども入れて走っていましたね。階段などコンクリートだったので少し不安だったんですけど、今までにないぐらい自分で相当追い込みました。
――海外のリーグ再開後、外国人選手のコンディションに差があった中で、海外でプレーしている日本人選手が活躍していたところを見ると、日本人は一人でもちゃんと真面目にトレーニングしたりコンディションを整えることが得意だと感じますよね。
清武:全体練習を再開したときもすんなりと行えたので、結構みんなトレーニングをやっていたんだなと思いましたね。でも(ミゲル・アンヘル・)ロティーナ監督はいつも「やりすぎよりやらないほうがいい」と言っていますね。
――日本人はやりすぎてしまうから多分、意識を持たせるようにしてるのかと思います。
清武:試合は続くから、やりすぎもよくないみたいな。そういうふうに体をつくっていくことも僕たちの頭に入れてくれていると思います。僕も30歳になってから、そういうのも一つの考え方として大事かなと思うようになってきました。
――全体トレーニングが再開となり久々にボール蹴ったときはどう感じましたか?
清武:ボールを蹴られることが本当にどれだけ幸せだったのか、グラウンドに出て感じましたね。あと、ピッチに立って、少人数で練習を行ったとき、これまでの普通が普通じゃないんだなと思いましたが、みんな楽しいと言いながら練習していました。
優勝争いを行える完成度の高いチームになった
――ロティーナ監督体制2年目となり、第7節終了時点で4位といい順位にいますよね。(※編集注:7月29日にインタビュー実施)
清武:そうですね。今年はリーグ優勝を狙っているので、今はいい順位につけてるのかなと思います。
――ロティーナ監督は清武選手から見てどういう監督ですか?
清武:監督は練習中、基本的にしゃべんないですね。イバン(・パランコ・サンチアゴ)コーチがずっと指示を出していて監督はずっと歩きながら選手の言動を見ています。
――選手を観察しながらいろいろな戦略を考えているんですね。
清武:昨シーズンは監督の考えの何が正解なのか正直分からなかったので結構悩みました。でも、終盤にかけて正解が分かってきたので、今年は正解が分かってきたことを考えながら昨シーズンより自分自身をレベルアップさせていくことが、本当に楽しいですね。
――これまでいろんなチームでいろんな経験をしてきたと思いますが、今のセレッソは優勝争いを行う上で完成度は高いですか?
清武:完成度は高いと思います。しかも、監督がチームにポジショナルプレーの意識を植え付けているので、例えば僕が試合に出ていなくても、代わりに左サイドに入った選手が適切なポジショニングをしさえすれば、誰が入ってもできる。あとは自分の個性をその中で生かせればいいと思うので、もしケガ人が出たとしても代わりに入る選手はすんなり入れるのが強みですね。だからブレずに戦うことが今年1年間できると思います。
――今シーズンは特殊なスケジュールで連戦が続く中で、ケガ人が出てもチーム力が落ちないのは重要ですね。
清武:対戦相手によって多少は戦い方を変えますが、そこまで大きく僕たちの捉え方は変わらないのでローテーションしたとしても、試合に出る選手はやり方を変えず、全然ブレることなく毎試合できると思います。
――以前は「監督に縛られるようなサッカーは嫌だ」といった感じでしたが。
清武:もちろん今でも、自由に動きたいし、プレーに対して自分の考えもあります。ただ昨シーズン最初の試合で全然ボールに触れることができなかったので、左サイドから右サイドにいったり、下がったりとか自由に動いてたら、ハーフタイムに監督から「何めちゃくちゃに動いているんだ」と怒られました。その後も考えすぎてぎこちなかったりしていたので、しっかりとポジションを守るようになりました。
今シーズンはある程度自由をもらえていると思うのでポジションを守りながら、選手との距離見ながらポジションが取れればと。あと、キャプテンなのでチームが優勝するためにそういうコンセプトを守りながら、自分の特長を出していけるようにしたいなと思っています。
――ロティーナ監督の戦術は2年目の今シーズンのほうがチームにも浸透していい形になってきていますよね。
清武:そうですね。今年スタートするときに今年は結構いい感じだなとキャンプでは思ったので。ただここ何試合か、なかなか勝てていない(※)ので、しっかりともう一回引き締めないといけないなと思います。もともと守備は堅いので、そこは継続しつつ、あとは昨シーズン少なかった得点を増やしていきたいですね。(※編集注:インタビュー実施前の4試合で、1勝2分1敗)
――どんな状況でも選手が自分たちで何をするべきか、共通認識で分かっている状況なんですね。
清武:悪い状況でも立ち戻れるところがあるのは、僕たちにとっては強みですね。
――清武選手個人としてこれからの目標などはありますか?
清武:日本に帰ってきてから、セレッソを優勝させたい気持ちがすごく強くありますが、その中でも自分自身がゴール・アシストでチームの勝利に貢献したいので数字にこだわりたいと思っています。あとはケガなく今年を乗り越えたいので一試合一試合大事にして戦っていきたいですね。
<了>
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[PROFILE]
清武弘嗣(きよたけ・ひろし)
1989年11月12日生まれ、大分県出身。ポジションはミッドフィルダー。セレッソ大阪所属。大分トリニータU-15、U-18チームを経て2008年にトップチーム昇格。2010年、セレッソ大阪に完全移籍。2011年8月のキリンチャレンジカップ・韓国代表戦でA代表デビューを果たす。2012年、ニュルンベルク(ドイツ)へ完全移籍。その後、ハノーファー、セビージャと海外クラブを渡り歩き、2017年1月にセレッソ大阪に復帰。2019年よりチームのキャプテンを務める。UDN SPORTS所属のアスリートと共に、クラウドファンディング「アスリートと共に九州を救おう!令和2年7月豪雨 緊急支援」プロジェクトを立ち上げる。
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