アメリカの大学へ「サッカー留学」急増の理由とは? 文武両道を極める、学生アスリートの新たな選択肢

Opinion
2021.07.01

アメリカの大学へのサッカー留学が年々注目度を増している。2016年度に全国優勝を経験した青森山田高出身の佐々木友。2019年度にその青森山田高を下し、日本一を手にした静岡学園高の主将・阿部健人。そして今月、日本の東京大学や京都大学を上回り、公立校で世界一の学力だといわれるカリフォルニア大学バークレー校に帝京長岡高出身の本田翔英が合格したことも大きな話題となった。プロ選手を目指す彼らはどのような経緯でアメリカ行きを選択したのか? 彼らの留学をサポートする「WithYou」代表・中村亮氏に話を聞いた。

(インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS編集部]、写真提供=WithYou)

世界有数の“文武両道” UCバークレー入りの快挙

――帝京長岡高で活躍した本田翔英くんのアメリカの名門大学入りが話題となっています。

中村:彼が合格を勝ち取ったカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)は「公立世界一」といわれていて、私立も合わせた全世界すべての大学の中の偏差値ランキングでも7位とかなりの上位に入る、勉学という意味でもトップ中のトップの大学です。それに加えてスポーツも盛んで、運動部がNCAA(全米体育連盟)ディビジョン1というトップレベルに所属しており、文武両道の両面で世界有数の環境です。

今回の本田くんのアメリカ留学に関しては、UCバークレーに合格したことに加えて、サッカー部に入部確定という点にすごく大きな価値があります。日本の大学と比較するとわかりやすいのですが、日本の場合、部活をしたいと希望すれば一応入部はできるじゃないですか。そのためCチームやDチームまであって、部員数が100人を超える大所帯になることも珍しくありません。一方でアメリカの体育会は、ロースター入りと表現するのですが、だいたい25人から30人に部員を制限しています。

――全学年合わせて、多くても30人ですか。

中村:そうです。なので、1学年が7、8名という計算になるんですよ。非常に狭き門です。ただ単に頭がいいという学生は当然いると思うんですけど、サッカーにおいても相当な実力が求められ、そこのバランスが両方そろうというのはなかなか難しいことだと思います。

――留学をサポートするビジネスに携わる中で、サッカー面も学業面も優秀な文武両道の選手が増えている印象はありますか?

中村:これまでオール5近い成績が取れる選手は、当然日本のトップの大学に行くというルートが主流だったと思うんです。それが本田くんしかり、阿部くんしかり、最近の傾向としてアメリカの大学を第一希望に持ってくる選手たちが増えてきているというのはすごく感じます。

アメリカ留学に対する両親の反応は?

――本田くんとの最初の接点は?

中村:彼が高校3年生の夏頃だったと思います。帝京長岡の監督さんから「面白い選手がいるから見てもらえないか」と連絡をいただいて、練習を見に行ったのがきっかけです。そこで本田くんのプレーを見て、フィジカルが強く縦に対する推進力があって(クリスティアーノ・)ロナウドのようなプレースタイルで……。

――アメリカでも現地のサッカーに合うんじゃないかと。

中村:そういうことですね。それで僕の中で「お、これはちょっと面白いかも」と思って、練習後に話す機会を持ったのが最初の接触ですね。その時点で彼の中にアメリカ留学という選択肢はまだ全くなかったので、決して反応がよかったわけではなかったんですが。

――本田選手自身もその時点でアメリカ行きを意識していたわけではなかったのですか?

中村:その時点ではプロ入りや、日本の大学の医学部に進む道を考えていたようでした。その後、秋頃にアメリカの大学に興味を持ってきたとのことで改めてもう一度会いました。そして帝京長岡が選手権でベスト4入りを果たした後、正式にアメリカの大学に行くことを第一希望にしたいと決められて、親御さんとも一緒に話をする機会を持ったという経緯です。

――親御さんのアメリカ行きに対する反応はどのようなものだったのですか?

中村:とても良かったです。これは本田くんだけに限った話ではないですが、プロを目指す子どもたちはどうしてもサッカーがメインになるじゃないですか。一方で、親御さんは子どもの人生全体としてのバランスを考えてしまう。

その点で、アメリカ留学は、サッカーを続けながら勉強もする。最終的にプロになれなかったとしても、大学の卒業学位と英語が話せるという武器が手に入る。そういった部分でお子さんのアメリカ行きを積極的に応援されている親御さんは非常に多いです。

さらに本田くんの場合は、お父さんがアメリカ留学に行かせるのであれば、しっかり事前に英語を勉強して、学業面でも一流の大学に行かせてあげたいという思いをお持ちで、UCバークレー入りが実現しました。

フローニンゲンでの練習参加が生んだ相乗効果

――そんな中、本田くんはオランダ1部のフローニンゲンの練習参加を行っています。

中村:もともとプロ志向もあった選手なので、欧州での練習参加の話がきたとのことでチャレンジされました。コロナ禍の影響もあって残念ながら加入には至りませんでしたが。われわれとしてもアメリカの大学に行かないとサポートしませんという話ではなく、その選手のためになることであればいろいろな選択肢を持つべきで、その中の一つとしてアメリカの留学があってもいい。そういう考え方なので。

