
広島再建のカギは「2番・菊池涼介」にあり。「タナキク」完全復活へ決意と覚悟
3連覇の栄華から一転、2年連続Bクラスと苦しんでいる広島東洋カープが、かつての輝きを取り戻そうとその歩みを進めている。佐々岡真司体制2年目に、黄金時代の礎を築いた河田雄祐コーチも戻ってきた。強かったあの頃の“広島らしい”野球を取り戻すために……。再建のキーマンは「2番・菊池涼介」だ――。
(文=小林雄二、写真=Getty Images)
黄金期を築いた功労者・河田コーチが言及、再建のキーは「タナキク」コンビ
2016年からリーグ3連覇を果たすなど第2期黄金期を築いた広島東洋カープが、この2年は4位(2019年)、5位(2020年)と失速している。個人的に、強いチームをつくるには時間が必要だが、弱体化に時間はかからないと考えている。皮肉にもこの5年の広島はまさにそうだった。
“また、暗黒期が来るんか……”。多くの広島ファンが、そう覚悟しかけた昨年オフ。一人の男のチーム復帰が決まった。河田雄祐コーチである。詳細はREAL SPORTSの記事「広島最大の補強は、河田コーチの復帰だ。黄金時代の“らしさ”を取り戻す熱血漢の哲学」で取り上げているので割愛するが、2017年まで広島で外野守備・走塁コーチを務め、広島伝統の走塁を生かした野球、攻撃的な守備をチームに浸透させ、強い広島をつくり上げた功労者だ。
その河田コーチがチーム再建のキーとして挙げたのが田中広輔、そして菊池涼介の「タナキク」コンビの復活だった。同コーチはチーム復帰後、メディアに対しても「2人には『全てに対して(他の選手の)見本になって、ベンチはどういう気持ちでサインを出すのかというところを、あらためて分かってほしい。1日1回、チーム打撃のことを考える時間をつくってくれ』と話をした」と公言するなど、期待は大きい。
田中の状態は上々。となればつなぎ役の菊池の出来が大きなカギに
加えて、こうも言った。
「走攻守全てにおいてやってくれないと、このチームはフラフラする。(攻撃面においては)彼らが1・2番に座ってくれればベスト。僕はそう思います」
そのタナキクだが、キャンプでの動きを見る限り、仕上がりは上々のようだ。
まず田中広輔だが、2019年の右膝出術から復帰した昨季は、中盤の7、8月こそ月間打率1割台と苦戦したが、9月は.301、10月は.320といずれも月間打率3割を超えるなど、復調した。
田中については解説者の井端弘和氏も「(昨シーズンの)終盤にきて(手術した)膝がやっとなじんできたと思います」と見立てている。現役時代、自身も膝の手術を経験した同氏の言葉を借りると「(術後の膝は)痛みはないですが、なじむまでに時間がかかる」そうで、「自分の感覚とちょっとズレている部分が、やっとイメージ通りに動き出している」ところまで田中はきているという見解だ。その上で「(今季は)非常に楽しみ。本人も“いける”と思っていると思いますよ」という氏の言葉通り、春季キャンプ、そしてオープン戦での田中は守備では軽快な動きを見せ、打席では術前よりもむしろどっしりと、下半身を利かせた打撃を見せている。
「タナ」の状態がいいとくれば、鈴木誠也、西川龍馬、松山竜平、そして新外国人のケビン・クロンらが待ち受ける中軸へのつなぎ役となる菊池の出来が、今季の大きなカギになる……と思うのだ。
「広輔とのあうんの呼吸、いろんなことができるんじゃないか」
その菊池だが、実は毎オフ、河田コーチと会っていたのだとか。
「地元(東京)では河田さんと住んでいる家が近くて」というのが一つの理由のようだが、同コーチの復帰に対しては「河田さんもカープのことが気になっていたと思うし、戻ってきてほしいと僕も思っていたので、楽しみ」にしていたそうだ。加えて「(河田コーチの復帰で)必ずチームは変わる。それは確信を持っている」とも。田中もそうであるように、菊池と河田もまた相思相愛の間柄。このトライアングルが第2期黄金時代同様に化学反応を起こせば、打線にリズムと流れが生まれるだろう。
では「2番・菊池」に求められるものは何か。海の向こう、MLBでは「2番」に“最強打者”を据えるチームも増え、NPBにおいても「2番」に対する意識・イメージは変わりつつあるが、こと広島に関しては「犠打や進塁打の重用」という“オールドスタイル”が今季もチーム方針だ。
ちなみに昨シーズンの菊池の「2番」スタメン出場は、シーズン試合数の半分の60試合。これでは相手チームに与えるいやらしさ&警戒心も半減する。チーム打率、得点ともにリーグ2位を記録しながら、それほどの攻撃力がどうにも伝わってこなかった要因は、そんなところにもあったと思うのだ。
昨季つくることのできなかったつながりをどうするか。
それが河田コーチの掲げるチーム再建のキーである。
菊池は言う。「河田さんはそういう(つなぎの)野球が大好きだと思う。(2016~18年は)そういうことをやってきて、勝ってきた」。だから、同コーチの掲げる「1・2番、タナキク構想」にも、「広輔との1・2番の方が長い。あうんの呼吸というか、いろんなことができるんじゃないか」と乗り気を隠さない。
今季の菊池はチーム打撃に対する意識がかなり高い
菊池といえば昨年、「二塁手として史上初のシーズン無失策」を記録した守備面にスポットが当てられることが多く、打撃面においての菊池は“小技が利き(※2015~20年まで犠打数は6年連続でリーグ1位)、意外性のある打者”というのが一般的な評価だろう。その上で、野村謙二郎元監督が「あいつの打撃は、よう分からん」と漏らしていたように、プロ通算9年で95本塁打を放つなど一発もあるかと思えば、打率は最低で.233(2018年)、最高で.325(2014年)と、“高低差”が激しいのも菊池らしさの一つである。
ただし、広島が25年ぶりのリーグ優勝を遂げた2016年には、当時の石井琢朗打撃コーチ(現巨人野手総合コーチ)から2番打者としての自己犠牲と徹底した進塁打はもちろん、田中が塁上にいればケースに応じて待ちの姿勢も求められるなど、一般的にも難しいとされている「2番打者でリーグ最多安打」(181本)を記録していることから見ても、打撃の技術は一級品。その2016年と同じくらい……とは言わないまでも、チーム打撃を徹底することができれば菊池が3割前後を打つことは、酷な要求ではないはずだ。
そして、そのチーム打撃に対する意識は、今季の菊池はかなり高いと見て取れる。キャンプ中に行われた対外試合では走者無しの場面ながら、インローの難しい球を右中間にはじき返した打撃などは、その意識の表れにほかならない。
「チームを引っ張っていかないと……というのはずっとある。だいぶ、年上の方がいなくなってしまっているので、次は僕たちがそういうのをやらなきゃいけない」
「ファンに笑って球場から帰ってもらえるように…」
昨年オフ、前人未到の「二塁手として史上初のシーズン守備率10割」を記録しながら、それでも「チームに貢献できたとはいえない」と言い切る菊池は続けてこうも言った。
「(ファンの方々に)笑って(球場から)帰ってもらえるように、一つでも多く勝ちゲームを見せられるように、頑張りたい」
ネガティブに考えれば、広島がもし仮に今年もBクラスに居座るようであれば、チーム再建の道はより遠くなるのは想像に難くない。
浮上か、はたまた、停滞か……。
今後のチームを占う上でも大事なシーズンが、もうすぐ始まる。
<了>
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