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長野久義流「飲みニケーション術」とは? “人見知り”が新天地で活躍する秘訣
長年慣れ親しんだ環境を変えることは、誰にとっても簡単なことではない。それはプロ野球選手もビジネスパーソンも同じだ。9年在籍した巨人から広島に活躍の場を移して3年目。自身を“人見知り”と称する長野久義は、いかにしてチームに溶け込んだのだろうか? そこには、“チョーさん”流の飲みニケーション術があった――。
(インタビュー・構成=花田雪、撮影=高須力)
はたから見れば“良い兄貴分”も、自分自身を“人見知り”と口にする
長野久義は、自身の性格を「ものすごい人見知り」だと語る。
ただ、周囲から見た印象はどうだろうか。
読売ジャイアンツ時代、そして広島東洋カープ移籍後も、はたから見ると「良い兄貴分」としてチームをけん引しているように見える。
自己分析と周囲のイメージには少なからずギャップがあるが、そこにはプロ野球選手としてだけではなく、ビジネスパーソンから学生まで、「新しい環境」で周囲に溶け込むための参考にしたい、長野久義流のコミュニケーション術がある。
「移籍して、唯一不安だったのが人間関係だった」
「2年前にカープに移籍して、唯一不安だったのが人間関係です。人見知りなのでチームメートとしっかり人間関係を築けるかどうか。そこだけは意識していました」
例えば、新しい職場、新しい学校……。環境が変わると、人間関係を一から構築しなければいけないのは、プロ野球選手もわれわれも同じ。
ただ、2年間ですっかりカープになじんだように見える長野は、どうやって「人見知り」の壁を乗り越えることができたのだろうか。
「一つは、『時間』です。僕も、相手を知ろうと思う。相手も、僕を知ろうと思う。そういう努力をしていく上で、どうしても時間は必要になってくる。時間がたつことで解決できることはあると思います」
「人見知り」だからこそ、意識して相手を知り、自分を知ってもらう努力をする。もちろん、そこには周囲のサポートも不可欠だ。
「チームメートには自分からもなるべく声を掛けるようにしましたけど、例えば年上の石原(慶幸)さんが食事に誘ってくれたり、大学時代から知っている小窪(哲也)もいたので、彼を介してコミュニケーションを取ることもできました。あと、一番大きかったのが篠田(純平/現1軍マネージャー)の存在です。日本大学時代の後輩で、2015年までカープでプレーしていましたが、彼が事前にチームに対して僕のことをいろいろと話してくれていたみたいで、すごく助かりましたね」
本人はもちろん、周囲の人間も、長野が新天地でスムーズに溶け込めるよう尽力してくれた。自身を「人見知り」だと認識しているからこそ、むしろ積極的にコミュニケーションを取るように意識する。それが、新しい環境にいち早く順応するコツでもある。
「食事の席ではあまり野球の話はしない。たわいもない話で盛り上がる」
「一度仲良くなれれば、そこからはちゃんと打ち解けられるタイプなので(笑)。グラウンドはもちろん、若い選手を食事に誘うとか、そういうこともなるべくするようにしています」
グラウンド内はもちろん、グラウンド外でのコミュニケーションも重要。これもまた、プロ野球選手だけでなく全ての人に共通するのではないだろうか。
「ただ、いろいろと難しい部分もあります。まず今年は、コロナで選手同士の食事はほとんどできませんでした。そういう意味ではグラウンド外の交流はゼロだったといっていい。とはいえ、移籍1年目にある程度の関係性は築くことができたので、そこまで大きな影響はなかったです。収束がいつになるかは分かりませんけど、また食事に行けるタイミングになったら、誘いたいですね」
今季は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、遠征先での食事も含め、外出機会は大きく制限された。
「チームにはお酒が飲めない選手や、最近は食事にかなり気を使っている選手もいるので、気軽に誰でも誘えるというわけではないんですけど、そういうことも大切だと思うので、これからも続けていきたいですね」
グラウンドの中ではしっかりとプレーし、グラウンドの外では野球は忘れる。それが、長野流の「飲みニケーション術」だ。
「僕はあまり野球の話はしませんね。シーズン中は毎日試合があるので、野球は野球で。食事の席に持ち込むのも疲れるでしょうし。だから、若い選手を誘うときは特にたわいもない話で盛り上がることが多いですね。女の子の話だったり、誰々かわいいねとか……。あ、僕はしませんよ、聞くだけですよ、聞くだけ(笑)」
うわさの真相は…「いや、気のせいです。たぶんそれ、僕じゃないと思います」
酒席での長野といえば、たびたび耳にするのがこんなエピソードだ。
ジャイアンツ時代から同じ店に知り合いやメディアなどの関係者、さらにはファンがいた場合、彼らの分の会計も、長野が全て済ませてしまうという。ただ、この話を本人にぶつけると、食い気味に即答されてしまった。
「いや、気のせいです。たぶんそれ、僕じゃないと思いますよ」
筆者自身、知り合いのカメラマンが食事をしていたところ、同じ店に後から入ってきた長野が気付かないうちに会計を済ませてくれたという話を聞いたことがある。なんとか本人に認めさせようと食い下がったのだが、長野は少しだけ笑みを浮かべて、「いや、気のせいだと思います」と答えるだけだ。
取材現場は笑いに包まれたが、結局、最後まで本人がそれを認めることはなかった。
ただ、このやりとりも含め、気付けばインタビューは一気に和やかなムードに……。これもまた、長野久義のコミュニケーション術なのかもしれない。
また飲みニケーションができる日が来るのを待って
2020年はコロナ禍でイレギュラーなシーズンとなった。迎えた2021年、感染拡大はまだ収束していない。
プロ野球を含めたスポーツ界が2年連続でイレギュラーなシーズンになることは、ほぼ間違いないだろう。
長野久義の「飲みニケーション」も、まだしばらくはお預けになりそうだ。
ただ、2月1日からは春季キャンプが始まっており、その先にはシーズン開幕が控えている。すっかり「カープの一員」となった長野久義が、どんなプレーを見せてくれるのか、今から楽しみだ。
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<了>
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PROFILE
長野久義(ちょうの・ひさよし)
1984年生まれ、佐賀県出身。筑陽学園高、日本大学を経て、社会人野球のHondaに加入。2009年都市対抗野球でチームを13年ぶりの優勝に導いた。同年ドラフト会議で読売ジャイアンツから1位指名を受け入団。1年目から新人王を獲得する活躍を見せ、2011年首位打者、2012年最多安打、2011~13年ベストナインを受賞した。入団から9年連続のシーズン100安打を達成し、3度のリーグ優勝、1度の日本一に貢献した。FA移籍した丸佳浩の人的補償で2019年に広島東洋カープへ移籍。2021年、チーム3季ぶりのリーグ優勝を目指す。
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