「最小の量で最大の効果を」専門家による「足首・膝・手首」の正しいテーピングの巻き方

Training
2020.01.20

ついつい巻いただけで安心感を抱いてしまうテーピング。

ただし誤った巻き方では逆に体のバランスを崩してしまったり、依存症に陥るというリスクもある。もちろん正しく巻くことであらゆる痛みに対してテーピングの効果は実感できる。

自身で治療院を経営し、トップアスリートのトレーナーも務めるテーピングの専門家・田村健太郎が実践するテーピングの正しい巻き方とは?

(インタビュー・構成・写真=木之下潤、写真=Getty Images)

誤ったテーピングは逆に体を痛める原因になる

サッカー元日本代表のカレン・ロバート選手など、トップアスリートのトレーナーを務める治療家の田村健太郎。ここ数年は後進の指導にも力を入れ、「日本治療アカデミー協会」の講師も兼務している。そこで取り組むテーマの一つに「テーピングの巻き方」がある。気軽にコンビニで買えて便利になった一方で、誤ったテーピングの巻き方によって逆に体を痛めている人も昨今増えている。そこでケガが多い「足首、膝、手首」のテーピングの正しい巻き方を教えてもらった。

――テーピングは「正しい巻き方」をしないと逆に体を痛めることもあるということですが、正しい知識を知らないままに、テーピングを巻いているだけで「大丈夫」という心理が働いてしまっている人が多いように感じます。

田村:安心感がありますよね。テーピングを巻いていると、精神的な安定やシグナルにもなっているのは事実です。

ただし「テーピング依存」という怖さもあります。本当はなくていいのに心の安心を求めてしまって……。でも、何もないのにテーピングを巻いてバランスを崩してしまったということも結構あります。本来、テーピングを巻く原則は「最小の量で最大の効果を出す」こと。治療家の心構えとして、最小の量を巻くことで選手の力を最大限引き出す意識が重要です。

テーピングをするとき、患者に「現状の痛みを覚えておいて」と投げかけ、テーピングを巻いたあとに「どう?」と比べてもらいます。そして、「テーピングを外したあとに痛みがあるようであれば必ず申告してください」とも伝えます。それはケガの状態を知っておかないと適切な治療ができないからです。

でも、アスリートって口に出しませんよね。

私がトレーナーとして帯同している場合は「走りがおかしい。かばってるな」と思ったら、監督に「交代させてください」と助言します。選手は出たいから言うわけありませんし、アドレナリンが出てるから気づかないこともあります。選手によっては痛み止めを飲んでいる場合もありますから。

――そういえば、足を痛めたマラソン選手が四つん這いで進みながらタスキをつなごうとして、それが美談として報道され、議論になりました。

田村:日本って「痛みの先に幸せがある」みたいな文化があります。野球だと、投球数問題は顕著です。あれも立場によって見方が変わります。例えば、監督やトレーナーは基本的に年間契約ですから結果が必要です。そうすると、自分流の指導法、自分流の治療法、自分流のトレーニング法で結果を出そうとします。

また最近はあらゆる面で細分化が行われています。フィジカルコーチ、メディカルコーチ、メンタルコーチ、テクニカルコーチ、ヘッドコーチ……。ケガしたら「誰に言えばいいの?」「誰の責任のもとで動いたらいいの?」と、選手たちはみんな思ってます。結果として無理をさせてケガが長引いていたりしているのは変えるべき部分ですよね。

――テーピングを減らしていく過程も大事ですよね?

田村:言葉にすると、それは治療からリハビリのタイミングです。過程としては「安静→治療→整えてリハビリ」の順です。移行するタイミングはとても重要です。私はフィジカルからメディカルを学んだので一貫して治療したいと考えています。やはり過程でのコミュニケーションは大事なポイントです。

――リハビリ段階でテーピングをどう使うんですか?

