久保建英、覚醒の理由とは? 本人の「言葉」で紐解く、現在地と未来像

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2019.09.08

史上2番目の若さでの日本代表初招集、世界が驚いたレアル・マドリードへの移籍、そして、初めて挑むFIFAワールドカップ・アジア予選の長く険しい道のり。
2019年の久保建英は周囲の予想をはるかに上回るスピードで進化を遂げ、活躍の場を世界に広げてきた。これほどの覚醒の理由、成長の源泉はどこにあるのだろうか?
久保が口にしてきた数々の「言葉」をひも解くことで、その答えは見えてくる――。

(文=藤江直人、写真=Getty Images)

日本代表初招集からの濃密な3カ月を問われ……

階段を駆け上がったという言葉に、久保建英は敏感に反応した。日本代表に初めて招集された今年6月から、3度目のそれとなる9月シリーズまでの濃密な3カ月間をメディアから問われた直後だった。

「階段を駆け上がったというよりは、目まぐるしく環境が変わったと言った方が正しいと思うんですけど。そのなかで代表を含めたいろいろなチームで、トップレベルの選手たちとサッカーができているのは、自分にとってすごくいいことだと思う。学べるものがたくさんあるので、環境が変わっている、ということを逆にプラスに捉えていければいいかなと考えています」

ひとめぼれスタジアム宮城で行われた、6月9日のエルサルバドル代表戦の後半途中から出場。歴代で2番目の若さとなる18歳5日でフル代表デビューを果たした直後に、FC東京から世界一のビッグクラブ、レアル・マドリードへ電撃移籍。日本だけでなく世界中を驚かせた。

ブラジルで開催されたコパ・アメリカ2019では、東京オリンピック世代を中心に編成された森保ジャパンで攻撃陣をけん引。息つく間もなく新天地へ合流し、プレシーズンはビッグネームたちが集うトップチームに帯同。バイエルン・ミュンヘンなどと対戦した、プレシーズンマッチ4試合でピッチに立った。

評価が上昇するとともに、Bチームのレアル・マドリード・カスティージャ(3部リーグ所属)で育てる当初のプランよりも、他のクラブへ期限付き移籍させてラ・リーガ1部に適応させた方がいい、という考え方が台頭。開幕直後に昇格組のマジョルカの一員となり、日本時間2日未明にデビューを果たした。

そして、3日早朝には成田空港へ帰国。茨城県鹿嶋市内で行われていた日本代表合宿に初日から1日遅れで合流して、パラグアイ代表とカシマサッカースタジアムで対峙した5日のキリンチャレンジカップに備える。メディアからは「大変には感じないですか」という問いも投げかけられた。

「サッカーが好きでやっているので、全然大変じゃないですね」

久保の答えを聞いたときに、ある瞬間がフラッシュバックした。

10代の早い段階で学べた、一番大きな収穫とは?

FC東京とプロ契約を結んで間もない昨年2月。Jリーグの新人研修会に出席した久保は、初日を終えた直後にこんな言葉を残している。

「ずっとサッカーをやってきた姿勢が、プロになったからとか、ある程度成功したからといって変わってしまえば、いままでの成長スピードも落ちてしまうんじゃないか。そう考えただけで怖くなりますけど、だからこそ楽しくサッカーができているうちはどんどん上へあがっていけると思っています。そういう状態ができるだけ長くというか、いつまでも続いてほしいと思っています」

長く胸中に抱き続けてきた、永遠のサッカー小僧を連想させるマインドはいまも変わっていない。だからこそ成長し続ける。それも、激変する周囲のレベルに比例するように。後半からピッチに立ったパラグアイ戦。久保は45分間だけで、チーム最多タイとなる5本のシュートを放って観衆を沸かせた。

もっとも、森保一監督から出された指示のなかで、最も印象に強く残っているのが「このまま無失点でゴールを奪い、試合をいい形で終わらせるように」だった。放ったシュートはすべて空砲に終わり、前半で奪った2点のリードを広げることはできなかったが、指揮官の注文通り失点も許さなかった。

右サイドハーフに入った久保は、右サイドバックに回った冨安健洋(ボローニャ)と何度も連係を確認しながら、対面の左サイドバックと左サイドハーフをケア。そのうえでチャンスの匂いを嗅ぎ取るや積極果敢に前線へ顔を出し、2本の直接フリーキックを含めてパラグアイゴールを脅かした。

「打ったからには全部決めないといけないし、ゴールに入っていないことがすべてなので。うーん、という感じですね。ただ、ゴールを決めようと思わなかったら入らないので、いつか入ることを信じて狙っていくだけです。一生入らないということはないので、次に切り替えるだけですね」

リードしている状況と国際親善試合という舞台を考えれば、もっと個人的にアピールしたいと途中出場の選手が望むことがあってもいいかもしれない。しかし、久保が定める優先順位は変わらない。

「サッカーはチームスポーツなので、自分が、自分が、というわけにはいかない。選手一人ひとりに特徴があるとは思いますけど、チームの勝利が最優先されるなかで、土台となるチームのコンセプトを実践できなければ試合に出られないのは当たり前のこと。その上で攻撃では自分の特徴をしっかりと出して、チームのいいアクセントになればいい、ということをこの1年間で、10代の早い段階で学べたことは一番大きな収穫だと思っています」

右サイドハーフの先発を射止め、ポストを直撃するあわやの直接フリーキックを放った川崎フロンターレとの今シーズン開幕戦。久保が残したこの言葉にこそ、覚醒を遂げた理由が凝縮されている。

