
新型コロナ「最悪のシナリオ」にBリーグはどう挑む? 経営基盤の脆弱なクラブも「破綻させない」
新型コロナウイルスによる影響でスポーツ界は先の見えない危機を迎えている。試合延期、無観客試合をいつまで続けるべきか? 再開を予定している時点で新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかったといえる状況を迎えている保証はない。プロ野球やJリーグに比べ、より切実な危機が予想されるBリーグはいかにしてこの難局に立ち向かうのか?
(文・写真=大島和人)
次々と発表される試合延期、無観客試合
心の準備は少しずつできていたが、いざその報を目にするとショックは少なからずある。2月25日、26日とスポーツ界では試合開催について残念な発表が相次いだ。
各スポーツ団体の発表に先立つ24日、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議で「これから1〜2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」との見解が提示されている。そこから2日で事態が一気に動いた。
25日の夕方にはJリーグが理事会を招集し、2月28日(金)から3月15日(日)に開催する予定だった公式戦の延期を決定。26日にもジャパンラグビートップリーグ、Bリーグの試合延期が決まっている。
プロ野球も3月20日(金)の開幕を前に、15日(日)までの2軍も含めたオープン戦を無観客で行うと発表した。またバレーボールのVプレミアリーグも29日(土)の男子ファイナルステージ決勝が無観客試合となる。女子バスケのWリーグはレギュラーシーズンを打ち切り、3月24日(火)からのプレーオフ開幕に備える。
全クラブが破綻を起こさず存続できる道の模索
男子バスケのBリーグは特に難しい対応を強いられることになった。
Jリーグも東京五輪期間の中断など、シビアな条件はある。ただし公式戦はまだ始まったばかりで、J1なら12月の最終節まで日程的な余裕があった。ラグビーは2節が中止になっているものの、予備日で対応し、代替会場も確保済み。シーズンが大詰めという条件はバスケと同じだが、プロリーグではない。したがってクラブが損失リスクを負うBリーグとは前提が大きく違う。
Bリーグは26日夕方の記者会見で、B1の54試合、B2の45試合を延期すると発表した。対象は2月28日(金)から3月11日(水)までに予定されていたレギュラーシーズン合計99試合。再開の予定は最短で3月14日(土)だ。
大河正明チェアマンは決定の背景をこう説明する。
「2月24日に行われた専門家会議で、この1〜2週間が感染の広がる山場と発表されました。スポーツ庁からもスポーツ等のお客さんがたくさん集まるイベント、試合を中止ないしは延期、無観客のような形で行う指示もありました。それを受けて今回の決断に至りました」
選択肢は4つあったという。
1つ目は最善の水際対策をして公式戦を続行する案だった。しかし昨今の情勢、行政の見解や要請を受けてこの選択肢は消えた。2つ目は全面的なシーズンの中止だが、クラブ経営への影響が甚大となる。
25日、26日にBリーグの経営者による実行委員会がウェブを使って実施された。議論の中で選択肢は残る2つ、「延期」「無観客」に絞られた。
チェアマンは振り返る。
「シーズンも終盤に差し掛かっているので、(リーグ戦を)延期にするとポストシーズンの日程がタイトになります。しかしずっと無観客試合が続いた場合、3年以上(各クラブの)築き上げてきたものが吹き飛ぶくらいの影響が出てしまう。B1・B2の36クラブが1クラブも資金繰りの破綻を起こさず存続できること。それが最終的な私の判断目線です。全クラブが60試合のリーグ戦を無事に終了させる可能性がある道を選択した」
下位に手厚い、総試合数を優先した案の採用
当初の予定は4月12日(日)にB2、4月19日(日)にB1のレギュラーシーズンが終了し、その後にポストシーズンに入る日程だった。リーグ戦の後ろ倒しに伴い、ポストシーズンは短縮される。チェアマンはB1のスケジュールについてこう説明する。
「クォーターファイナル(準々決勝)とセミファイナル(準決勝)が予定されていたところに、週末のリーグ戦を持っていかざるを得ないと考えている。その終了(予定)は5月頭で、9日を予定しているチャンピオンシップ(決勝)まで10日間もない。その中でどうチャンピオンシップをやっていくのか、そこが一番の課題になる。来週、実行委員の幹事に集まっていただいてさらに詰めの議論をする予定です」
筆者も他競技の例から3月中旬までの公式戦中断は予想していた。だが今回の日程変更案は事前に予想していない内容だった。