田村:固定の状態から矯正くらいの感じに量を減らしていきます。損傷した靭帯のポイント補強というイメージです。ギブスの固定から外して内反、簡単にいうと捻挫しないようにテーピングをしてウォーキングみたいな運動からリハビリを始めます。バランスディスク、バランスボールなどを使って転んでも最小限のダメージにしかならないような状況でトレーニングし、徐々にテーピングの量を減らして少しずつ足首を強化していきます。

いきなり「0→10」にはできませんからね。最初に体を診る人のお品書きをきちんとすることが大切です。ケガを治すことと状態を戻すことは違う作業なので、「何を目的にするのか?」でリハビリの仕方は変わります。ケガ以前より健康な状態が目的なら「治療→リハビリ→強化」になります。治療家として心がけることは再発させないこと。

凝っている部分は緩める。
ケガは完治させる。
弱い部分は鍛える。

バラバラに捉えず、トータルで治療する必要があります。弱い部分があってバランスが悪いままだと、別のところがケガしてしまいます。左右バランスが悪い状態で動かせば肉離れなどのケガが起こります。バランスが悪い状態で走れば疲れやすいからグリっと捻ってしまう可能性は高いです。治療する部分の他にも目を向け、補強したり強化したり。トータル治療を大事にしています。

――人間が得意なところを使いがちなのは自然なことです。確かにバランスが良いのは理想ですけど、バランスが悪いのもまた人間。そうすると、補強として「バランスを良くする」テーピングの使い方もあるんですか?

田村:あります。ゴルフではよくあるのですが、スイング時は腰を壁にして打ちます。例えば、右利きだと酷使するのは左の腰です。だけど、治療に来られたゴルファーの方からは「左の腰を緩められると壁がなくなってしまうので、左の腰は触らないで」と矛盾した要求をされたりします。でも、そこが痛いわけです。

最近は「ストロングポイントを伸ばせ」という育成をします。でも、バランスを考えずにそういった指導を続けるとどうなると思いますか? そうすると、オスグッド病などの成長痛に悩む子が増えてしまいます。近頃は日常生活から痛みを抱えている子も多いです。「テーピングの巻き方」講座を一般向けに始めたのも、そういうことを伝えるためです。

テーピングはケガを治すためにあるものだと理解を広めるべきです。そもそもテーピングは一日中、一年中はつけられません。子どもでも、大人でも、アスリートでも痛みを抱えながらプレーするための手段にはしたくありません。私は治療とリハビリと強化というテーピングの効果を実感してもらえるように、その時々でクライアントに適切な提案をしながら治療に当たっています。

そこで、うちの整骨院に来る患者さんで最も多いケガの箇所「足首」「膝」「手首」のテーピングの巻き方を紹介いたします。ポイントや注意点もお話しますので、ぜひ活用してみてください。

足首、膝、手首を整えるテーピングの巻き方

【足首の捻挫】

田村:足首の捻挫は「内返し捻挫」と呼ばれるものがほとんどです。体の構造上、外くるぶしの位置と内くるぶしの位置は外が低く、内返しの力が足にかかってしまうのが自然なのです。だから、捻挫の9割が「内返し捻挫」。また、もう一つの理由は「くるぶし」が3本の靭帯によって支えられていることが関わります。内くるぶしは三角靭帯と言われ、3つで1つの機能を果たしているから強度が高いんです。しかし、外くるぶしの靭帯は3つが別々の場所に付いているから組織として強度が弱い状態です。

それによって足首が底屈になって内転してしまい、足首全体が回外してしまいます。これは人間が二足歩行になったクセのようなものです。では、テーピングを巻く上でどうするのか? ここが大事です。底屈したものを背屈し、内転したものを外転し、回外した状態と回内させてあげることが捻挫を少なくする状態を作り出すことです。

まず、底屈内転を改善するテーピングの巻き方はくるぶし上から足の裏を回し反対側のくるぶし上まで巻く「スターアップ」が主流です。今回は固定ではなく、矯正をテーマに伸縮性のテーピングを使うので伸びます。なので、足裏からグルッと巻きつけるのに必要な長さの7割から8割くらいでテーピングを切ってもらうのが理想です。

基本的に2本で十分です。2本目は回内を改善するためにクロスするように貼ります。2本目の巻き方で注意することは足裏で重ならないように貼ることです。重なってしまうとテーピングの動きが1つに固定されて足の曲面に合わせた動きにならないからです。このスターアップで背屈外転の状態を作ります。

