予算、集客、組織図…「Jリーグと差別化できるようになりつつある」。髙田春奈チェアが見据えるWEリーグ2年目の展望

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2023.02.27

今年は女子サッカーのワールドカップイヤーだ。欧州では、UEFA女子チャンピオンズリーグやUEFA欧州女子選手権で最多観客数を更新し、アメリカでも総観客数が100万人を突破(1試合平均7894人)、前年比42.8%増を記録するなど女子サッカーバブルが起きている。一方、日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」は、1年目は1試合平均1560人、2シーズン目の今季はここまで平均1658人と、目標の5000人に及ばず、苦戦を強いられている。V・ファーレン長崎で社長を務め、Jリーグ理事としてもさまざまな局面に対峙してきたWEリーグ・髙田春奈チェアは、予算や集客のプロモーションをどのように展望しているのだろうか。

(インタビュー・構成・写真=松原渓[REAL SPORTS編集部])

予算を増やすには投資も必要

ーー限られた予算の中でやりくりしている状況だと思いますが、1年目に比べてJFA(日本サッカー協会)からWEリーグに対して予算の割り当てが増えたり、原資を増やす道はあるのでしょうか?

髙田:リーグの予算規模を増やすことがすべてだと思っていますが、増やすためにも、まずはリーグの体制作りからですね。また、チェアとしてバトンを受け取って以降、「これからはJFAからの補助ばかりに頼るのではなく、リーグが自分たちで稼げるようにしていかなければいけないし、そのモードにどう切り替えていくか」と考えてやってきました。

リーグもクラブも、これまで分配金が「生活費で終わってしまう」という感じの使い方をしてきていたし、それは生きていくために当然のことだと思います。ただ、増える見込みがないものをただ食いつぶしているだけだと何も変わらないので、もう少し投資の考え方をしていかないといけないと考えています。例えば、私は「人を増やす」と簡単に言っているけれど、「人を増やすとこれだけお金が必要なんです」と反対する人もいます。でも、増やすのは稼ぐための人たちなので、つまり投資です。「何が投資で何がコストなのか」ということをもうちょっと意識して分けていかなければいけないな、と。

ーー予算の使い道については、クラブともコミュニケーションをとっているんですか?

髙田:はい。クラブの皆さんからは、新しい施策をやるときも「補助は出ますか?」という質問を必ずいただきます。例えば「それは出せないけれど、その分、リーグでお客さんを増やすためにこうやっていくので、この予算はこちらに使わせてください」とコミュニケーションをとって納得していただいています。だからこそ、結果を出さなければいけないと思っています。

ーーJリーグは分配金に傾斜をつけて競争を促す形にしましたが、WEリーグは将来的にどうしていくのがいいと思いますか?

髙田:今はリーグとしての利益がなく、収益を確保できていないので、Jリーグのような配分金の傾斜をつけることはできないと思いますが、考え方としては賛同しています。WEリーグを実際にスタートして、フタを開けてみたらクラブ間の経済格差はあると感じています。ですので、これからなでしこリーグとの入れ替えの問題やクラブ数について話し合っていく中で、どういうクラブがWEリーグという女子サッカーのトップにいるべきクラブなのか、というところから考える必要があると思います。

基準を変えるのではなく、正しい基準を作ることが大切

ーーWEリーグの認知率は2022年1月の時点で26%でした。1年目に比べて認知率は上がっているのでしょうか?

髙田:最新で持っている情報だと、「WEリーグを知っているか」という質問への回答は25%でした。

ーー昨年9月にチェアに就任された直後のカップ戦決勝で、「中途半端な試合やイベントをお見せしたらもう来なくなるリスクがあるので、無駄に人を集めるのではなく、本当に見てほしいと思える空気を作った上でたくさん来てもらうことが大切だと思う」とお話しになっていました。その意識はプロモーションにも生かされているのでしょうか?

髙田:はい。その意識は常に持った上で一つ一つの案件に向き合っています。カップ戦の決勝は結果的にとてもいい試合で、いい空気感の中でできたと思いますが、招待客も多くいました。招待は気をつけないと安売りにつながり、「どうせWEリーグっていつも招待でやっているからチケットを買わなくていいよね」と思わせてしまいかねない。その点も含めて、WEリーグのチケットを担当するチームはよく考えなければいけないですね。

ーー皇后杯では、WEリーグのチームが出揃った準々決勝の平均観客数が492人でした。両チームが本拠地から遠いところで試合をしたり、アクセスの問題もあったのではないかと思いますが、どうご覧になりましたか。

髙田:皇后杯に関してはJFAが主幹なので、起こってしまった時に「なぜこうだったのかな」と、私も感じたことがありました。今回のことを踏まえて、リーグからJFAにもフィードバックが必要だと思っています。

ーーリーグに話を転じると、1試合5000人を目標にしていますが、実際は1600人前後です。参入基準に個席で5000以上という要件がありますが、現実的ではないのではないか、という声も耳にします。

髙田:リーグ立ち上げのタイミングで、参入基準はJリーグに習っているところがあるので、そこも話し合いの余地がありますね。実際に回してみた時に「WEリーグの良さってこうだよね」と見えてきたものを基に見直したいと思っています。「今のWEリーグの身の丈に合わせる」という意味ではなく、WEリーグが目指す方向性において基準を見直すということです。

Jリーグを真似するのではなく、WEリーグに合った形を

ーーリーグ立ち上げ時にJリーグを見習ったことが多い中で、厳格な参入要件のように、形から入ったことで支障が生じている面もあると感じます。

髙田:そうですね。これは少し矛盾して聞こえるかもしれませんが、WEリーグが設立されたときはJFAが主導だったので、Jリーグの人はほとんど介入していません。どちらかというと、WEリーグ側が先行して実績を作ってきたJリーグの方に「どうやってやるんですか?」と聞いて、それに習ったからこそ、そのまま導入する形になっています。