Bリーグにとってポストシーズン、特にチャンピオンシップはNPBのクライマックスシリーズや日本シリーズに相当する花形イベントだ。NBAもそうだが、レギュラーシーズンに比べて1試合の価値がより重く、生み出す収益も大きい。
B1、B2の上位クラブは中止になった試合を抜いて順位を決め、ポストシーズンを短縮せずに行うほうが収入は維持できる。しかしBリーグは下位に手厚い、総試合数を優先した案を採用した。ビッグクラブ優先と評されることもあるBリーグだが、今回の決定はそうならなかった。
レギュラーシーズンを延期開催するためには、アリーナの確保が必要だ。プロ野球、Jリーグの施設に比べてBリーグのアリーナは埋まり具合が高い。
一方でB1は8強が出場するチャンピオンシップ、下位4チームの進む残留プレーオフがある。これに合わせて4月第3週以降も土日に使用できる会場を各クラブが抑えていた。ポストシーズンの参加クラブが少ないB2は会場のやり繰りが難しくなるようだが、2週間のスライドに何とか対応できる状況があるという。
B1のチャンピオンシップを終えるデッドライン
もちろん永遠にリーグ戦を延期し続けることはできない。Bリーグは5月9日(土)と10日(日)に、横浜アリーナの予約を入れている。ここがB1のチャンピオンシップを終えるデッドラインだ。チェアマンは続ける。
「5月9日に予定しているチャンピオンシップファイナルを動かすとなると、5月中旬から下旬に新たに試合を組んでいくことになる。今のこの時点で5月のアリーナ、体育館を確保するのは極めて困難です。5月9日・10日をメドに終了せざるを得ません」
現状だと9日にB1ファイナル(決勝)、10日にB1とB2、B2とB3の入替戦が予定されている。例えば9日にセミファイナル、10日にファイナルを開催し、入替戦を別会場に移すオペレーションはあり得るだろう。ただ可能なのはその程度の微調整だ。
加えて「2週間の延期」「チャンピオンシップの短縮」は現状のベストストーリーだ。3月14日以降のリーグ戦再開を決めるタイミングは、選手の前日移動を考えれば12日が一つのメド。その時点で日本社会が新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかった、抑制にメドが立ったといえる状況を迎えている保証は当然ない。
FIBAの制裁処分以来5年ぶりに迎える危機
ストレートに言えば、現在の状況は日本バスケが国際バスケットボール連盟(FIBA)の制裁処分以来5年ぶりに迎える危機だ。Bリーグは2016年9月の開幕から売り上げ、集客といった数値を順調に伸ばし、成長軌道にあった。しかしプロ野球、Jリーグに比べると蓄積は乏しく、B2まで見れば経営的に不安定なクラブも多い。
仮定と前置きした上で、大河チェアマンは「試合が5月頭までできないと仮定した場合、最大の損失のリスク値は60億くらい」と明かしていた。それはすべてが悪い方向に転がった場合のワーストストーリーだが、昨季の客単価から大まかに試算すると99試合の入場料収入だけでも合計金額が7〜8億円にはなる。
もっとも今こうして窮地に追い込まれているのはエンターテインメントビジネス全体、日本社会全体だ。決してバスケ界、Bリーグだけが救われればいいという話ではない。とはいえこの社会が回復に向かおうとするとき、スポーツは希望を後押しするブーストになる。Bリーグの全クラブが脱落することなく2020-21シーズンを迎える努力をすることが、きっと地域への恩返しにもなる。
チェアマンはこう言い切っていた。
「親会社がしっかりと見ているクラブ、千葉(ジェッツふなばし)や琉球(ゴールデンキングス)や宇都宮(ブレックス)のように財務的に基盤がしっかりしているところはいいとしても、B2を中心に(経営基盤が弱いクラブを)どう持つようにしていくか。Bリーグにとって最悪のシナリオを考えた場合のミッションだと思っています」
リーグの広がりを維持することは、中長期的な発展を考える上では不可欠だ。そう考えてもお祭りの期間短縮は受け入れざるを得ない。無事にチャンピオンシップの晴れ舞台を迎えられたならそのときは存分に盛り上げて、楽しめばいい。
今回の報に際してあるBリーグクラブの社長に連絡をしたら、こんな答えが返ってきた。
「あとはプレーオフをどうやるかですね。いろいろ考えてリーグに提案します」
こんなピンチでも全体のことまで考えて、前向きに次の策を練っている経営者がいる。Bリーグは全クラブで新型コロナウイルスによる苦境へ挑んでいる。
<了>
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