PK戦を制するには何が必要? 高校サッカー選手権が示した、PKに重要な2つの要素

Opinion
2023.01.13

記念すべき101回目の全国高校サッカー選手権大会は、岡山学芸館の優勝で幕を閉じた。この大会でも大きな注目を集めたのがPK戦だろう。多くの観客が見守る中でのたった一つのキックが雌雄を決するPK戦は、高校サッカー選手権の風物詩の一つ。今大会では12試合がPK決着となった。1月7日に行われた準決勝は2試合ともPK戦となり、大会前から優勝候補に挙げられていた神村学園と大津が敗退し、涙をのんだ。一方、見事初優勝を果たした岡山学芸館は2度のPK戦を一人も失敗することなく勝ち抜き、勝負強さを示した。では、PK戦を制するためには何が必要なのだろう?

(文=松尾祐希、写真=Getty Images)

PKの重要性を再確認させられる大会「高校サッカー選手権」

キッカーとGKが繰り広げる11mの攻防――。日本サッカー界がFIFAワールドカップ・ベスト16の壁を越えるためにはPKのスキル向上は欠かせない。昨年のカタール大会では、グループステージでドイツ、スペインを鮮やかな逆転劇で下した一方で、ラウンド16のクロアチア戦はPK負け。日本代表は3人が外し、ここ一番での勝負強さを発揮できずに大会から姿を消した。

国を背負う重圧、大勢の観衆が入った状況でのキック。選手たちが感じているプレッシャーは、われわれでは想像できないものだ。だが、逆境を跳ね返して決めきれなければ、次のステージは見てこない。PKは時の運という人もいるが、勝利のためにできることはいくらでもあるはずだ。キッカーは際どいコースに強いシュートを打ち込めるか、GKは相手と駆け引きしながらシュートセーブができるか。そして、何事にも動じないメンタリティーを持っているか。

もちろん、日本の育成年代にようやく根づき始めたリーグ戦文化は大切にすべきだという前提の上で、今冬の高校サッカー選手権は改めて、PKの重要性を再確認させられる大会となった。

昨冬は7試合あったPK戦だが、今冬は12試合。うち8試合は3回戦以降に行われ、準決勝はいずれもPK戦での決着となっている。今大会を振り返ると、選手たちは堂々とした振る舞いで思い切って、際どいコースに強いシュートを蹴り込んでいた。とりわけ素晴らしかったのが、優勝した岡山学芸館高校だ。全6試合のうちPK戦は2試合。キッカーは一人も失敗しておらず、2年生のGK平塚仁がいずれの試合も相手のシュートを1つストップして勝利を手繰り寄せた。では、PK戦を制するために何が必要なのか。大きく分けて2つあると考えられる。

PK戦を制するために必要な2つの要素

1つ目はいうまでもなくPKの技量だ。岡山学芸館は何か特別なトレーニングをしていたわけではない。東海大福岡で長年指揮を取った経験豊富な平清孝ゼネラルアドバイザーから「右上、左上のシュートをGKは取れない。GKの腰の部分は最も反応しやすいから絶対に蹴らない。目をつぶってでも四隅に入るぐらい練習をしよう」と助言をもらい、選手たちは日頃から意識をしながらPKのトレーニングに励んできた。だが、PK戦は試合終了後に行われるため、疲労度が高い。さらに勝負が懸かった場面でのプレッシャーは容易に想像できない。いくら技量を高めていても、そこに蹴り込めるかどうかは別問題だろう。練習時に蹴るのと、試合で蹴るのは全くの別物。だからこそ、本番でコースが甘くなるケースも珍しくない。

だからこそ、大事になるのが2つ目の“心”の部分だ。勇気を持って蹴れるかどうか。プレッシャーに打ち勝てるかどうか。そうしたメンタルの面の積み上げは日々の取り組みと経験値が肝となる。特に後者の経験値は簡単には得られないものだ。練習試合で勝敗に関わらずにPK戦をやったとしても、トレーニングの最後にPK戦をやったとしても、公式戦に勝る経験値は得られない。だからこそ、育成年代で多くのPK戦を経験できる場がある点は有益だ。

真剣勝負のPK戦の機会を2種(高校生)年代で見ると、Jリーグのアカデミーや街クラブ勢は夏のクラブユース選手権でしか味わえないが、高体連は夏のインターハイと冬の選手権で味わえる。しかも、選手権は他のコンペディションと異なり、全ての試合をJリーグで使用するようなスタジアムで実施し、観客もかなりの数が入る。例えば、2試合ともPK戦までもつれた準決勝は神村学園と岡山学芸館の一戦が1万9472人、東山と大津の一戦は2万1875人が入った。しかも、舞台は国立競技場。負けたら終わりの一発勝負特有の緊張感に加え、高校最後の一戦となれば、今まで味わったことないプレッシャーがのしかかる。プロ入り後に、天皇杯やルヴァンカップなどで経験できるかもしれないが、数は少ない。大学サッカーでもここまでの雰囲気の中でPKを行う場面はまずないだろう。極限状態でPK戦を戦える経験は高体連の選手にとって何事にも変え難い財産だ。

日本サッカー界はいかにしてPK戦の勝ち方を身につけるべきか?

そうした経験を踏まえ、日本サッカー界はどうやってPK戦に取り組んでいくべきだろうか。もちろんリーグ戦の文化は必須で、毎週ハイレベルな戦いを繰り広げる中でトライ&エラーが起こる環境が選手の成長を促してきた。だからこそ、10年以上をかけて構築してきた高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ、各地域のプリンスリーグ、県リーグのピラミッドは絶やしてはいけない。だが、トーナメント戦でしか味わえないPK戦の経験値を高める作業も並行して行うべきだろう。

以前、メキシコでは育成年代のリーグ戦でPK戦を必ず行っていた。現在は廃止されているが、これも一つの策。日本の育成年代でもリーグ戦文化が根づき始めており、簡単にはいかないが、経験させる場を意識的に作ることは重要だろう。もし、それができないのであれば、フェスティバルなどはグループステージやリーグ戦方式であっても、PK戦を実施するレギュレーションにするのも面白い。できる限り、真剣勝負のPK戦を経験できる舞台を用意することは必要不可欠だろう。

また、選手に対してのアプローチにおいても、マインドのセットもトライすべき部分だろう。2013年度の高校サッカー選手権で優勝した富山第一はPK戦に滅法強かった。その中心にいたのが、当時3年生の田子真太郎。控えGKだったが、四日市中央工との準決勝では交代出場ののち、PK戦のPKを1本止めてヒーローとなった。もともと田子はPKが得意だったわけではない。だが、新チーム立ち上げ当初から大塚一朗監督(現モンゴル代表監督)が「お前はPK職人だ」と暗示を掛け、自信を持たせながら経験を積ませた。その結果、PKのスペシャリストへと成長を遂げている。そうしたマインドのセットをしつつ、技術の向上を図っていけば、キッカーもGKも苦手意識を払拭し、新たな可能性を開けるかもしれない。

今回で101回目を迎えた高校サッカー選手権。今後の在り方が議論されているが、PK戦だけはなくすべきではないだろう。今大会で笑った者も泣いた者も、この経験は決して無駄でない。

<了>

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