
原わか花、心の支えは新幹線「その美しさを体現したい」。156cmの小柄な体で描く大きな夢…
リオデジャネイロ五輪から正式採用された7人制ラグビーで、女子日本代表は予選ラウンド全敗、10位という結果に終わった。あれから5年、目指すプレースタイルは一新され、メンバーも大きく入れ替わった。新生女子セブンズで注目されるのが、原わか花だ。夢の舞台を手繰り寄せたそのひたむきさは、必ずや東京五輪で大輪を咲かせてくれるはずだ――。
(文=向風見也、写真=Getty Images)
小さな体で大型選手をすり抜け、振り切る速さで、フィールドを駆け巡る
バレーボールをしていた。自身が打ち込むのはこれだ、と思い、ラグビーに転じた。
地元の新潟にある新津ラグビースクールを経て、本格的に転向すべく島根の石見智翠館高校へ進んだ。女子のラグビーが盛んだったチームを自ら調べ、越境入学したのだ。
身体をぶつけ合う競技に本格的に打ち込んでいることは、最近になるまで祖父には言わずにいた。
「島根県に行った時も『バレーボールをしている』と嘘をついて……。大学に進学する時に話しました。きっと、おじいちゃんはいろんなことを思いながら、心配して、競技を続けているのを見守ってくれたと思うのですけど、こういう場に出させてもらって、『やっと一人前になれたよ』『頑張っているから応援してね』と素直に伝えられる」
声を弾ませるのは原わか花。慶應義塾大学の4年生で、東京五輪の7人制女子ラグビー日本代表だ。身長156cmと小柄も、大型選手を振り切る速さが魅力である。大型選手と対戦する中、人垣をすり抜けられる自分の小ささは強みだと思えた。
6月下旬、オンライン取材に応じる。
「新潟に帰る際は何があったとしても必ず新幹線で帰るので……」
画面を通し、故郷の新潟県とのつながり、好きだという新幹線と自身のプレースタイルとの関連性などにちなんで意気込みを求められていた。過不足なく、はつらつと応じる。
「私にとっての新幹線は心の支え、プレースタイルで迷った時の立ち返る場所になっているので、東京五輪では新幹線の美しさ、速さ、強さというものを私の走りで体現して、いろんな方に新幹線の素晴らしさを伝えていけたらと思っています」
きつい場面でもひたむきにプレーしてきた
チームは2020年12月にハレ・マキリ ヘッドコーチを就任させ、目指すプレースタイルや選手選考の基準にメスを入れた。リオデジャネイロ五輪時に主将だった中村知春ら熟練者は、最終選考で落選させた。何より当該の経験者は、まもなくバックアップメンバーとしての側面支援を委ねられる。その時々での選ぶ側、選ばれる側の心の動きが興味深い。
日本ラグビー界初のメダルを期待される原は、「きつい場面でもひたむきにプレーするのが私なので、(選考時は)そういう部分を見てもらえたのかなと思います」。経験豊富な先輩が選外となったのを受け、こう発した。
「知春さんは私が初めて代表に入った時から本当に私の心の支えだったので、その支えがなくなって、寂しかったり、悲しかったりということがあります。……勝負の世界なのでいろんなことは起こると思いますけど、知春さんのことは自分のお姉ちゃんのように大好きなので、知春さんの思いも背負って活躍できるように頑張りたいなと思います。この間、会った時には、ギューッと抱きしめて『知春さんの分まで頑張ります』とは伝えました」
同郷の“笑わない男”稲垣啓太は「私にとっては……」
折り目正しい姿勢の奥に強靭(きょうじん)な自己実現への意欲をちらつかせる様子は、もはや伝説的存在となったあのトライゲッターとも重なる。
男子の7人制、15人制で活躍した福岡堅樹さんは、効率的な人生設計で知られた。学生時代からスパイクを脱ぐタイミングを定めており、順天堂大学の医学部に合格した2021年限りで引退している。延期となった東京五輪への出場こそ諦めたものの、2019年には15人制のラグビーワールドカップ日本大会における出場4試合で計4トライを奪取。国民的な知名度を得た。
その福岡と共にヒーローとなった稲垣啓太は、原にとっては同郷の新潟における有数のスターである。別な場所で、原の高校進学時に稲垣と面識があったことが話題となる。原は聞き手の潜在的なニーズに「笑わない男、とかいわれますけど、私にとってはすごく優しくて、本当は笑顔がすてきな方だと思っています!」と応じる。
原も万事に抜け目なしという個性をフィールド上でも尖らせ、走りに昇華し、大会報道のど真ん中へ躍り出たい。
<了>
[ラグビー]藤田慶和、挫折を知るラグビー人生で真摯な眼差し。エディーの叱責、リオ直前の落選…ついに掴み取った夢の舞台
[ラグビー]ヘンリー ブラッキン、“元悪ガキ”の悪戯な素顔。日本国籍取得も外国人枠→紆余曲折で掴んだラグビー日本代表の夢
日本ラグビー急躍進の裏側に、“陰の立役者”岩渕HCの緻密な「準備力」
水谷隼・伊藤美誠ペア「悲願の金メダル」を呼んだ“世界最高の1分間”。水谷の“本当のすごさ”とは?
