いわきFCの新スタジアムは「ラボ」? スポーツで地域の価値創造を促す新たな仕組み

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2025.04.03

サッカーのJ2・いわきFCが3月28日に記者会見を開き、新スタジアムの計画と候補地を発表した。いわき市小名浜の水族館「アクアマリンふくしま」に隣接する県有地の候補地に8000〜1万人収容のスタジアムの建設を構想。スタジアムに面するビルや多目的広場の整備を進め、地域の交流地点となるまちづくりを目指す。仮称で「IWAKI STADIUM LABO」と名付けられた「スタジアムラボ」とは何か?

(文・撮影=上林功、画像提供=いわきFC)

「スタジアムラボ」とは何か?

3月28日にいわきFCがおこなった新スタジアム整備候補地に関する記者会見において、スタジアムの整備候補地とともにこれまでで初となるスタジアムのイメージが公表されました。「IWAKI STADIUM LABO(仮称)」と名づけられ地域の価値創造の場となる「ラボ」としてのスタジアムが示されました。

これまでにチーム設立初期のスタジアム構想やいわき市による可能性調査などスタジアムプロジェクトについては検討が重ねられてきました。そんななか2023年にスポーツ庁スタジアム・アリーナ改革推進事業に採択され、地域のさまざまな人々を集めた「IWAKI GROWING UP PROJECT(IGUP)」が始まり、子どもたちによる「ユースプロジェクト」を通じて、実に2年弱の更なる検討を経て今回の会見につながっています。

詳しくは2023年8月公開の記事「スポーツ庁の想定するスタジアム像を超える? いわきFCが挑戦する、人づくりから始まるスタジアム構想」を参照してもらえるとわかるのですが、当時から「地域のイノベーションを生み出す『ラボ』である」と明言されており、一貫した世界観をもってプロジェクトが進められていることがわかります。 記者会見ではまだまだ多くの調整や課題があるなかで丁寧な協議を進めているとのことで必ずしもすべてが明らかになったわけではありません。今回はいわきFCが公開したスタジアム構想について、これまでの検討の流れを見ながら「スタジアムラボ」とは何かを考えていきたいと思います。

「ラボ」の原型? スタジアム検討をまとめた1冊

いわきFCの新スタジアム構想は従来のスタジアム検討とは異なり、コンセプトづくりから市民を巻き込む方法を取っています。冒頭紹介した「IWAKI GROWING UP PROJECT(IGUP)」や「ユースプロジェクト」では男女年齢所属関係なくメンバーが集められましたが、さらにメンバー自らが企画者となってさらに多くの意見を集める取り組みをおこなっています。ホームゲームでおこなわれた「スタジアムボイス」ではファンの声を集めた付箋は1500以上にのぼり、子どもたちを招待しておこなった「ユースフォーラム」ではブロックを使ったスタディイベントが開催されました。

こうした2年にわたるワークショップやイベントについて、手書きのグラフィックレコーディングなどの記録、そしてクラブの10年間の歩みについてまとめたものが今年初春に発刊されました。ビジョンブック「ONE VISION」と題されたハードカバー100ページ超のこの本にはこれまでのコンセプト検討のすべてが記されています。

注目したいのはそのなかに収められた中綴じのイメージです。「子どもたちの『7+1の提言』、分科会による4つのビジョン、Jリーグが求める4要件のすべてを満たした新スタジアムのイメージイラスト」と注釈がつけられたこのイメージは、サッカーのフィールドを中心に人が集い、その周囲にはいわきを象徴する場所とともに人々でにぎわう縮図が描かれています。

今回公表された新スタジアムのイメージはこのイメージイラストがベースになっており、候補地となる小名浜にあわせて具体化したものとなっています。スタジアムが面的な広がりを持っていてまちづくりと一体となって価値創造をおこなう様子が一貫して表現されていることがわかります。

一般的なスタジアム検討の場合、構想段階では経済性をベースに必要な機能と規模を算定し候補地に当てはめてみて実現可能性を探るといった手順が取られます。合理的な方法ではあるのですが、制約条件が決まってから地域の声を入れようとするためどうしても限界があり、標準的なスタジアムに収束してしまうことがほとんどです。

今回の会見ではまだ調整が必要なところがたくさんあるとのことでしたがそれは具体化に向けた調整であり、イメージそのものはスタジアムとして譲れないところははっきり表現したものとなっています。まさに地域を主役においたスタジアムの姿が示されたものと言えるでしょう。例えばまちに開かれた構成、地域の居場所になる部分をつくること、いわきとともに在っていわきを取り込むスタジアムにすることなど、これまでの議論を積み上げ、大切にしたいことを具体化させたものです。だからこそ、ここまで人々をワクワクさせ期待させるイメージになっていると考えます。

世界的なサッカースタジアムのトレンド?