2本目は足の構造上、回内する力が弱いので「シックス」というテーピングの巻き方をします。足首の甲からスタートして「6」を逆に描くように貼ります。意識するのは体の構造に合うようにすること、つまり回外方向から回内方向へ創膏(ばんそう)します。これで背屈、外転、回内の状況で固定されます。

こうすればインステップキックやランニングなどの動作の底背屈の動きの邪魔になりません。全体を圧迫し、関節そのものも圧力を高めているので足首の機能も安定します。例えば、腰にコルセットを巻くと安定しますよね? あれと同じで、内側にキュッと固めて内圧を高めることで体の構造として安定した状態を作ります。内圧を高める意味では、圧迫と矯正はとても大事なポイントです。

ピン留めのようにクルッと足を回るようにテーピングを巻いている状態を目にすることがあると思います。あれは非伸縮性のテーピングを巻くときに行う「アンカー」という手法です。非伸縮性のテーピングを使う目的は固定なので、その役割を果たせるようにアンカーを行います。ホワイトテーピングは伸びませんから、付き始めの部分に大きな力がかかるんです。それで剥がれきてズレる可能性があるため、その剥がれを防止するためにアンカーをします。原理としては、付け始めの圧力を分散してテーピング幅にストレスを均等化するためです。

【膝】

田村:次に、膝の機能は屈伸です。裏を返すと、だからケガが多い部位になります。それは捻れに弱いからです。でも、サッカーのキック、ゴルフのスイングなど体を捻るスポーツは多いんです。膝を捻って痛めるところは内側側副靱帯、前十字靭帯、内側半月板とよく聞く名前が多いはずです。

体重が乗った状態で肩が回旋すると膝に負担がかかるので、その部分に関係する靭帯が切れたり、半月板を痛めたりするように体の構造上できています。よくあるケガのパターンです。サッカーは足首が固定された状態で回旋します。スパイクのような靴を履き、グリップが強く効かせた体幹スポーツはどうしても内側側副靱帯、前十字靭帯、内側半月を痛めてしまいますよね。

膝のケガはお皿が大きく関わっています。太ももと脛(すね)の間にある膝はお皿の膝蓋骨、太ももの大腿骨、脛骨が靭帯や腱などで構成し合っています。では、どんなときにトラブルが起きるか? 簡単に説明すると、太ももと脛(すね)の滑車の動きに対してお皿がグラつく不安定な状態になる場合にケガを誘発するんです。結果的に、関節に体重が乗らずに筋肉で支えることでケガにつながります。

だから、膝の治療で重要なことは、お皿を安定させることです。お皿には大腿四頭筋の外側広筋、内側広筋、中間広筋が付いていて、テコの滑車の役割を果たしています。つまり、お皿が上下に動くことでテコの原理を誘導しているため、お皿は体の機能として必要不可欠なものなのです。お皿がグラつくと筋肉のアンバランスが起こり、重力に対してまっすぐ体重が乗らないんです。だから、「いかにお皿を安定させるか」が歩いたり走ったり止まったりすることに大事なのです。

はじめにテーピングを貼るときには、膝を30度くらいに曲げた状態にしてください。これが基本姿勢です。テーピングを巻く上で意識することはお皿を上下、左右でサポートすること。まず、下からお皿を支えるために膝下から巻き、次に上から巻いて上下で圧迫します。

次に、お皿の横を通るように左右にテーピングを貼ります。注意点は脛骨粗面の出っ張りの部分にテーピングを貼ると、そこが引っ張られて剥離骨折を誘発してしまう場合があるため、その部分に貼るのはNGです。これで、お皿を上下左右に圧迫してブレないように動かす状態を作ります。

ケガの状態によってはテーピングを増やす足し算はありますが、基本的にはこれで十分です。疲れや多少の痛みはお皿を安定させて圧迫すれば解消されるし、余計なケガは予防できます。とにかく膝のテーピングは動作のサポートです。テーピングを巻く意味は太もも、膝、脛(すね)の力の連動をスムーズにするためなので、そこを意識して行ってみてください。

