
なぜ堀江翔太は「スーパー特別扱い」なのか? 進化する36歳、日本代表スタッフに密かに伝えた想い[ラグビー]
堀江翔太の進化が止まらない。ラグビーワールドカップ3度出場、日本を代表するフッカーは、36歳になってなおもそのすごみを増している。2019年以来の代表候補復帰は、努力の成果に他ならない。2023年フランス大会を見据え――その決意は揺るがない。
(文=向風見也、写真=Getty Images)
初代リーグワン王者へ――36歳のベテランが示す矜持
パンツの裾はその下のスパッツの内部に「放り込む」。走るさなか、太ももが布に引っ張られる「ストレス」が「めちゃくちゃ嫌」だからだ。
「昔はしゃがんだときに(裾を)上げていたんですけど、いちいち上げるのも面倒くさいので。ホンマに、スパッツで(試合を)やりたいくらいです」
トレードマークのドレッドヘアをツインテールにするのは、ラインアウトでのボール投入の邪魔にならないようにするためだと知られる。36歳のラグビー選手、堀江翔太は、自分らしさと実効性をともに追求する。
大舞台でも然り。5月22日は国内リーグワンのプレーオフトーナメント準決勝で、所属する埼玉パナソニックワイルドナイツの16番をつけて後半14分から登場する。8歳年下で日本代表の坂手淳史主将との交代だ。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイを相手に、この時点で17―3とリードしていた。前身のトップリーグ最終年度から通算して「2連覇」が期待される2022年度は、かような「クローザー」としての役回りが多い。レギュラーシーズンにはリードされた試合を逆転し、リーグ認定のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたこともある。
信頼するトレーナーと二人三脚で歩み続けた成果が着実に表れている
頂上決戦に近づいていたこの午後。ハイライトの一つは、堀江のトライなどで24―3として迎えた試合終盤にあった。
自陣の深い位置で守勢に回る中、「16」の堀江は相手と正対しながら周りへ指示。防御網を整える。迫りくる走者をロ―タックルで倒し、素早く起立する。目の前の球に向かって上半身を差し込む。
向こうの展開が続くと見るや、軽やかに次の危険地帯へ先回り。やがてここぞと見た接点へ飛び込み、攻守逆転を決める。
最後は向こうの粘りで24―10とされたが、無事に決勝進出を果たす。試合中の意識を聞かれれば、団体競技の勝ち方の普遍性を表すように言った。
「チームがうまいこといっている部分、いっていない部分、相手がどういうふうにアタックしてくるか、あとは『後半はこうくるやろうな』というのをある程度、分析して、(グラウンドに)出たときにそれをチームメートに話しながらやっていく、という感じです」
身長180cm、体重104kg。スクラムを最前列中央で組むフッカーとして2011年から計3度のワールドカップで活躍してきた堀江は、信頼する佐藤義人トレーナーとの二人三脚で身体機能を高めている。
すごみをにじませるのはコンタクトシーン。自身より骨格やシルエットの大きな選手と衝突しながら、身体の軸をその場に残して次のプレーに移る。
「身体の使い方――背中(の意識)だったり、足の(出す)タイミングだったりとか――を上手にすれば、その瞬間、(間合いが)少ない距離でも強く当たれる。そこで(相手との間に)隙間ができる、って感じですね」
かねて、タックラーの芯から逃れて走る技能に長けていた。今はこれに加え、ジムワークでつくる筋量とは別領域の強さを体得している。最近では「小中学生のうちから、正しい身体の使い方、筋肉のつき方(を学んでほしい)」と口にするようになった。
藤井NTDも「別格」と評するワケ。日本代表への覚悟
自分の心で本質を求めるラグビーの達人は、以後、久しぶりに国際舞台を彩りそうだ。
今年6、7月以降に動く日本代表の候補メンバー63人のリストに、名を連ねたのだ。リーグワン閉幕後は九州でのキャンプに合流。ウルグアイ代表、世界ランク2位のフランス代表と4つの代表戦を行う。
堀江にとって代表活動は、2019年にワールドカップ日本大会で8強入りして以来となる。
当時から続くジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ体制のナショナルチームは、2021年に約1年8カ月ぶりに動き出していたが、コンディション調整を優先してか堀江がその輪に加わることはなかった。
2020年に代表への思いを聞かれれば、「トンプソン ルーク形式で」と述べた。日本大会開催年に約2年ぶりの代表復帰を果たした当時38歳のトンプソンの名を挙げ、2023年のフランス大会を見据えていた。
ジョセフを支える藤井雄一郎ナショナルチームディレクターは、堀江を「彼は別格。スーパー特別扱いです」。技能、身体能力、勤勉さはリーグワンで示した通りで、長谷川慎氏の教えるスクラムやトニー・ブラウン氏がつくる攻撃システムへの理解度、遂行力がある。代表復帰へのタイミングは、本人に委ねていた節すらあった。
もっとも堀江自身は、「いいプレーができれば拾ってほしいな、と思っているくらいです」。ナショナルチームは自由に出入りできる場ではないと肝に銘じる。
「そんな、プレーを見ないで(選んでほしい)とか、自分が『戻ります!』と言って戻る、という感じじゃない。(代表サイドには)プレーを見て選んでくださいと言っていました」
今夏の活動で代表に戻りたい意思を、昨冬の段階で佐藤氏と共有。リーグワンで高水準のパフォーマンスを示した。今回のカムバックは、努力の成果でもあった。
スピアーズ戦後のミックスゾーン。カメラを前に代表への思いを問われる。ドレッドヘアを上部に束ね直していた堀江は、簡潔に誓った。
「試合に出られるように、いいトレーニング、いいプレーを目指したいと思います」
会場ではジョセフが視察も、「ベンチに座っているときにテレビに(指揮官が)抜かれてて、『あ、来てんねや』と」。周りに流されぬキャラクターもまた、国際舞台で貴ばれる要素だ。
<了>
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