私がチェアに就任したタイミングで、理事2人にJリーグと兼任してもらって、職員も何人か、Jリーグから出向してもらいました。その人たちから見ると、「Jリーグはこういうルールでやっているけど、本当はもっとこうしたい部分もあるよね。でも、Jリーグは歴史がありすぎてステークホルダーが多く、なかなか変えることができないのが現状。ただWEリーグだったらもっとフットワーク軽く変えていける」と考えられる部分があります。Jリーグの中を知っている人が入るからこそ、そのまま真似をするのではなく、WEリーグに合った形を模索して、Jリーグと差別化できるようになりつつあると思っています。

ーーうまく差別化できれば、いろいろな面でリーグ発展の可能性が生まれそうですね。

髙田:はい。WEリーグの方がルールを自由に新しく作っていけるので、今まで理由もわからずJリーグを踏襲していた部分を変えやすくなっています。今季から何かが大きく変わるということはないかもしれませんが、シーズンが終わった時に、「来シーズンからこうしてみよう」ということはたくさん生まれてくると思います。

ーーJリーグには30年の歴史がありますが、見本があるからこそ、差別化も含めて発展のヒントが得やすいのでしょうか?

髙田:そうだと思います。こんな身近に見本があり、かつ、代表は女子の方が世界ランキング(11位)が上なので、「今頑張らないと取り返しがつかなくなる」という危機感を持って、短期間でリーグを成長させるべきだと思います。

ーー来季からセレッソ大阪堺レディースが参入して12チームになりますが、スタジアムなどの要件次第では、今後さらにチーム数が増える可能性もあるのでしょうか。

髙田:増える可能性もゼロではないと思います。ただ、まずはすべての課題をちゃんと上げて議論して総合的にベターな方向を考えていくべきで、実行委員のクラブの皆さんともそう話しています。単純に「人が入らない」「スタジアムが確保できない」から「基準を変えましょう」ではなくて、「こういうチームが参入した方がいいよね」という要素を挙げて、その中で見直せばいいのではないかと。

また、クラブを経営する立場の人からすると今はまだみんな参入に手を挙げる余裕がないです。まずは「WEリーグに参入することで経営上メリットがあるよね」と言ってもらえるようなリーグにすることが重要だと考えています。

WEリーグの価値を発信するということ

ーー地方のクラブに参入のメリットを感じてもらうためには、リーグの魅力をどのように発信することが必要でしょうか?

髙田:単純に外から見た人気や魅力というよりは、「女子のチームがあることでクラブ全体の営業がしやすい」「支援が受けやすい」「地域連携がしやすくなる」といった価値を知っていただけるようにしたいですね。そこで「WEリーグって単純に経営が苦しいよね」と言われないような、経営面での価値を打ち出していくことが重要だと思います。

ーーステークホルダーを増やしていくためにも重要な価値ですね。細かい話ですが、NWSL(ナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ/サッカーのアメリカ女子プロリーグ)のように選手やチームの細かいプレーデータを公開すれば、海外との比較もできて、より試合が面白く見られると思うのですが。

髙田:そのリクエストは昨年からいただいているそうですが、いろいろな課題がある中で手がつけられていなかった課題の一つだと思うので実現させたいですね。ただ、今すぐにできるかといえば、そこにもハードルがあると聞いているので、他の課題との優先順位を考えながら、まずはそのハードルを越えるために取り掛かっています。

ーー就任時に「選手たちを輝かせる舞台を作りたい」とお話しになっていましたが、WEリーガーならではのストーリーや魅力を感じることはありますか?

髙田:個人に目を向ければ性別問わず魅力的なストーリーがあるので、女子ならでは、ということはないと思いますが、個人の魅力はもっと発信していきたいですね。私がWEリーグのチェアに就任した時に、コスタリカでU-20女子ワールドカップをやっていて、ゴールデンボール(大会MVP)を受賞した浜野まいか選手に興味を持って彼女のストーリーを辿っていったら、さらにすごいな、と惹き込まれました。そういう選手たちの思いとか、なぜ今そこにいるのか、というストーリーは、WEリーグができて間もない今だからこそ、よりドラマチックな部分があると思うので。そういうところをもっと見せていくことが必要だと思います。

ーー実際に髙田チェアが選手たちと話をされることはありますか?

髙田:これまではほとんどありませんでした。試合を見に行くのですが、当日なので選手とはほとんどお話できませんでしたから。ただ、岡島さんの時から、選手がチェアやリーグの人とコミュニケーションを取るWE MEETINGという企画があるので、それを直近で企画しようと話しているので、楽しみです。

【連載前編】WEリーグ・髙田春奈チェアが語る就任から5カ月の変革。重視したのは「プロにこだわる」こと

【連載後編】秋春制のメリットを享受できていないWEリーグ。「世界一の女子サッカー」を目指すために必要なこと

<了>

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[PROFILE]
髙田春奈(たかた・はるな)
1977年5月17日生まれ、長崎県佐世保市出身。国際基督教大学を卒業後、ソニーで4年半勤務し2005年独立。2018年JクラブのⅤ・ファーレン長崎の上席執行役員に就任。2020年同クラブの代表取締役社長就任。現在は東京大学大学院教育学研究科博士課程に在籍し、教育思想の研究を継続している。2022年3月Jリーグ常勤理事、JFA 理事に就任。Jリーグでは社会連携他、複数の部門を担当した。同年9月にWEリーグの2代目チェアに就任。Jリーグ特任理事とJFA副会長も務める。

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