――本田くん自身もフローニンゲンでの練習参加の経験が「自信になった」と話しています。

中村:アメリカの大学側に対しても、それが選手の実績や実力の証明になります。欧州クラブから正式にレターを受けて練習参加に行ったことは事前資料としてアメリカの大学側にも提出しましたし、それはプラスに働いたのではないかと思います。

実際に、他にもそうやって複数の選択肢を同時に並行して考えながら、最終的に自分に合ったステップとしてアメリカへの留学という結論を出す選手は増えてきています。

最年長は30歳。アメリカの大学サッカーに年齢制限はない

――2021年には約90人の選手のサポートをされています。その男女比は?

中村:だいたい男性70人と女性20人です。

――男性も女性もプロ入りを目指す選手が多いのですか?

中村:プロ入りを目指す選手と、純粋に留学がしたいという選手と、二極化ですね。ただ女子は代表クラスの経歴を持った選手たちが何人もいますし、一流大学のスカラシップ(奨学金)を目指している選手が男子よりも割合が多い印象です。

――年齢層でいうと、高校を卒業したタイミングで留学する層が主流ですか?

中村:そうですね。あとは日本の大学卒業後に、あるいは大学を中退してアメリカの大学に留学したいという問い合わせも最近はすごく増えてきています。こちらが驚くほどの有名な大学をやめて、アメリカでプロサッカー選手を目指してチャレンジする選手もいます。

――最年長の選手でどのくらいの年齢でチャレンジしているのですか?

中村:これまでサポートした選手で最年長は30歳です。アメリカの大学サッカーに特に年齢の制限はないんですよ。リーグによっては、プロ経験者がダメだとか、日本の大学で4年間プレーしている人は資格が無くなってしまうなどはあるのですが。

中には自衛隊で働いていて、それでもサッカー選手になる夢が諦められず、自衛隊をやめて、アメリカ留学をした選手もいます。彼も今、アメリカの短大でプロ入りを目指して頑張っています。

アメリカの大学は唯一無二の存在となりつつある

――2015年に1人の選手の留学サポートからスタートしたビジネスが、6年の間に90倍になっています。

中村:90倍っていわれるとなんだかすごそうですね(笑)

――ビジネスの右肩上がりの成長の理由は?

中村:より幅広いレベルや層の選手がチャレンジしてくれるようになったことが何より大きいです。もう一つ大きな影響としてはアメリカのカレッジスポーツの宣伝の巧みさでしょうか。

例えばヨーロッパに渡ってプロにチャレンジしている選手がいるとします。その場合、一定以上の名のあるクラブに入らない限り、仮にプロでプレーしていたとしてもその映像を日本の人たちが見る機会ってほぼないと思います。「頑張っているらしいよ」「Facebookで写真見られるよ」というのが限界だと思うんです。一方でアメリカの大学スポーツはエンターテインメント性に優れているので、ほぼ全試合が中継・解説入りで映像が見られて、しかもそこに映っているスタジアムの設備がプロ以上なことも少なくない。それがネット配信で日本でも見られるので、「この環境でやりたい!」という選手がおのずと増える。その辺のアメリカならではのスポーツの扱い方がものすごくうまいなとは感じます。

――それは確かに大きいですね。

中村:あとそこに映っている選手たちがみんなアメリカ人の選手だけだったら日本人にとってそれほど魅力はないと思うんですよ。それが今は世界中からアメリカの大学に優秀な選手たちが集まってきていることも魅力の一つだと思います。例えば最近でもFCバルセロナ、エバートン、ドルトムントなどのユース出身の人種もさまざまな選手たちが日本から留学している選手たちのチームメートやルームメートとして一緒に生活しています。

――もともとアメリカというとヨーロッパで活躍したレジェンド選手たちが引退間際に最後にプレーする場所というイメージがありましたが、育成年代の段階からヨーロッパの優秀な選手たちが集う場所になってきているのですね。

中村:そうなんです。当然、世界レベルの選手ですと、スカラシップを使って一流大学をお金をかけずに卒業できるのは大きなメリットです。世界中どの国の育成年代の選手にとっても、セカンドキャリアに対する心配は同じですから。文武両道という意味で、その心配を埋めてくれる選択肢としてアメリカの大学は唯一無二の存在となりつつあります。

英語が求められる日本の大手企業に就職するケースも

――2015年からサッカー留学事業をスタートされて、まだ卒業生の数はそれほど多くはないと思いますが、アメリカの大学を卒業した選手たちのその後の進路についてもお聞かせください。

中村:ハインズ短期大学でプレーしていた橋井モリソンくんは、オフシーズンにプロのトライアウトを受けて、現在はアルビレックス新潟シンガポールでプレーしています。彼はプロ志向が強かったため、トライアウト合格を受けて、大学をやめてプロ選手に挑戦するという選択を行いました。

――大学側からは卒業まで残ってほしいというアプローチはないのですか?

