
16歳の新星・松生理乃が、全日本フィギュアで旋風を起こす? 急激成長の理由は…
初めて挑んだグランプリシリーズでいきなりの3位に輝いた。表彰台に上り、メダルを首にかけてほほ笑む姿には、16歳の少女らしいあどけなさがあった。
全日本ジュニア女王として臨んだNHK杯の堂々とした演技を見れば、全日本選手権でも私たちを魅了してくれるのではないかとつい胸を躍らせてしまう。松生理乃の物語は、まだ始まったばかりだ――。
(文=沢田聡子、写真=Getty Images)
全日本ジュニア優勝、NHK杯3位、松生理乃の柔らかで優しい世界観
黒い客席に囲まれて白く浮かび上がるリンクで、ピンクの衣装をまとった松生理乃が滑り始めると、張りつめた空気が和らいだ。
11月23日、フラット八戸(青森県八戸市)で行われた全日本ジュニア選手権・女子フリーでは、ジャンプに優れたノービススケーターたちが次々と高得点を出していった。総合2位に入った15歳の吉田陽菜も、松生の直前の滑走でトリプルアクセルを決めている。最終滑走者である松生がリンクに入った時、フラット八戸には緊迫感が漂っていた。しかし、身長150cmの小さな体ながら大きく伸びるスケーティングを持つ16歳の松生は、フリーの曲が流れると同時に会場をプログラムの柔らかな世界に引き込んでいく。
今季の全日本ジュニア選手権で優勝した松生の今季フリー『Perhaps Love』は、ゆったりした曲に乗り松生が滑らかに滑っていく、彼女の魅力が詰まったプログラムだ。
「この曲は、男の人と女の人のボーカルが両方入っている。『男の人と女の人が愛し合って、いろいろな障害を超えて最後は一緒になる』というストーリーを自分の中で考えてやっているのですが、その中の障害を動きや表情で表現するのは、すごく難しかった」
「自分なら大丈夫」 昨季の失敗を乗り越えた全日本ジュニア
昨季の全日本ジュニアで、松生はショート3位につけながらフリーでミスが続き、総合9位に終わっている。そして今季、松生はショート・フリーとも1位の完全優勝を遂げた。
「去年はちょっと残念な結果になってしまったので、今年はショートもフリーもノーミスすることができて、優勝もすることができて、うれしいです」
昨季フリーで失敗した記憶がよぎることはなかったかと問われ、松生は「あったんですけど」と答え、言葉を継いだ。
「『そのことを思い出して硬くなったりしたら、きっと同じことを起こしてしまう。自分の練習をしっかり信じてやろう』と思って、ちょっと(昨季の記憶が)よぎってもすぐ忘れて、集中するように意識したのがすごくよかったなって思います」
「全日本ジュニアという大きい舞台で最終滑走になるのは、ものすごい緊張もあった。前の(滑走順の)人たちもいい点数をたくさん出していたので、すごく緊張はしたんですけど、とりあえずその緊張はいったん置いておいて、自分の今までノーミスできた演技をしっかり思い返して『自分なら大丈夫』と言い聞かせて演技しました」
ショートでも、ノービスA 2位で全日本ジュニアでも総合4位に入った12歳の柴山歩が好演技をした直後に登場した松生は、静かだが動じない空気を漂わせていた。フリーを滑り始めた松生から広がった優しい空気は、日々の地道な鍛錬に裏付けられた自信から出ているものだったのだ。
初めて参加した全日本シニア強化合宿。間近で見た坂本花織の姿
松生の勝因は、ショート・フリーを通じ全てのコンビネーションジャンプを後半に跳ぶ構成(ジュニアの競技会での場合)と、スケーティングや表現力を評価する演技構成点の高さだ。7月に行われた全日本シニア強化合宿に参加した松生は、そこで貴重な経験を積んでいる。
「合宿を通して、いろいろなスケーティング技術などを学べた。それをどう生かしていくかがすごく大事になってくると思っていたので、下の点数(演技構成点)も上の点数(技術点)も伸ばすことができたのは、それ(合宿の成果)がよく出ていたのかなと思って、よかったなって」
昨季の全日本ジュニア・フリーでは全ての項目が6点台で49.84だった演技構成点は、1年後には全ての項目が7点台となり、61.60まで上がった。また今季に入ってからも、西日本ジュニア選手権(10月30~11月1日)では合計188.90だったスコアは、全日本ジュニアで198.38まで伸びている。
「ジャッジスコアを見て、前の試合よりもどんどん点数が伸びていっていたので、自分の練習を評価してもらっているんだなと思ってすごくうれしかったです」
