「マリオカート」がヒント! 電気自動車のF1「フォーミュラE選手権」急成長の理由

Technology
2019.11.26

11月22日にサウジアラビアで開幕した、電気自動車の「フォーミュラE選手権」。6シーズン目を迎えたこの大会が今、環境意識の高まりとともに、世界中で若者を中心に人気を博している。
自動車レースとして後発のフォーミュラEが、最高峰のF1といかにして差別化を図りながら、驚異的なスピードで成長を遂げているのだろうか? その明確な戦略と、「マリオカート」からヒントを得たというユニークな仕組みづくりを知る。

(文=川内イオ、写真=Getty Images)

売上高50%増、フォロワー数212%増、驚異的な急成長のフォーミュラE

驚異的なスピードで成長している自動車レースをご存じだろうか? 「電気自動車のF1」とも称される「フォーミュラE選手権」だ。

フォーミュラEを統括しているのは、F1と同じFIA(国際自動車連盟)。2014年9月の開幕を前に大手自動車メーカーの反応は薄く、2014-15年のシーズン1にワークスチームとして参戦したのはインドの自動車メーカー・マヒンドラのみだった。

しかし、世界的な環境意識の高まりと、それに後押しされた電気自動車の普及によって風向きが変わり、昨シーズンまでにPSAグループ(旧プジョー・シトロエン・グループ)、ジャガー、アウディ、日産が参入。そして、11月22日にサウジアラビアで開幕した2019-20シーズンは新たにメルセデスとポルシェも加わって、フォーミュラE史上最多の12チーム24台が参戦した。この12チームが、2020年7月末に予定されているロンドンでの最終戦まで、世界各地で開催される計14レースでトップを争う。

トヨタ、ホンダなどの日本メーカーが参戦していないせいか日本での注目度は低いが、世界的にはフォーミュラEへの関心は高い。今年9月にフォーミュラEが公表した数字が、それを裏付けている。

2018-19シーズンの売上高は、前シーズンから50%以上の増加となる2億ユーロ超で、初めての黒字を記録。テレビ視聴者数も、前年比24%増の延べ4億1100万人となった。そのほか、Facebook、Twitter、Instagram、YouTubeのソーシャルメディアのフォロワーの合計数が前シーズン比で212%増加して約292万人になり、動画の視聴回数は61%増加して約8億5000万回に達するなど、軒並み絶好調だ。

さらに、フォーミュラEによると、SNSのフォロワーの72%が35歳未満、動画を視聴しているファンのうち42%が25歳未満としており、スポーツ界全体の課題であり目標である若年層の開拓にも成功している。

大都市の公道でレースを開催するメリット、F1との差別化

なぜ、これほど人気が高まっているのか。そこには、明確な戦略がある。自動車レースの最高峰であるF1レースと比較するとわかりやすい。F1といえば、独特の甲高い走行音を思い浮かべる読者も多いだろう。F1の一つの醍醐味ともいえるが、それだけに街中の公道を走るレースはモナコやシンガポールなどごく一部に限られていた。

派手な走行音がしない、排気ガスも出さないフォーミュラEは、その特徴をアピールする目的もあって、すべてのレースを大都市の公道で開催している。今シーズンもメキシコシティ、ローマ、パリ、ソウル、ベルリン、ニューヨーク、ロンドンなど大都市でのレースが目白押し。往年のF1ファンからすれば、走行音が響かないレースは物足りないのかもしれないが、大都市の公道をレーシングカーが高速で走り抜ける風景は、自動車レースに詳しくない人の関心を引き付けるには十分だ。

F1を含むたいていのカーレースは、サーキットに行かなければ見ることができない。それは、すなわち、チケットを買ってサーキットに足を運ぶ熱心なファン以外、ナマのレースを観戦する機会がないことを意味する。鈴鹿サーキットで開催されるF1のチケット価格を調べてみると、自由席が9200円、指定席の最安値は1万5200円。15歳から23歳までの割安な指定席チケットもあるが、それでも最安値は1万200円だった。特にF1のファンではないとしたら、気軽に買える価格ではない。

一方、公道を走るフォーミュラEであれば、街を挙げてのイベントになるため、ファンでなくてもレースを身近に感じることになる。興味があれば、ビルの上からレースをのぞくこともできるだろう。公道を走ることで、開催地の住民との接点は激増する。その結果、住民が初めて意識する、あるいは初めて盛り上がりを体感する自動車レースがフォーミュラEになる可能性が高い。

市街地を走るため、最高速度は時速225キロに抑えられており、平均速度が250キロ前後、最高速度が370キロを超えるF1のファンからは「物足りない」「遅い」と指摘されがちだ。しかし、一般人からすれば、時速200キロ超で街中を走る車を目にする機会などないのだから、目の当たりにすればそのインパクトは大きいはずだ。

「マリオカート」からヒントを得た、ファンを巻き込む仕組みづくり

フォーミュラEは、ファンを巻き込む仕組みもつくり出した。それが2014年から続く「ファンブースト」だ。SNSの人気投票で選ばれたドライバー(レースごとに5名)には使用する車のパワーアップが認められ、通常のレースモードでは200キロワットの最高出力のところ、ファンブースト使用時は最大250キロワットの出力で走行できる。まさに、ファンがドライバーを後押しできるわけだ。

ちなみに、ファンブーストモードはレースが始まって23分経過してから、さらに「アタックモード」の中だけで使用できるという条件がある。アタックモードとは、通常のレーシングラインから外れたところに設置されるゾーンで、昨シーズンから導入された。そこに入ったドライバーがハンドルにあるボタンを押すと、どの車も225キロワットまで出力がアップし、加速することができるようになっており、人気投票で選ばれた5人がこのゾーンでファンブーストを使用すると、250キロワットの出力になる。

アタックモードの使用は、義務付けられている。自動車レースは基本的に同じコースを周回するが、フォーミュラEは、ドライバーがいつアタックモードに入って加速するのか、その選択がどういう結果をもたらすのか、ファンをハラハラさせる展開を用意しているのだ。実はこの機能、人気ゲーム「マリオカート」を参考に開発されたそうで、このゲーム的な要素がまたファンを引き付けるのだろう。

高まる日本開催への期待

さらに、動画の活用方法が秀逸だ。公式YouTubeには、チームに焦点を当てた1分から5分程度のものから、レースをまるまる視聴できる動画まで多数アップされており、すべての動画がファッショナブルなデザインで統一されている。

中には、映画『アナと雪の女王』に登場するキャラクターを登場させて面白おかしく構成した動画(「Let It Go Green! Formula E Frozen Parody」)もある。フォーミュラEに興味を持った人がレースのない日でも楽しめるコンテンツを充実させ、ソーシャルメディアで日々配信しているのだ。

フォーミュラEのこういった戦略と成長を高く評価しているからこそ、年々参戦する自動車メーカーが増えているのだろう。特に、若者の間での高い人気は、自動車メーカーにとって見逃せないポイントだ。

フォーミュラEは日本でのレース開催を希望しており、今年1月には東京都が誘致の検討を始め、調査費用として1000万円の予算を計上したことがニュースになった。日産が本社を置く横浜も有力な候補地になっていると報じられている。これまで公道でモータースポーツが行われたことのない日本での開催が決まれば、敷居が低く、エコでクールなフォーミュラEの人気が沸騰する可能性もある。

<了>

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