今回の公表イメージでは周辺施設とのまちづくりの連携が示されたほか、スタジアムそのものについても他のスタジアムにはない特徴的な点が見られます。説明スライドのなかにも従来の4方をスタンドで囲んだスタジアムではなく、コンセプトにあわせた屋根付き観客席スタンドをメイン・ホームの2方に展開し、バックスタンドには1階に観客席スタンドを組み込んだ「ビルディング棟」の3方でピッチを囲み、アウェーサイドを多様な使い方が可能な「多目的な広場」とした全体構成が示されました。

メイン・ホームスタンドとビルディング棟バックスタンドの3方で囲う観客席ピッチの3方を囲みアウェースタンドを小さくしたスタジアムはAC長野パルセイロの「長野Uスタジアム」(2015)やツエーゲン金沢の「金沢ゴーゴーカレースタジアム」(2024)、昨年発表されたモンテディオ山形の新スタジアム計画(2024)など国内でもいくつかの事例が挙げられます。

こうした傾向をアウェーの冷遇という人もいますが、近年の欧州サッカースタジアムの一部では屋根付きホームスタンドのアウェー側ブロックをサポーター用のエリアとし、ゴール裏をクラブラウンジなどの多様な観客席エリアとして活用するケースが見られます。メインスタンドの一部であることも含めゴール裏より見やすい位置であることなど応援環境としての快適さから世界的にも導入事例が増えつつある形式です。

アウェースタンドの位置に多目的な広場を設置した例としてはアメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)のスタジアムでサンノゼにあるPaypalパーク(2015)などが有名です。スタジアムグルメや子ども向けのプレイパークなど賑わいをつくり出す可変性のある部分となっています。

またビルディング棟は最新のMLSのスタジアムにも見られる特徴的な部分です。機能的にも地域と連携した結果、単なる観客席スタンドの形態ではなく建物=ビルディングとして変化したものとなります。セントルイスの「エネジャイザーパーク」(2023)ではスタジアムが大通りに面する部分が「ULTRA CLUB」と呼ばれるガラス張りの多目的ホールになっており、試合のない日は地域の人たちがイベントなどの集まりに使用しています。音楽の街としても有名なナッシュビルのホームスタジアム「ジオディスパーク」(2022)では広いクラブラウンジに複数のミニステージが常設されていて、音楽好きな地域の人たちが応援しながらミニライブを楽しむといった地域色を生かした場所がつくられています。

これまで経済性からくるスタジアム形態に特徴のあったMLSですが、ここ近年の新スタジアムのなかに、地域との接点としてクラブラウンジを位置付けている場合が見られるようになってきました。地域を主役に置いた今回のいわき新スタジアムと近い考え方なのかもしれません。

みんなでつくる「観客席ワークショップ」とは?

具体的な計画のように見える今回の公表イメージですが、実はその正体は徹底してつくり込まれたコンセプトイメージに留まっており、建設への具体化はこれからであることがわかります。ここがスタートであり、やっと候補地にあわせた条件整理が進んでいくものと考えられます。

次なる展開として、通常、構想段階まで検討してあとは建設や設計の専門家に任せるケースが一般的ですが、ここに来てさらに新たな試みを検討しているとの話があります。

昨年までコンセプトづくりをおこなってきた「IWAKI GROWING UP PROJECT(IGUP)」と「ユースプロジェクト」は、新スタジアムイメージのビルディング棟のような建物と観客席を組み合わせる機能検討について新たなツールの作成を進めています。木製の観客席スタンドとビルディングの模型パーツとなってパズルになっており、組み合わせることで複合的な観客席スタンドを検討できる「観客席ワークショップ」の開発をユース委員にも触ってもらいながら進めています。

ファンや地元の人たちが建築の専門的な知識がなくても自ら検討に加わることができるようになればスタジアムは地域が主役となる「みんなのスタジアム」により近づくことになります。

今回公表された「IWAKI STADIUM LABO」。「ラボ」の英語表記には2種類あり「LAB」と「LABO」ではニュアンスが異なると言います。国際的には「LAB」とされますが日本やフランスで見られる「LABO」の表記にはカジュアルなニュアンスや、地域密着型・生活に近い雰囲気があります。実験場は実験場でもいわゆる社会実験場、「共創ラボ(Co-laboratory)」や「リビングラボ(Living laboratory)」のほうが意味としては近いかもしれません。スタジアムが地域共創型の社会実験場として「ラボ(LABO)」となることで地域に持続的な価値をはぐくみ続けることを期待したいと思います。

【前編、第33回連載はこちら】

<了>

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[PROFILE]
上林功(うえばやし・いさお)
1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。日本女子体育大学体育学部健康スポーツ学科教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計(2018)など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチを行う。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員、日本政策投資銀行スマートベニュー研究会委員、一般社団法人運動会協会理事。いわきFC新スタジアム検討「IWAKI GROWING UP PROJECT」分科会座長、日本財団パラスポーツサポートセンターアドバイザー。

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