「日本の柔道はボコボコ、フランスはユルユル」溝口紀子が語る、日仏の全く異なる育成環境
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
高校ラグビー最強チーム“2006年の仰星”の舞台裏。「有言実行の優勝」を山中亮平が振り返る
2025.02.14Career -
プロに即戦力を続々輩出。「日本が世界一になるために」藤枝順心高校が重視する「奪う力」
2025.02.10Opinion -
張本美和が早期敗退の波乱。卓球大国・中国が放つ新たな難敵「異質ラバー×王道のハイブリッド」日本勢の勝ち筋は?
2025.02.10Opinion -
「やるかやらんか」2027年への決意。ラグビー山中亮平が経験した、まさかの落選、まさかの追加招集
2025.02.07Career -
女子選手のACLケガ予防最前線。アプリで月経周期・コンディション管理も…高校年代の常勝軍団を支えるマネジメント
2025.02.07Opinion -
前人未到の高校女子サッカー3連覇、藤枝順心高校・中村翔監督が明かす“常勝”の真髄
2025.02.06Opinion -
一流選手に求められるパーソナリティとは? ドイツサッカー界の専門家が語る「実行に移せる能力」の高め方
2025.02.03Opinion -
柿谷曜一朗が抱き続けた“セレッソ愛”。遅刻癖、背番号8、J1復帰、戦術重視への嫌悪感…稀代のファンタジスタの光と影
2025.02.03Career -
「アスリートを応援する新たな仕組みをつくる」NTTデータ関西が変える地域とスポーツの未来
2025.02.03Business -
卓球・17歳の新王者が見せた圧巻の「捻じ伏せる強さ」。松島輝空は世界一を目指せる逸材か?
2025.01.30Career -
最多観客数更新のJリーグ、欧米女子サッカービジネスに学ぶ集客策。WEリーグが描く青写真とは?
2025.01.28Business -
4大プロスポーツ支えるNCAAの試合演出。「ジェネラリストは不要」スポーツエンターテインメントはどう進化する?
2025.01.28Business
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
高校ラグビー最強チーム“2006年の仰星”の舞台裏。「有言実行の優勝」を山中亮平が振り返る
2025.02.14Career -
「やるかやらんか」2027年への決意。ラグビー山中亮平が経験した、まさかの落選、まさかの追加招集
2025.02.07Career -
柿谷曜一朗が抱き続けた“セレッソ愛”。遅刻癖、背番号8、J1復帰、戦術重視への嫌悪感…稀代のファンタジスタの光と影
2025.02.03Career -
卓球・17歳の新王者が見せた圧巻の「捻じ伏せる強さ」。松島輝空は世界一を目指せる逸材か?
2025.01.30Career -
藤野あおばが続ける“準備”と“分析”。「一番うまい人に聞くのが一番早い」マンチェスター・シティから夢への逆算
2025.01.09Career -
なでしこJの藤野あおばが直面した4カ月の試練。「何もかもが逆境だった」状況からの脱却
2025.01.07Career -
卓球が「年齢問わず活躍できるスポーツ」である理由。皇帝ティモ・ボル引退に思う、特殊な競技の持つ価値
2024.12.25Career -
JリーグMVP・武藤嘉紀が語った「逃げ出したくなる経験」とは? 苦悩した26歳での挫折と、32歳の今に繋がる矜持
2024.12.13Career -
青山敏弘がサンフレッチェ広島の未来に紡ぎ託したもの。逆転優勝かけ運命の最終戦へ「最終章を書き直せるぐらいのドラマを」
2024.12.06Career -
非エリート街道から世界トップ100へ。18年のプロテニス選手生活に終止符、伊藤竜馬が刻んだ開拓者魂
2024.12.02Career -
いじめを克服した三刀流サーファー・井上鷹「嫌だったけど、伝えて誰かの未来が開くなら」
2024.11.20Career -
2部降格、ケガでの出遅れ…それでも再び輝き始めた橋岡大樹。ルートン、日本代表で見せつける3−4−2−1への自信
2024.11.12Career