ソフトバンクの戦略は、中村晃の打順で透けて見える。V4のカギ握る、現代野球の理想像

Career
2020.11.21

クライマックスシリーズで2打席連続ツーランホームランを放ち、MVPを獲得。中村晃は今、福岡ソフトバンクホークスで最も勢いに乗っているといっても過言ではないだろう。今季1番から7番まであらゆる打順で出場し、その全てで求められる役割を見事なまでに果たしてみせた。21日に開幕する日本シリーズでは、どの打順で出場するだろうか? 4年連続の日本一を狙うソフトバンクの戦略は、この男の打順から透けて見えてくる――。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

ソフトバンク3年連続の日本一には、「シリーズ男」の存在があった

日本シリーズでは毎年のように「シリーズ男」と呼ばれる選手が生まれる。

昨年まで3年連続で日本一に輝いている福岡ソフトバンクホークスでいえば、2017年は優勝を決めた第6戦で9回から3イニングを0封するなど、1勝2セーブを挙げたデニス・サファテ、2018年はシリーズ新記録となる6連続盗塁阻止を記録した甲斐拓也、2019年は4試合で打率.375、3本塁打、6打点と大爆発を見せたジュリスベル・グラシアルが、それぞれシリーズMVPを受賞している。

V9を達成した読売ジャイアンツ以来のシリーズ4連覇を狙う今季のソフトバンクにとって、「シリーズ男」が生まれるかどうかは戦局を大きく左右する。

エース・千賀滉大、主砲・柳田悠岐をはじめ、分厚い選手層を誇るソフトバンクだけに候補は大勢いるが、筆者が推したいのが中村晃だ。

工藤監督の絶大な信頼。打順・ポジションはどこでも器用にこなす

帝京高校から2007年高校生ドラフト3巡目で指名を受け、今季でプロ13年目を迎えた31歳。2013年にレギュラーに定着すると、翌2014年には最多安打のタイトルを獲得。打率3割こそ2015年を最後に5年間遠ざかっているが、巧みなバットコントロールは今も健在だ。

スターぞろいのソフトバンク打線の中で、中村は決して「主役」を張る存在ではない。ただ、どんな役割を任されてもしっかりと仕事をこなす能力の高さは、工藤公康監督からも絶大な信頼を得ている。

それを端的に表しているのが「打順」だ。

今季は両ひざの痛みや体調不良の影響で開幕を2軍で迎えたが、7月11日に1軍昇格を果たすといきなり5番レフトでスタメン出場。7月17日からは自身初となる4番に座り、そこから20試合連続を含む計26試合で4番を任された。

それだけではない。
今季、中村は1~7番までの打順で出場を記録。リードオフマン、つなぎ役、ポイントゲッターと、日ごとに代わる役割を見事にこなしてみせた。

例えば、4番を任されてから10試合目となる7月28日の西武戦では3本のタイムリーを含む4安打5打点の活躍でチームの勝利に貢献し、4番の役割を全うした。

記憶に新しいところではクライマックスシリーズ第2戦。勝てば日本シリーズ出場という一戦でアルフレド・デスパイネの後を打つ7番ファーストで出場。第1打席、第2打席ともに塁上にデスパイネを置いた状況で2打席連続本塁打。下位打線ながら「掃除屋」としての仕事をこなしてみせた。

打順だけでなく、ポジションもレフト、ライト、ファースト、指名打者と、どこでも器用にこなす。ファーストを守っているときのグラブさばきは卓越だし、外野でのクッションボールの処理能力などは球界でも屈指。個人的に、彼がこれまで一度もゴールデングラブ賞を受賞していないのが不思議なくらいだ。

理想の打順は「2番・中村晃」? その理由は……

プロ野球界で「ユーティリティープレーヤー」というと、スーパーサブ的な扱いを受けることが多いが、中村の場合はどのポジション、どの打順でもレギュラークラスの実力を発揮できる。

日本シリーズで工藤監督が中村晃をどの打順、どのポジションで起用するかも注目だが、個人的には「2番・中村晃」を推したい。

今季は2番として38試合に出場しているが、特に威力を発揮するのが1番・周東佑京とのコンビだ。今季、周東は50盗塁でパ・リーグ盗塁王を獲得しているが、その快速ぶりが一気に話題となったのが福本豊氏のプロ野球記録を抜く13試合連続盗塁だった。この13試合のうち、実に11試合で周東と1・2番コンビを組んだのが中村晃だ。

選球眼もよく、状況判断に優れ、一球で仕留めることができる中村晃の存在が、周東の盗塁をアシストしたのは間違いない。

中村晃の今季のバント数は3。この数字からもわかるように、「1番打者が塁に出たらバントで送る」という旧来の2番打者タイプではない。

1番・周東が塁に出て、盗塁を決め、ランナー二塁から中村晃、柳田、グラシアルといった中軸打者で走者を返す。これが、2番に中村晃を据えたときの理想形になる。

球界屈指の快速を誇る周東の足を一番生かすことができ、なおかつ「1点」ではなく大量得点のチャンスを演出できる。現代野球のトレンドにも近いこの形は、今季のソフトバンクを象徴する打順ともいえる。

おそらく、1番・周東、3番・柳田は日本シリーズでも不動だろう。そのぶん、彼らに求められる役割はシンプルだ。周東には出塁と盗塁、柳田には打点。

その上でカギとなるのが、両者をつなぐ「2番打者」だ。そこに、中村晃を据えるのか、はたまた別の選手を配置するのか――。

4連覇を目指すソフトバンクの戦い方は、「中村晃を何番に据えるのか」から透けて見えるはずだ。

11月21日の日本シリーズ初戦、スコアボードのどこに、「中村晃」の名前が記されるのか、筆者も注目したいと思う。

<了>

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