【手首】

田村:手首のテーピングを学ぶ前に、大事なのは肘から下の手の構造を知ることです。まず、骨の構造は肘下の橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)の2本に対し、手首に手根骨という8つの骨があります。そこから指へとつながる中手骨という5つの骨に派生していきます。

要するに、手首と肘は2・8・5という複雑な骨のバランスで構成されています。そして、その骨をサポートする筋肉は20本あります。骨のバランスが崩れると、筋肉までアンバランスになるという特徴があります。だから、肘から下の手の痛みは、だいたいが骨のバランスの乱れによって起こる症状だと考えてもらっていいと思います。骨を整えることに主眼を置いたほうが手の痛みが解消されることが多いです。

近頃、パソコン作業が多い人に出る症状があります。尺骨茎状突起(手首の小指側にある突起部分)が出ていたりしませんか? まさに現代病とも言える症状です。手の骨のバランスが崩れているので腱鞘炎のような痛みもあるはずです。私が手首にテーピングを施すときに心がけることは、肘から下の骨のアライメントを整える処置です。痛みの根っこにある原因は骨にあることがほとんどなので、筋肉が痛かったとしても手の構造としては枝の部分。痛みの根本を取るには骨格の部分を整えるのが最も早い治療法だと思っています。

手首に関しては、土台である骨格からアライメントを整えることが重要です。そして、手首のテーピングは必ず手のひらが太陽のほうを向いた状態で巻いてください。なぜなら手のひらを太陽に向けた状態が手の骨が正常な位置で整った状態なのです。その証拠に、尺骨茎状突起が収まっていると思います。これは治療経験から発見したものです。

そして、もう一つ注意点があります。最初に説明した通り、指は手首にある8つの骨と中手骨でつながっていて、基本的に左右には動かず、前後にしか動かないんです。ただ、親指だけは左右にも動くような構造になっています。基本的に関節は蝶番状になっているのですが、手の親指だけは鞍(あん)関節になっています。さまざまな動きや強い動力を持つために特殊なつくりになったのだと思います。だから、非常にデリケートな関節の構造になっているので、そこに関係する筋肉も炎症を起こしやすくなっています。例えば、何か手を使って物を押すときは親指に最も力が入りますし、その分の負担がかかるようになっています。だから、親指のアライメントも手首と一緒に整えることが大切です。

手のひらを太陽に向けて親指にテーピングを巻き、尺骨茎状突起を中に収まるように締めてテーピングを回し込んで、2周ほど手首に巻きつけます。テーピングはこのように意図を持って巻くことが大事です。親指からの力が手首から肘へとまっすぐに通るように、尺骨茎状突起を下に押さえ込んであげる。これが手を一番良い環境に整える状態です。

私は、手の土台を整えて治る環境をつくることが、手に関する治療の基本だと考えています。一つひとつの痛みに対応しようとしても、手首の構造は複雑すぎますから。現在はデスクワークが多くなり、手のひらが下を向いた作業ばかりなので手に痛みを抱える人も増えました。それこそ現代病の一つです。

手首でアライメントが整えることに触れましたが、テーピングのすべての巻き方に通じる考え方です。例えば、アライメントを整えると神経と動脈とリンパにも影響があります。そのおかげで冷え性やむくみが解消されることもあります。痛みと体型体質は表裏一体なので、痛みがない環境をつくると体の循環も良くなります。テーピングは部分的な処置ですが、一つひとつの歪みが整えば体全体のバランスは良くなるし、姿勢にも好影響を及ぼします。私は、テーピング一つで生活の質を上げられると思っています。

<了>

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PROFILE
田村健太郎(たむら・けんたろう)
1984年生まれ、東京都出身。治療家としてナショナルチーム、プロアスリート、格闘家、実業団アスリートなどのトレーナーを務めながら、千葉県内で複数の整骨院を経営して自らも患者の治療を行う。一般社団法人日本治療アカデミー協会・ウィルワン整体アカデミーでは講師として後進の育成に励んでいる。

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