「今まで一番上でも193(点台)だったので、急にそこまで点数をいただけて……あと200点まで少し、というのはもう、夢にも思わなかった。そこまであと少しって思えたら、やっぱりちょっと欲が出るし、200点を目指してこれから頑張りたいなと思います」
7月の全日本シニア強化合宿で松生が注目したのは、坂本花織だった。
「坂本選手と班が一緒で、間近で見ることができた。もちろんジャンプの幅とかもそうだし『(スケーティングの)一歩一歩の伸びがすごいな』と感動したので、それを少しでもまねできればいいなと思って練習しました」
「(坂本に)比べたら全然足元にも及ばないんですけど、でも膝を曲げて柔らかく滑るところなどは『少し前よりは成長したかな』と自分では思います」
シニアのスケーターを意識することで、さらなる成長の種に
全日本ジュニアから4日後に行われたNHK杯(11月27~29日)で、第1滑走者としてショート『The Color Purple』を滑った松生は、疲れを見せることなく演技をまとめる。後半に組み込んだ3回転フリップ―3回転トウループのファーストジャンプで回転不足をとられたが、他の要素は全てプラスの評価だった。4位発進となったこのショート後も、松生はシニアのスケーターを意識することで成長していく姿勢を見せている。
「今までの試合とは違ってシニアの選手と一緒に出る試合だったので、やっぱりジャンプもステップも今まで以上にもっときれいにしなくてはいけないと思い『伸びやかに滑れるように』ということはすごく意識して練習しました」
「(伸びやかに滑ることが)『前よりできるようになったな』というのはあるんですけど、やっぱりシニアの選手と一緒に滑ってみると『まだまだだな』とすごく感じました」
松生は、翌日のフリーを第2グループに入って迎える。
「昨日はそんなに上にいけると思っていなくて、第2グループに入ったことがものすごい驚きで、緊張はしたんですけど……。でもこのNHK杯という試合で第2グループに入って演技できるのはすごくうれしいことなので、『その中で堂々と楽しく滑れたらいいな』と思って」
演技構成点で大きな伸び。短期間で急激に成長を続けている…
NHK杯のフリーでも、松生の『Perhaps Love』は優しい雰囲気をつくり出した。3つ目のジャンプとなる3回転ループの着氷が乱れ、3回転フリップが2本とも軽度のエッジエラーと判定されたが、大きなミスなく演技を終える。注目すべきは演技構成点5項目のうち3項目で8点台に乗せたことで、シニアに見劣りしないスケーティングを見せた証しといえるだろう。
「(3回転)ループのところでちょっとステップアウトしてしまったので、それはすごく悔しいところなんですけど、でも他のジャンプは危なげなく跳べた気がする。ジャッジさんへのアピールもお客さんへのアピールもできたと思うので、全体的にはよかったんじゃないかなと思います」
次の大会に向けての課題を問われた松生は「やっぱりシニアの選手たちの滑りを見て『大きく滑っている』というのはすごく感じた」と答えている。
「次の試合ではもっと動きが大きくなったり、滑りが強くなったり、というのができたらいい」
また、他のシニアの選手から学ぶところもあったかという問いには、次のように語った。
「同じ試合に出ると普段一緒には練習できない選手と一緒に滑れるので、すごく勉強になったし『いい経験ができたな』と思いました」
200点は目前。全日本選手権ではどんな滑りで魅せてくれるだろうか…
松生はフリーだけの順位では優勝した坂本に次ぐ2位となり、総合でも3位に入って表彰台に上がった。合計点の198.97は1週間前の全日本ジュニアから0.59とわずかながら上がったスコアで、目指す200点は目前だ。
メダリスト会見で、松生は夏の合宿でお手本にした坂本の隣に座っている。
「シニアの選手の中で滑るということで『ジャンプの面でもスケ―ティングの面でも、もっと大きく見えるように』とすごく意識して練習してきた。『まだまだだな』とは感じたんですけど、でもそれがいつもよりも少しできたと思うので、それは収穫かなと思います」
「NHK杯というずっと憧れていた試合で表彰台に乗ることができて、すごくうれしかった。この演技を、ずっと続けてできるようにしていきたいと思う。これを自分の自信にしっかり変えて、次の試合でも自信を持って演技できたらいい」
出場が決まっていた世界ジュニア選手権はコロナ禍により中止となってしまったが、年末には初めて出場する全日本選手権が控える。シニアのカテゴリーでも認められたスケーティングを持つジュニアチャンピオン・松生は、また会場を柔らかな空気で満たしてくれるだろう。