中村:そこが日本とはちょっと違う感覚なんですけど、アメリカの大学は基本的にワンシーズンごとの契約になるので、複数年契約ではないんです。なので、日本では大学中退と聞くと途中リタイアというイメージになりますが、アメリカはそこがあっさりしていて。選手にとっても、1シーズン在籍しても、翌シーズンに大学側から契約しないといわれたらそれで終わりなので。もちろん各大学の現場の監督としては優秀な選手には残ってほしいという思いがありますが、最終的には選手の選択次第となります。

――プロ選手以外の例は?

中村:ネブラスカ大学カーニー校大学院を卒業した堀川玲奈さんは、イリノイ州の公立小学校で日本語と英語を教える先生をやっています。彼女はもともとアメリカの大学でサッカーをプレーしながらスクールカウンセラーに興味を持ち、教授を手伝う契約で大学院の学費が免除される権利を得て、大学院に通いながら近くの中学・高校での教育実習を経て現在に至ります。 あと竹内達也くんは、ウェストバージニア工科大学からマーシャル大学への編入を経て、楽天に就職しました。そういったアメリカの大学を経て、英語が求められる日本の大手企業に就職するケースも今後増えてくるのではないかと思います。

一学年100名近い“語学力のある体育会系人材”を輩出する価値

――プロサッカー選手になることだけがゴールではないわけですね。

中村:プロを目指す子は思う存分目指せばいいし、大学生活を送る中で違う選択肢が生まれたのであればその道を目指せばいい。われわれは子どもたちが本当にやりたいことを応援していくというやり方です。

われわれがサポートする選手たちの大半は高校生まではサッカーが第一で、彼らはまだまだ視野が狭い状態でアメリカに渡ります。そこでいろいろな新しい文化や学問に触れて、その中でサッカー以外にも、これ面白いなと思うものを見つけられる環境を提供できることが一番の魅力だと思っています。

例えば最近だと、宇宙工学に興味を持って、4年制大学からサッカーでのオファーもあったにも関わらず、そちらの勉強に専念したいと宇宙工学で有名なエンブリーリドル航空大学に入った学生もいます。――多くの在校生たちのこの先の将来が楽しみですね。

中村:われわれとしても留学のサポートだけではなく、プロを目指す選手たちのためにアメリカはもちろん、ヨーロッパや日本を含めたアジア各国のクラブとのコネクションを構築している段階です。また一般就職に関してもさらなるサポートができるように今まさにいろいろと模索しています。今後、一学年100名近い“語学力のある体育会系人材”の輩出をサポートしていく中で、サッカー界やビジネス界に何かいい刺激を与えられたらと考えています。

サッカー一辺倒で過ごしてきた選手の視野を広げる取り組み

――定期的にトライアウトも開催されています。7月19日に大阪で行われるトライアウトはヨーロッパのプロクラブのトライアウトとの合同開催とのことです。 

中村:トライアウトは年に4、5回行っています。1回に集約すると人数が集まりすぎてしまうこともありますが、例えば高体連のチームだとインターハイに出場できるかできないかで日本の大学のスポーツ推薦の選択肢が変わったり、Jユースの選手はトップに上がれるか上がれないかが大きな人生の分かれ道になります。選手それぞれでアメリカ留学に興味を持つタイミングにズレもあるため、毎年何回かに分けて開催しています。 今回のヨーロッパのクラブとの合同開催は出口戦略の一つとして位置づけています。基本的にはヨーロッパでプロになりたい選手と、アメリカでサッカー留学したい選手が別々に申し込んで参加するのですが、結局はどちらの選択肢もサッカーでつながっているわけです。アメリカの大学を目指している選手にヨーロッパでプレーするチャンスがあればチャレンジするかもしれないですし、ヨーロッパでプロになることしか考えていなかった選手にアメリカの大学からオファーがあれば選択肢の一つになります。

先ほどもお話しましたが、サッカー一辺倒で過ごしてきた選手たちはどうしても視野が狭くなってしまっているので、その視野を広げてあげたいという意味で、こういったコラボは今後も行っていきたいと考えています。

<了>

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PROFILE
中村亮(なかむら・りょう)
1981年8月13日生まれ、兵庫県出身。株式会社WithYou代表。中学時代にブラジルサッカー留学を経験し、滝川第二高校では選手権ベスト4に進出。鹿屋体育大学時代は大学選抜としてユニバーシアード優勝も経験。大学卒業後、2004年にFC東京に加入。プロサッカー選手になる夢をかなえる。ケガの影響もあり2005年限りで現役を引退。引退後は中学校教諭、芸能活動などを経て、英語力をつけるためにアメリカへ留学。自分と同じように夢を追いかける人の手助けになればとの強い思いで起業を決意。現在はWithYou代表として、精力的にサッカーを中心としたアメリカへの留学サポートを行う。

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