「自らを客観視する力」が、ある一つの答えを導いた

昨シーズンの久保は長谷川健太監督が課す守備面でのハードワークというミッションを完遂できず、すべて途中出場で4試合、わずか58分間のプレー時間にとどまっていた。5月以降はU-23チームを参戦させているJ3が主戦場となった状況下で、ベクトルを外側へ向けていた。

要は「なぜ試合に出してくれないのか」という思いは、夏場から期限付き移籍で加入した横浜F・マリノスで少しずつ内側へ、自分自身に向けられていく。残留争いに巻き込まれたこともあって、J1初ゴールをあげたマリノスでも、時間の経過とともに出場機会が激減していったからだ。

自問自答を繰り返した末に、一つの答えにたどり着いた。「なぜ試合に出られないのか」――。久保を見守ってきたFC東京の大金直樹代表取締役社長が、とりわけ高く評価してきた「自らを客観視する力」をフル稼働させたとき、長谷川監督に求められたハードワークと献身性の意味がわかった。

「何ていうんですかね……。他の選手たちもああやって体を張って守っていますし、変な目で自分を見ることなく、普通にボールを取った、というくらいに思っていただければ幸いです」

例えば相手選手からボールを奪ったプレーへの自己評価を問われると、今シーズンの久保はこんな言葉を返している。約半年の歳月を経て、特に心の部分で見違えるほどたくましく変貌を遂げた久保を、長谷川監督はガンバ大阪時代の教え子、堂安律(PSV)と比較しながらこう語っていた。

「堂安がヨーロッパへ行く前のレベルくらいまで来ているな、と。これからJリーグで順調に経験を積んで、5月のFIFA U-20ワールドカップでさらに刺激を受ければ、すぐにヨーロッパから声がかかるレベルにきているんじゃないかと思っています」

しかし、才能あふれる若手は時として周囲の予想を上回る急成長を遂げる。U-20ワールドカップに臨んだU-20日本代表でも、トゥーロン国際大会で準優勝した東京オリンピック世代のU-22日本代表でもなく、ピラミッドの頂点に立つフル代表に抜擢された久保は、瞬く間に森保ジャパンのなかに居場所を築きあげた。

そして「すぐにヨーロッパから声がかかる」どころか、名門レアル・マドリードの一員として迎え入れられて世界へと羽ばたいていった。

久保が描く、自身の近未来像

それでも、久保が抱く純粋無垢な思いは変わらない。

「チャンスがあれば自分の最大限のプレーをして、それをどのように評価してもらえるか。自分の力で変えていくしかないと思っています。だからといってあまり大きなことを言わずに、次いつ選ばれるかわからないので、毎試合、毎試合を大切にしていきたい」

パラグアイ戦を前にして残した言葉は、これまでの語録と鮮やかにリンクする。新シーズンや新たな戦いを前にして具体的な数字目標を挙げることを、久保は「自分としてはあまり好きじゃない」とやんわりと拒否してきた。そのうえで、こんな思いを紡いだことがある。

「身体的にもそういうことがあるかもしれないので、いまはサッカーができる喜びをかみしめながら、一日一日を、目の前の試合を大切にできればと思っています」

久保が言及した「そういうこと」とは、不慮のアクシデントや大けがを指している。次の瞬間に何が起こるかわからないからこそ、刹那を無我夢中で走り続ける。FCバルセロナの下部組織で、志半ばで帰国・加入したFC東京で、そしてラ・リーガ1部の舞台に立ついまも掲げる目線の高さは変わらない。

「自分が成長し続けるために大切なのは、やっぱり気持ちですね。具体的には貪欲さというか、上にはさらに上がいるということ。まだまだ自分は下にいるので、どんどん追い越せていけるように、という気持ちを抱きながら毎日を過ごしていきます」

追い越す存在がFC東京やマリノスの先輩たちからマジョルカのレギュラー選手たちへと変わり、森保ジャパンの右サイドでは堂安、トップ下では南野拓実(ザルツブルク)たちとなる。

「前半の堂安選手を見ながら、こういうふうに動いているのか、プレスはこうかけるのかと、いろいろなことを学べました。トップ下ならば今度は南野選手のオフ・ザ・ボールの動きとか、学べる選手が本当にたくさんいる。なので、焦ることなくある程度学べてから、今度は自分が挑戦者になれる日が来ればいいのかな、と」

はやる周囲をいさめるかのように、カシマサッカースタジアム内の取材エリアで久保はパラグアイ戦をこう総括した。過去からいま現在へと伸びてきた軌跡は、こんな未来へと紡がれていくはずだ。前出のJリーグ新人研修会の初日を終えた後に、久保は自身の近未来像をこう描いている。

「何だかもやもやした表現で申し訳ありませんけど、サッカー選手として大きな存在でありたい。久保選手を見てサッカーを始めましたと言ってもらえるような、より大きな影響を周囲に与えられるような選手に、一言で表現すれば『すごい選手』になることが僕の目標です」

舞台を敵地ヤンゴンへ移し、10日にはミャンマー代表とのFIFAワールドカップ カタール・アジア2次予選初戦を迎える。ピッチに立てば風間八宏が持つ19歳67日のワールドカップ予選の最年少出場記録を、待望の初ゴールを決めれば金田喜稔が持つ19歳119日の国際Aマッチ歴代最年少ゴールをそれぞれ大幅に更新する。

二重の快挙が達成されたとしても、例えるなら青空に流れる白い雲をつかみ取るかのような、壮大なサッカー人生を走り続ける決意を抱く久保にとっては通過点でしかない。

<了>

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