<了>
なぜ浅田真央はあれほど愛されたのか? 険しい「2つの目標」に貫き続けた気高き信念
ザギトワが大人になる過程を見せ続けてほしい。短命すぎる女子フィギュアの残酷な現実
日本のアイスダンスは飛躍すると確信した。高橋大輔の覚悟、小松原/コレトの誇り、そして…
三原舞依の演技は、滑る喜びに溢れている。逆境を乗り越え、見る者を魅了する飽くなき向上心
浅田真央の美しき記憶『ノクターン』 16歳と23歳、2つの世界選手権で魅せた永遠の物語
この記事をシェア
KEYWORD
#COLUMNRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
史上稀に見るJリーグの大混戦――勝ち点2差に6チーム。台頭する町田と京都の“共通点”
2025.08.29Opinion -
「カズシは鳥じゃ」木村和司が振り返る、1983年の革新と歓喜。日産自動車初タイトルの舞台裏
2025.08.29Career -
Wリーグ連覇達成した“勝ち癖”の正体とは? 富士通支える主将・宮澤夕貴のリーダー像
2025.08.29Opinion -
若手に涙で伝えた「日本代表のプライド」。中国撃破の立役者・宮澤夕貴が語るアジアカップ準優勝と新体制の手応え
2025.08.22Career -
読売・ラモス瑠偉のラブコールを断った意外な理由。木村和司が“プロの夢”を捨て“王道”選んだ決意
2025.08.22Career -
堂安律、フランクフルトでCL初挑戦へ。欧州9年目「急がば回れ」を貫いたキャリア哲学
2025.08.22Career -
若手台頭著しい埼玉西武ライオンズ。“考える選手”が飛躍する「獅考トレ×三軍実戦」の環境づくり
2025.08.22Training -
吉田麻也も菅原由勢も厚い信頼。欧州で唯一の“足技”トレーナー木谷将志の挑戦
2025.08.18Career -
「ずば抜けてベストな主将」不在の夏、誰が船頭役に? ラグビー日本代表が求める“次の主将像”
2025.08.18Opinion -
張本智和、「心技体」充実の時。圧巻の優勝劇で見せた精神的余裕、サプライズ戦法…日本卓球の新境地
2025.08.15Career -
「我がままに生きろ」恩師の言葉が築いた、“永遠のサッカー小僧”木村和司のサッカー哲学
2025.08.15Career -
全国大会経験ゼロ、代理人なしで世界6大陸へ。“非サッカーエリート”の越境キャリアを支えた交渉術
2025.08.08Business
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「カズシは鳥じゃ」木村和司が振り返る、1983年の革新と歓喜。日産自動車初タイトルの舞台裏
2025.08.29Career -
若手に涙で伝えた「日本代表のプライド」。中国撃破の立役者・宮澤夕貴が語るアジアカップ準優勝と新体制の手応え
2025.08.22Career -
読売・ラモス瑠偉のラブコールを断った意外な理由。木村和司が“プロの夢”を捨て“王道”選んだ決意
2025.08.22Career -
堂安律、フランクフルトでCL初挑戦へ。欧州9年目「急がば回れ」を貫いたキャリア哲学
2025.08.22Career -
吉田麻也も菅原由勢も厚い信頼。欧州で唯一の“足技”トレーナー木谷将志の挑戦
2025.08.18Career -
張本智和、「心技体」充実の時。圧巻の優勝劇で見せた精神的余裕、サプライズ戦法…日本卓球の新境地
2025.08.15Career -
「我がままに生きろ」恩師の言葉が築いた、“永遠のサッカー小僧”木村和司のサッカー哲学
2025.08.15Career -
日本人初サッカー6大陸制覇へ。なぜ田島翔は“最後の大陸”にマダガスカルを選んだのか?
2025.08.06Career -
なぜSVリーグ新人王・水町泰杜は「ビーチ」を選択したのか? “二刀流”で切り拓くバレーボールの新標準
2025.08.04Career -
スポーツ通訳・佐々木真理絵はなぜ競技の垣根を越えたのか? 多様な現場で育んだ“信頼の築き方”
2025.08.04Career -
「深夜2時でも駆けつける」菅原由勢とトレーナー木谷将志、“二人三脚”で歩んだプレミア挑戦1年目の舞台裏
2025.08.01Career -
「語学だけに頼らない」スキルで切り拓いた、スポーツ通訳。留学1年で築いた異色のキャリアの裏側
2025.08.01Career